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第六章 同盟締結
30 ユージーンとアトス
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次の朝、ユーリはいつも通り早起きをして、庭の菜園から新鮮なトマトや、野菜を収穫したり、卵を集めて台所に運ぶ。
「おはようございます。ここに、野菜と卵を置いておきますね」
シェフは毒に当たった昼食会をユーリに助けてもらってからは、踏んだ大地ですら拝まんばかりに感謝していたので、あと2日で帰国するのを残念に思う。
「ユーリ様が帰国なさっても、菜園と鶏の世話はいたしますよ」
シェフに気になっていた鶏の世話を引き受けてもらったのでユーリは凄く喜んだが、大使夫妻に許可をとってねと一言添える。
優雅な大使夫妻が庭で鶏の飼育をするのを実は嫌がっているのではと、ユーリは気遣った。
「鶏は、このまま飼育しますよ。産みたての卵を食べ慣れますと、他の卵は食べられませんからね~」
大使は半熟卵の濃厚な黄身をスプーンですくいながら、これもユーリの緑の魔力で育てられたハーブを食べた鶏のお陰だろうかと考えながら堪能する。
「フランツ、見習い竜騎士のレポートは仕上げたのか? ユーリはもう2本提出したぞ」
美味しそうに卵を食べていたフランツは、朝食の席で言わなくてもと思ったが、あと少しで書き終えますと返事をする。
「大使夫人、今日のお昼からは休息を取らなくてはいけないのはわかっていますが、午前中は少し出かけたいのです。よろしいでしょうか?」
ユーリがセリーナに許可を貰っているのを、全員が何処へ行くのだろうと関心を持って、聞き耳をたてる。
「何処へ行かれるのですか?」
「少し疲れたので、イリスに乗って気ままに空の散歩をしてリフレッシュしたいのです。まぁ、イリスを気ままに飛ばしたら、海に行くでしょうけど……イリスもニューパロマでは竜舎に籠もりがちでしたから、可哀相ですし」
うっと、竜騎士全員がイリスだけユーリと海水浴したと知ったら、自分達の竜がどれほど騒ぎ立てるか考えて、朝食が喉に詰まる気持ちになった。
「ユーリ、それは駄目だ。アトスに文句を言われてしまう。海水浴以外にしなさい」
ユージーンの反対にユーリはしょげ返ったのを、竜騎士達は気の毒に感じはしたが、自分達の竜の苦情を考えると同意せざる得ない。
「ユージーンは、アトスにもう少し優しくしてあげた方が良いわよ。ユージーンがそんな態度だから、アトスが悩んでいるんじゃ……ああ、忘れて! 何でもないわ! そうね、山の清々しい空気を吸いに行きましょう」
「アトスが悩んでいる? ユーリ、どういうことなんだ!」
竜騎士は、自分の騎竜、パートナーの竜については過敏に反応する竜馬鹿集団なので、ユーリが口を滑らしたのをそのまま聞き流す訳が無かった。
あちゃ~と、自分の失敗に落ち込んで、どうやってシラを通そうか考える。しかし、ユージーンがアトスが自分に不満を持っているのでは? と落ち込んだのに責任を感じる。
「ユージーン、逆なのよ! アトスはユージーンのことが大好きなのよ」
ユージーンは慰めてくれるのは有り難いがと、まだ浮上しない。
「どう言えば良いのかしら? そうね、イリス風に言うと……竜騎士に叙された時のプロポーズは、まだ結婚に踏み込めなかったけど、今は結婚したくてたまらないみたいなの。でも、一度断っているから、ユージーンからはプロポーズされないだろうと悩んでいたの」
アトスの悩みに気づいてなかったのかと、ユージーンは驚いた。
「イリスを真似して、押し掛け騎竜になればって言ったけど……アトスはイリスみたいに我が儘大王じゃないから、できればユージーンからのプロポーズをして欲しいみたい。ああ、言っちゃった! ユージーン、アトスはユージーンからの申込みを待ち望んでいるのよ」
ユージーンはユーリの言葉を聞くやいなや、竜舎へと走って行く。
『アトスがユージーンと絆を結んだよ!』
しばらくして、竜騎士達はユージーンとアトスが絆を結んだと竜達の祝福の声を聞いて喜ぶ。
「なんで、ユージーン卿にすぐに教えなかったの?」
グレゴリウスはユーリがアトスの気持ちに気づいていたのにと疑問をぶつける。
「え~、だって絆を結んだ直後は新婚カップルみたいなもので、当分は使い物にならないじゃない。帰国して夏休みになってから、アトスにユージーンに逆プロポーズするようにアドバイスしていたの。そうだわ、ユージーン大丈夫かな?」
グレゴリウスもジークフリートも、絆を結んだ時を思い出して、うっと詰まる。
「大変だ、一週間はユージーン卿は使い物にならないよ」
「いえ、それは皇太子殿下が子供の頃に絆を結ばれたからでしょう。2、3日で竜と離れられますよ。多分……え~! 帰国までユージーン卿はアトスと新婚旅行中ですか?」
今夜の舞踏会、明日のお別れの晩餐会と、ユージーンが使い物にならないとすると……ジークフリートは、問題児のユーリのお守りもしなくてはいけないのかと頭を抱えてしまう。
まだ絆を結んだことのないフランツは 、ユーリにそんなに使い物にならないものなのと尋ねる。
「さぁ? ジークフリート卿は数日と言われたから、個人差があるのかも。私はイリスと10日間ぐらいは夜もベッタリだったけど、皇太子殿下は一週間と言われたしね」
竜騎士達の会話についていけなかった大使夫妻と外務次官は、どうやらユージーンがアトスの絆の竜騎士になり、当分は使い物にならなくなったと訳がわからないままではあるが理解した。
「ユーリ嬢、何故こんな特使期間にユージーン卿を絆の竜騎士にさせたのです? それと、ユージーン卿が絆の竜騎士になると、どうやってお知りになったのですか」
外務次官は同盟締結の後で良かったと、最悪のタイミングでは無かったのを安堵していたが、帰国後にして欲しかったと苦情を言い立てる。
「そうね、反省してるわ。でも、本当はアトスは一週間前に逆プロポーズすると言ってたのを止めたのよ。帰国後にしてと頼んでいたけど、ユングフラウに帰ったら他の竜にユージーンを横取りされるかもと、アトスは凄く悩んでいたの」
ジークフリートとフランツは、アトスが数日も待てない理由を尋ねる。
「ユージーンは超超晩生だから、まだまだ成長中なの。絆の竜騎士を探している竜には、可憐な乙女みたいに感じられるみたい。凄く魅力的で無防備に見えるから、他の竜に押し倒されるのを心配していたのよ」
プッと、ユージーンが可憐な乙女と聞かされて全員が吹き出す。
「ユーリが色っぽい奥方で、ユージーンが可憐な乙女! 凄すぎるよ、死にそう」
フランツは笑い転げて、椅子から落ちそうになった。
「ふん! フランツも笑いごとじゃないわよ。ルースに振られないよう、頑張らないと駄目よ。ルースはフランツのことは好きみたいだけど、まだ躊躇っているから」
ハッとフランツは笑うのを止めて、真剣な顔になる。
「ユーリ、ルースは僕のこと好きだと言ってたの?」
竜騎士にとっては竜が一番の関心事なので、フランツにとってパートナーを組んでいるルースが自分をどう思っているかは非常に重要な問題だった。
「ええ、ルースはフランツの明るい性格が気に入ってるみたい。ルースも明るい性格の良い竜だし、良い相性だと思うわ。あら、お祖父様は相性を考えてパートナーの竜を選んでいるのかしら? 前に、立太子式の舞踏会でシャルル大尉とも話したのよ。竜と竜騎士の性格が似ているって。そうね、私がお祖父様なら竜騎士に合う竜をパートナーに組ませるわね。そうしたら、絆の竜騎士になる組合せが多くなるかも……でも、騎竜になったら……」
ユーリは竜は魔力の塊のような存在なので長命だが、騎竜になると絆の竜騎士と共に年をとり、竜騎士が亡くなると共に死んでしまうのが悲しく思えて、少し涙ぐんでしまう。
『ユーリ、竜にとっては絆の竜騎士を見つけるのが生きる目的なんだよ。 第一、こんな幸福感は絆を結ばないと味わえないし、子竜も持てないじゃないか。ユージーンがアトスと絆を結んだから、パリスは子竜が持てると喜んでいるよ。今いる騎竜は子竜持ちばかりだから、パリスには交尾の相手がいなかったんだ』
イリスの言葉にジークフリートは顔を赤らめたが、騎竜のパリスが子竜を持てると聞いて喜ぶ。
『え~おかしいわ! アラミスもイリスも、騎竜なのに子竜を持ってないでしょ? 私もイリスの子竜が見たいわ』
グレゴリウスもユーリと同じ疑問を持った
『だって、ユーリはまだお子様だもの。騎竜は絆の竜騎士が大人にならないと子竜は作らないんだよ。 私はユーリが結婚するまでは子竜は作らないよ。だって、ユーリが発情してそこら辺の男を寝室に連れ込んだら大問題だろ』
明け透けなイリスの発言に、竜騎士全員が顔を赤らめる。
『え~、そういうものなの? イリス、当分、子竜作りは待ってね。それで結婚相手を選ぶのは嫌だわ。たまたま通りかかった人を押し倒すなんて、キャ~駄目!』
ユーリが自分が発情して、通りかかった人を押し倒す想像で撃沈したのを見て、他の竜騎士達も真っ赤になって撃沈する。
『だから、ユーリが結婚するまでは子竜作りを待つと言ってるだろ』
フランツはユージーンが絆の竜騎士になったのを心より喜んではいたが、いつの間に恋愛経験を積んでいたのだろうと、少し考え込んでしまった。
グレゴリウスはアラミスが子竜を持つのを望みはしたが、まだそういう意味ではお子様の自覚があったので口を閉ざす。ただ、ユーリが自分と結婚して、アラミスとイリスで子竜を作れば良いなと考えてただけで、真っ赤になってクラクラするほどの欲望を抑えるのに必死だった。
「朝っぱらから、色っぽい話ですな~」
竜騎士全員が真っ赤になっているし、ユーリが通りかかった人を寝室に連れ込むのは嫌とか騒ぎ立てるのを、何事かと不審に思っていた大使夫妻と外務次官に、ジークフリートは年長者の義務として説明した。
竜騎士全員が朝っぱらから撃沈してしまったのに、他の三人は呆れてしまったが、ユージーンが幸せそうな顔をして食堂に帰ってきたので、全員の注目はそちらに移る。
「ユーリ、ありがとう! アトスと絆を結んだ。こんなに幸せな気分は生まれて初めてだよ」
こんな風に朗らかに笑うユージーンを見るのも初めてだと全員が思ったが、数日はアトスから離れられないのでは? と竜騎士達は思っていたので驚いてしまう。
「ユージーン、おめでとう。でも、アトスからよく離れられたわね?」
ユーリは自分がイリスと絆を結んだ時を思い出して、訝しく感じる。
「ああ、アトスとは離れても、絆で結ばれているから大丈夫だよ。今もアトスと繋がっているから」
「え~え、私はイリスと離れるの10日かかったのに。なんでだろう? 子供だったからかなぁ」
ユージーンがまだ本調子とは言えないまでも、アトスから離れられたのでジークフリートはホッと安堵の溜め息をつく。
グレゴリウスにエドアルドの遊学を告げなくてはならないプレッシャーと、ユーリのお守りの二重苦は辛く感じていたからだ。
「多分、アトスとは見習い竜騎士からずっとパートナーを組んでいたからかな」
ユージーンもよくわからないと幸せそうに微笑んでいたが、フランツは余計な考えを思いついて口に出した。
「そうか、アトスとユージーンは長年同棲生活をしてて、やっと婚姻届を出したカップルみたいものなんだね。ユーリみたいに会ったその日に、強引に逆プロポーズされて、押し倒されたのとは違う訳だよ。はは~ん、イリスが嫉妬深いのは、ユーリが色っぽい奥方なのと、一目惚れしたユーリを強引に押し倒した引け目から来てるのかもね」
フランツの余計なお世話に、ユージーンとユーリから猛烈な抗議の声があがる。
朝から賑やかなイルバニア大使館だったが、ユーリはユージーンの絆の竜騎士にかまけて、気分転換に行くのを忘れてしまっていた。
今から行って好いですか? とセリーナに頼み込んだが、きっぱりと断れられてしまいブツブツと文句を言ってるのを、全員がクスクス笑いながら聞いた。
昼からは眠れなくても良いからベッドで身体を休めて下さいと、セリーナに寝室に追いやられたユーリは、1ヶ月の疲れから、意外にもすやすやと寝てしまう。
夕方に早めの夕食に侍女が起こしに来るまで、ぐっすり昼寝したユーリのサッパリした顔を見て、セリーナはホッと安堵の溜め息をつく。
カザリア王国に来てから、何度かの舞踏会で12時を回る頃にはぐったりとして、帰りの馬車では熟睡したりもしていたので、主宰者側なのに途中で退出など許されないので心配していたのだ。
「おはようございます。ここに、野菜と卵を置いておきますね」
シェフは毒に当たった昼食会をユーリに助けてもらってからは、踏んだ大地ですら拝まんばかりに感謝していたので、あと2日で帰国するのを残念に思う。
「ユーリ様が帰国なさっても、菜園と鶏の世話はいたしますよ」
シェフに気になっていた鶏の世話を引き受けてもらったのでユーリは凄く喜んだが、大使夫妻に許可をとってねと一言添える。
優雅な大使夫妻が庭で鶏の飼育をするのを実は嫌がっているのではと、ユーリは気遣った。
「鶏は、このまま飼育しますよ。産みたての卵を食べ慣れますと、他の卵は食べられませんからね~」
大使は半熟卵の濃厚な黄身をスプーンですくいながら、これもユーリの緑の魔力で育てられたハーブを食べた鶏のお陰だろうかと考えながら堪能する。
「フランツ、見習い竜騎士のレポートは仕上げたのか? ユーリはもう2本提出したぞ」
美味しそうに卵を食べていたフランツは、朝食の席で言わなくてもと思ったが、あと少しで書き終えますと返事をする。
「大使夫人、今日のお昼からは休息を取らなくてはいけないのはわかっていますが、午前中は少し出かけたいのです。よろしいでしょうか?」
ユーリがセリーナに許可を貰っているのを、全員が何処へ行くのだろうと関心を持って、聞き耳をたてる。
「何処へ行かれるのですか?」
「少し疲れたので、イリスに乗って気ままに空の散歩をしてリフレッシュしたいのです。まぁ、イリスを気ままに飛ばしたら、海に行くでしょうけど……イリスもニューパロマでは竜舎に籠もりがちでしたから、可哀相ですし」
うっと、竜騎士全員がイリスだけユーリと海水浴したと知ったら、自分達の竜がどれほど騒ぎ立てるか考えて、朝食が喉に詰まる気持ちになった。
「ユーリ、それは駄目だ。アトスに文句を言われてしまう。海水浴以外にしなさい」
ユージーンの反対にユーリはしょげ返ったのを、竜騎士達は気の毒に感じはしたが、自分達の竜の苦情を考えると同意せざる得ない。
「ユージーンは、アトスにもう少し優しくしてあげた方が良いわよ。ユージーンがそんな態度だから、アトスが悩んでいるんじゃ……ああ、忘れて! 何でもないわ! そうね、山の清々しい空気を吸いに行きましょう」
「アトスが悩んでいる? ユーリ、どういうことなんだ!」
竜騎士は、自分の騎竜、パートナーの竜については過敏に反応する竜馬鹿集団なので、ユーリが口を滑らしたのをそのまま聞き流す訳が無かった。
あちゃ~と、自分の失敗に落ち込んで、どうやってシラを通そうか考える。しかし、ユージーンがアトスが自分に不満を持っているのでは? と落ち込んだのに責任を感じる。
「ユージーン、逆なのよ! アトスはユージーンのことが大好きなのよ」
ユージーンは慰めてくれるのは有り難いがと、まだ浮上しない。
「どう言えば良いのかしら? そうね、イリス風に言うと……竜騎士に叙された時のプロポーズは、まだ結婚に踏み込めなかったけど、今は結婚したくてたまらないみたいなの。でも、一度断っているから、ユージーンからはプロポーズされないだろうと悩んでいたの」
アトスの悩みに気づいてなかったのかと、ユージーンは驚いた。
「イリスを真似して、押し掛け騎竜になればって言ったけど……アトスはイリスみたいに我が儘大王じゃないから、できればユージーンからのプロポーズをして欲しいみたい。ああ、言っちゃった! ユージーン、アトスはユージーンからの申込みを待ち望んでいるのよ」
ユージーンはユーリの言葉を聞くやいなや、竜舎へと走って行く。
『アトスがユージーンと絆を結んだよ!』
しばらくして、竜騎士達はユージーンとアトスが絆を結んだと竜達の祝福の声を聞いて喜ぶ。
「なんで、ユージーン卿にすぐに教えなかったの?」
グレゴリウスはユーリがアトスの気持ちに気づいていたのにと疑問をぶつける。
「え~、だって絆を結んだ直後は新婚カップルみたいなもので、当分は使い物にならないじゃない。帰国して夏休みになってから、アトスにユージーンに逆プロポーズするようにアドバイスしていたの。そうだわ、ユージーン大丈夫かな?」
グレゴリウスもジークフリートも、絆を結んだ時を思い出して、うっと詰まる。
「大変だ、一週間はユージーン卿は使い物にならないよ」
「いえ、それは皇太子殿下が子供の頃に絆を結ばれたからでしょう。2、3日で竜と離れられますよ。多分……え~! 帰国までユージーン卿はアトスと新婚旅行中ですか?」
今夜の舞踏会、明日のお別れの晩餐会と、ユージーンが使い物にならないとすると……ジークフリートは、問題児のユーリのお守りもしなくてはいけないのかと頭を抱えてしまう。
まだ絆を結んだことのないフランツは 、ユーリにそんなに使い物にならないものなのと尋ねる。
「さぁ? ジークフリート卿は数日と言われたから、個人差があるのかも。私はイリスと10日間ぐらいは夜もベッタリだったけど、皇太子殿下は一週間と言われたしね」
竜騎士達の会話についていけなかった大使夫妻と外務次官は、どうやらユージーンがアトスの絆の竜騎士になり、当分は使い物にならなくなったと訳がわからないままではあるが理解した。
「ユーリ嬢、何故こんな特使期間にユージーン卿を絆の竜騎士にさせたのです? それと、ユージーン卿が絆の竜騎士になると、どうやってお知りになったのですか」
外務次官は同盟締結の後で良かったと、最悪のタイミングでは無かったのを安堵していたが、帰国後にして欲しかったと苦情を言い立てる。
「そうね、反省してるわ。でも、本当はアトスは一週間前に逆プロポーズすると言ってたのを止めたのよ。帰国後にしてと頼んでいたけど、ユングフラウに帰ったら他の竜にユージーンを横取りされるかもと、アトスは凄く悩んでいたの」
ジークフリートとフランツは、アトスが数日も待てない理由を尋ねる。
「ユージーンは超超晩生だから、まだまだ成長中なの。絆の竜騎士を探している竜には、可憐な乙女みたいに感じられるみたい。凄く魅力的で無防備に見えるから、他の竜に押し倒されるのを心配していたのよ」
プッと、ユージーンが可憐な乙女と聞かされて全員が吹き出す。
「ユーリが色っぽい奥方で、ユージーンが可憐な乙女! 凄すぎるよ、死にそう」
フランツは笑い転げて、椅子から落ちそうになった。
「ふん! フランツも笑いごとじゃないわよ。ルースに振られないよう、頑張らないと駄目よ。ルースはフランツのことは好きみたいだけど、まだ躊躇っているから」
ハッとフランツは笑うのを止めて、真剣な顔になる。
「ユーリ、ルースは僕のこと好きだと言ってたの?」
竜騎士にとっては竜が一番の関心事なので、フランツにとってパートナーを組んでいるルースが自分をどう思っているかは非常に重要な問題だった。
「ええ、ルースはフランツの明るい性格が気に入ってるみたい。ルースも明るい性格の良い竜だし、良い相性だと思うわ。あら、お祖父様は相性を考えてパートナーの竜を選んでいるのかしら? 前に、立太子式の舞踏会でシャルル大尉とも話したのよ。竜と竜騎士の性格が似ているって。そうね、私がお祖父様なら竜騎士に合う竜をパートナーに組ませるわね。そうしたら、絆の竜騎士になる組合せが多くなるかも……でも、騎竜になったら……」
ユーリは竜は魔力の塊のような存在なので長命だが、騎竜になると絆の竜騎士と共に年をとり、竜騎士が亡くなると共に死んでしまうのが悲しく思えて、少し涙ぐんでしまう。
『ユーリ、竜にとっては絆の竜騎士を見つけるのが生きる目的なんだよ。 第一、こんな幸福感は絆を結ばないと味わえないし、子竜も持てないじゃないか。ユージーンがアトスと絆を結んだから、パリスは子竜が持てると喜んでいるよ。今いる騎竜は子竜持ちばかりだから、パリスには交尾の相手がいなかったんだ』
イリスの言葉にジークフリートは顔を赤らめたが、騎竜のパリスが子竜を持てると聞いて喜ぶ。
『え~おかしいわ! アラミスもイリスも、騎竜なのに子竜を持ってないでしょ? 私もイリスの子竜が見たいわ』
グレゴリウスもユーリと同じ疑問を持った
『だって、ユーリはまだお子様だもの。騎竜は絆の竜騎士が大人にならないと子竜は作らないんだよ。 私はユーリが結婚するまでは子竜は作らないよ。だって、ユーリが発情してそこら辺の男を寝室に連れ込んだら大問題だろ』
明け透けなイリスの発言に、竜騎士全員が顔を赤らめる。
『え~、そういうものなの? イリス、当分、子竜作りは待ってね。それで結婚相手を選ぶのは嫌だわ。たまたま通りかかった人を押し倒すなんて、キャ~駄目!』
ユーリが自分が発情して、通りかかった人を押し倒す想像で撃沈したのを見て、他の竜騎士達も真っ赤になって撃沈する。
『だから、ユーリが結婚するまでは子竜作りを待つと言ってるだろ』
フランツはユージーンが絆の竜騎士になったのを心より喜んではいたが、いつの間に恋愛経験を積んでいたのだろうと、少し考え込んでしまった。
グレゴリウスはアラミスが子竜を持つのを望みはしたが、まだそういう意味ではお子様の自覚があったので口を閉ざす。ただ、ユーリが自分と結婚して、アラミスとイリスで子竜を作れば良いなと考えてただけで、真っ赤になってクラクラするほどの欲望を抑えるのに必死だった。
「朝っぱらから、色っぽい話ですな~」
竜騎士全員が真っ赤になっているし、ユーリが通りかかった人を寝室に連れ込むのは嫌とか騒ぎ立てるのを、何事かと不審に思っていた大使夫妻と外務次官に、ジークフリートは年長者の義務として説明した。
竜騎士全員が朝っぱらから撃沈してしまったのに、他の三人は呆れてしまったが、ユージーンが幸せそうな顔をして食堂に帰ってきたので、全員の注目はそちらに移る。
「ユーリ、ありがとう! アトスと絆を結んだ。こんなに幸せな気分は生まれて初めてだよ」
こんな風に朗らかに笑うユージーンを見るのも初めてだと全員が思ったが、数日はアトスから離れられないのでは? と竜騎士達は思っていたので驚いてしまう。
「ユージーン、おめでとう。でも、アトスからよく離れられたわね?」
ユーリは自分がイリスと絆を結んだ時を思い出して、訝しく感じる。
「ああ、アトスとは離れても、絆で結ばれているから大丈夫だよ。今もアトスと繋がっているから」
「え~え、私はイリスと離れるの10日かかったのに。なんでだろう? 子供だったからかなぁ」
ユージーンがまだ本調子とは言えないまでも、アトスから離れられたのでジークフリートはホッと安堵の溜め息をつく。
グレゴリウスにエドアルドの遊学を告げなくてはならないプレッシャーと、ユーリのお守りの二重苦は辛く感じていたからだ。
「多分、アトスとは見習い竜騎士からずっとパートナーを組んでいたからかな」
ユージーンもよくわからないと幸せそうに微笑んでいたが、フランツは余計な考えを思いついて口に出した。
「そうか、アトスとユージーンは長年同棲生活をしてて、やっと婚姻届を出したカップルみたいものなんだね。ユーリみたいに会ったその日に、強引に逆プロポーズされて、押し倒されたのとは違う訳だよ。はは~ん、イリスが嫉妬深いのは、ユーリが色っぽい奥方なのと、一目惚れしたユーリを強引に押し倒した引け目から来てるのかもね」
フランツの余計なお世話に、ユージーンとユーリから猛烈な抗議の声があがる。
朝から賑やかなイルバニア大使館だったが、ユーリはユージーンの絆の竜騎士にかまけて、気分転換に行くのを忘れてしまっていた。
今から行って好いですか? とセリーナに頼み込んだが、きっぱりと断れられてしまいブツブツと文句を言ってるのを、全員がクスクス笑いながら聞いた。
昼からは眠れなくても良いからベッドで身体を休めて下さいと、セリーナに寝室に追いやられたユーリは、1ヶ月の疲れから、意外にもすやすやと寝てしまう。
夕方に早めの夕食に侍女が起こしに来るまで、ぐっすり昼寝したユーリのサッパリした顔を見て、セリーナはホッと安堵の溜め息をつく。
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そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
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