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第五章 カザリア王国へ
4 カザリア王国到着
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次の朝、ルーベンス伯爵の丁重なもてなしに感謝して、特使一行はカザリア王国へと旅立った。
昼前には、ニューパロマに一番近いレキシントン港に停泊中の先発隊と合流した。
グレゴリウス皇太子、マッカートニー卿、ジークフリート、ユージーンと外交官達は船室で礼服に着替える。彼等は出迎えのエドアルド皇太子とマゼラン外務大臣と共に、馬車で王宮へ向かうことになっていた。ユーリとフランツは竜を大使館に連れて行って、王宮には大使と向かって合流する予定だ。
甲板には、特使一行の荷物が積み上げられていた。後でも良い物と、先に運ぶ物とラベルが貼ってある。ユーリは何箱も自分の衣装箱を眺めて、殆どが先に運ぶ物になっているのに困惑する。
「ねぇ、フランツ? 私の衣装箱ばかり先に運ぶの? 他の人のは、1つだけなのに……」
フランツはユーリに言われて初めて、自分は先に送るのは1つにしろといわれたけどと首を捻る。素早く着替え終わったユージーンとジークフリートが甲板に出てきて、ユーリは婦人の嗜みを理解していないと首を振った。
「ユーリ、君は今夜の歓迎晩餐会で、ドレスを着なくてはいけないだろ」
「皆と一緒の竜騎士の礼服では駄目なの? どのドレスを着たら良いのかわからないわ」
やれやれとユージーンは非常識なユーリに呆れたが、ドレスを選ぶのは自分にも無理だと肩を竦める。
「ユーリ嬢、ご心配なさらなくても、セリーナ大使夫人はとてもセンスの良い貴婦人です。王妃様から滞在中の貴女の後見人を頼まれていますから、きっとお世話をして下さいますよ」
ユーリはホッとしたが、竜に荷物をこんなに乗せるのが可哀相だと、ぐずぐず言う。
「大使夫人もどんなドレスを持参しているかチェックしないと、いつどのドレスを着れば良いか決めるのに困るでしょう」
ユージーンはこういった方面はさっぱりなので、ジークフリートがユーリを諭す。ユーリがやっと納得したところへ、皇太子とマッカートニー卿が礼服に着替えてやってきた。
「そろそろ出迎えの方々もお出ましですな」
港に豪華なカザリア王国の紋章が付いた馬車が数台到着したのを見て、竜に分乗して港へと舞い降りる。
「皇太子殿下、ほら特使一行がお着きですよ」
レキシントン港には隣国の皇太子の特使を出迎える為に、エドアルド皇太子が待機していた。
「舟で上陸しないんだな、まぁ、梯子を踏み外したら、ずぶ濡れになるから竜の方が楽だが……何故、竜で来ているのに港に出迎えるのだ?」
「正式な特使ですから、竜で大使館に直接行くのを控えたのでしょう、もう、お着きです」
確かに面倒といえばその通りだが、外交とかは便利だとかでするものでは無いと、マゼラン卿は後で教えなければと考える。
「ようこそ、カザリア王国へ! グレゴリウス皇太子殿下、お疲れではありませんか?」
「エドアルド皇太子殿下、わざわざのお出迎え恐縮に存じます」
グレゴリウスとエドアルドは、初めて顔を合わした同世代の皇太子に礼儀正しい挨拶を交わしながら、お互いを観察をしあう。
『ちぇッ、グレゴリウスは流行の髪型にしてる! 見習い竜騎士になったばかりなのに生意気だなぁ』
『私より2才年上かぁ……背も少し高いのかぁ、ふん! ユーリは渡さないぞ!』
二人はにこやかに握手をすると、次の相手との挨拶をする。
特使である皇太子殿下、外務次官、ジークフリート卿、ユージーン卿、外務省の役人と挨拶は続き、見習い竜騎士のユーリとフランツは最後にカザリア王国の皇太子に挨拶をした。
グレゴリウスはエドアルドと挨拶した後も、港まで出迎えてくれたカザリア王国の人達との挨拶が続いている。
『あれがユーリ嬢か……わぁ! とても可愛い! 華奢だなぁ!』
グレゴリウスは初めての外国訪問で気を張っていたので気づかなかったが、他のメンバーは目ざとくエドアルドが礼儀正しく挨拶を交わしながら末席のユーリに気もそぞろになかのに気がつく。
『これこれ! イルバニア王国の外交官との挨拶に集中して下さい。しまった、もっと注意しておけば良かった』
教育係のマゼラン卿はエドアルドにヒヤヒヤしていたが、自身も皇太子妃候補のユーリに興味深々だったので致し方あるまいと、こちらは内心を察知される事無く歓迎の挨拶をそつなくこなす。
『見合いの肖像画そのものの可憐な姿だぁ……いや、もっと稟として生き生きと輝いている!』
実際にマダム・フォンテーヌのデザインした見習い竜騎士の略礼服を着たユーリは、小粋に見えて他のカザリア王国の出迎えの人達も流石に洗練されていると感嘆していた。
『へぇ? あの方がカザリア王国のエドアルド皇太子殿下ね……』
ユーリは初めての外国に興奮していて、順番がきてエドアルドに挨拶する時も緊張よりも好奇心が勝っていた。
「皇太子殿下、お出迎えありがとうございます。見習い竜騎士のユーリ・フォン・フォレストと申します」
他の特使一行と同様の型通りの挨拶をしたユーリの手をとって、こちらは他の特使一行との握手とは違い、エドアルドが優雅にキスした。
「ユーリ嬢、ようこそカザリア王国へ。滞在中に何かご用事がありましたら、何でも私に仰って下さい」
手にキスをするのは、令嬢に対する礼儀ではあったが座はざわめきたった。
『エドアルド皇太子は、ユーリに馴れ馴れし過ぎるぞ! 手にキスするのは令嬢への礼儀だから仕方ないけど、長すぎないか? サッサと手を離せよ!』
グレゴリウスは苛立ちを感じたが、ジークフリートに昨夜も厳重に注意されたばかりなので、顔には現さないようにして挨拶を続けていた。
『礼儀による手にキスにしては、長いのではないか?』
両国の全員からの視線を感じて、エドアルドはユーリの手をしぶしぶ離すと、最後のフランツの挨拶を受ける。
『凄いおざなりな挨拶だなぁ。そりゃあ、女の子の方が嬉しいだろうけど……ありゃりゃ、マゼラン卿が睨んでるよ、きっとエドアルド皇太子は説教されるな』
特使一行の挨拶が終わったので、両国の皇太子殿下と指導の竜騎士のジークフリート卿、教育係のマゼラン卿が同乗した馬車を先頭に各々馬車に乗って王宮へと向かった。
ユーリとフランツは見習い竜騎士として、アラミス、パリス、アトスを自分達の竜と一緒にニューパロマのイルバニア王国の大使館に連れて行くので後に残った。
二人は馬車が王宮に向かうのを見送ると、初めての外国の港を興味深く眺める。
「私は外国へ来るの初めてなの」
「私もだよ、ユージーンはあちこち行ってるみたいだけどね。外務省で竜騎士だと移動が便利だから、こき使われるんだ」
「そうよねぇ、船だと1週間以上かかるものね」
ユーリは呑気にフランツと話していたが、竜達の目の前に海が有るのを失念していた。
『ユーリ、海水浴がしたい。せっかく海に来たのに、海水浴をしないなんて変だよ』
歓迎式典の間は大人しくしていたイリスの我が儘に、ユーリは厳しく言い聞かせなければ海にダイブしてしまうと感じる。
『駄目よ! 今日はこれからニューパロマに行って、ヘンリー国王陛下に挨拶しなきゃいけないのだから。海水浴はまた暇な日にしましょう』
イリスが『明日は絶対、海水浴』と不満タラタラに答えるのを、他の竜達は相変わらず我が儘大王ぶりに呆れる。
「フランツ、明日から同盟の会議が始まるのよね? 見習い竜騎士の私達は会議には参加できないのでしょ。じゃあ、夜の舞踏会までは少し時間が有るわよね。イリスが海水浴がしたいと我が儘言ってるのよ。今日は駄目だと言い聞かせたのだけど、明日は大丈夫かしら?」
特使随行とは思えない呑気なユーリの発言に、イリスの我が儘大王ぶりを呆れていた他の竜達も海水浴には目が無いので耳をそばだてる。
『イリスが海水浴に行くなら、私も行きたいです。ユーリ嬢、お連れ下さい』
パリスはフォン・フォレストで夏休みにイリスと海水浴を楽しんでいたので、日頃の優雅さをかなぐり捨てて頼んでくる。そうなると他の竜達も私も私もと騒ぎ立て、余りの騒音にユーリとフランツは耳を塞ぐ。
「君がイリスを甘やかすから、他の竜達も甘えるじゃないか。明日、会議に出席できなくても、他の用事を申し付けられるかも知れないから、王宮に控えてるんじゃないかな?」
ユーリはそうなの? とイリスに明日も無理かもと伝える。
『ええっ! 今日は駄目だけど、明日は行けるって言ったじゃない』
『イリス、そんなこと言ってないわ。暇な日に連れて行ってあげると、言ったのよ』
『じぁあ、いつが暇な日なの?』
ユーリは困ってフランツの顔を眺める。
『もう! ユーリ、同盟締結できるまで暇なんて無いよ!』
フランツの言葉を聞き咎めて、竜達は騒ぎだす。
『お願い! 静かにして!』
煩くて耳を手で押さえて、ユーリは頼む。
「ユーリ、こうなったら竜達は海水浴に行くまではしつこく言い続けるだろう。皇太子殿下やジークフリート卿やユージーンに竜達が苦情を言いつけたら、僕達、ユージーンに殺されちゃうぞ」
二人は顔を見合って、いっそ今日短時間に海水浴させて、知らぬ顔でニューパロマの大使館へ行こうかと考える。
「何をやっておられるのですか? 早く船に行って荷物を積まないといけませんよ」
出迎えに来ていた大使館員に急かされて海水浴は実行にはいたらなかった。
『後でユージーンに都合を聞いて、海水浴に行ける日を教えるわ』
ぶつぶつ文句を言う竜達を宥めて、竜達に荷物を積んでいく。
「さぁ、急いでニューパロマの大使館に向かって下さい。夜の晩餐会の荷物を、各人のお部屋に用意しなくてはなりませんからね。貴方達も国王陛下に到着の挨拶をするときは、特使随行として一緒に王宮に出向くのですから、呑気にしている場合じゃないですよ」
竜騎士でない大使館員に、竜が海水浴したいと駄々を捏ねているのを知られないで良かったと二人は安堵する。
五頭の竜にそれぞれ積める限りの荷物を縛り付けると、大使館員をフランツが同乗させて道案内をしてもらい、あっという間にニューパロマの大使館に到着した。
「この衣装箱を各人の部屋に間違えなく運んでくれ」
大使館では召使い達が竜から荷物を下ろすと各人の部屋へと慌ただしく運びこむ。
ユーリとフランツは荷物を下ろした竜達が竜舎に寛ぐのを確認してから、大使夫妻に挨拶をしに大使館に向かった。
昼前には、ニューパロマに一番近いレキシントン港に停泊中の先発隊と合流した。
グレゴリウス皇太子、マッカートニー卿、ジークフリート、ユージーンと外交官達は船室で礼服に着替える。彼等は出迎えのエドアルド皇太子とマゼラン外務大臣と共に、馬車で王宮へ向かうことになっていた。ユーリとフランツは竜を大使館に連れて行って、王宮には大使と向かって合流する予定だ。
甲板には、特使一行の荷物が積み上げられていた。後でも良い物と、先に運ぶ物とラベルが貼ってある。ユーリは何箱も自分の衣装箱を眺めて、殆どが先に運ぶ物になっているのに困惑する。
「ねぇ、フランツ? 私の衣装箱ばかり先に運ぶの? 他の人のは、1つだけなのに……」
フランツはユーリに言われて初めて、自分は先に送るのは1つにしろといわれたけどと首を捻る。素早く着替え終わったユージーンとジークフリートが甲板に出てきて、ユーリは婦人の嗜みを理解していないと首を振った。
「ユーリ、君は今夜の歓迎晩餐会で、ドレスを着なくてはいけないだろ」
「皆と一緒の竜騎士の礼服では駄目なの? どのドレスを着たら良いのかわからないわ」
やれやれとユージーンは非常識なユーリに呆れたが、ドレスを選ぶのは自分にも無理だと肩を竦める。
「ユーリ嬢、ご心配なさらなくても、セリーナ大使夫人はとてもセンスの良い貴婦人です。王妃様から滞在中の貴女の後見人を頼まれていますから、きっとお世話をして下さいますよ」
ユーリはホッとしたが、竜に荷物をこんなに乗せるのが可哀相だと、ぐずぐず言う。
「大使夫人もどんなドレスを持参しているかチェックしないと、いつどのドレスを着れば良いか決めるのに困るでしょう」
ユージーンはこういった方面はさっぱりなので、ジークフリートがユーリを諭す。ユーリがやっと納得したところへ、皇太子とマッカートニー卿が礼服に着替えてやってきた。
「そろそろ出迎えの方々もお出ましですな」
港に豪華なカザリア王国の紋章が付いた馬車が数台到着したのを見て、竜に分乗して港へと舞い降りる。
「皇太子殿下、ほら特使一行がお着きですよ」
レキシントン港には隣国の皇太子の特使を出迎える為に、エドアルド皇太子が待機していた。
「舟で上陸しないんだな、まぁ、梯子を踏み外したら、ずぶ濡れになるから竜の方が楽だが……何故、竜で来ているのに港に出迎えるのだ?」
「正式な特使ですから、竜で大使館に直接行くのを控えたのでしょう、もう、お着きです」
確かに面倒といえばその通りだが、外交とかは便利だとかでするものでは無いと、マゼラン卿は後で教えなければと考える。
「ようこそ、カザリア王国へ! グレゴリウス皇太子殿下、お疲れではありませんか?」
「エドアルド皇太子殿下、わざわざのお出迎え恐縮に存じます」
グレゴリウスとエドアルドは、初めて顔を合わした同世代の皇太子に礼儀正しい挨拶を交わしながら、お互いを観察をしあう。
『ちぇッ、グレゴリウスは流行の髪型にしてる! 見習い竜騎士になったばかりなのに生意気だなぁ』
『私より2才年上かぁ……背も少し高いのかぁ、ふん! ユーリは渡さないぞ!』
二人はにこやかに握手をすると、次の相手との挨拶をする。
特使である皇太子殿下、外務次官、ジークフリート卿、ユージーン卿、外務省の役人と挨拶は続き、見習い竜騎士のユーリとフランツは最後にカザリア王国の皇太子に挨拶をした。
グレゴリウスはエドアルドと挨拶した後も、港まで出迎えてくれたカザリア王国の人達との挨拶が続いている。
『あれがユーリ嬢か……わぁ! とても可愛い! 華奢だなぁ!』
グレゴリウスは初めての外国訪問で気を張っていたので気づかなかったが、他のメンバーは目ざとくエドアルドが礼儀正しく挨拶を交わしながら末席のユーリに気もそぞろになかのに気がつく。
『これこれ! イルバニア王国の外交官との挨拶に集中して下さい。しまった、もっと注意しておけば良かった』
教育係のマゼラン卿はエドアルドにヒヤヒヤしていたが、自身も皇太子妃候補のユーリに興味深々だったので致し方あるまいと、こちらは内心を察知される事無く歓迎の挨拶をそつなくこなす。
『見合いの肖像画そのものの可憐な姿だぁ……いや、もっと稟として生き生きと輝いている!』
実際にマダム・フォンテーヌのデザインした見習い竜騎士の略礼服を着たユーリは、小粋に見えて他のカザリア王国の出迎えの人達も流石に洗練されていると感嘆していた。
『へぇ? あの方がカザリア王国のエドアルド皇太子殿下ね……』
ユーリは初めての外国に興奮していて、順番がきてエドアルドに挨拶する時も緊張よりも好奇心が勝っていた。
「皇太子殿下、お出迎えありがとうございます。見習い竜騎士のユーリ・フォン・フォレストと申します」
他の特使一行と同様の型通りの挨拶をしたユーリの手をとって、こちらは他の特使一行との握手とは違い、エドアルドが優雅にキスした。
「ユーリ嬢、ようこそカザリア王国へ。滞在中に何かご用事がありましたら、何でも私に仰って下さい」
手にキスをするのは、令嬢に対する礼儀ではあったが座はざわめきたった。
『エドアルド皇太子は、ユーリに馴れ馴れし過ぎるぞ! 手にキスするのは令嬢への礼儀だから仕方ないけど、長すぎないか? サッサと手を離せよ!』
グレゴリウスは苛立ちを感じたが、ジークフリートに昨夜も厳重に注意されたばかりなので、顔には現さないようにして挨拶を続けていた。
『礼儀による手にキスにしては、長いのではないか?』
両国の全員からの視線を感じて、エドアルドはユーリの手をしぶしぶ離すと、最後のフランツの挨拶を受ける。
『凄いおざなりな挨拶だなぁ。そりゃあ、女の子の方が嬉しいだろうけど……ありゃりゃ、マゼラン卿が睨んでるよ、きっとエドアルド皇太子は説教されるな』
特使一行の挨拶が終わったので、両国の皇太子殿下と指導の竜騎士のジークフリート卿、教育係のマゼラン卿が同乗した馬車を先頭に各々馬車に乗って王宮へと向かった。
ユーリとフランツは見習い竜騎士として、アラミス、パリス、アトスを自分達の竜と一緒にニューパロマのイルバニア王国の大使館に連れて行くので後に残った。
二人は馬車が王宮に向かうのを見送ると、初めての外国の港を興味深く眺める。
「私は外国へ来るの初めてなの」
「私もだよ、ユージーンはあちこち行ってるみたいだけどね。外務省で竜騎士だと移動が便利だから、こき使われるんだ」
「そうよねぇ、船だと1週間以上かかるものね」
ユーリは呑気にフランツと話していたが、竜達の目の前に海が有るのを失念していた。
『ユーリ、海水浴がしたい。せっかく海に来たのに、海水浴をしないなんて変だよ』
歓迎式典の間は大人しくしていたイリスの我が儘に、ユーリは厳しく言い聞かせなければ海にダイブしてしまうと感じる。
『駄目よ! 今日はこれからニューパロマに行って、ヘンリー国王陛下に挨拶しなきゃいけないのだから。海水浴はまた暇な日にしましょう』
イリスが『明日は絶対、海水浴』と不満タラタラに答えるのを、他の竜達は相変わらず我が儘大王ぶりに呆れる。
「フランツ、明日から同盟の会議が始まるのよね? 見習い竜騎士の私達は会議には参加できないのでしょ。じゃあ、夜の舞踏会までは少し時間が有るわよね。イリスが海水浴がしたいと我が儘言ってるのよ。今日は駄目だと言い聞かせたのだけど、明日は大丈夫かしら?」
特使随行とは思えない呑気なユーリの発言に、イリスの我が儘大王ぶりを呆れていた他の竜達も海水浴には目が無いので耳をそばだてる。
『イリスが海水浴に行くなら、私も行きたいです。ユーリ嬢、お連れ下さい』
パリスはフォン・フォレストで夏休みにイリスと海水浴を楽しんでいたので、日頃の優雅さをかなぐり捨てて頼んでくる。そうなると他の竜達も私も私もと騒ぎ立て、余りの騒音にユーリとフランツは耳を塞ぐ。
「君がイリスを甘やかすから、他の竜達も甘えるじゃないか。明日、会議に出席できなくても、他の用事を申し付けられるかも知れないから、王宮に控えてるんじゃないかな?」
ユーリはそうなの? とイリスに明日も無理かもと伝える。
『ええっ! 今日は駄目だけど、明日は行けるって言ったじゃない』
『イリス、そんなこと言ってないわ。暇な日に連れて行ってあげると、言ったのよ』
『じぁあ、いつが暇な日なの?』
ユーリは困ってフランツの顔を眺める。
『もう! ユーリ、同盟締結できるまで暇なんて無いよ!』
フランツの言葉を聞き咎めて、竜達は騒ぎだす。
『お願い! 静かにして!』
煩くて耳を手で押さえて、ユーリは頼む。
「ユーリ、こうなったら竜達は海水浴に行くまではしつこく言い続けるだろう。皇太子殿下やジークフリート卿やユージーンに竜達が苦情を言いつけたら、僕達、ユージーンに殺されちゃうぞ」
二人は顔を見合って、いっそ今日短時間に海水浴させて、知らぬ顔でニューパロマの大使館へ行こうかと考える。
「何をやっておられるのですか? 早く船に行って荷物を積まないといけませんよ」
出迎えに来ていた大使館員に急かされて海水浴は実行にはいたらなかった。
『後でユージーンに都合を聞いて、海水浴に行ける日を教えるわ』
ぶつぶつ文句を言う竜達を宥めて、竜達に荷物を積んでいく。
「さぁ、急いでニューパロマの大使館に向かって下さい。夜の晩餐会の荷物を、各人のお部屋に用意しなくてはなりませんからね。貴方達も国王陛下に到着の挨拶をするときは、特使随行として一緒に王宮に出向くのですから、呑気にしている場合じゃないですよ」
竜騎士でない大使館員に、竜が海水浴したいと駄々を捏ねているのを知られないで良かったと二人は安堵する。
五頭の竜にそれぞれ積める限りの荷物を縛り付けると、大使館員をフランツが同乗させて道案内をしてもらい、あっという間にニューパロマの大使館に到着した。
「この衣装箱を各人の部屋に間違えなく運んでくれ」
大使館では召使い達が竜から荷物を下ろすと各人の部屋へと慌ただしく運びこむ。
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