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第七章 忙しい夏休み
13 離宮は身内ばかりよ
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パーラーへの出資を感謝して、屋台の準備がありますのでと帰ろうとしたユーリは、お昼を一緒にと王妃に捕まってしまった。
「でも、ローズとマリーが一緒ですし、屋台の準備もしないと……」
ユーリの抗議など歯牙にもかけず、ローズとマリーに先に公爵家の別荘に帰って屋台の準備をして貰えば良いわと、自分の横にユーリを座らせる。
「王妃様、離宮では王族の方達が寛いでいらっしゃるのでしょ? 私が離宮に居ると、折角の休暇を楽しんでいらっしゃる方達にご迷惑をお掛けするのではないでしょうか」
ホホホと、王妃様はユーリの遠慮を笑う。
「離宮には私達だけですよ。そして、貴女の身内ばかりというわけですわね」
先ほどの出資の件で、父の従兄弟とか、母の従兄弟だと言い立てられたので、ユーリには反論できない。とほほな気分で食卓についたユーリは、上機嫌な王妃からカザリア王国での滞在中の質問されたり、声楽のレッスンについて話し合ったりする。
「ユングフラウで一番の音楽教師は、ミュウラー師ですわね? ピアノだけでなく、声楽の指導も優れてるとの評判ですわね」
ウッと、ユーリとグレゴリウスは王妃の言葉で、食べていた食事が喉に詰まった。
「あら、グレゴリウス、ユーリ? どうかしました?」
「失礼しました、お祖母様ミュウラー師は駄目ですよ。前にユーリは習ってましたが、イリスが屋敷の窓ガラスを全部割ってクビにされましたから」
「あら、まあ、それは困りましたね。グレゴリウスのピアノの先生は、声楽はお得意でないし、エリザベート王妃様からも手紙で熱心に頼まれましたから、そこら辺の音楽教師では格好がつきませんわ。誰かご存知ありませんか?」
ユーリは、グレゴリウスが何故イリスが窓ガラスを割る羽目になったのか黙っていてくれたのに感謝した。自分が怠けて練習をさぼったから、指揮棒で打たれたのに、国王や王妃に言いつけるようで嫌だったのだ。
「王妃様、声楽のレッスンはまたで良いですわ。夏休みが終わったら本格的に見習い竜騎士の実習になりますし、なかなか時間が取れそうにありませんもの」
ユーリは国務省での見習い実習に、騎竜訓練、パーラーだけでも忙しいのに、武術の個人レッスンと社交界は本当にパスしたかった。
「まぁ、駄目よ、グレゴリウスもエリザベート王妃様に声楽のレッスンを受けさせると約束したのだし、私も頼まれてますからね。良い声楽の先生を探しておきますわ」
がっくりきているユーリに、国王は声楽が嫌いなのかと尋ねる。
「いいえ、ニューパロマで数週間、声楽のレッスンを受けましたが、パウエル師は優しい方でしたし、教え方もわかりやすかったから楽しかったですわ。でも、声楽のレッスンを受ける気持ちの余裕が無いのです。お祖父様からは武術の個人レッスンも続けるように言われてますし、社交界は引退できそうにありませんし、無理ですわ」
社交界引退? グレゴリウス以外は聞き間違えかと思う。
「まだ、そんな事言ってるの?」
流石にユーリにぞっこんのグレゴリウスも呆れてしまう。
「マウリッツ公爵家で、お祖父様と叔父様に褒め殺しにされて諦めたわ。ドレスが似合うとか、ダンスが上手だとか、褒めまくって、舞踏会が楽しみだと丸め込まれたの。叔母様には山ほどドレスを作って頂いたし、屋敷も改装中なんですもの、社交界引退は出来そうもないわ。でも、少しづつフェードアウトしようと作戦を変えたの。今年は仕方ないけど、来年からはパーティーは断っていくつもりよ」
テレーズはユーリの非常識さにクラクラする。
「ユーリは社交界が苦手なのかい?」
ナサニエルは、姉がユーリにドレスを着せるのが生き甲斐ともいえるほど好きなのを知っていたので、驚いてしまう。
「ええ、苦手ですの。それに夜遅くまで起きていれなくて……いつも眠てしまうから」
カザリア王国での舞踏会でも、最後までいたのは大使館主催の時だけだったなとグレゴリウスは思い出して笑う。
「お昼寝をした大使館の舞踏会以外、12時過ぎには帰っていたね。毎回、お昼寝をしたら?」
全員が若いデビュタントの令嬢が、眠いからと舞踏会から早々に帰るなんて前代未聞だと驚いてしまう。
「お昼寝するより、12時か、いえ11時で帰ったらいけないのかしら? 12時だと馬車で寝てしまうから、いつも朝ベッドにどうやって寝ているかよくわからなくて」
「年頃の令嬢がどうやってベッドに寝たのか記憶が無いなんて」
王妃はユーリを1ヶ月の間、面倒をみたクレスト大使夫人の苦労を思った。
「ユージーン卿がいつもユーリを運んでましたよ」
誰がベッドに連れて行ってたのか不安そうなに祖母様に、グレゴリウスは心配いらないと話す。
「でも、そんなことばかりしていてはいけませんよ。夜遅くまでパーティーがある時は、お昼寝をしなさい」
昼寝する暇があるかしらと、ユーリは思ったが、ハイと素直に返事をする。マキシウス祖父様に運ばれて、次の朝から説教されるのは避けたかったからだ。
王妃にお茶もと誘われたが、屋台の準備をしなくてはと固辞した。
ユーリが帰ったあと、グレゴリウスはお祖母様に少し心配なのですと、屋台にストレーゼンにいる独身貴族達が殺到しそうだと愚痴る。
「今日のユーリと制服姿の友達はとても可愛いらしかったし、アイスクリームは凄く美味しいから、ストレーゼンに滞在中の皆が押しかけるのではないでしょうか」
アルフォンスはグレゴリウスがやきもきしてるのに気づいた。
「グレゴリウスは、マウリッツ公爵家がユーリを一人で屋台などさせないとわかっているだろう。ユージーン卿とフランツが付き添うさ」
「私も屋台に行って良いですか? ユーリの舞踏会の招待状は、プラチナチケットと呼ばれているのですよ。招待された子息達は、マウリッツ公爵家が認めた良い婿だと評判だそうです」
グレゴリウスの不安は、ナサニエルにも理解できた。
「ユーリは自覚してませんが、彼女はフォン・フォレストの領地だけでなく、フォン・アリストの領地の相続人なのです。絆の竜騎士だけでなく、これだけの持参金を持つ令嬢はいませんから、争奪戦は激しくなりそうですね」
はっと国王も改めて、ユーリが国内で有数の相続人なのに気がつく。
「そうだ! マキシウス卿の直系はユーリだけだったな。う~ん、グレゴリウス、屋台に付き添うか? ユージーン卿とフランツだけでは、さばききれないかもしれぬな。ユーリは質問されたら、熱心に説明しそうだし、名前を売り込む為に出資者になる者が続出しそうだ。下心のある出資者などお断りだ。何人か信頼の置ける者に声をかけてみるか」
テレーズは折角の休暇ですよと、アルフォンスを止める。
「貴方がお考えになった事は、マウリッツ公爵家でも考えていますよ。多分、もう手配済でしょう。グレゴリウスは好きにすれば良いわ。屋台に付き添うなと言っても無理でしょうから」
グレゴリウスはサザーランド公爵から、ユーリが国内有数の相続人と聞いて驚いた。
「ユーリはフォン・アリスト家が領地を持っていることすら、知らないと思いますよ。というか、フォン・アリスト家の相続人だと考えてないでしょうし、どうも竜騎士隊長の意味も理解してないみたいです。フォン・アリスト家が爵位を持たない普通の貴族というか、武門の騎士階級の少し上ぐらいだと思っているふしがあるのです」
えっ! と、全員から声が上がる。
「馬鹿な、フォン・アリスト家が爵位を返上したのは、代々竜騎士隊長を輩出し、権力と地位の独占だとの妬みを解消するためではないか。元々、王家にも何人も嫁がせるほどの名門貴族だとユーリは知らないのか? ユングフラウなら誰でも知ってる話だろうに」
「それは……ユーリは両親から国王の名前すら教えて貰ってなかったとこぼしてましたから、知らないのでは無いでしょうか? 徹底的にユングフラウ関係の話はしなかったみたいで、小学校に入学した時に自分だけ知らないのを不審に思ったと言ってましたから。その後も、マキシウス卿はそのような説明をしそうな方とは思えませんし、フォン・フォレストのお祖母様は変わった考え方をお持ちだから教えなかったのでは?」
駆け落ちした両親が教えないのは仕方ないが、祖父と祖母がユーリを無知のまま放置するなんて無責任だろうと考える。
「姉にユーリに教えるように言っておきます。誰もユーリが知らないとは考えもつかないでしょうから。それにしても、ユーリはもう少し落ち着かないと駄目ですね。誰に似たのでしょう? ロザリモント姫はお淑やかでしたし、ウィリアム卿も快活でしたが、この様にバタバタとした感じではありませんでした」
先ほどの嵐のような退場に溜め息をつくナサニエルの言葉で、ふとニューパロマでの会話に良く似た印象のお騒がせ娘が出てきたなと、グレゴリウスは笑ってしまう。
「ああ、あのスザンナ・フォン・キャシディだ。ユーリのドタバタさは、曾祖母様のスザンナ様譲りですよ。曾祖父様のロレンツォ・フォン・フォレスト様は恐ろしい程の男前で、一目惚れしたスザンナ様は押し掛けてしまったみたいです。困り切ったロレンツォ様は、キャシディ卿に娘を引き取るように頼み込んだみたいですが、抱きついて離れないので父親は責任を取って下さいと置いて帰ったと聞きました。ジークフリート卿はスザンナ様も美しい方だったが、残念な性格だったと愚痴ってました。人を魅了するのも、ドタバタさも、フォン・キャシディのスザンナ様からの遺伝ですよ」
「まぁ、殿方の家に押し掛けるなんて」
有り得ない話に王妃も、他の方々もびっくりしてしまう。
「フォン・キャシディ家は代々美男美女だし、優雅な雰囲気の方ばかりだと思っていたが、スザンナ様? あまり覚えが無いな。だが、モガーナ殿の迫力ある美貌を思えば、父親のロレンツォ様が美男だったのはわかるな」
「そんなにユーリのお祖母様は美しいのですか? ユーリはよく愚痴ってますから、不思議なのです。母は好きだから似ているのは仕方ないけど、お祖母様みたいな迫力のある美人だったら、官僚達にも睨みがきくのにと」
国王はつくづくロザリモンドに似ていて良かったと思う。
「確かにモガーナ殿に似ていたら、一睨みで官僚達も黙らせるだろう。フォン・フォレストの魔女という異名に相応しい、恐ろしい程の美貌だから。マキシウス卿と結婚をしていた頃は20才そこそこであったが、恐ろしい程の美貌と、恐ろしい毒舌の持ち主だった。あの結婚を承認するのが遅れた為に、ウィリアム卿にフォン・アリストの名前を名乗らせることが出来なかったのは一生の不覚だ。生きていたら、竜騎士隊長になっただろうに」
「まあ、そんな事を仰らないで……貴方は反対する貴族達を抑えて、承認しようとなさったではありませんか。結婚が継続しなかったのは、貴方のせいではありませんわ。お二人ともキツい性格で、ケンカも激しかったからです。それに、御両親が亡くなられてフォン・フォレストに帰られたのが、離婚のきっかけですもの。第一、ウィリアム卿をモガーナ様に取られたのはマキシウス卿の失態でしょ。マキシウス卿は強面なのに女性には弱いから、両親を亡くしたばかりのモガーナ様から息子を取り上げるような真似はできなかったのでしょうけど」
ユーリの祖父と祖母の事情を興味深くグレゴリウスは聞く。
「ユーリもお祖父様に2時間怒鳴られるより、お祖母様に一睨みされる方が堪えると言ってましたから、親権問題は勝ち目が無かったのでは? 竜嫌いのモガーナ様は、ウィリアム卿がリューデンハイムに入学したいと言い出した時に怒られたみたいですね。家出してユングフラウのフォン・アリスト家までたどり着いた時は浮浪児みたいだったと聞きましたから、この親子も徹底してますね。意志が強いというか。でも、ウィリアム卿も変わった方だったのかな?」
ナサニエルはウィリアムと従兄弟なので、どの辺が変わっていたのかと尋ねる。
「普通、父親は娘に家出か駆け落ちするなら、春か夏にするようにとは教えないでしょう? 確かにユーリは何処でも生きていける程の生活力もある野生児ですし、代々フォン・フォレストの家系は駆け落ちが多いとはいえ、そんな推奨するような事を娘に言わないでしょう」
ナサニエルは、女の子はレースのドレスや、綺麗な花に囲まれて生活するイメージを持っていたので、従兄弟の教育方針に驚き呆れてしまう。
「皇太子殿下? ユーリは皇太子妃に向かないのでは?」
ナサニエルの言葉は全員が本音では感じているが、絶対に認めないことだったので、普段は夫にベッタリのメルローズに軽く抓られてしまった。
「それは禁句ですのよ」小声の注意も全員に聞こえていたが、失言も注意も無視された。
結婚10年を過ぎても新婚のように仲の良いサザーランド公爵夫妻を、国王夫妻も微笑ましく思っていたが、子どもに恵まれないのを残念に感じる。
メルローズは嫁ぎ先のサザーランド公爵や、義理の母のシャルロットや、義理の姉のマリアンが、一度も子どもの件を口に出さないのを感謝していたが、愛する夫の子どもを産みたいとの願いは諦めていなかった。
ユーリが二人にとって血縁だと改めて思い、フォン・フォレストや、フォン・アリストの跡取りでなければ養女にするのにと、溜め息をつく。
「でも、ローズとマリーが一緒ですし、屋台の準備もしないと……」
ユーリの抗議など歯牙にもかけず、ローズとマリーに先に公爵家の別荘に帰って屋台の準備をして貰えば良いわと、自分の横にユーリを座らせる。
「王妃様、離宮では王族の方達が寛いでいらっしゃるのでしょ? 私が離宮に居ると、折角の休暇を楽しんでいらっしゃる方達にご迷惑をお掛けするのではないでしょうか」
ホホホと、王妃様はユーリの遠慮を笑う。
「離宮には私達だけですよ。そして、貴女の身内ばかりというわけですわね」
先ほどの出資の件で、父の従兄弟とか、母の従兄弟だと言い立てられたので、ユーリには反論できない。とほほな気分で食卓についたユーリは、上機嫌な王妃からカザリア王国での滞在中の質問されたり、声楽のレッスンについて話し合ったりする。
「ユングフラウで一番の音楽教師は、ミュウラー師ですわね? ピアノだけでなく、声楽の指導も優れてるとの評判ですわね」
ウッと、ユーリとグレゴリウスは王妃の言葉で、食べていた食事が喉に詰まった。
「あら、グレゴリウス、ユーリ? どうかしました?」
「失礼しました、お祖母様ミュウラー師は駄目ですよ。前にユーリは習ってましたが、イリスが屋敷の窓ガラスを全部割ってクビにされましたから」
「あら、まあ、それは困りましたね。グレゴリウスのピアノの先生は、声楽はお得意でないし、エリザベート王妃様からも手紙で熱心に頼まれましたから、そこら辺の音楽教師では格好がつきませんわ。誰かご存知ありませんか?」
ユーリは、グレゴリウスが何故イリスが窓ガラスを割る羽目になったのか黙っていてくれたのに感謝した。自分が怠けて練習をさぼったから、指揮棒で打たれたのに、国王や王妃に言いつけるようで嫌だったのだ。
「王妃様、声楽のレッスンはまたで良いですわ。夏休みが終わったら本格的に見習い竜騎士の実習になりますし、なかなか時間が取れそうにありませんもの」
ユーリは国務省での見習い実習に、騎竜訓練、パーラーだけでも忙しいのに、武術の個人レッスンと社交界は本当にパスしたかった。
「まぁ、駄目よ、グレゴリウスもエリザベート王妃様に声楽のレッスンを受けさせると約束したのだし、私も頼まれてますからね。良い声楽の先生を探しておきますわ」
がっくりきているユーリに、国王は声楽が嫌いなのかと尋ねる。
「いいえ、ニューパロマで数週間、声楽のレッスンを受けましたが、パウエル師は優しい方でしたし、教え方もわかりやすかったから楽しかったですわ。でも、声楽のレッスンを受ける気持ちの余裕が無いのです。お祖父様からは武術の個人レッスンも続けるように言われてますし、社交界は引退できそうにありませんし、無理ですわ」
社交界引退? グレゴリウス以外は聞き間違えかと思う。
「まだ、そんな事言ってるの?」
流石にユーリにぞっこんのグレゴリウスも呆れてしまう。
「マウリッツ公爵家で、お祖父様と叔父様に褒め殺しにされて諦めたわ。ドレスが似合うとか、ダンスが上手だとか、褒めまくって、舞踏会が楽しみだと丸め込まれたの。叔母様には山ほどドレスを作って頂いたし、屋敷も改装中なんですもの、社交界引退は出来そうもないわ。でも、少しづつフェードアウトしようと作戦を変えたの。今年は仕方ないけど、来年からはパーティーは断っていくつもりよ」
テレーズはユーリの非常識さにクラクラする。
「ユーリは社交界が苦手なのかい?」
ナサニエルは、姉がユーリにドレスを着せるのが生き甲斐ともいえるほど好きなのを知っていたので、驚いてしまう。
「ええ、苦手ですの。それに夜遅くまで起きていれなくて……いつも眠てしまうから」
カザリア王国での舞踏会でも、最後までいたのは大使館主催の時だけだったなとグレゴリウスは思い出して笑う。
「お昼寝をした大使館の舞踏会以外、12時過ぎには帰っていたね。毎回、お昼寝をしたら?」
全員が若いデビュタントの令嬢が、眠いからと舞踏会から早々に帰るなんて前代未聞だと驚いてしまう。
「お昼寝するより、12時か、いえ11時で帰ったらいけないのかしら? 12時だと馬車で寝てしまうから、いつも朝ベッドにどうやって寝ているかよくわからなくて」
「年頃の令嬢がどうやってベッドに寝たのか記憶が無いなんて」
王妃はユーリを1ヶ月の間、面倒をみたクレスト大使夫人の苦労を思った。
「ユージーン卿がいつもユーリを運んでましたよ」
誰がベッドに連れて行ってたのか不安そうなに祖母様に、グレゴリウスは心配いらないと話す。
「でも、そんなことばかりしていてはいけませんよ。夜遅くまでパーティーがある時は、お昼寝をしなさい」
昼寝する暇があるかしらと、ユーリは思ったが、ハイと素直に返事をする。マキシウス祖父様に運ばれて、次の朝から説教されるのは避けたかったからだ。
王妃にお茶もと誘われたが、屋台の準備をしなくてはと固辞した。
ユーリが帰ったあと、グレゴリウスはお祖母様に少し心配なのですと、屋台にストレーゼンにいる独身貴族達が殺到しそうだと愚痴る。
「今日のユーリと制服姿の友達はとても可愛いらしかったし、アイスクリームは凄く美味しいから、ストレーゼンに滞在中の皆が押しかけるのではないでしょうか」
アルフォンスはグレゴリウスがやきもきしてるのに気づいた。
「グレゴリウスは、マウリッツ公爵家がユーリを一人で屋台などさせないとわかっているだろう。ユージーン卿とフランツが付き添うさ」
「私も屋台に行って良いですか? ユーリの舞踏会の招待状は、プラチナチケットと呼ばれているのですよ。招待された子息達は、マウリッツ公爵家が認めた良い婿だと評判だそうです」
グレゴリウスの不安は、ナサニエルにも理解できた。
「ユーリは自覚してませんが、彼女はフォン・フォレストの領地だけでなく、フォン・アリストの領地の相続人なのです。絆の竜騎士だけでなく、これだけの持参金を持つ令嬢はいませんから、争奪戦は激しくなりそうですね」
はっと国王も改めて、ユーリが国内で有数の相続人なのに気がつく。
「そうだ! マキシウス卿の直系はユーリだけだったな。う~ん、グレゴリウス、屋台に付き添うか? ユージーン卿とフランツだけでは、さばききれないかもしれぬな。ユーリは質問されたら、熱心に説明しそうだし、名前を売り込む為に出資者になる者が続出しそうだ。下心のある出資者などお断りだ。何人か信頼の置ける者に声をかけてみるか」
テレーズは折角の休暇ですよと、アルフォンスを止める。
「貴方がお考えになった事は、マウリッツ公爵家でも考えていますよ。多分、もう手配済でしょう。グレゴリウスは好きにすれば良いわ。屋台に付き添うなと言っても無理でしょうから」
グレゴリウスはサザーランド公爵から、ユーリが国内有数の相続人と聞いて驚いた。
「ユーリはフォン・アリスト家が領地を持っていることすら、知らないと思いますよ。というか、フォン・アリスト家の相続人だと考えてないでしょうし、どうも竜騎士隊長の意味も理解してないみたいです。フォン・アリスト家が爵位を持たない普通の貴族というか、武門の騎士階級の少し上ぐらいだと思っているふしがあるのです」
えっ! と、全員から声が上がる。
「馬鹿な、フォン・アリスト家が爵位を返上したのは、代々竜騎士隊長を輩出し、権力と地位の独占だとの妬みを解消するためではないか。元々、王家にも何人も嫁がせるほどの名門貴族だとユーリは知らないのか? ユングフラウなら誰でも知ってる話だろうに」
「それは……ユーリは両親から国王の名前すら教えて貰ってなかったとこぼしてましたから、知らないのでは無いでしょうか? 徹底的にユングフラウ関係の話はしなかったみたいで、小学校に入学した時に自分だけ知らないのを不審に思ったと言ってましたから。その後も、マキシウス卿はそのような説明をしそうな方とは思えませんし、フォン・フォレストのお祖母様は変わった考え方をお持ちだから教えなかったのでは?」
駆け落ちした両親が教えないのは仕方ないが、祖父と祖母がユーリを無知のまま放置するなんて無責任だろうと考える。
「姉にユーリに教えるように言っておきます。誰もユーリが知らないとは考えもつかないでしょうから。それにしても、ユーリはもう少し落ち着かないと駄目ですね。誰に似たのでしょう? ロザリモント姫はお淑やかでしたし、ウィリアム卿も快活でしたが、この様にバタバタとした感じではありませんでした」
先ほどの嵐のような退場に溜め息をつくナサニエルの言葉で、ふとニューパロマでの会話に良く似た印象のお騒がせ娘が出てきたなと、グレゴリウスは笑ってしまう。
「ああ、あのスザンナ・フォン・キャシディだ。ユーリのドタバタさは、曾祖母様のスザンナ様譲りですよ。曾祖父様のロレンツォ・フォン・フォレスト様は恐ろしい程の男前で、一目惚れしたスザンナ様は押し掛けてしまったみたいです。困り切ったロレンツォ様は、キャシディ卿に娘を引き取るように頼み込んだみたいですが、抱きついて離れないので父親は責任を取って下さいと置いて帰ったと聞きました。ジークフリート卿はスザンナ様も美しい方だったが、残念な性格だったと愚痴ってました。人を魅了するのも、ドタバタさも、フォン・キャシディのスザンナ様からの遺伝ですよ」
「まぁ、殿方の家に押し掛けるなんて」
有り得ない話に王妃も、他の方々もびっくりしてしまう。
「フォン・キャシディ家は代々美男美女だし、優雅な雰囲気の方ばかりだと思っていたが、スザンナ様? あまり覚えが無いな。だが、モガーナ殿の迫力ある美貌を思えば、父親のロレンツォ様が美男だったのはわかるな」
「そんなにユーリのお祖母様は美しいのですか? ユーリはよく愚痴ってますから、不思議なのです。母は好きだから似ているのは仕方ないけど、お祖母様みたいな迫力のある美人だったら、官僚達にも睨みがきくのにと」
国王はつくづくロザリモンドに似ていて良かったと思う。
「確かにモガーナ殿に似ていたら、一睨みで官僚達も黙らせるだろう。フォン・フォレストの魔女という異名に相応しい、恐ろしい程の美貌だから。マキシウス卿と結婚をしていた頃は20才そこそこであったが、恐ろしい程の美貌と、恐ろしい毒舌の持ち主だった。あの結婚を承認するのが遅れた為に、ウィリアム卿にフォン・アリストの名前を名乗らせることが出来なかったのは一生の不覚だ。生きていたら、竜騎士隊長になっただろうに」
「まあ、そんな事を仰らないで……貴方は反対する貴族達を抑えて、承認しようとなさったではありませんか。結婚が継続しなかったのは、貴方のせいではありませんわ。お二人ともキツい性格で、ケンカも激しかったからです。それに、御両親が亡くなられてフォン・フォレストに帰られたのが、離婚のきっかけですもの。第一、ウィリアム卿をモガーナ様に取られたのはマキシウス卿の失態でしょ。マキシウス卿は強面なのに女性には弱いから、両親を亡くしたばかりのモガーナ様から息子を取り上げるような真似はできなかったのでしょうけど」
ユーリの祖父と祖母の事情を興味深くグレゴリウスは聞く。
「ユーリもお祖父様に2時間怒鳴られるより、お祖母様に一睨みされる方が堪えると言ってましたから、親権問題は勝ち目が無かったのでは? 竜嫌いのモガーナ様は、ウィリアム卿がリューデンハイムに入学したいと言い出した時に怒られたみたいですね。家出してユングフラウのフォン・アリスト家までたどり着いた時は浮浪児みたいだったと聞きましたから、この親子も徹底してますね。意志が強いというか。でも、ウィリアム卿も変わった方だったのかな?」
ナサニエルはウィリアムと従兄弟なので、どの辺が変わっていたのかと尋ねる。
「普通、父親は娘に家出か駆け落ちするなら、春か夏にするようにとは教えないでしょう? 確かにユーリは何処でも生きていける程の生活力もある野生児ですし、代々フォン・フォレストの家系は駆け落ちが多いとはいえ、そんな推奨するような事を娘に言わないでしょう」
ナサニエルは、女の子はレースのドレスや、綺麗な花に囲まれて生活するイメージを持っていたので、従兄弟の教育方針に驚き呆れてしまう。
「皇太子殿下? ユーリは皇太子妃に向かないのでは?」
ナサニエルの言葉は全員が本音では感じているが、絶対に認めないことだったので、普段は夫にベッタリのメルローズに軽く抓られてしまった。
「それは禁句ですのよ」小声の注意も全員に聞こえていたが、失言も注意も無視された。
結婚10年を過ぎても新婚のように仲の良いサザーランド公爵夫妻を、国王夫妻も微笑ましく思っていたが、子どもに恵まれないのを残念に感じる。
メルローズは嫁ぎ先のサザーランド公爵や、義理の母のシャルロットや、義理の姉のマリアンが、一度も子どもの件を口に出さないのを感謝していたが、愛する夫の子どもを産みたいとの願いは諦めていなかった。
ユーリが二人にとって血縁だと改めて思い、フォン・フォレストや、フォン・アリストの跡取りでなければ養女にするのにと、溜め息をつく。
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大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
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士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
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☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
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