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第五章 カザリア王国へ
8 エドアルド皇太子と竜の海水浴
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エドアルドは大使夫人の言葉に感謝して、三人で海岸まで竜に乗って飛び立った。
三人を見送ったセリーナは、事の顛末を簡単に手紙に書いて、大使館員に夫に渡すように指示した。
会議も午前中に一度休憩時間を設けてあるので、クレスト大使は奥方からの手紙を受け取った。
老練な外交官である大使は、奥方からの手紙を読んでも顔色一つ変えなかったが、内心では温厚なエドアルドの積極的な行動に驚いていたし、三人で海水浴に行ったとグレゴリウスが知ったらどう反応するだろうと心配した。
大使はグレゴリウスの指導の竜騎士ジークフリートに前もって教えておきたかったが、側に付いているので果たせない。今夜の舞踏会が無事に終われば良いがと、大使は若い二人の皇太子殿下とユーリの三角関係に頭を悩ませた。
そんな大使夫人や大使の心配も知らず、ユーリ達は海岸へ竜達とひとっ飛びで着き、人気のない海岸を選んで着地した。
『さぁ、海水浴してらっしゃい』
竜騎士達を降ろすやいなや、竜達は海に一直線に向かう。はしゃぎまわる6頭の竜達に、フランツやエドアルドは呆れる。
「こんなに竜達が海水浴が好きだと知らなかった」
フランツやエドアルドは、竜達の海水浴を初めて見て驚いた。
「竜は皆、海水浴に目がないわ。特に、イリスやパリスはいつもフォン・フォレストで一緒に泳いでるから大好きなの。海を見た時から、海水浴したいとうるさかったわ」
エドアルドは騎竜のマルスが他のイルバニア王国の竜達と一緒に海水浴を楽しんでいる姿を見て、もっと早く海水浴に連れて来てやれば良かったと後悔した。
「私は、竜がこんなに楽しそうなのを初めて見ました。ほら、海に空から飛び込んだ」
豪快な水しぶきにユーリは叱りつける。
『イリス、ダイブは沖でして』
だが、エドアルドとフランツは水しぶきを浴びても気にしないで笑い転げる。イリスのダイブを真似して、他の竜達も海へと次々に空中からダイブするものだから、魚達は迷惑だっただろう。
「フランツ、パラソルをさして」
カザリア王国がイルバニア王国より北側にあるとはいえ、夏の海岸は日差しがきついので日陰で竜達の海水浴を見ながら昼食を食べようとユーリ達はパラソルを立てたり、敷物を広げたりする。
『イリス、楽しんでる?』
悠々と泳いでるイリスにユーリは声をかけた。
『楽しいよ、ユーリも泳げば良いのに』
なぜ一緒に海水浴しないの? と訝しむ言葉がかえってくる。
「ユーリ、まだ早いけど昼食にしようよ」
フランツはエドアルドと竜達の海水浴に来ただけでもユージーンに怒られるのに、ユーリが海水浴なんかして無防備な姿をさらしでもしたら殺されると、気をそらす為に昼食を促す。
「そうね、少し早いけど昼食にしましょう」
ユーリはそう答えながら、しまったとエドアルドが参加したのに二人分の昼食しかないのだと気づく。
分けて少しずつ食べてもかまわなかったが、エドアルドが気まずい思いをしてしまうのではと、ユーリは良いアイデアを思いついた。
「フランツ、海岸には流木や打ち上げられた海藻の乾いたのが沢山あるわ。拾い集めて火をおこしてちょうだい。あと、魚をさして焼く木の枝を三本作って」
フランツはユーリが何をするのかと疑問に思ったが、近くの漁師から魚でも買って三人には少ない昼食の足しにするのだと考えた。エドアルドもユーリの言葉に自分の参加で昼食が足りなくなって、魚を買って焼くのだろうと察して、フランツを手伝って流木を集める。
二人が流木を集めたり、近くの木の枝を三本の串に削りだしたのに満足したユーリは、海岸に落ちていた枝に短剣をリボンでしっかりとくくりつける。
『イリス、魚を波打ち際まで追い込んでちょうだい』
ユーリの言葉でイリスはダイブしていた他の竜達を止めて、沖あいから6頭が順々に波打ち際にダイブしていったので、驚いた魚は波打ち際でアップアップする。ユーリは半分気絶している魚達の中から、食べやすそうな大きさの物を数匹、にわかづくりの銛でしとめる。
さっさと魚さばいて、驚いて眺めているフランツと皇太子殿下のもとに帰った。
「ユーリ、魚をとったんだね」
フランツが驚いているのを、ユーリは不思議がる。
「海で魚をとるのは普通でしょう? 山で魚をとったら変だけど」
エドアルドもユーリが竜達に手伝わせて、簡単そうに魚をとり、手慣れた様子でさばくのを驚いて眺めていた。
二人が火をおこしていたのに満足して、ユーリはとりたての魚を枝にさして、枝を砂に突き刺した。
「手が魚くさくなったわ。海で手を洗ってくるから、魚が焦げないように見ててね」
ユーリが海で手を洗っている間、火の周りに残されたフランツとエドアルドは、可憐な令嬢とは思えない野生児のような行動力に圧倒されていた。
「ユーリ嬢は、なかなか活発な方なのですね」
エドアルドのソフトな言い方に、フランツは失礼なことに爆笑してしまった。
「ユーリは野生児ですね。あれなら、どこでも生きていける」
手を洗ってかえってきたユーリはフランツの言葉を聞き咎めて、ぷんぷん怒る。
「野生児で悪かったわね。フランツはお上品な公爵家のご子息様だから、とりたての魚なんかかぶりつけないでしょう。だから、私が二匹食べるわ」
美味しそうな焼ける匂いがしている魚をあげないと脅されて、フランツは平謝りした。二人の従兄同士の気兼ねのない軽口の応酬を、エドアルドは少し驚いて眺めている。
フランツがイルバニア王国の名門マウリッツ公爵家の子息であるのは事前に知っていたし、彼の行動はおおらかではあるが幼い頃から躾られた礼儀が基本にあるので、エドアルドは楽に接する事ができた。
しかし、見た目は可憐なユーリの行動は、王宮育ちのエドアルドには予測不可能な物が多くて、驚きの連続だった。
ユーリが魚の焼け具合をチェックしている間、フランツはエドアルドがユーリの見た目と内容のギャップにショックを受けているのに気づいた。
「エドアルド皇太子殿下、従姉妹の不作法をお許し下さい。ユーリは、リューデンハイムで男子の予科生と一緒に生活してきたので、令嬢としての礼儀作法が身についてません。見た目は令嬢らしいのに、残念な性格で困っているのです」
フランツの言葉を、エドアルドは驚いて否定する。
「ユーリ嬢がこんなに面白い方だとは考えもしなかったので驚きました。でも、私は不作法だとは思いませんよ。むしろ、予定外に海水浴参加した私の為に、魚をとったりと、親切な気持ちに感激してます」
どこの皇太子もお淑やかで礼儀正しい令嬢方を見慣れすぎて、ユーリのようなじゃじゃ馬が物珍しいから惹かれるのでは? とフランツは内心で呟いた。
「魚が焼けたわよ! 昼食にしましょう!」
三人は大使館から持ってきた、パンやチーズ、鳥の唐揚げ、焼きたての魚を堪能した。
「とても美味しいですね」
とりたての魚を焼いただけだったが、とても美味しくて、エドアルドもフランツもあっという間にたいらげる。
「あまり魚は好きじゃなかったけど、美味しいね。とりたてだからかな」
フランツの言葉で、ユーリは前に考えた竜の宅配便のアイデアを思い出した。
「フランツ、予科生の時のグループ研究、覚えてる? 竜の宅配便のことよ。ユングフラウの魚は塩漬けが多かったじゃない。だから、竜でとりたての魚を運べば儲かるってアイデアを覚えてる」
「そうだったね、もちろん覚えてるよ。エドアルド皇太子殿下、僕とユーリは予科生の時のグループ研究で、竜の宅配便をリポートして優等を貰ったのですよ。でも、その時は魚は思いつかなくて、荷物を運ぶリポートしか作成出来なかったんだよね。今なら、予科生全学年の最優等とれるのになぁ」
エドアルドは、イルバニア王国の竜騎士学校のリューデンハイムでの楽しそうな学生生活を羨ましく感じる。
「リューデンハイムはグループ研究とか、面白い授業があるのですね。グレゴリウス皇太子も一緒に勉強されたのですね」
ユーリは食後のデザートの果物を切り分けながら、エドアルドに竜騎士の仲間がいるのかなと考えた。
「竜達も海水浴に満足したようですよ。やっと、海から上がってきた」
フランツの言葉で海岸に寝そべっている竜達に気が付いたユーリは慌てて叫ぶ。
『イリス、寝ては駄目よ』
止めたが、時遅し。竜達は微睡み始めている。
「しまったわ! 海水浴の後は昼寝しちゃうのよ。お茶の時間までに帰れるかしら?」
寝てしまった竜にフランツもエドアルドも呼びかけたが『眠い……』と言う呟きが返ってくるだけで、起きる様子はない。
「ユーリ、何時まで竜達は寝るの? 今夜の舞踏会に間に合わないなんて、困るよ」
エドアルドもフランツの言葉に同感だったが、竜達の幸せそうな寝顔を見ると仕方ないかなぁと、諦めの気持ちも沸いてくる。
「うーん、多分、一時間もすれば起こせると思うわ。三時のお茶の時間には遅刻かも知れないけど、舞踏会に間に合わないなんて事はさせないわ。今は起こしても無駄だから、デザートでも食べて待ちましょう」
ユーリの言葉で、フランツとエドアルドは安心して、カットされたオレンジやメロンを食べ始める。
「こんなにのんびりしたのは、久しぶりです」
海岸で眠る竜達を眺めながら、パラソルの下、砂浜の敷物の上で、手づかみでフルーツを食べる経験はエドアルドには無かった。その上、教育係のマゼラン卿の厳しい視線にさらされることもなく、同じ世代の令嬢と過ごすのも楽しかった。
「エドアルド皇太子殿下も、これからはマルスと海水浴に来られたら良いのですわ。マルスも喜びますし、偶にはのんびりするのもストレス解消になりますわ」
ユーリの言葉にエドアルドは頷く。
「そうですね、マルスがこんなに海水浴が好きだとは知りませんでした。また、連れてこないといけませんね」
フランツも竜達がこんなに海水浴が好きだとは知らなかったし、ユージーンもアトスと来ればストレス解消になるかもと考えた。
そんなことを漠然と考えているうちに、昨夜の晩餐会の疲れと、昼食でお腹がいっぱいになった三人の見習い竜騎士達は、竜達の眠気が移ったのか、うとうとしてしまった。
気持ちの良い海風が吹くパラソルの影で、フランツを間にユーリとエドアルドは呑気に昼寝をしている。
『ユーリ、そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?』
イリスの呼びかけに目が覚めたユーリは慌てて、フランツとエドアルドを起こす。
「フランツ、エドアルド皇太子殿下。起きて、大変だわ! お茶の時間は過ぎてるわね」
大使夫人にお茶の時間には帰ってくるように言われていたのにと、慌てるユーリだった。でも、迂闊に昼寝して見張りを怠っていたフランツの後悔と、恋しく思う令嬢の前で寝ていたエドアルドの驚愕の方が勝っていたのは間違いない。
「何時なんだろう?」
フランツは慌てて懐中時計を眺めて安堵した。
「良かった、3時になったばかりだ。お茶には少し遅刻だけど大丈夫だ」
三人はまだ起きていない竜を起こすと、慌てて大使館へ帰った。
三人を見送ったセリーナは、事の顛末を簡単に手紙に書いて、大使館員に夫に渡すように指示した。
会議も午前中に一度休憩時間を設けてあるので、クレスト大使は奥方からの手紙を受け取った。
老練な外交官である大使は、奥方からの手紙を読んでも顔色一つ変えなかったが、内心では温厚なエドアルドの積極的な行動に驚いていたし、三人で海水浴に行ったとグレゴリウスが知ったらどう反応するだろうと心配した。
大使はグレゴリウスの指導の竜騎士ジークフリートに前もって教えておきたかったが、側に付いているので果たせない。今夜の舞踏会が無事に終われば良いがと、大使は若い二人の皇太子殿下とユーリの三角関係に頭を悩ませた。
そんな大使夫人や大使の心配も知らず、ユーリ達は海岸へ竜達とひとっ飛びで着き、人気のない海岸を選んで着地した。
『さぁ、海水浴してらっしゃい』
竜騎士達を降ろすやいなや、竜達は海に一直線に向かう。はしゃぎまわる6頭の竜達に、フランツやエドアルドは呆れる。
「こんなに竜達が海水浴が好きだと知らなかった」
フランツやエドアルドは、竜達の海水浴を初めて見て驚いた。
「竜は皆、海水浴に目がないわ。特に、イリスやパリスはいつもフォン・フォレストで一緒に泳いでるから大好きなの。海を見た時から、海水浴したいとうるさかったわ」
エドアルドは騎竜のマルスが他のイルバニア王国の竜達と一緒に海水浴を楽しんでいる姿を見て、もっと早く海水浴に連れて来てやれば良かったと後悔した。
「私は、竜がこんなに楽しそうなのを初めて見ました。ほら、海に空から飛び込んだ」
豪快な水しぶきにユーリは叱りつける。
『イリス、ダイブは沖でして』
だが、エドアルドとフランツは水しぶきを浴びても気にしないで笑い転げる。イリスのダイブを真似して、他の竜達も海へと次々に空中からダイブするものだから、魚達は迷惑だっただろう。
「フランツ、パラソルをさして」
カザリア王国がイルバニア王国より北側にあるとはいえ、夏の海岸は日差しがきついので日陰で竜達の海水浴を見ながら昼食を食べようとユーリ達はパラソルを立てたり、敷物を広げたりする。
『イリス、楽しんでる?』
悠々と泳いでるイリスにユーリは声をかけた。
『楽しいよ、ユーリも泳げば良いのに』
なぜ一緒に海水浴しないの? と訝しむ言葉がかえってくる。
「ユーリ、まだ早いけど昼食にしようよ」
フランツはエドアルドと竜達の海水浴に来ただけでもユージーンに怒られるのに、ユーリが海水浴なんかして無防備な姿をさらしでもしたら殺されると、気をそらす為に昼食を促す。
「そうね、少し早いけど昼食にしましょう」
ユーリはそう答えながら、しまったとエドアルドが参加したのに二人分の昼食しかないのだと気づく。
分けて少しずつ食べてもかまわなかったが、エドアルドが気まずい思いをしてしまうのではと、ユーリは良いアイデアを思いついた。
「フランツ、海岸には流木や打ち上げられた海藻の乾いたのが沢山あるわ。拾い集めて火をおこしてちょうだい。あと、魚をさして焼く木の枝を三本作って」
フランツはユーリが何をするのかと疑問に思ったが、近くの漁師から魚でも買って三人には少ない昼食の足しにするのだと考えた。エドアルドもユーリの言葉に自分の参加で昼食が足りなくなって、魚を買って焼くのだろうと察して、フランツを手伝って流木を集める。
二人が流木を集めたり、近くの木の枝を三本の串に削りだしたのに満足したユーリは、海岸に落ちていた枝に短剣をリボンでしっかりとくくりつける。
『イリス、魚を波打ち際まで追い込んでちょうだい』
ユーリの言葉でイリスはダイブしていた他の竜達を止めて、沖あいから6頭が順々に波打ち際にダイブしていったので、驚いた魚は波打ち際でアップアップする。ユーリは半分気絶している魚達の中から、食べやすそうな大きさの物を数匹、にわかづくりの銛でしとめる。
さっさと魚さばいて、驚いて眺めているフランツと皇太子殿下のもとに帰った。
「ユーリ、魚をとったんだね」
フランツが驚いているのを、ユーリは不思議がる。
「海で魚をとるのは普通でしょう? 山で魚をとったら変だけど」
エドアルドもユーリが竜達に手伝わせて、簡単そうに魚をとり、手慣れた様子でさばくのを驚いて眺めていた。
二人が火をおこしていたのに満足して、ユーリはとりたての魚を枝にさして、枝を砂に突き刺した。
「手が魚くさくなったわ。海で手を洗ってくるから、魚が焦げないように見ててね」
ユーリが海で手を洗っている間、火の周りに残されたフランツとエドアルドは、可憐な令嬢とは思えない野生児のような行動力に圧倒されていた。
「ユーリ嬢は、なかなか活発な方なのですね」
エドアルドのソフトな言い方に、フランツは失礼なことに爆笑してしまった。
「ユーリは野生児ですね。あれなら、どこでも生きていける」
手を洗ってかえってきたユーリはフランツの言葉を聞き咎めて、ぷんぷん怒る。
「野生児で悪かったわね。フランツはお上品な公爵家のご子息様だから、とりたての魚なんかかぶりつけないでしょう。だから、私が二匹食べるわ」
美味しそうな焼ける匂いがしている魚をあげないと脅されて、フランツは平謝りした。二人の従兄同士の気兼ねのない軽口の応酬を、エドアルドは少し驚いて眺めている。
フランツがイルバニア王国の名門マウリッツ公爵家の子息であるのは事前に知っていたし、彼の行動はおおらかではあるが幼い頃から躾られた礼儀が基本にあるので、エドアルドは楽に接する事ができた。
しかし、見た目は可憐なユーリの行動は、王宮育ちのエドアルドには予測不可能な物が多くて、驚きの連続だった。
ユーリが魚の焼け具合をチェックしている間、フランツはエドアルドがユーリの見た目と内容のギャップにショックを受けているのに気づいた。
「エドアルド皇太子殿下、従姉妹の不作法をお許し下さい。ユーリは、リューデンハイムで男子の予科生と一緒に生活してきたので、令嬢としての礼儀作法が身についてません。見た目は令嬢らしいのに、残念な性格で困っているのです」
フランツの言葉を、エドアルドは驚いて否定する。
「ユーリ嬢がこんなに面白い方だとは考えもしなかったので驚きました。でも、私は不作法だとは思いませんよ。むしろ、予定外に海水浴参加した私の為に、魚をとったりと、親切な気持ちに感激してます」
どこの皇太子もお淑やかで礼儀正しい令嬢方を見慣れすぎて、ユーリのようなじゃじゃ馬が物珍しいから惹かれるのでは? とフランツは内心で呟いた。
「魚が焼けたわよ! 昼食にしましょう!」
三人は大使館から持ってきた、パンやチーズ、鳥の唐揚げ、焼きたての魚を堪能した。
「とても美味しいですね」
とりたての魚を焼いただけだったが、とても美味しくて、エドアルドもフランツもあっという間にたいらげる。
「あまり魚は好きじゃなかったけど、美味しいね。とりたてだからかな」
フランツの言葉で、ユーリは前に考えた竜の宅配便のアイデアを思い出した。
「フランツ、予科生の時のグループ研究、覚えてる? 竜の宅配便のことよ。ユングフラウの魚は塩漬けが多かったじゃない。だから、竜でとりたての魚を運べば儲かるってアイデアを覚えてる」
「そうだったね、もちろん覚えてるよ。エドアルド皇太子殿下、僕とユーリは予科生の時のグループ研究で、竜の宅配便をリポートして優等を貰ったのですよ。でも、その時は魚は思いつかなくて、荷物を運ぶリポートしか作成出来なかったんだよね。今なら、予科生全学年の最優等とれるのになぁ」
エドアルドは、イルバニア王国の竜騎士学校のリューデンハイムでの楽しそうな学生生活を羨ましく感じる。
「リューデンハイムはグループ研究とか、面白い授業があるのですね。グレゴリウス皇太子も一緒に勉強されたのですね」
ユーリは食後のデザートの果物を切り分けながら、エドアルドに竜騎士の仲間がいるのかなと考えた。
「竜達も海水浴に満足したようですよ。やっと、海から上がってきた」
フランツの言葉で海岸に寝そべっている竜達に気が付いたユーリは慌てて叫ぶ。
『イリス、寝ては駄目よ』
止めたが、時遅し。竜達は微睡み始めている。
「しまったわ! 海水浴の後は昼寝しちゃうのよ。お茶の時間までに帰れるかしら?」
寝てしまった竜にフランツもエドアルドも呼びかけたが『眠い……』と言う呟きが返ってくるだけで、起きる様子はない。
「ユーリ、何時まで竜達は寝るの? 今夜の舞踏会に間に合わないなんて、困るよ」
エドアルドもフランツの言葉に同感だったが、竜達の幸せそうな寝顔を見ると仕方ないかなぁと、諦めの気持ちも沸いてくる。
「うーん、多分、一時間もすれば起こせると思うわ。三時のお茶の時間には遅刻かも知れないけど、舞踏会に間に合わないなんて事はさせないわ。今は起こしても無駄だから、デザートでも食べて待ちましょう」
ユーリの言葉で、フランツとエドアルドは安心して、カットされたオレンジやメロンを食べ始める。
「こんなにのんびりしたのは、久しぶりです」
海岸で眠る竜達を眺めながら、パラソルの下、砂浜の敷物の上で、手づかみでフルーツを食べる経験はエドアルドには無かった。その上、教育係のマゼラン卿の厳しい視線にさらされることもなく、同じ世代の令嬢と過ごすのも楽しかった。
「エドアルド皇太子殿下も、これからはマルスと海水浴に来られたら良いのですわ。マルスも喜びますし、偶にはのんびりするのもストレス解消になりますわ」
ユーリの言葉にエドアルドは頷く。
「そうですね、マルスがこんなに海水浴が好きだとは知りませんでした。また、連れてこないといけませんね」
フランツも竜達がこんなに海水浴が好きだとは知らなかったし、ユージーンもアトスと来ればストレス解消になるかもと考えた。
そんなことを漠然と考えているうちに、昨夜の晩餐会の疲れと、昼食でお腹がいっぱいになった三人の見習い竜騎士達は、竜達の眠気が移ったのか、うとうとしてしまった。
気持ちの良い海風が吹くパラソルの影で、フランツを間にユーリとエドアルドは呑気に昼寝をしている。
『ユーリ、そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?』
イリスの呼びかけに目が覚めたユーリは慌てて、フランツとエドアルドを起こす。
「フランツ、エドアルド皇太子殿下。起きて、大変だわ! お茶の時間は過ぎてるわね」
大使夫人にお茶の時間には帰ってくるように言われていたのにと、慌てるユーリだった。でも、迂闊に昼寝して見張りを怠っていたフランツの後悔と、恋しく思う令嬢の前で寝ていたエドアルドの驚愕の方が勝っていたのは間違いない。
「何時なんだろう?」
フランツは慌てて懐中時計を眺めて安堵した。
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