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第六章 同盟締結
5 狩りでの出来事
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狩りの当日は夏らしい良い天気で、早朝から馬で集合場所までユーリ達は急ぐ。
「なんで、遊びで狩りなんかしたがるのかしら?」
ユーリは子どもの頃、パパが森で狩りをして生活を支えていたので、スポーツで狩りごっこをするのに違和感を感じる。
「イルバニア王国でも、狩りは貴族の趣味だよ。夏場にスポーツ狩りはしないけど、ゲームしながらの遠乗りと思えば良いんじゃない」
フランツの言葉でユーリは狩りと思わず、遠乗りねと割り切る。
「大使夫人に大丈夫と言ったものの、ユーリ嬢の乗馬の腕前を心配していたのですが、大丈夫そうですね」
ジークフリートはユーリの貴婦人乗りが安心して見ていれる腕前なのでホッとする。
「そうですね、あまり乗馬姿は見たことがないので、私も少し心配してましたが、今日の狩りは令嬢方も大勢参加されるようですし、ついていけないようなものではないでしょう」
ニューパロマ郊外の王家の狩猟場には、すでに数十人の参加者が集まっている。令嬢方も乗馬ズボンをはいて真剣に狩りに参加しようと意気込んでいる方やら、優雅なドレス姿で後からついて行こうと考えている方とかが、はっきり遠目からも判断できる。
エドアルドや学友達はユーリが見習い竜騎士の制服姿で貴婦人乗りしているのを見て、本気で狩りに参加するつもりではないと判断した。
「おはようございます。ユーリ嬢、今日は私と組になりますよ。気持ちの良い天気ですし、のんびり楽しみましょう」
エドアルドはユーリが馬から下りるのをサポートしながら、早速アプローチを開始する。
イルバニア王国側がやられた! と思わず叫びたくなるように、組み分けが予めされており、ある意味親切に狩りに慣れた令嬢方をパートナーに選んである。
「今日は、負けませんわよ」
令嬢方はお互いに狩りでのライバルらしく、組になったグレゴリウス、ジークフリート、ユージーン、フランツに、絶対に負けたくないから手抜きは許さないと宣言する。
「これはマズいですね。私達は令嬢方のハイペースの足手まといになるわけにもいけませんし、何人かの学友達の組と争うので手抜きできませんね。エドアルド皇太子殿下とユーリ嬢達のスローペース組とは完全に別れてしまいますね」
ジークフリートは騎士道精神から組んだ令嬢の足手まといになるのはできないし、他のメンバーもカザリア王国側のやる気満々の何組かに負けるのも悔しく思うだろうと困惑する。
「う~ん、ユーリはきっとスローペースでお上品な令嬢方とは一緒にならないと思うよ」
ジークフリートとユージーンの心配に呑気そうなフランツが答える。
「多分、エドアルド皇太子は考え違いに驚かれると思いますよ。ユーリはかなり負けず嫌いだから」
乗馬ズボンの令嬢方は見習い竜騎士の制服とはいえスカート姿のユーリを少し見下した視線で、お互いに挨拶を交わす。フランツもグレゴリウスも、あちゃ~! とユーリが内心でカチンときているのに気づいた。
「なんだか、凄く馬鹿にされたわ。乗馬ズボンじゃないからといって、別にチャラチャラとしてるわけでもないのに……エドアルド皇太子殿下とゆっくりお茶でも楽しんでらしたら、とか言われるし。むかつく! 特にハロルド様の妹のジェーン様は狩りの常連なのかしらないけど、お怪我をなさったら王妃様に叱られますわよとか嫌味を言ってくるし。彼女はグレゴリウス皇太子殿下と組むのよね! 絶対に負けないから!」
自国の皇太子殿下にケンカ売ってどうするのだと内心でつっこんだが、ユーリがハイペース組に来るなら、少し遅れ気味でも監視できるとジークフリートとユージーンは考える。
「しかし、怪我などされないでしょうか? ハイペースだと、木戸など回らず垣根を飛び越したりもするのに。エドアルド皇太子がついていらっしゃるから、あまり無謀な真似はさせないとは思いますが」
どうも心配症のジークフリートに、フランツとは「大丈夫」と太鼓判を押す。
「それより、エドアルド皇太子殿下はユーリについていけるかな? 彼女は凄くお転婆だから、びっくりされるかも」
「私もジェーン嬢と負けないように頑張らなくては」
同級生の二人が太鼓判押すのだから、大丈夫なんだろうとは思っていたが、いざ狩りがスタートすると、他のメンバーはユーリの後を追うのに苦戦する。
「ユーリ嬢、あの生け垣は少し高すぎますよ。迂回して、木戸に行きませんか?」
貴婦人乗りなのに先頭を走るユーリにエドアルドは、狩りの狐役がつけた目印の手前の生け垣を飛ぶつもりなのかと危惧して、少し迂回すれば木戸があると教える。
「あら、エドアルド皇太子殿下が生け垣を飛べないなら、迂回されたら」
そう言うが早く、生け垣を軽々と飛び越したユーリに続いて、他のメンバー達も飛び越えて行く。
「誰だよ~! ユーリ嬢が乗馬はお得意じゃ無いだろうなんて言い出したのは……計画が無茶苦茶じゃないか」
ハロルド達学友はユーリの見習い竜騎士の制服姿を見て、計画の成功を実感していたのに、貴婦人乗りにしては有り得ないスピードについて行くのがやっとだ。
「課題の所で引っかかるよ。狐役達に万が一の際に罠を仕掛けるように言っておいたから。このままなら、一位はエドアルド皇太子殿下とユーリ嬢だろ。一位の課題は他の組の課題と別のにしてあるから、森の狩猟小屋に迷い込むようになっているさ」
ハロルドの悪だくみに、皆は笑いながら遅れ気味の令嬢方を待ちながら、うまく一位の課題に引っかかっると良いなと思う。
狐役の残した目印をたどって、一位で課題の場所に到着した、ユーリとエドアルドは一位から順に番号をふってある課題の紙を手にする。
「皆、同じ課題じゃないのですか?」
「課題でハンデをつけて、公平にしてるのですよ。それにしても、ユーリ嬢は乗馬がお上手ですね。貴婦人乗りで、そんなスピードを出す方はしりませんよ」
エドアルドは馬から下りて、課題の紙を取りユーリに見せた。
「私はここら辺はわかりませんから、皇太子殿下にお任せしますわ。でも、この地図だとかなり森の奥に行くみたいですけど大丈夫かしら?」
「私はここで何度も狩りをしているから大丈夫ですよ。まずは目印の三本杉をめざしましょう。地図によると、西みたいですね」
エドアルドはハロルド達がどこに行かせようとしているのかピンときたが、素知らぬ顔で課題に忠実に行動しているふりをする。
そこからはエドアルドの道案内で森の奥へと入り込んでいった。
ユーリ達より少し遅れて、グレゴリウスとジェーンの組が来て、二番の課題を読んだが、ユーリ達の課題とは違いスタート地点の狩猟屋敷に帰る途中の第二の課題場所が印されていた。次々と来るメンバー達も課題に従って、第二の課題場所へと行く。
「おかしいわ、誰も来ないなんて。あら、狩猟小屋? ここが、第二の課題場所なの?」
小さな川がせき止められた池のほとりに、鴨や、鹿を待つ為の簡単な小屋の前にお茶の用意がしてあった。素早く馬から降りると、ユーリはエドアルドの手から、課題の紙を取り上げる。
「第二の課題、お茶を飲むこと。エドアルド皇太子殿下、なんですの」
ユーリが怒っているので、しどろもどろになりながら、学友達の悪ふざけでしょうと謝る。
「多分、彼らはユーリ嬢が母に束縛されて、私と時間が取れないのを心配して、このような馬鹿げたことを思いついたのでしょう。私を思ってのことですので、許してやって下さい」
初めは怒っていたユーリも、エドアルドの謝罪と、馬鹿げた悪戯にいつまでも腹を立てていられなくなり、そんな悪知恵があるならエリザベート王妃から解放してくれれば良いのにと愚痴る。
「他の人が一位でも、ここでお茶するのかしら? 私が乗馬が下手くそだった時の罠も用意してたのかしらね」
多分、下手な方の罠の方が手のこんだものだったのではないかとエドアルドは考えたが、さぁ? ととぼける。
「仕方無いわね~第二の課題がお茶をすることなら、お茶にしましょう。皇太子殿下、ポットにお湯を入れて下さる。あっ、火傷しないでね」
小屋の前の小さなテーブルにはお茶の用意がしてあったが、ポットにはお茶っ葉だけでお湯は小さな焚き火にヤカンがかかっていた。
ユーリの言いつけで、ヤカンに手を伸ばしたエドアルドは「あち!」と叫んで手を引っ込める。
「まぁ、火傷なされたのでは?」
大丈夫ですと言うエドアルドの手のひらをユーリは強引に開かせると、少し赤くなっている。
「すぐに冷やさないと」
ユーリはエドアルドを引っ張って池の淵に行き、湧き水がポコポコ湧いている所なら、水も冷たくてきれいだわと手をつけておくように命じる。
「大丈夫ですよ、私は令嬢とは違いますから。手のひらだって、剣の修行で分厚いですし」
エドアルドの手のひらを見ると、確かに赤味は薄れて、かすかにピンク色の筋が残っているだけだ。
「大丈夫ですか? 申し訳ありませんわ。私が皇太子殿下にヤカンなんか持たせようとするから、こんなことになってしまって」
「とんでもない! 私の手で良かったです。ユーリ嬢のこの柔らかな小さなお手が火傷でもしたら、自分を許せないところでした」
そう言いながらエドアルドが自分の手をなかなか放さないのを、強引に引き抜くと、狩猟小屋の周りをクルリと一周して良いものを見つける。
「やはり、薬草が何種類か植えてありましたわ。管理されている狩猟小屋なので、用意されてるかなと思いましたの」
ユーリは火傷にきくアロエを取ってきて、エドアルドの手のひらにハンカチで縛りつける。
「少しはヒリヒリするの楽になったかしら?」
心配そうに自分を見つめるユーリをぎゅっと抱きしめたいとエドアルドは思ったが、卑怯な罠に便乗するみたいな気がして大丈夫ですと答える。
「そう、良かったわ! 水脹れにはなってないから、すぐに痛みもとれると思いますわ。お茶にしましょう」
ユーリは始めから自分でお湯を注げば良かったと後悔しながら、ヤカンを枝を使って火から下ろす。ハンカチはエドアルドの手にくくったので、取っ手をスカートでつかんでお茶を入れた。
スカートが少し持ち上がって、ペチコートがチラッと見えたのにエドアルドは赤面して、そっぽを向いて見ない振りをする。
「ごめんなさい、はしたなくて。さぁ、お茶をしたらゴール地点に帰りますわよ。多分、ビリでしょうけど……」
エドアルドとしては狩りはどうでもよくて、ゆっくりとお茶をしながら話したいと思っていたが、ユーリにせかしたてられて狩猟屋敷に向かう。
「なんで、遊びで狩りなんかしたがるのかしら?」
ユーリは子どもの頃、パパが森で狩りをして生活を支えていたので、スポーツで狩りごっこをするのに違和感を感じる。
「イルバニア王国でも、狩りは貴族の趣味だよ。夏場にスポーツ狩りはしないけど、ゲームしながらの遠乗りと思えば良いんじゃない」
フランツの言葉でユーリは狩りと思わず、遠乗りねと割り切る。
「大使夫人に大丈夫と言ったものの、ユーリ嬢の乗馬の腕前を心配していたのですが、大丈夫そうですね」
ジークフリートはユーリの貴婦人乗りが安心して見ていれる腕前なのでホッとする。
「そうですね、あまり乗馬姿は見たことがないので、私も少し心配してましたが、今日の狩りは令嬢方も大勢参加されるようですし、ついていけないようなものではないでしょう」
ニューパロマ郊外の王家の狩猟場には、すでに数十人の参加者が集まっている。令嬢方も乗馬ズボンをはいて真剣に狩りに参加しようと意気込んでいる方やら、優雅なドレス姿で後からついて行こうと考えている方とかが、はっきり遠目からも判断できる。
エドアルドや学友達はユーリが見習い竜騎士の制服姿で貴婦人乗りしているのを見て、本気で狩りに参加するつもりではないと判断した。
「おはようございます。ユーリ嬢、今日は私と組になりますよ。気持ちの良い天気ですし、のんびり楽しみましょう」
エドアルドはユーリが馬から下りるのをサポートしながら、早速アプローチを開始する。
イルバニア王国側がやられた! と思わず叫びたくなるように、組み分けが予めされており、ある意味親切に狩りに慣れた令嬢方をパートナーに選んである。
「今日は、負けませんわよ」
令嬢方はお互いに狩りでのライバルらしく、組になったグレゴリウス、ジークフリート、ユージーン、フランツに、絶対に負けたくないから手抜きは許さないと宣言する。
「これはマズいですね。私達は令嬢方のハイペースの足手まといになるわけにもいけませんし、何人かの学友達の組と争うので手抜きできませんね。エドアルド皇太子殿下とユーリ嬢達のスローペース組とは完全に別れてしまいますね」
ジークフリートは騎士道精神から組んだ令嬢の足手まといになるのはできないし、他のメンバーもカザリア王国側のやる気満々の何組かに負けるのも悔しく思うだろうと困惑する。
「う~ん、ユーリはきっとスローペースでお上品な令嬢方とは一緒にならないと思うよ」
ジークフリートとユージーンの心配に呑気そうなフランツが答える。
「多分、エドアルド皇太子は考え違いに驚かれると思いますよ。ユーリはかなり負けず嫌いだから」
乗馬ズボンの令嬢方は見習い竜騎士の制服とはいえスカート姿のユーリを少し見下した視線で、お互いに挨拶を交わす。フランツもグレゴリウスも、あちゃ~! とユーリが内心でカチンときているのに気づいた。
「なんだか、凄く馬鹿にされたわ。乗馬ズボンじゃないからといって、別にチャラチャラとしてるわけでもないのに……エドアルド皇太子殿下とゆっくりお茶でも楽しんでらしたら、とか言われるし。むかつく! 特にハロルド様の妹のジェーン様は狩りの常連なのかしらないけど、お怪我をなさったら王妃様に叱られますわよとか嫌味を言ってくるし。彼女はグレゴリウス皇太子殿下と組むのよね! 絶対に負けないから!」
自国の皇太子殿下にケンカ売ってどうするのだと内心でつっこんだが、ユーリがハイペース組に来るなら、少し遅れ気味でも監視できるとジークフリートとユージーンは考える。
「しかし、怪我などされないでしょうか? ハイペースだと、木戸など回らず垣根を飛び越したりもするのに。エドアルド皇太子がついていらっしゃるから、あまり無謀な真似はさせないとは思いますが」
どうも心配症のジークフリートに、フランツとは「大丈夫」と太鼓判を押す。
「それより、エドアルド皇太子殿下はユーリについていけるかな? 彼女は凄くお転婆だから、びっくりされるかも」
「私もジェーン嬢と負けないように頑張らなくては」
同級生の二人が太鼓判押すのだから、大丈夫なんだろうとは思っていたが、いざ狩りがスタートすると、他のメンバーはユーリの後を追うのに苦戦する。
「ユーリ嬢、あの生け垣は少し高すぎますよ。迂回して、木戸に行きませんか?」
貴婦人乗りなのに先頭を走るユーリにエドアルドは、狩りの狐役がつけた目印の手前の生け垣を飛ぶつもりなのかと危惧して、少し迂回すれば木戸があると教える。
「あら、エドアルド皇太子殿下が生け垣を飛べないなら、迂回されたら」
そう言うが早く、生け垣を軽々と飛び越したユーリに続いて、他のメンバー達も飛び越えて行く。
「誰だよ~! ユーリ嬢が乗馬はお得意じゃ無いだろうなんて言い出したのは……計画が無茶苦茶じゃないか」
ハロルド達学友はユーリの見習い竜騎士の制服姿を見て、計画の成功を実感していたのに、貴婦人乗りにしては有り得ないスピードについて行くのがやっとだ。
「課題の所で引っかかるよ。狐役達に万が一の際に罠を仕掛けるように言っておいたから。このままなら、一位はエドアルド皇太子殿下とユーリ嬢だろ。一位の課題は他の組の課題と別のにしてあるから、森の狩猟小屋に迷い込むようになっているさ」
ハロルドの悪だくみに、皆は笑いながら遅れ気味の令嬢方を待ちながら、うまく一位の課題に引っかかっると良いなと思う。
狐役の残した目印をたどって、一位で課題の場所に到着した、ユーリとエドアルドは一位から順に番号をふってある課題の紙を手にする。
「皆、同じ課題じゃないのですか?」
「課題でハンデをつけて、公平にしてるのですよ。それにしても、ユーリ嬢は乗馬がお上手ですね。貴婦人乗りで、そんなスピードを出す方はしりませんよ」
エドアルドは馬から下りて、課題の紙を取りユーリに見せた。
「私はここら辺はわかりませんから、皇太子殿下にお任せしますわ。でも、この地図だとかなり森の奥に行くみたいですけど大丈夫かしら?」
「私はここで何度も狩りをしているから大丈夫ですよ。まずは目印の三本杉をめざしましょう。地図によると、西みたいですね」
エドアルドはハロルド達がどこに行かせようとしているのかピンときたが、素知らぬ顔で課題に忠実に行動しているふりをする。
そこからはエドアルドの道案内で森の奥へと入り込んでいった。
ユーリ達より少し遅れて、グレゴリウスとジェーンの組が来て、二番の課題を読んだが、ユーリ達の課題とは違いスタート地点の狩猟屋敷に帰る途中の第二の課題場所が印されていた。次々と来るメンバー達も課題に従って、第二の課題場所へと行く。
「おかしいわ、誰も来ないなんて。あら、狩猟小屋? ここが、第二の課題場所なの?」
小さな川がせき止められた池のほとりに、鴨や、鹿を待つ為の簡単な小屋の前にお茶の用意がしてあった。素早く馬から降りると、ユーリはエドアルドの手から、課題の紙を取り上げる。
「第二の課題、お茶を飲むこと。エドアルド皇太子殿下、なんですの」
ユーリが怒っているので、しどろもどろになりながら、学友達の悪ふざけでしょうと謝る。
「多分、彼らはユーリ嬢が母に束縛されて、私と時間が取れないのを心配して、このような馬鹿げたことを思いついたのでしょう。私を思ってのことですので、許してやって下さい」
初めは怒っていたユーリも、エドアルドの謝罪と、馬鹿げた悪戯にいつまでも腹を立てていられなくなり、そんな悪知恵があるならエリザベート王妃から解放してくれれば良いのにと愚痴る。
「他の人が一位でも、ここでお茶するのかしら? 私が乗馬が下手くそだった時の罠も用意してたのかしらね」
多分、下手な方の罠の方が手のこんだものだったのではないかとエドアルドは考えたが、さぁ? ととぼける。
「仕方無いわね~第二の課題がお茶をすることなら、お茶にしましょう。皇太子殿下、ポットにお湯を入れて下さる。あっ、火傷しないでね」
小屋の前の小さなテーブルにはお茶の用意がしてあったが、ポットにはお茶っ葉だけでお湯は小さな焚き火にヤカンがかかっていた。
ユーリの言いつけで、ヤカンに手を伸ばしたエドアルドは「あち!」と叫んで手を引っ込める。
「まぁ、火傷なされたのでは?」
大丈夫ですと言うエドアルドの手のひらをユーリは強引に開かせると、少し赤くなっている。
「すぐに冷やさないと」
ユーリはエドアルドを引っ張って池の淵に行き、湧き水がポコポコ湧いている所なら、水も冷たくてきれいだわと手をつけておくように命じる。
「大丈夫ですよ、私は令嬢とは違いますから。手のひらだって、剣の修行で分厚いですし」
エドアルドの手のひらを見ると、確かに赤味は薄れて、かすかにピンク色の筋が残っているだけだ。
「大丈夫ですか? 申し訳ありませんわ。私が皇太子殿下にヤカンなんか持たせようとするから、こんなことになってしまって」
「とんでもない! 私の手で良かったです。ユーリ嬢のこの柔らかな小さなお手が火傷でもしたら、自分を許せないところでした」
そう言いながらエドアルドが自分の手をなかなか放さないのを、強引に引き抜くと、狩猟小屋の周りをクルリと一周して良いものを見つける。
「やはり、薬草が何種類か植えてありましたわ。管理されている狩猟小屋なので、用意されてるかなと思いましたの」
ユーリは火傷にきくアロエを取ってきて、エドアルドの手のひらにハンカチで縛りつける。
「少しはヒリヒリするの楽になったかしら?」
心配そうに自分を見つめるユーリをぎゅっと抱きしめたいとエドアルドは思ったが、卑怯な罠に便乗するみたいな気がして大丈夫ですと答える。
「そう、良かったわ! 水脹れにはなってないから、すぐに痛みもとれると思いますわ。お茶にしましょう」
ユーリは始めから自分でお湯を注げば良かったと後悔しながら、ヤカンを枝を使って火から下ろす。ハンカチはエドアルドの手にくくったので、取っ手をスカートでつかんでお茶を入れた。
スカートが少し持ち上がって、ペチコートがチラッと見えたのにエドアルドは赤面して、そっぽを向いて見ない振りをする。
「ごめんなさい、はしたなくて。さぁ、お茶をしたらゴール地点に帰りますわよ。多分、ビリでしょうけど……」
エドアルドとしては狩りはどうでもよくて、ゆっくりとお茶をしながら話したいと思っていたが、ユーリにせかしたてられて狩猟屋敷に向かう。
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