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第四章 見習い竜騎士
2 見習い竜騎士
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三人は無事に見習い竜騎士の試験に合格した。
「良かったわ、三人とも合格できて! 私だけ落ちるんじゃないかと、心配していたの」
ホッとしているユーリだったが、絆の竜騎士であるユーリが見習い竜騎士の試験に落ちるわけが無いのだ。見習い竜騎士になれば、騎竜する機会も増え、竜とのコミュニケーション能力が劣っている者は不合格になる。既に絆を結んでいるユーリとグレゴリウスは、合格してるも同然だった。
「結局、今期は三人だけだったね。やっと、灰色の制服から解放される」
「見習い竜騎士になったら、週末は外泊出来るのよね、嬉しいわ」
ユーリとグレゴリウスが見習い竜騎士になったと喜んでいるのに、フランツが珍しく無口だと二人は気づいた。
「フランツ、どうしたの? 見習い竜騎士になって嬉しくないの?」
訝しげな二人に、フランツはちょっと考え事をしてただけだとはぐらす。
「フランツ、何を考えているのだ? 良かったら、話してくれないか」
グレゴリウスの言葉に逡巡しながらも、そうだはっきりとしなきゃと、フランツは疑問をぶつける。
「前から気になっていたのですが、皇太孫殿下とユーリはどうやって竜と絆を結んだのですか? 普通は見習い竜騎士の期間が終わり、竜騎士に叙される時、稀に絆を結ぶと聞いたので」
現在、イルバニア王国の絆の竜騎士は国王陛下、皇太孫殿下、マキシウス、ジークフリート、ハインリッヒ、ユーリとあと数名で、十人に満たない。通例では見習い竜騎士の期間に何頭の竜に乗り、竜騎士に叙された時にパートナーの竜が決まる。しかし、絆の竜騎士ではない場合は、竜騎士を引退すればパートナーは解消され、竜はまた別の竜騎士と組むことになる。
絆の竜騎士が亡くなれば、騎竜も死ぬので、竜の数の確保からすれば、絆の竜騎士が少ない方が良いようにも思えるが、騎竜にならないと子竜が産めない。それに竜騎士を目指す者は、竜と絆を結びたいと願うのだ。
「フランツ、私の場合は参考にならないよ。知っての通り、イルバニア王国の王位継承者は竜騎士でないと認められない。王族で竜騎士の素質のある者は幼い時から絆を結ぶんだ」
フランツは前のローラン王国が侵攻した理由を苦々しく思い出した。アルフォンス国王の王子、王女が竜騎士で無いのを理由にゲオルク王が王位継承権を求めたのだ。一刻も早く、グレゴリウス皇太孫殿下を早く絆の竜騎士にしてゲオルク王の継承権の要求を拒否したかったのだと頷く。
「それでアラミスと絆を結んだのは、何故ですか?」
「さぁ? アラミスが何故私を選んだかは、わからない。ただ、アラミスの親は国王陛下のギャランスだから、会う機会が多かったからかも」
フランツは筆頭公爵家で育ったので、グレゴリウスの説明を聞いて納得した。
「ユーリ、君も王位継承者だから、幼い頃から絆を結んだの?」
日頃、ユーリの行動が貴族の令嬢とは思えないから忘れがちだが、王位継承権2位になると思い出して、フランツは聞いた。
「まさか! イリスは押しかけ騎竜なのよ。私は本当は竜騎士になりたくなかったの。竜騎士になったら、王位継承権が発生すると聞いて、絶対に竜騎士にならないと決意してたの。でもある日突然、イリスが私に会いに来て、絆を結ぶはめになったの。イリスと絆を結んだのは、一瞬も後悔してないけど、夢は諦めざるをえなくなったわ」
ユーリの言葉に二人は驚く。
「押しかけ騎竜! 竜騎士になりたい少年には、まさしく夢物語だね。ある日、突然に竜が舞い降りて、絆を結ぶだなんて」
ユーリは、そりゃ竜騎士になりたい人ならねと呟く。
「でもイリスはどうして、君の所へ飛んで来たの?」
「イリスは父が見習い竜騎士の時に乗っていた竜なの。父が竜騎士に叙される時に、絆を結ぶはずだったと聞いてるわ。でもご存知の通り、父は母と駆け落ちして、絆は結べなかったの」
グレゴリウスはユーリと手に手を取って駆け落ちをする自分を想像しかけたが、否、駄目だ! と皇太子になる責任を思い出す。
「父が亡くなったと知ったイリスは、食事も絶つほど落ち込んでいたのよ。それを心配して、親竜のキリエが私に会いに行くように勧めたみたい。初めて会ったときのイリスは、痩せ細ってて凄く落ち込んでいたので、とても可哀想で拒否しきれなかったのよ」
現在の大食いの、我が儘大王のイリスしか知らない二人は、痩せ衰えた姿を想像出来なかった。
フランツとユーリが絆の竜騎士と竜騎士の違いを議論している間、グレゴリウスは意外なユーリの弱点を知った。
『ユーリは貴族の令嬢達の一般常識が通用せず、頑固で、変わってて、気も強いが、情にもろく、押しに弱いんだ』
貴族なら喉から手が出る王位継承権をいらないと言い切るユーリを、皇太子妃に口説き落とすには凄まじい努力が必要だろうが、泣き落としでも、同情でも、あらゆる手段をこうじる決意をグレゴリウスは固めた。
グレゴリウス、ユーリ、フランツは、憧れの見習い竜騎士の紺色の制服に着替えて、王宮に出向いた。
グレゴリウスは父上が亡くなって以来空席の皇太子になる立太子式を控えており、他の二人も見習い竜騎士になれば、成人としての扱いになる。見習い竜騎士は社交界デビューするのが慣習だったので、王宮への呼び出しも立太子式の説明だと思っていた。
「グレゴリウス、ユーリ、フランツ、見習い竜騎士に昇進おめでとう。君達は、まだ年若いが見習い竜騎士としての責務を負うことになる。そして、社会的に成人と認められるのだから、自覚を持って行動するように」
国王陛下の言葉に、三人は神妙に頷く。特にグレゴリウスは、皇太子として次代の国を背負う重責を骨の髄まで感じていた。
国王陛下は孫のグレゴリウスの覚悟の決まった表情に満足を覚え、次に話さなければならない事案に心を痛めた。
「今、我が国を取り巻く情勢は芳しくない。カザリア王国と同盟を結び、ローラン王国に対抗しようと外交官を派遣して努力しているが、成果はあがっていない。そこで、カザリア王国に特使として皇太子を派遣することになった。ユーリ、フランツは特使に随行して、カザリア王国と同盟を結ぶ手助けをしてもらいたい」
国王陛下の言葉にユーリは単純に驚いたが、グレゴリウスとフランツはさっと顔色を変える。
「国王陛下、ユーリを随行員から外して下さい」
グレゴリウスの珍しく逆らう言葉に、国王陛下は胸を痛めたが、一喝で退ける。
「グレゴリウス、私情を優先するのはやめなさい! これは、外務相と相談して決めた事なのだ」
ハッと唇を噛み締めたグレゴリウスと、抗議の意味に気づいているフランツの顔をユーリは交互に見つめて、自分だけが内容を把握できていないのに気づく。
「国王陛下、どういう事なのでしょう? 私がカザリア王国への特使に随行するのは、見習い竜騎士としての仕事ではないのですか? なぜ、皇太孫殿下は私の随行を断られたのでしょう」
国王陛下は、見習い竜騎士の紺色の制服を着たユーリが大人びて見えるのを痛ましく感じた。詳しくは外務相から説明させると直答を避けた。
国王陛下の右側に立っていた外務相ドナルド・フォン・ランドルフは、噂通りの皇太孫殿下のユーリへの恋心に溜め息をついた。厄介な説明を振ってきた国王陛下を少し恨みつつ話し始める。
「ユーリ・フォン・フォレスト嬢、貴女には各国からの縁談が舞い込んでいます。今までは、子どもとして話は進めていませんでしたが、見習い竜騎士となった以上は成人として扱われます」
ユーリはランドルフ外務相の話を驚いて聞いた。
「カザリア王国からも、皇太子妃として迎えたいとの打診がありました。カザリア王国と同盟を結ぼうとしている我が国としては、とても魅力のある縁談です。この度の、皇太子殿下を特使として派遣するにあたり、貴女が同行するのは、エドアルド皇太子殿下との顔合わせの意味もあります」
フランツはグレゴリウスのユーリへの恋心を知っているだけに、そんな残酷な外交手段を取らなくてもと、腹立たしく思う。
「私が、カザリア王国の皇太子殿下の妃候補? 冗談でしょ」
その場にいた全員が女性の絆の竜騎士であるユーリが、全く自分の値打ちに気づいてないのを知り驚愕した。
「冗談ではありませんよ。貴女は現在ただ一人の女性の絆の竜騎士なのですから、竜騎士の世継ぎを望む王国にとって、最高の妃候補となります。その上、貴女と結婚するとなれば、イリスも当然ついて行くでしょうから、貴重な竜が一頭手に入ることになります」
ユーリはランドルフ外務相の説明を聞いているうちに、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「では、カザリア王国は私の産む子供と、イリス目当てで、結婚を申し込んだのですか? 冗談じゃないわ、お断りします!」
ぷんぷんと怒っているユーリに、グレゴリウス以外の人達は溜め息をつく。王位継承権を持つとはいえ、地方の貴族の子女に過ぎないユーリが、カザリア王国の皇太子妃になるという話は、玉の輿だと喜ぶもので、怒って断るものではない。
「ユーリ嬢、そんな風に言っては身も蓋もございませんね。第一、我が国は特使を派遣して、カザリア王国との同盟を結ぼうとしている時期なのです。ですから、相手側の要求を最初から拒否したのでは、話し合いのテーブルにもつけないでしょう。貴女は特使の随行員として、イルバニア王国の代表なのですから、国益を考えて行動して頂かないと困ります」
ユーリも外務相の言葉は理性では理解できたが、かといって政略結婚に同意する事はできないと思ったし、はっきりしておきたかった。
「申し訳ありません、軽率な言動は慎みます。しかし、私はカザリア王国の皇太子殿下と結婚しなくても良いのですよね?」
ユーリの言葉に、外務相は微笑みながら答える。
「ユーリ嬢、貴女は絆の竜騎士です。貴女が望まない結婚を、誰も強制できません」
ユーリは外務相の答えに安堵したが、グレゴリウスとフランツは直答をさけたのに気づく。ユーリが国益を考え、カザリア王国の皇太子殿下と結婚する気になれば、両国にとって望ましいと外務相が考えているのが言葉から透けて見えて、グレゴリウスは拳を握り締めた。
「良かったわ、三人とも合格できて! 私だけ落ちるんじゃないかと、心配していたの」
ホッとしているユーリだったが、絆の竜騎士であるユーリが見習い竜騎士の試験に落ちるわけが無いのだ。見習い竜騎士になれば、騎竜する機会も増え、竜とのコミュニケーション能力が劣っている者は不合格になる。既に絆を結んでいるユーリとグレゴリウスは、合格してるも同然だった。
「結局、今期は三人だけだったね。やっと、灰色の制服から解放される」
「見習い竜騎士になったら、週末は外泊出来るのよね、嬉しいわ」
ユーリとグレゴリウスが見習い竜騎士になったと喜んでいるのに、フランツが珍しく無口だと二人は気づいた。
「フランツ、どうしたの? 見習い竜騎士になって嬉しくないの?」
訝しげな二人に、フランツはちょっと考え事をしてただけだとはぐらす。
「フランツ、何を考えているのだ? 良かったら、話してくれないか」
グレゴリウスの言葉に逡巡しながらも、そうだはっきりとしなきゃと、フランツは疑問をぶつける。
「前から気になっていたのですが、皇太孫殿下とユーリはどうやって竜と絆を結んだのですか? 普通は見習い竜騎士の期間が終わり、竜騎士に叙される時、稀に絆を結ぶと聞いたので」
現在、イルバニア王国の絆の竜騎士は国王陛下、皇太孫殿下、マキシウス、ジークフリート、ハインリッヒ、ユーリとあと数名で、十人に満たない。通例では見習い竜騎士の期間に何頭の竜に乗り、竜騎士に叙された時にパートナーの竜が決まる。しかし、絆の竜騎士ではない場合は、竜騎士を引退すればパートナーは解消され、竜はまた別の竜騎士と組むことになる。
絆の竜騎士が亡くなれば、騎竜も死ぬので、竜の数の確保からすれば、絆の竜騎士が少ない方が良いようにも思えるが、騎竜にならないと子竜が産めない。それに竜騎士を目指す者は、竜と絆を結びたいと願うのだ。
「フランツ、私の場合は参考にならないよ。知っての通り、イルバニア王国の王位継承者は竜騎士でないと認められない。王族で竜騎士の素質のある者は幼い時から絆を結ぶんだ」
フランツは前のローラン王国が侵攻した理由を苦々しく思い出した。アルフォンス国王の王子、王女が竜騎士で無いのを理由にゲオルク王が王位継承権を求めたのだ。一刻も早く、グレゴリウス皇太孫殿下を早く絆の竜騎士にしてゲオルク王の継承権の要求を拒否したかったのだと頷く。
「それでアラミスと絆を結んだのは、何故ですか?」
「さぁ? アラミスが何故私を選んだかは、わからない。ただ、アラミスの親は国王陛下のギャランスだから、会う機会が多かったからかも」
フランツは筆頭公爵家で育ったので、グレゴリウスの説明を聞いて納得した。
「ユーリ、君も王位継承者だから、幼い頃から絆を結んだの?」
日頃、ユーリの行動が貴族の令嬢とは思えないから忘れがちだが、王位継承権2位になると思い出して、フランツは聞いた。
「まさか! イリスは押しかけ騎竜なのよ。私は本当は竜騎士になりたくなかったの。竜騎士になったら、王位継承権が発生すると聞いて、絶対に竜騎士にならないと決意してたの。でもある日突然、イリスが私に会いに来て、絆を結ぶはめになったの。イリスと絆を結んだのは、一瞬も後悔してないけど、夢は諦めざるをえなくなったわ」
ユーリの言葉に二人は驚く。
「押しかけ騎竜! 竜騎士になりたい少年には、まさしく夢物語だね。ある日、突然に竜が舞い降りて、絆を結ぶだなんて」
ユーリは、そりゃ竜騎士になりたい人ならねと呟く。
「でもイリスはどうして、君の所へ飛んで来たの?」
「イリスは父が見習い竜騎士の時に乗っていた竜なの。父が竜騎士に叙される時に、絆を結ぶはずだったと聞いてるわ。でもご存知の通り、父は母と駆け落ちして、絆は結べなかったの」
グレゴリウスはユーリと手に手を取って駆け落ちをする自分を想像しかけたが、否、駄目だ! と皇太子になる責任を思い出す。
「父が亡くなったと知ったイリスは、食事も絶つほど落ち込んでいたのよ。それを心配して、親竜のキリエが私に会いに行くように勧めたみたい。初めて会ったときのイリスは、痩せ細ってて凄く落ち込んでいたので、とても可哀想で拒否しきれなかったのよ」
現在の大食いの、我が儘大王のイリスしか知らない二人は、痩せ衰えた姿を想像出来なかった。
フランツとユーリが絆の竜騎士と竜騎士の違いを議論している間、グレゴリウスは意外なユーリの弱点を知った。
『ユーリは貴族の令嬢達の一般常識が通用せず、頑固で、変わってて、気も強いが、情にもろく、押しに弱いんだ』
貴族なら喉から手が出る王位継承権をいらないと言い切るユーリを、皇太子妃に口説き落とすには凄まじい努力が必要だろうが、泣き落としでも、同情でも、あらゆる手段をこうじる決意をグレゴリウスは固めた。
グレゴリウス、ユーリ、フランツは、憧れの見習い竜騎士の紺色の制服に着替えて、王宮に出向いた。
グレゴリウスは父上が亡くなって以来空席の皇太子になる立太子式を控えており、他の二人も見習い竜騎士になれば、成人としての扱いになる。見習い竜騎士は社交界デビューするのが慣習だったので、王宮への呼び出しも立太子式の説明だと思っていた。
「グレゴリウス、ユーリ、フランツ、見習い竜騎士に昇進おめでとう。君達は、まだ年若いが見習い竜騎士としての責務を負うことになる。そして、社会的に成人と認められるのだから、自覚を持って行動するように」
国王陛下の言葉に、三人は神妙に頷く。特にグレゴリウスは、皇太子として次代の国を背負う重責を骨の髄まで感じていた。
国王陛下は孫のグレゴリウスの覚悟の決まった表情に満足を覚え、次に話さなければならない事案に心を痛めた。
「今、我が国を取り巻く情勢は芳しくない。カザリア王国と同盟を結び、ローラン王国に対抗しようと外交官を派遣して努力しているが、成果はあがっていない。そこで、カザリア王国に特使として皇太子を派遣することになった。ユーリ、フランツは特使に随行して、カザリア王国と同盟を結ぶ手助けをしてもらいたい」
国王陛下の言葉にユーリは単純に驚いたが、グレゴリウスとフランツはさっと顔色を変える。
「国王陛下、ユーリを随行員から外して下さい」
グレゴリウスの珍しく逆らう言葉に、国王陛下は胸を痛めたが、一喝で退ける。
「グレゴリウス、私情を優先するのはやめなさい! これは、外務相と相談して決めた事なのだ」
ハッと唇を噛み締めたグレゴリウスと、抗議の意味に気づいているフランツの顔をユーリは交互に見つめて、自分だけが内容を把握できていないのに気づく。
「国王陛下、どういう事なのでしょう? 私がカザリア王国への特使に随行するのは、見習い竜騎士としての仕事ではないのですか? なぜ、皇太孫殿下は私の随行を断られたのでしょう」
国王陛下は、見習い竜騎士の紺色の制服を着たユーリが大人びて見えるのを痛ましく感じた。詳しくは外務相から説明させると直答を避けた。
国王陛下の右側に立っていた外務相ドナルド・フォン・ランドルフは、噂通りの皇太孫殿下のユーリへの恋心に溜め息をついた。厄介な説明を振ってきた国王陛下を少し恨みつつ話し始める。
「ユーリ・フォン・フォレスト嬢、貴女には各国からの縁談が舞い込んでいます。今までは、子どもとして話は進めていませんでしたが、見習い竜騎士となった以上は成人として扱われます」
ユーリはランドルフ外務相の話を驚いて聞いた。
「カザリア王国からも、皇太子妃として迎えたいとの打診がありました。カザリア王国と同盟を結ぼうとしている我が国としては、とても魅力のある縁談です。この度の、皇太子殿下を特使として派遣するにあたり、貴女が同行するのは、エドアルド皇太子殿下との顔合わせの意味もあります」
フランツはグレゴリウスのユーリへの恋心を知っているだけに、そんな残酷な外交手段を取らなくてもと、腹立たしく思う。
「私が、カザリア王国の皇太子殿下の妃候補? 冗談でしょ」
その場にいた全員が女性の絆の竜騎士であるユーリが、全く自分の値打ちに気づいてないのを知り驚愕した。
「冗談ではありませんよ。貴女は現在ただ一人の女性の絆の竜騎士なのですから、竜騎士の世継ぎを望む王国にとって、最高の妃候補となります。その上、貴女と結婚するとなれば、イリスも当然ついて行くでしょうから、貴重な竜が一頭手に入ることになります」
ユーリはランドルフ外務相の説明を聞いているうちに、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「では、カザリア王国は私の産む子供と、イリス目当てで、結婚を申し込んだのですか? 冗談じゃないわ、お断りします!」
ぷんぷんと怒っているユーリに、グレゴリウス以外の人達は溜め息をつく。王位継承権を持つとはいえ、地方の貴族の子女に過ぎないユーリが、カザリア王国の皇太子妃になるという話は、玉の輿だと喜ぶもので、怒って断るものではない。
「ユーリ嬢、そんな風に言っては身も蓋もございませんね。第一、我が国は特使を派遣して、カザリア王国との同盟を結ぼうとしている時期なのです。ですから、相手側の要求を最初から拒否したのでは、話し合いのテーブルにもつけないでしょう。貴女は特使の随行員として、イルバニア王国の代表なのですから、国益を考えて行動して頂かないと困ります」
ユーリも外務相の言葉は理性では理解できたが、かといって政略結婚に同意する事はできないと思ったし、はっきりしておきたかった。
「申し訳ありません、軽率な言動は慎みます。しかし、私はカザリア王国の皇太子殿下と結婚しなくても良いのですよね?」
ユーリの言葉に、外務相は微笑みながら答える。
「ユーリ嬢、貴女は絆の竜騎士です。貴女が望まない結婚を、誰も強制できません」
ユーリは外務相の答えに安堵したが、グレゴリウスとフランツは直答をさけたのに気づく。ユーリが国益を考え、カザリア王国の皇太子殿下と結婚する気になれば、両国にとって望ましいと外務相が考えているのが言葉から透けて見えて、グレゴリウスは拳を握り締めた。
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