78 / 273
第六章 同盟締結
8 ジークフリート卿!
しおりを挟む
昼食も終わり、ボート遊びや、ブランコに各々散って行ったが、池のほとりの平らな芝生の上で、学友達の数人が剣の腕前を争い始める。
エドアルドの学友はパロマ大学生だったが、貴族の子弟なので武術の訓練も受けており、昼からの狩りが中止になって、若い体力を持て余していた学友達は、自慢の腕前を令嬢方の前で披露しようと勝手に盛り上がる。
昼食後も、テントに残って並べられた焼き菓子や、フルーツを摘まんでいた令嬢方も、知り合いの学生を応援したり、どちらが勝つか当てあったりする。
「グレゴリウス皇太子殿下、フランツ卿も参加されませんか?」
学友達がエドアルドやハロルド達を呼びにきたついでに、同世代のグレゴリウスや フランツにも参加を呼びかけた。ジークフリートやユージーンは、学友達の剣の腕前がそこそこで、怪我をするほど下手ではないのを見て許可を与える。
「あら、フランツ卿はレナルド様と試合するのね。レナルド様は武門の出だから、剣はお上手なのよ」
ユーリはフランツが武術でも優等生なのを知っていたので、安心して試合を見ていた。案の定、数回剣を交えただけで、フランツは楽勝する。グレゴリウスも楽に相手を下し、少しカザリア王国側を本気モードにさせてしまった。
「グレゴリウス皇太子も、フランツ卿も、かなりの腕前ですね」
エドアルドも、年下の二人の腕前に感心する。
鷹揚としているエドアルドと違い、学友達の不甲斐なさに、名門貴族のハロルド、ユリアン、ジェラルドはイラつきを感じていた。三人はそれぞれエドアルドを将来は支える立場になるので、学問、武術共に優秀だった。その上、竜騎士になれなかった負い目から、特に武術に自信を持てるまで鍛えぬいていた。
親や祖父を竜騎士に持ち、幼い時からエドアルドの学友として一緒に文武両道に精進していたが、10才の竜騎士選抜の際に三人とも資質がないと判断されたのだ。その時の心の痛みをずっと引きずっていて、グレゴリウスが見習い竜騎士の学友を随行員として連れて来たのにも屈折した感情を持っていた。
エドアルドも学友が竜騎士になれなかったのを気にして、彼らと騎竜のマルスとの接触を最小限になるように心掛けていた。
「エドアルド様、グレゴリウス皇太子と試合されたら? 私達も、フランツ卿、ユージーン卿、ジークフリート卿に試合を申し込みますから、両国の親善試合をしましょう」
ハロルドは、フランツ、グレゴリウスの剣の腕前を見てかなりのものだと感じたが、こちらも負けてはいられないとライバル心を燃え上がらせる。
「グレゴリウス皇太子、どうされます? 彼らの挑戦を受けてたちますか」
エドアルドはお遊びの剣の試合に、竜騎士の二人を参加させるのはどうだろうと案じた。
「私とフランツなら、年頃も経験も似てますから参加してもいいですが、ユージーン卿やジークフリート卿は竜騎士だから、ちょっと差がつくのではないでしょうか」
自国の竜騎士への自信が窺われるグレゴリウスの発言に、エドアルもお遊びに参加して貰うのはどうかなと感じていたのに、何となくカチンときて是非とも勝負しましょうと言い出す。
そう言われると若いグレゴリウスも引けなくなって、イルバニア王国とカザリア王国の親善試合が行われることになった。
「グレゴリウス皇太子、この勝負に勝った方が、今度のイルバニア王国大使館での舞踏会でユーリ嬢のパートナーを勤めることにしませんか」
「良いでしょう」
二人の皇太子が勝手なことを言ってるのにユーリは腹をたてたが、見物していた学友達や令嬢方は盛り上がる。
エドアルドとグレゴリウスは、ほぼ互角の腕前で激しい試合になったが、少しエドアルドが押され気味に見えたユーリは、火傷していたのだと心配する。
「グレゴリウス皇太子殿下! エドアルド皇太子殿下! お止め下さい! エドアルド皇太子殿下は、火傷されているのよ」
グレゴリウスは、昼食後に手に括られていたハンカチを大事そうに胸ポケットにしまったエドアルドを思い出して、火傷していたのかと攻撃を止める。攻撃を止めた瞬間、エドアルドの剣が、グレゴリウスの剣をはね飛ばしたが、この勝負は引き分けとされた。
「もう、どちらとも踊らないから」
自分を賭の対象にした二人にプンプン怒っているユーリを宥めて、どうにか機嫌をなおして貰い、お互いに再試合を約束しあった皇太子達だ。
フランツは後ろの竜騎士二人が負ける訳ないと確信していたから、ユリアンと好勝負していたが、バランスを考えてほんの少し手を抜いて負ける。
ユーリはフランツの腕前ならユリアンに勝てると思っていたので、少しの手抜きに気がついたし、二人の竜騎士も気づいた。
ハロルドはユージーンが竜騎士とはいえ、まだ年は若いのでそんなに経験の差はないと判断していたが、二、三度剣を交えたところで自分とは格段上の実力に気がつく。
「ユージーンって、何でも優等生なんだから」
ユーリはフランツにぼやいた。
「出来の良すぎる兄を持った、僕の苦労がわかるかい」
フランツがぼやき返しているうちに、ユージーンは楽勝する。
ジェラルドは学友達の中でも一番の腕前で、剣を構えただけで上手いのがユーリにも見てとれた。
「ジェラルド様は凄く剣が上手そうだけど、ジークフリート卿は大丈夫かしら?」
竜騎士であるジークフリートの剣の腕前を疑う訳ではないが、自分の例までとは言えないまでも文官で武術がさほど得意でない人もいるのでは? と心配しているユーリを他のメンバーは笑う。
「ジークフリート卿は、皇太子殿下の指導竜騎士に選ばれたんだよ。剣の腕前も優れているさ」
フランツの言葉通り、ジークフリートは優雅にジェラルドの攻撃を受け流している。
「やはり、ジークフリート卿は実戦を経験されているから、剣さばきが凄いな」
ユージーンは自分より格上のジークフリートの剣さばきに感嘆の声をあげる。
「ジークフリート卿が実戦? 外交官なのに?」
ユーリは外交官のジークフリートが実戦の経験があると聞いて驚いた。
「7年前のローラン王国との戦争だよ。ジークフリート卿は外交官だけど、竜騎士でもあるから参戦されたのだろう」
フランツはユーリが呆然としているのを不審がる。
「ジークフリート卿だったんだわ! パパを家まで連れて帰ってくれた、もう一人の竜騎士は!」
ジェラルドから完敗ですと挨拶を受けていたジークフリートに、ユーリは泣きながら抱きつく。
「なんで言ってくれなかったの? パパを家に連れて帰ってくれた事を! ずっと、探していたのに」
ジークフリートは泣いているユーリを抱きしめて、こんな風に泣かれるのが辛いから言わなかったのですよと宥める。
いきなり泣き出してジークフリートに抱きついたユーリに周りは困惑する。流石に、ユーリも他の令嬢方もいるのに泣き続けられなくて、激しく泣くのは止めたが、涙は零れ落ちていたしジークフリートにぴったりと寄り添っている。
イルバニア王国一の色男と評されるジークフリートに寄り添って泣いているユーリの姿は絵になって、二人の皇太子は内心穏やかではない。
「ユーリ嬢の父上のウィリアム卿はローラン王国との戦争で瀕死の重傷を負われていたのですが、最期に家族に会いたいと言われたので送って行っただけですよ」
泣いているユーリには、不審に思って見ている人々への説明は無理なので、ジークフリートはサラッと言う。
「私は小さかったし、竜を間近に見たのも初めてだったから、あまり覚えてなかったの。父を家まで送って下さって、ありがとう。最期に父と会えて……」
パパの死と、ショックを受けて亡くなったママの死を思い出して、ジークフリートに抱きついてまた泣き出してしまう。
「こんな風に泣かれては、ウィリアム卿が困っておられますよ。 私はウィリアム卿から、貴女を見守るように言いつかっているのに、泣かしてしまっては約束が果たせないではないですか」
ジークフリートに優しく諭されて、ユーリも泣くのを止める。
「だから、いつも優しくして下さったの? お祖父様に叱られた時も、庇って下さったし」
泣き止んでもジークフリートから離れないユーリに、グレゴリウスは少し嫉妬する。
「ジークフリート卿がウィリアム卿から、ユーリを託されてるなんて知らなかったな~。それにしても、ジークフリート卿は女の子の扱いうまいですよね。泣いていたユーリを上手く慰めて、あっという間に泣きやませるんだから。ユージーンだったら30分仕事だよね。やはり、これも実戦の賜物でしょうかね?」
フランツの呑気な言葉に、ユーリもプッと吹き出す。
「ごめんなさい、私はまた皆様の前で取り乱して……恥ずかしいわ」
落ち着いたユーリにさり気なくハンカチを差し出す姿も絵になるジークフリートに、イルバニア王国側もカザリア王国側も完敗だと内心で手をあげる。
周りの令嬢方も、突然ユーリが泣き出したのには驚いたが、それを慰めているジークフリートの優雅な物腰と、先ほどの剣さばきに、理想の竜騎士だわと目がハートになる。
「エドアルド様、何だか勝ち目が見えない強烈なライバルが登場したみたいなんですけど……」
ハロルドの言葉を聞くまでもなく、エドアルドはジークフリートにぴったりくっついているユーリを引き離すのは何者であっても無理なのではと思う。
しかし、空からより強い絆で結ばれたイリスが舞い降りてきて、ユーリは駆け寄って抱きつく。
『どうしたんだ?』
イリスはまたユーリが激しく泣いたのに驚いて、大使館からニューパロマ郊外の狩猟場まで飛んで来たのだ。
『ジークフリート卿がパパを家に連れて帰ってくれた竜騎士だったの。パリスに聞けば良かったんだわ。武官の竜にばかり聞いてたから。ジークフリート卿はローラン王国との戦争に参戦されてたのよ』
イリスはユーリが他の竜と話しをするのは気に入らないが、ウィリアムを家に連れて帰ってくれた竜騎士を探す為の質問は仕方がないと思って我慢していた。
『パリス、ユーリが他の竜に質問してるのを知ってたのに、黙っているなんて! そのせいでユーリはいっぱい他の竜と話して、私との時間が犠牲になったのに』
怒っている主旨が違うと竜騎士は全員突っ込む。
『イリス、パリスに黙っているように私が頼んだのですから、怒らないでやって下さい。ユーリ嬢に悲しい時を思い出して貰いたくなかったのです』
ジークフリートの謝罪をイリスは受け入れる。
『そうだね、ユーリは泣き虫だから』
実際にさっきまで泣いていたユーリは反論のしようもない。
エドアルドの学友はパロマ大学生だったが、貴族の子弟なので武術の訓練も受けており、昼からの狩りが中止になって、若い体力を持て余していた学友達は、自慢の腕前を令嬢方の前で披露しようと勝手に盛り上がる。
昼食後も、テントに残って並べられた焼き菓子や、フルーツを摘まんでいた令嬢方も、知り合いの学生を応援したり、どちらが勝つか当てあったりする。
「グレゴリウス皇太子殿下、フランツ卿も参加されませんか?」
学友達がエドアルドやハロルド達を呼びにきたついでに、同世代のグレゴリウスや フランツにも参加を呼びかけた。ジークフリートやユージーンは、学友達の剣の腕前がそこそこで、怪我をするほど下手ではないのを見て許可を与える。
「あら、フランツ卿はレナルド様と試合するのね。レナルド様は武門の出だから、剣はお上手なのよ」
ユーリはフランツが武術でも優等生なのを知っていたので、安心して試合を見ていた。案の定、数回剣を交えただけで、フランツは楽勝する。グレゴリウスも楽に相手を下し、少しカザリア王国側を本気モードにさせてしまった。
「グレゴリウス皇太子も、フランツ卿も、かなりの腕前ですね」
エドアルドも、年下の二人の腕前に感心する。
鷹揚としているエドアルドと違い、学友達の不甲斐なさに、名門貴族のハロルド、ユリアン、ジェラルドはイラつきを感じていた。三人はそれぞれエドアルドを将来は支える立場になるので、学問、武術共に優秀だった。その上、竜騎士になれなかった負い目から、特に武術に自信を持てるまで鍛えぬいていた。
親や祖父を竜騎士に持ち、幼い時からエドアルドの学友として一緒に文武両道に精進していたが、10才の竜騎士選抜の際に三人とも資質がないと判断されたのだ。その時の心の痛みをずっと引きずっていて、グレゴリウスが見習い竜騎士の学友を随行員として連れて来たのにも屈折した感情を持っていた。
エドアルドも学友が竜騎士になれなかったのを気にして、彼らと騎竜のマルスとの接触を最小限になるように心掛けていた。
「エドアルド様、グレゴリウス皇太子と試合されたら? 私達も、フランツ卿、ユージーン卿、ジークフリート卿に試合を申し込みますから、両国の親善試合をしましょう」
ハロルドは、フランツ、グレゴリウスの剣の腕前を見てかなりのものだと感じたが、こちらも負けてはいられないとライバル心を燃え上がらせる。
「グレゴリウス皇太子、どうされます? 彼らの挑戦を受けてたちますか」
エドアルドはお遊びの剣の試合に、竜騎士の二人を参加させるのはどうだろうと案じた。
「私とフランツなら、年頃も経験も似てますから参加してもいいですが、ユージーン卿やジークフリート卿は竜騎士だから、ちょっと差がつくのではないでしょうか」
自国の竜騎士への自信が窺われるグレゴリウスの発言に、エドアルもお遊びに参加して貰うのはどうかなと感じていたのに、何となくカチンときて是非とも勝負しましょうと言い出す。
そう言われると若いグレゴリウスも引けなくなって、イルバニア王国とカザリア王国の親善試合が行われることになった。
「グレゴリウス皇太子、この勝負に勝った方が、今度のイルバニア王国大使館での舞踏会でユーリ嬢のパートナーを勤めることにしませんか」
「良いでしょう」
二人の皇太子が勝手なことを言ってるのにユーリは腹をたてたが、見物していた学友達や令嬢方は盛り上がる。
エドアルドとグレゴリウスは、ほぼ互角の腕前で激しい試合になったが、少しエドアルドが押され気味に見えたユーリは、火傷していたのだと心配する。
「グレゴリウス皇太子殿下! エドアルド皇太子殿下! お止め下さい! エドアルド皇太子殿下は、火傷されているのよ」
グレゴリウスは、昼食後に手に括られていたハンカチを大事そうに胸ポケットにしまったエドアルドを思い出して、火傷していたのかと攻撃を止める。攻撃を止めた瞬間、エドアルドの剣が、グレゴリウスの剣をはね飛ばしたが、この勝負は引き分けとされた。
「もう、どちらとも踊らないから」
自分を賭の対象にした二人にプンプン怒っているユーリを宥めて、どうにか機嫌をなおして貰い、お互いに再試合を約束しあった皇太子達だ。
フランツは後ろの竜騎士二人が負ける訳ないと確信していたから、ユリアンと好勝負していたが、バランスを考えてほんの少し手を抜いて負ける。
ユーリはフランツの腕前ならユリアンに勝てると思っていたので、少しの手抜きに気がついたし、二人の竜騎士も気づいた。
ハロルドはユージーンが竜騎士とはいえ、まだ年は若いのでそんなに経験の差はないと判断していたが、二、三度剣を交えたところで自分とは格段上の実力に気がつく。
「ユージーンって、何でも優等生なんだから」
ユーリはフランツにぼやいた。
「出来の良すぎる兄を持った、僕の苦労がわかるかい」
フランツがぼやき返しているうちに、ユージーンは楽勝する。
ジェラルドは学友達の中でも一番の腕前で、剣を構えただけで上手いのがユーリにも見てとれた。
「ジェラルド様は凄く剣が上手そうだけど、ジークフリート卿は大丈夫かしら?」
竜騎士であるジークフリートの剣の腕前を疑う訳ではないが、自分の例までとは言えないまでも文官で武術がさほど得意でない人もいるのでは? と心配しているユーリを他のメンバーは笑う。
「ジークフリート卿は、皇太子殿下の指導竜騎士に選ばれたんだよ。剣の腕前も優れているさ」
フランツの言葉通り、ジークフリートは優雅にジェラルドの攻撃を受け流している。
「やはり、ジークフリート卿は実戦を経験されているから、剣さばきが凄いな」
ユージーンは自分より格上のジークフリートの剣さばきに感嘆の声をあげる。
「ジークフリート卿が実戦? 外交官なのに?」
ユーリは外交官のジークフリートが実戦の経験があると聞いて驚いた。
「7年前のローラン王国との戦争だよ。ジークフリート卿は外交官だけど、竜騎士でもあるから参戦されたのだろう」
フランツはユーリが呆然としているのを不審がる。
「ジークフリート卿だったんだわ! パパを家まで連れて帰ってくれた、もう一人の竜騎士は!」
ジェラルドから完敗ですと挨拶を受けていたジークフリートに、ユーリは泣きながら抱きつく。
「なんで言ってくれなかったの? パパを家に連れて帰ってくれた事を! ずっと、探していたのに」
ジークフリートは泣いているユーリを抱きしめて、こんな風に泣かれるのが辛いから言わなかったのですよと宥める。
いきなり泣き出してジークフリートに抱きついたユーリに周りは困惑する。流石に、ユーリも他の令嬢方もいるのに泣き続けられなくて、激しく泣くのは止めたが、涙は零れ落ちていたしジークフリートにぴったりと寄り添っている。
イルバニア王国一の色男と評されるジークフリートに寄り添って泣いているユーリの姿は絵になって、二人の皇太子は内心穏やかではない。
「ユーリ嬢の父上のウィリアム卿はローラン王国との戦争で瀕死の重傷を負われていたのですが、最期に家族に会いたいと言われたので送って行っただけですよ」
泣いているユーリには、不審に思って見ている人々への説明は無理なので、ジークフリートはサラッと言う。
「私は小さかったし、竜を間近に見たのも初めてだったから、あまり覚えてなかったの。父を家まで送って下さって、ありがとう。最期に父と会えて……」
パパの死と、ショックを受けて亡くなったママの死を思い出して、ジークフリートに抱きついてまた泣き出してしまう。
「こんな風に泣かれては、ウィリアム卿が困っておられますよ。 私はウィリアム卿から、貴女を見守るように言いつかっているのに、泣かしてしまっては約束が果たせないではないですか」
ジークフリートに優しく諭されて、ユーリも泣くのを止める。
「だから、いつも優しくして下さったの? お祖父様に叱られた時も、庇って下さったし」
泣き止んでもジークフリートから離れないユーリに、グレゴリウスは少し嫉妬する。
「ジークフリート卿がウィリアム卿から、ユーリを託されてるなんて知らなかったな~。それにしても、ジークフリート卿は女の子の扱いうまいですよね。泣いていたユーリを上手く慰めて、あっという間に泣きやませるんだから。ユージーンだったら30分仕事だよね。やはり、これも実戦の賜物でしょうかね?」
フランツの呑気な言葉に、ユーリもプッと吹き出す。
「ごめんなさい、私はまた皆様の前で取り乱して……恥ずかしいわ」
落ち着いたユーリにさり気なくハンカチを差し出す姿も絵になるジークフリートに、イルバニア王国側もカザリア王国側も完敗だと内心で手をあげる。
周りの令嬢方も、突然ユーリが泣き出したのには驚いたが、それを慰めているジークフリートの優雅な物腰と、先ほどの剣さばきに、理想の竜騎士だわと目がハートになる。
「エドアルド様、何だか勝ち目が見えない強烈なライバルが登場したみたいなんですけど……」
ハロルドの言葉を聞くまでもなく、エドアルドはジークフリートにぴったりくっついているユーリを引き離すのは何者であっても無理なのではと思う。
しかし、空からより強い絆で結ばれたイリスが舞い降りてきて、ユーリは駆け寄って抱きつく。
『どうしたんだ?』
イリスはまたユーリが激しく泣いたのに驚いて、大使館からニューパロマ郊外の狩猟場まで飛んで来たのだ。
『ジークフリート卿がパパを家に連れて帰ってくれた竜騎士だったの。パリスに聞けば良かったんだわ。武官の竜にばかり聞いてたから。ジークフリート卿はローラン王国との戦争に参戦されてたのよ』
イリスはユーリが他の竜と話しをするのは気に入らないが、ウィリアムを家に連れて帰ってくれた竜騎士を探す為の質問は仕方がないと思って我慢していた。
『パリス、ユーリが他の竜に質問してるのを知ってたのに、黙っているなんて! そのせいでユーリはいっぱい他の竜と話して、私との時間が犠牲になったのに』
怒っている主旨が違うと竜騎士は全員突っ込む。
『イリス、パリスに黙っているように私が頼んだのですから、怒らないでやって下さい。ユーリ嬢に悲しい時を思い出して貰いたくなかったのです』
ジークフリートの謝罪をイリスは受け入れる。
『そうだね、ユーリは泣き虫だから』
実際にさっきまで泣いていたユーリは反論のしようもない。
1
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる