スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

文字の大きさ
上 下
149 / 273
第八章 見習い実習

18  モガーナとマキシウス

しおりを挟む
 フォン・アリスト家に着いたモガーナは、ハインリッヒにお茶を御一緒しましょうと誘った。しかし、マキシウスと一戦有るのではと、引退したとはいえ外交官の勘で感じ取ったハインリッヒは、フォン・キャシディ家の屋敷に帰る。

「お祖母様、私のスケジュール表は?」

 ユーリが不思議そうに見上げるのを、モガーナは笑いながら少し過密すぎるから、考慮して直して頂いてますわと答える。

「さぁさぁ、今夜は舞踏会なのでしょ。眠れなくても良いから、ベッドで身体を休めておきなさいな。ちゃんと間に合うように起こしますから、安心してお休みなさい」

 モガーナに指示されると、ユーリはお祖母様にエミリア先生の結婚の事とか色々と話したいなと駄々をこねたが、しばらく滞在するからと諭されて渋々ベッドに向かう。

「もう、到着されていたのですね」

 マキシウスも今夜の舞踏会に出席するので早めに帰宅して、サロンで寛いでいたモガーナに挨拶する。久しぶりに会うモガーナの若さと美しさに、マキシウスは出会った頃を思い出していたが、一瞬にして砕け去った。

「ええ、当分お邪魔いたします、宜しくお願いいたしますわね。ところで、貴方はユーリを殺すつもりですの? あんなカザリア王国の言いなりの過密スケジュールを、押し付けるなんて! まだ女性として身体も出来上がっていないユーリに無理をさせるなんて、貴方に任せておけませんわ! 曾孫を産んで貰いたく無いのですか?」

 強烈な先制攻撃に、マキシウスはぐうの音も出ない。ことに女性としての成長とか、曾孫を産むとか、デリケートな話題に赤面してしまい、反論することすら諦めてしまう。

「ユーリのことは、貴女にお任せしましょう」

 そそくさとサロンから撤退したマキシウスは、執事を書斎に呼び出す。

「モガーナは、いつまで滞在すると言っていたか?」

 御自分でお聞き下さいと、セバスチャンは思ったが、聞いておりませんと返事する。遠方からの御客人に、いつまで滞在されるかと聞くのは礼儀に反するので、執事が聞くわけにいかなかったのだ。

 マキシウスはこうなったらユーリに尋ねて貰うしかないと、舞踏会の帰りに頼もうと考え、自分の姑息さに溜め息をつく。


 朝早くから国務省での見習い実習をしたので、ベッドで遅めの昼寝をしたユーリは、モガーナにそろそろ起きなさいと優しく声を掛けられた。

「舞踏会の支度をする前に、軽く夕食を食べましょう。マキシウスも帰って来ていますから、三人で頂きましょうね」

 舞踏会に行くのが嫌になる程、ユーリにとっては嬉しい夕食になった。

「明日は早めのお昼を頂いて、エミリアさんの実家に行きましょうね。パターソン家で花嫁衣装に着替えて、教区の集会所で結婚式を挙げるそうですの。その後でパターソン家で親戚だけの披露宴をする予定みたいですわね。花婿のダニエルの家族は、両親と兄上だけの出席ですが、フォン・フォレストに帰ってから、他の親戚には挨拶廻りするみたいですわ」

 ユーリはエミリア先生とダニエルの馴れ初めとか聞きたがったが、そろそろ支度をしましょうねと、お風呂に入りなさいと命令される。

 マキシウスは、モガーナがユーリを上手く扱うのに感心する。やはり年頃の令嬢の教育は男の手に余ると、自分も舞踏会の身支度をしながら、ユーリを躾けなおして貰おうと勝手なことを考えて鼻歌を歌う。

 ユーリはお祖母様とお祖父様が一緒に住んでくれれば、いえ復縁してくれたら良いなと、恋も知らないお子様の想像を膨らましてご機嫌でお風呂に浸かっていた。

「お祖母様が作って下さった、マダム・フォンテーヌのドレスを着るの。あのドレスなら、露出度0ですもの」

 お風呂から上がったユーリを、モガーナは侍女達に髪を乾かさせながら、どんな髪型にしようかしらと思案しながら眺める。

 ユーリは髪を乾かすと、マダム・フォンテーヌの新作ドレスに着替えた。

「まぁ、とても素敵ですわ。そうね、そのドレスは首までチュール地で覆われているし、舞踏会ですから、髪はアップにした方が良いわね」

 モガーナはメアリーに髪を結わせると、ロザリモンドのダイヤモンドのティアラと、華奢なダイヤモンドのネックレスをつけさせる。

「腕も手首までチュール地で覆われているから、手袋はレースで編んだ短い物が良いわね」

 モガーナのセンスに任せておけば良いので、さくさくと支度は整う。

「若い令嬢が、濃い化粧はみっともないですわ。メアリー、貴女はユーリの付き添いをして貰いますから、着替えてらっしゃいな。化粧は私がしますわ」 

 モガーナは、薄い化粧をユーリに施したが、見ていた侍女達はほんの少しなのにグッと魅力的に見せる化粧方法に驚く。

「まぁ、私じゃないみたい! とても大人びて、美人に見えるわ」 

 お祖母様にちょこちょこと化粧されただけなのに、鏡に写った自分を見て別人みたいだと、ユーリは化粧方法を教えて欲しいと頼む。

「よろしくてよ、後で教えてあげますわ。さぁ、立って見せて頂戴な。まぁ、若いって素晴らしいわね。ユーリ、とても綺麗だわ」

 お祖母様に化粧が落ちたらいけないわとそっと頬にキスをされていると、余所行きの侍女服に着替えたメアリーが、外套を持って部屋に入ってきた。

「ユーリお嬢様、とても素敵ですわ」

 二月前にグレゴリウス皇太子の立太子式のドレス姿も美しいと感激したが、今宵のユーリは大人びて魅力的だと感嘆するメアリーだ。

「今夜の舞踏会の控え室は、ユーリだけの個室かしら? それともマウリッツ公爵夫人と一緒かしら? まさか、カザリア王国の大使夫人と一緒ってことは、王妃様がされないとは思いますけど、メアリーは目を離さないで下さいね。できればマウリッツ公爵夫人と同じ控え室の方が安心なのですけど、休憩のタイミングが合わないかも知れませんから、気をつけてやってね」

 ユーリを子どもの頃から面倒をみているメアリーは信頼できるとは思いながらも、細々と注意をモガーナは与える。

「エドアルド皇太子殿下が、お迎えに来られました」

 侍女に呼びに来られて、ユーリは外套をメアリーに持たせると、お祖母様に軽くキスをして、行ってきますと階段を優雅に降りていく。

 ロビーでユーリが優雅に降りて来るのを、エドアルドはボオッと夢のように艶やかだと感嘆しながら眺める。

 胸の辺りまではサテンの光沢のある生地のスッキリとしたドレスなのに、首や手首までチュール地で覆われていて、そのチュール地からユーリの白い肌が透けて見えるのが、とてつもなく魅力的だ。清楚なのにセクシーで、エドアルドはノックアウトされてしまう。

「ユーリ嬢、とてもお美しいですね」

 令嬢の手を取って礼儀正しくキスしながら、エドアルドは熱に浮かされた瞳で見つめる。

「まぁ、エドアルド皇太子殿下はお世辞が上手になられたのですね」

 ユーリは露出度の無いドレスに安心していたので、エドアルドが礼儀として褒めたのだと笑う。

「そろそろ、王宮に向かいませんと」

 ラブモードに突入したエドアルドを、ケストナー大使は遮って舞踏会へと出発する。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

処理中です...