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第五章 カザリア王国へ
10 皇太子の教育係は大変だ
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イルバニア王国の大使館でユーリが大使夫人から、延々と注意をされていた頃、エドアルドも教育係のマゼラン卿からこっぴどく叱られていた。
ユーリを王宮の庭の散歩に誘い出すとは聞いていたし、許可も与えていた。自分が会議に出席している間に、イルバニア王国の大使館を訪れたり、海水浴に行ったりと、勝手な行動をしたエドアルドに驚き呆れる。
「マゼラン卿は、竜が海水浴が好きだと知っていたか? 私はマルスがあんなに楽しそうにしているのを初めて見たよ。貴方もベリーズを海水浴に連れて行ったらいい。凄く楽しめるから」
自分の叱責を全く無視するエドアルドの熱に浮かれている様子に、マゼラン卿は恋に落ちたのだと悟る。
『恋に落ちた青年に、何を言っても無駄だ。出来る限りの情報を集めよう!』
エドアルドは、恋しいユーリの話なら一晩中でも語り明かしたいので、マゼラン卿の質問に饒舌に答える。
「ユーリ嬢はとっても竜達を可愛がっているんだ。それに竜達もユーリ嬢が大好きで、他の竜達も指示に従うんだ。マルスもユーリ嬢が大好きだと言ってる」
マゼラン卿は延々とユーリと竜達の仲の良さを語るエドアルドに呆れたが、竜騎士としての能力が高いのに注目する。
「他の竜達をも従えているとは……」
マゼラン卿がそのことを質問しようとした時には、エドアルドは魚を取ってもらったとか、可憐な姿に似合わず野性的だとか話していた。
「ユーリ嬢に焼いた魚を食べさせて貰ったのだ。今まで食べた魚で一番美味しかったよ」
「とれたての魚を焼いたのは、美味しいですからね」
マゼラン卿は自分が世話しているエドアルドの恋の戯言は無視して、ユーリの竜騎士としての能力の高さに注目する。
「一度、ユーリ嬢が竜と一緒にいる時を見てみたいですな」
マゼラン卿はユーリの竜騎士の能力を計りたかったのだが、恋するエドアルドは巨大な竜とユーリがどれほど親密で仲が良いかをもう一度初めから話し出す。
『完全に恋にのぼせあがってる。少し舞踏会までに熱を冷まさせないといけない』
「国王陛下が隣国の皇太子の特使訪問を歓迎して開く舞踏会で、割り込みなどかけないで下さい。それと殿下にもダンスの相手がいるのですから、令嬢に紳士としての態度で接して下さい」
「そんなことは言われなくても、わかっている。グレゴリウスみたいに、今年デビューしたわけじゃない」
マゼラン卿は本当にわかっているのかと、念押したい気持ちだったが、温厚だけどプライドの高いエドアルドにしつこく注意するのを控えた。
カザリア王国の皇太子の教育係の心配以上に、イルバニア王国の皇太子の指導の竜騎士であるジークフリートは頭を悩ましていた。
同盟締結の為の会議の途中の昼食会で、クレスト大使からエドアルドがユーリ達と海水浴に行ったと、秘密裏に知らされたのだ。グレゴリウスに知られないように平静に振る舞ってはいたが、ユーリを巡っての三角関係になるのではと心配する。
ジークフリートは今朝目覚めた時の大使館のバラが咲き誇っているのを見て、ユーリの緑の魔力を知っていたのにもかかわらず衝撃を受けた。そして、この変化をカザリア王国の重臣達が気づかなければ良いがと不安を感じていた。
政略結婚の相手であるエドアルドの恋心と、積極的なアプローチは衝撃を与えた。そして、真面目に会議に出席しているグレゴリウスが、エドアルドとユーリ達が海水浴に行ったと知ったら、落ち込むだろうと心配した。会議に出席している教育係のマゼラン卿に、管理不行き届きだと不満を持った。
初日の会議は、カザリア王国の国王やイルバニア王国の特使の皇太子が出席して、基本的方針の話し合いで終わった。具体的な細かな条件とかは話題にせず、両国の友好を築く一歩を踏み出したに過ぎなかった。
本来なら、見習い竜騎士の皇太子はこのような重大な会議に出席できないのだが、特使という名目で経験を積ませたいとのアルフォンス国王の意見での出席だった。指導計画では、事務方の折衝以外の会議には皇太子を出席させて、外交の仕方を学んで貰う予定だ。
しかし、エドアルドがこのように積極的にユーリにアプローチをするのであれば、グレゴリウスは国王が出席されるような重要な会議だけの出席の方が良いのではないか? と、クレスト大使とジークフリートは初日の形式的な会議の間考えていた。
夕刻に会議を終えて、形式的とはいえ重要な会議であったので出席していた特使一行のメンバーと大使は、精神的に疲れて大使館へと帰ってきた。
舞踏会まで各自で休息と軽い夕食を取るようにして、メンバーは解散したが、大使とジークフリートとユーリの指導の竜騎士ユージーンは今日のエドアルドの海水浴同行について話し合う為に、大使の書斎に籠もる。
書斎には、後見人のセリーナ大使夫人とフランツも呼ばれて、エドアルドがどうして海水浴同行することになったのか? 海岸で何があったのか? と質問された。
セリーナ大使夫人はエドアルドの申し出を断り切れなかったのを夫に詫びたが、それは仕方がないと皆が慰めた。
「エドアルド皇太子殿下が海水浴に同行されたいと願われたのを、断るなんて無礼は出来なかったのですから、大使夫人はお心を痛めないで下さい」
ジークフリートに優しく言われて、舞踏会の支度がおありでしょうからと、セリーナは書斎から優雅な物腰で退去させられた。一方のフランツには、指導の竜騎士のユージーンをはじめ、大使、いつもは優しいジークフリートからも厳しい叱責があった。
フランツは確かに呑気なユーリと一緒にいて気が弛んでいたから、外交先の皇太子と同席しながら、ほんの小一時間とは言え昼寝してしまった自分の失態を心底から反省した。
ユージーンはもっと弟のフランツに言いたい事があったが、グレゴリウスにこの件をどう伝えるか、今後の話も至急にしなくてはならない。フランツがかなり真剣に落ち込んでいるのを見て、部屋からの退出を許した。
「マッカートニー事務次官は、ユーリ嬢とエドアルド皇太子殿下が婚姻されれば良いと内心では考えておられた。だが、今朝のバラが見事に咲いた様子を見て、少し考えを調整されたみたいだ。あの方はあくまで同盟締結を優先されるであろう」
大使とジークフリートとユージーンは国王と外務相から、ユーリをエドアルドと結婚させる意志がない事と、親密にならせないようにとの厳命を受けていた。その上、自国のグレゴリウス皇太子の思い人を他国の皇太子にくれてやる気はさらさらない。
「しかし、外務次官も厳命を受けておられるし、ユーリ嬢の緑の魔力もご存知なのに何故でしょう?」
ジークフリートの疑問は皆も考えるところであった。外務次官がカザリア王国との同盟締結に尽力しているのは皆が認めていたので、より良い結果を残したいとの熱意が、自国の皇太子の恋心や緑の魔力を惜しむ気持ちよりも上回っているのだろうと結論づけた。
大使もユーリとほんの数日接しただけだが、自由に行動するのに慣れた令嬢らしくない方だと理解していたので、皇太子妃には向いていないと感じている。
しかし、自国のグレゴリウス皇太子が幼いうちから恋していると聞いたので、応援したい気持ちだ。程度の差はあるが、恋に生きるイルバニア王国の国民性を持っている。
「日頃は、温厚で礼儀正しいしいエドアルド皇太子が、今日のようにユーリ嬢に積極的なアプローチをされるとしたら、フランツ卿と妻の手に余るでしょう。国王が出席される会議には、皇太子も出席して頂き、ジークフリート卿もお側を離れられないので、ユージーン卿にガードして頂きましょう」
ユージーンは何年もカザリア王国との同盟の為に飛び回っていたので、重要な会議に出られないと聞いて抗議しかける。
「まぁ、ユージーン卿、お待ちなさい。国王が欠席なら、皇太子も欠席して、ジークフリート卿が殿下のお側に仕えて頂きます。その場合は、ユージーン卿に会議に出席して貰います」
外交官として、ジークフリートとユージーンもカザリア王国との同盟締結にはかなり深く関わって来たので、大使の意見には同意しにくかった。
「仕方ありませんね、お互いに会議の詳細な報告をしあうことにしましょう」
大使はこれで少しはユーリをエドアルドの熱心な求婚活動から守れるだろうと安堵する。
「それにしても、両国の皇太子のお心をつかむユーリ嬢には驚かされますな。エドアルド皇太子も、グレゴリウス皇太子も、お二方とも帝王学を身につけたご立派な方達なのに。礼儀正しい態度も捨てさせる魅力があるのでしょうか? 確かにユーリ嬢は、見た目はお美しいし、可憐ではあられるが、皇太子妃には向かない性格だとわかるはずですがね。それとも、女性の竜騎士というのは、竜騎士の方々には特別な魅力を発揮するのでしょうか?」
大使の疑問にジークフリートやユージーンも同意する。
「多分、お二方とも出来の良い皇太子だからこそ、自由で突拍子もない行動をするユーリ嬢に心惹かれるのではないでしょうか? それに、ユーリ嬢は皇太子妃になりたいとは微塵も考えていないから、名門貴族の令嬢方の礼儀正しいが強烈なアプローチを受けている二方には、新鮮に感じるのでしょう」
「おお、流石に女誑しの異名を持つジークフリート卿はうがった見方をしておられる」
大使の言葉にジークフリートは猛烈な抗議をしたが、大使とユージーンは笑って取り合わなかった。
「ジークフリート卿、冗談はさておき、舞踏会までにエドアルド皇太子が竜達の海水浴に飛び入りで参加された件をグレゴリウス皇太子にお伝えしておいて下さいね」
ユージーンは部屋を出しなに簡単そうに難問を押し付けた大使に「古狸め!」と毒づいたジークフリート卿を気の毒だと思った。
「ユーリの指導の竜騎士と交替なら、いつでも皇太子の指導の竜騎士をお引き受けします」
半分以上の本心で提案したユージーンは「絶対にごめんです!」と瞬殺されたので、気の毒なのは自分だと考えて直して、舞踏会まで少し休んでおこうと部屋に帰った。
ジークフリートはグレゴリウスが驚き、がっかりするだろうと思ったが、舞踏会でエドアルドが竜達の海水浴に同行したのを知るよりはマシだと心を鬼にして告げに行った。
ユーリを王宮の庭の散歩に誘い出すとは聞いていたし、許可も与えていた。自分が会議に出席している間に、イルバニア王国の大使館を訪れたり、海水浴に行ったりと、勝手な行動をしたエドアルドに驚き呆れる。
「マゼラン卿は、竜が海水浴が好きだと知っていたか? 私はマルスがあんなに楽しそうにしているのを初めて見たよ。貴方もベリーズを海水浴に連れて行ったらいい。凄く楽しめるから」
自分の叱責を全く無視するエドアルドの熱に浮かれている様子に、マゼラン卿は恋に落ちたのだと悟る。
『恋に落ちた青年に、何を言っても無駄だ。出来る限りの情報を集めよう!』
エドアルドは、恋しいユーリの話なら一晩中でも語り明かしたいので、マゼラン卿の質問に饒舌に答える。
「ユーリ嬢はとっても竜達を可愛がっているんだ。それに竜達もユーリ嬢が大好きで、他の竜達も指示に従うんだ。マルスもユーリ嬢が大好きだと言ってる」
マゼラン卿は延々とユーリと竜達の仲の良さを語るエドアルドに呆れたが、竜騎士としての能力が高いのに注目する。
「他の竜達をも従えているとは……」
マゼラン卿がそのことを質問しようとした時には、エドアルドは魚を取ってもらったとか、可憐な姿に似合わず野性的だとか話していた。
「ユーリ嬢に焼いた魚を食べさせて貰ったのだ。今まで食べた魚で一番美味しかったよ」
「とれたての魚を焼いたのは、美味しいですからね」
マゼラン卿は自分が世話しているエドアルドの恋の戯言は無視して、ユーリの竜騎士としての能力の高さに注目する。
「一度、ユーリ嬢が竜と一緒にいる時を見てみたいですな」
マゼラン卿はユーリの竜騎士の能力を計りたかったのだが、恋するエドアルドは巨大な竜とユーリがどれほど親密で仲が良いかをもう一度初めから話し出す。
『完全に恋にのぼせあがってる。少し舞踏会までに熱を冷まさせないといけない』
「国王陛下が隣国の皇太子の特使訪問を歓迎して開く舞踏会で、割り込みなどかけないで下さい。それと殿下にもダンスの相手がいるのですから、令嬢に紳士としての態度で接して下さい」
「そんなことは言われなくても、わかっている。グレゴリウスみたいに、今年デビューしたわけじゃない」
マゼラン卿は本当にわかっているのかと、念押したい気持ちだったが、温厚だけどプライドの高いエドアルドにしつこく注意するのを控えた。
カザリア王国の皇太子の教育係の心配以上に、イルバニア王国の皇太子の指導の竜騎士であるジークフリートは頭を悩ましていた。
同盟締結の為の会議の途中の昼食会で、クレスト大使からエドアルドがユーリ達と海水浴に行ったと、秘密裏に知らされたのだ。グレゴリウスに知られないように平静に振る舞ってはいたが、ユーリを巡っての三角関係になるのではと心配する。
ジークフリートは今朝目覚めた時の大使館のバラが咲き誇っているのを見て、ユーリの緑の魔力を知っていたのにもかかわらず衝撃を受けた。そして、この変化をカザリア王国の重臣達が気づかなければ良いがと不安を感じていた。
政略結婚の相手であるエドアルドの恋心と、積極的なアプローチは衝撃を与えた。そして、真面目に会議に出席しているグレゴリウスが、エドアルドとユーリ達が海水浴に行ったと知ったら、落ち込むだろうと心配した。会議に出席している教育係のマゼラン卿に、管理不行き届きだと不満を持った。
初日の会議は、カザリア王国の国王やイルバニア王国の特使の皇太子が出席して、基本的方針の話し合いで終わった。具体的な細かな条件とかは話題にせず、両国の友好を築く一歩を踏み出したに過ぎなかった。
本来なら、見習い竜騎士の皇太子はこのような重大な会議に出席できないのだが、特使という名目で経験を積ませたいとのアルフォンス国王の意見での出席だった。指導計画では、事務方の折衝以外の会議には皇太子を出席させて、外交の仕方を学んで貰う予定だ。
しかし、エドアルドがこのように積極的にユーリにアプローチをするのであれば、グレゴリウスは国王が出席されるような重要な会議だけの出席の方が良いのではないか? と、クレスト大使とジークフリートは初日の形式的な会議の間考えていた。
夕刻に会議を終えて、形式的とはいえ重要な会議であったので出席していた特使一行のメンバーと大使は、精神的に疲れて大使館へと帰ってきた。
舞踏会まで各自で休息と軽い夕食を取るようにして、メンバーは解散したが、大使とジークフリートとユーリの指導の竜騎士ユージーンは今日のエドアルドの海水浴同行について話し合う為に、大使の書斎に籠もる。
書斎には、後見人のセリーナ大使夫人とフランツも呼ばれて、エドアルドがどうして海水浴同行することになったのか? 海岸で何があったのか? と質問された。
セリーナ大使夫人はエドアルドの申し出を断り切れなかったのを夫に詫びたが、それは仕方がないと皆が慰めた。
「エドアルド皇太子殿下が海水浴に同行されたいと願われたのを、断るなんて無礼は出来なかったのですから、大使夫人はお心を痛めないで下さい」
ジークフリートに優しく言われて、舞踏会の支度がおありでしょうからと、セリーナは書斎から優雅な物腰で退去させられた。一方のフランツには、指導の竜騎士のユージーンをはじめ、大使、いつもは優しいジークフリートからも厳しい叱責があった。
フランツは確かに呑気なユーリと一緒にいて気が弛んでいたから、外交先の皇太子と同席しながら、ほんの小一時間とは言え昼寝してしまった自分の失態を心底から反省した。
ユージーンはもっと弟のフランツに言いたい事があったが、グレゴリウスにこの件をどう伝えるか、今後の話も至急にしなくてはならない。フランツがかなり真剣に落ち込んでいるのを見て、部屋からの退出を許した。
「マッカートニー事務次官は、ユーリ嬢とエドアルド皇太子殿下が婚姻されれば良いと内心では考えておられた。だが、今朝のバラが見事に咲いた様子を見て、少し考えを調整されたみたいだ。あの方はあくまで同盟締結を優先されるであろう」
大使とジークフリートとユージーンは国王と外務相から、ユーリをエドアルドと結婚させる意志がない事と、親密にならせないようにとの厳命を受けていた。その上、自国のグレゴリウス皇太子の思い人を他国の皇太子にくれてやる気はさらさらない。
「しかし、外務次官も厳命を受けておられるし、ユーリ嬢の緑の魔力もご存知なのに何故でしょう?」
ジークフリートの疑問は皆も考えるところであった。外務次官がカザリア王国との同盟締結に尽力しているのは皆が認めていたので、より良い結果を残したいとの熱意が、自国の皇太子の恋心や緑の魔力を惜しむ気持ちよりも上回っているのだろうと結論づけた。
大使もユーリとほんの数日接しただけだが、自由に行動するのに慣れた令嬢らしくない方だと理解していたので、皇太子妃には向いていないと感じている。
しかし、自国のグレゴリウス皇太子が幼いうちから恋していると聞いたので、応援したい気持ちだ。程度の差はあるが、恋に生きるイルバニア王国の国民性を持っている。
「日頃は、温厚で礼儀正しいしいエドアルド皇太子が、今日のようにユーリ嬢に積極的なアプローチをされるとしたら、フランツ卿と妻の手に余るでしょう。国王が出席される会議には、皇太子も出席して頂き、ジークフリート卿もお側を離れられないので、ユージーン卿にガードして頂きましょう」
ユージーンは何年もカザリア王国との同盟の為に飛び回っていたので、重要な会議に出られないと聞いて抗議しかける。
「まぁ、ユージーン卿、お待ちなさい。国王が欠席なら、皇太子も欠席して、ジークフリート卿が殿下のお側に仕えて頂きます。その場合は、ユージーン卿に会議に出席して貰います」
外交官として、ジークフリートとユージーンもカザリア王国との同盟締結にはかなり深く関わって来たので、大使の意見には同意しにくかった。
「仕方ありませんね、お互いに会議の詳細な報告をしあうことにしましょう」
大使はこれで少しはユーリをエドアルドの熱心な求婚活動から守れるだろうと安堵する。
「それにしても、両国の皇太子のお心をつかむユーリ嬢には驚かされますな。エドアルド皇太子も、グレゴリウス皇太子も、お二方とも帝王学を身につけたご立派な方達なのに。礼儀正しい態度も捨てさせる魅力があるのでしょうか? 確かにユーリ嬢は、見た目はお美しいし、可憐ではあられるが、皇太子妃には向かない性格だとわかるはずですがね。それとも、女性の竜騎士というのは、竜騎士の方々には特別な魅力を発揮するのでしょうか?」
大使の疑問にジークフリートやユージーンも同意する。
「多分、お二方とも出来の良い皇太子だからこそ、自由で突拍子もない行動をするユーリ嬢に心惹かれるのではないでしょうか? それに、ユーリ嬢は皇太子妃になりたいとは微塵も考えていないから、名門貴族の令嬢方の礼儀正しいが強烈なアプローチを受けている二方には、新鮮に感じるのでしょう」
「おお、流石に女誑しの異名を持つジークフリート卿はうがった見方をしておられる」
大使の言葉にジークフリートは猛烈な抗議をしたが、大使とユージーンは笑って取り合わなかった。
「ジークフリート卿、冗談はさておき、舞踏会までにエドアルド皇太子が竜達の海水浴に飛び入りで参加された件をグレゴリウス皇太子にお伝えしておいて下さいね」
ユージーンは部屋を出しなに簡単そうに難問を押し付けた大使に「古狸め!」と毒づいたジークフリート卿を気の毒だと思った。
「ユーリの指導の竜騎士と交替なら、いつでも皇太子の指導の竜騎士をお引き受けします」
半分以上の本心で提案したユージーンは「絶対にごめんです!」と瞬殺されたので、気の毒なのは自分だと考えて直して、舞踏会まで少し休んでおこうと部屋に帰った。
ジークフリートはグレゴリウスが驚き、がっかりするだろうと思ったが、舞踏会でエドアルドが竜達の海水浴に同行したのを知るよりはマシだと心を鬼にして告げに行った。
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