スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

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第七章 忙しい夏休み

19  ロザリモンドは幸せだったのだ……

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 ユーリのアイスクリーム屋台は大成功で、何人かの出資者も確保したし、10日間で570クローネの売上と、8450クローネの寄付金を集めた。

「たくさんの寄付が集まったの。凄く嬉しいわ! ユージーンにもフランツにも手伝ってもらったし、今夜は私が料理したの。お祖父様も叔父様も叔母様も、シェフ程は手の込んだものじゃないけど食べてね」

 ユーリは屋台を片づけると、別荘の台所で料理したのだ。フランツとユージーンは、ユーリの料理をニューパロマで食べていたので安心していたが、マリアンヌは少し心配していた。

「まぁ、本当にユーリが作ったの? とても美味しいわ」

 前菜はフォン・アリスト家の別荘で栽培した野菜をふんだんに使ったヘルシーな物だった。

「この野菜のカポナータは美味しいね」

 ユーリはベティおばさんに教えて貰った野菜の煮込みが上手くできたのが嬉しい。冷たいカボチャのスープには、真ん中にカボチャのアイスクリームが浮かんでて、混ぜて飲むと濃厚で美味しい。

「アイスクリームはこんな風に使えるのだな」

 老公爵が感嘆すると、他の人達も新しい料理だと誉める。

「これは鮑だね、ストレーゼンは内陸なのに?」

 公爵は鮑のステーキを見て驚いたが、フランツはユーリがイリスと朝に海辺までひとっ飛びして買って来たのだとわかった。

「ユーリは海まで買いに行ったんだね?」

 公爵もユーリが朝早くから買って来たのだと気づいた。

「さぁ、熱いうちに召し上がって下さい。ハーブを混ぜたバターソースが、鮑のステーキにあうはずよ」

 とり立ての鮑のステーキと、ハーブバターソースは絶品だった。老公爵は屋台で疲れているのに、朝早くから海辺まで買いに行ってくれたユーリに感謝する。

 口直しのシャーベットは、一口食べてシャンパンだわと、マリアンヌが歓声をあげるほど美味しい。しかし、老公爵にとって一番美味しく感じたのは、ユーリがママから習ったのと出してくれたハーブ鶏の丸焼きだ。シンプルな料理だけど、ハーブ鶏は香ばしくて、ジューシーだった。

「あのロザリモンドが、このような料理をしていたなんて……」

 王家の血を引く姫君として、大切に育てられたロザリモンド姫は、料理はおろか台所に入ったこともなかったのにと、老公爵はユーリが両親は幸せだったと何度も言っていたのが腑に落ちる。

「ユーリ、ロザリモンドはウィリアムと幸せだったのだな。やっとわかったよ、お前を見ていたのに愚かなことだ。ユーリはこんなにものびのびと明るい子じゃないか。愛情に満ちた家庭で育ったのだ」

 お祖父様が両親が幸せだったと、やっと認めてくれたのがユーリには嬉しい。

「ええ! パパとママは凄く愛し合ってたの。それに私にもたっぷりの愛情を注いでくれたわ」

 ユーリはお祖父様の前で泣くと悲しませると涙を抑えようとしたが、泣き虫なので無理だった。子どもの様に泣きじゃくるユーリを老公爵は抱きしめて、そんなに泣いたらロザリモンドとウィリアムが心配するぞと慰める。

「そうね、もう子どもじゃないのだから、こんな風に泣いてはいけないのね」

 ユーリはハンカチで涙を拭いたが、ユージーンやフランツは痛々しく感じて、あれほど苦労させられたのに泣くのを我慢しなくて良いと思う。

 デザートはもちろんアイスクリームで、熱々のアップルパイと冷たいアイスクリームの取り合わせは最高だと絶賛された。

「何人かの人に、アイスクリームをパーティーに出したいと注文も受けたの。確かに、夕食会のデザートにもダンスパーティーで一口食べるのも良さそうね」

 サロンで寛いで、明日からはアイスクリーム屋台を開かなくて良いからと、珍しくユーリも遅くまで起きている。マリアンヌは屋台が終わったからフォン・フォレストに帰省すると言い出すのではと、ユーリに予定を聞くのを恐れていた。

「ねぇユーリ、ストレーゼンに来てから屋台ばかりだったじゃない、少しは遊ぼうよ」

 フランツは母上がユーリに予定を聞きたいけど、フォン・フォレストに帰ると言われるのが怖くて聞けないのを察して話を振る。

「フランツにもユージーンにも、お世話になったわね。折角の夏休みなのに、私の屋台を手伝わせてばかりだったわ。一週間後に、ハンナの結婚式なの。本当は準備を手伝いに3日前にはヒースヒルに行きたいけど、妹のキャシーがドレス作りの忙しい時期だから2日しか休めないと言うんですもの。式の前日にキャシーを連れてヒースヒルに行くわ。それまではパーラーの準備と、寮の設営と、人を雇わなきゃいけないから、ユングフラウに行かなきゃね」

「あと、6日はこちらにいれるんだね。ユングフラウには用事がある時だけ、ここから通えば良いよ。この時期のユングフラウは暑くて最低だもの」

 フランツの言葉に公爵夫妻も同意する。

「そうですよ、ユングフラウには用事がある時だけ行けば良いわ。ユーリ、少しはのんびりしないと」

 やることがいっぱいで、のんびりしている暇はないと思ったが、ここストレーゼンで出来ることもあるし、皆がお祖父様の為にいて欲しいとのがわかったので、滞在することにする。

「では、お言葉に甘えてもう少しお世話になりますわ。明日の午前中に、屋台の収支報告書も作成したいし、午後からはアンリ卿が経理を教えて下さるの。叔母様、お茶の時間にクレープの試食をして下さらない? これは中に入れる具によって軽食にも、デザートにもなるのよ。ああ、忘れていたわ。王妃様に公園で屋台を開く許可を頂いたお礼にも行かなきゃ駄目よね~」

 忙しそうなユーリに全員が溜め息をつく。

「皇太子殿下も毎日屋台に来て説明を手伝って下さったし……ありがたいけど、他の令嬢と仲良くなって欲しいのに、困ったもんだわ……」

 ユーリの愚痴に、それは無理だろうと全員が溜め息をつく。ユーリに恋しているのは知っていたが、毎日屋台に来るほどご執心だとは思っていなかったのだ。

 それにユーリと暮らしてみて、笑ったり、泣いたり、怒ったりと、退屈とは無縁の生活で、王宮で礼儀作法にうるさい女官や、侍従に囲まれて生活している皇太子が惹かれるのが理解できた。

「皇太子殿下も離宮でお暇だったのだろう。ストレーゼンでお前の屋台は一大イベントだったからな」

「まぁ叔父様、大袈裟だわ。野外劇場では他にも催し物が沢山合ったみたいよ。そうだわ、一度見に行こうかしら? フランツ、どんな感じなの? 素人劇とか、音楽会とかが良いかな」

 フランツはユーリがそんな所に行ったら、また子息達に囲まれるのが目に見えていたから反対だったが、思わぬことを公爵が口にする。

「確か、明後日は音楽会だった筈だよ。ロックフォード侯爵がアンリ卿も参加されると仰ってたから。これも確か戦傷者へのチャリティーコンサートだったはずだ。ユージーンも一曲演奏を頼まれていたのではないか?」

 ユージーンとフランツは、両親がアンリとユーリをくっつけようと画策しているのに気づく。

「私達も聴きに行きましょう。あっ、そうだわ! ユーリも歌を披露すれば良いのよ。チャリティーコンサートなのですもの」

「でも、飛び入り参加なんて嫌だわ」

 ユーリが遠慮しているのを、老公爵までが後押しする。

「確かそのチャリティーコンサートは毎年ロックフォード侯爵家が主催していたはずだ。あの家はチャリティーに熱心だからな。明日、アンリ卿が来られるなら、事前に言っておけばよい。曲目がダブらない方が良いからな。ユージーンとユーリが参加するなら、私も見に行こう。ユーリの料理のお陰で夏バテしなかったから身体の調子が良いのだ」

 リリアナ祖母様が亡くなってから爵位を息子に譲り、社交界からも引退して家に引きこもっていた老公爵が、別荘地のチャリティーコンサートとはいえ見に行こうと言い出したのに公爵家の人達は驚いた。

「ユーリ、チャリティーなのだから、参加すべきだよ」

 親孝行な公爵は、父上が母上が亡くなってから家に引きこもっているのが心配でならなかったので、ユーリをオペラに連れて行こうとか、チャリティーコンサートに出かけようとする姿勢が嬉しかった。フランツも老公爵や両親が一緒なら、子息達も変な真似はしないだろうと安心する。

「一人で知らない大勢の前で歌うのは、緊張しそうで……フランツ、一緒に歌ってくれない? 大勢の人が苦手なの、だからパーティーも苦手なのかも」

「ニューパロマで何度も音楽会で歌ってたじゃないか。ユーリだけでも大丈夫だよ」

 フランツはユーリ一人の方が歌が聞きごたえのあるものだからと遠慮する。

「王妃様の個人的な音楽会だから、人数は限られていたもの。同盟締結式典の後はハロルド様が一緒に歌って下さって助かったわ。あんな大勢の前で歌うのは嫌だったの。フランツ、一緒に歌ってよ」

 ユージーンはニューパロマの晩餐会でも、皇太子殿下のパートナーとして注目を集めたユーリが緊張して手が震えていたのを思い出す。

「フランツ、一緒に歌ってやりなさい。ユーリは度胸があるのか、無いのか、大勢の人前では緊張する癖はやめないといけないけど、今回は仕方ないさ」

 ユーリは知り合った人とは、すごく気楽に話すから忘れがちだけど、少し人見知りをする傾向があるとフランツも思い出し、仕方ないなと引き受ける。

「フランツとユーリが歌うなら、ライラの楽曲が良いわ。ユーリはライラそのものだし、フランツもリチャード役がぴったりだわ。幼なじみを心配して忠告するコミカルな曲目ですもの。この明るい曲が、いっそう後半のライラの悲劇を効果的にしているのよ。ユーリをオペラに連れて行って全幕みせなきゃね」

 マリアンヌが目をキラキラさせているので、きっと着せるドレスについて考えているのだとユーリは察知する。この着せ替え人形にしたがる癖さえ無ければ、最高な叔母様なのにと溜め息をつく。
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