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第三章 リューデンハイム生
8 夏休みはあるのかな?
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皇太孫殿下の失踪という非常事態に、生徒には行き先に心当たりがないか教師からの聞き取り調査がされた。だから、リューデンハイムの全員がユーリとグレゴリウスが一緒に出かけたと知っていた。
二人は罰の竜舎掃除や、罰の給仕当番は仕方がないと諦めたが、二人の無責任な行動に腹を立てた教師や生徒が多かったので、針のムシロに座らされているような気がした。
特に、見習い竜騎士の試験を受ける予科生の5年は、受験のプレッシャーから気分がささくれ立ているいて、聞くにたえない噂を流した。
見習い竜騎士のユージーンも、二人の無責任な行動には腹を立てた。が、ふと食堂で耳にした「皇太孫殿下とユーリが駆け落ちした」という噂には激怒して、予科生に鉄拳制裁を加え、生真面目なユージーンが初の罰を受けるはめになった。
ユーリは校長先生から説教されて、部屋から出てくるユージーンと、間が悪く鉢合わせする。毎日義務づけられている反省文を提出しにきて、校長室のドアをノックしかけてた時に中からユージーンが礼儀正しく、でも足音に怒りをこめて出てきたのだ。
「ユージーン、ありがとう。嫌な噂を話してた予科生を懲らしめてくれたって皆言ってるわ。校長先生に怒られたの? ごめんなさい」
「ユーリ、君に感謝される覚えもなければ、謝られる覚えもない。私は見習い竜騎士として、後輩指導したまでにすぎない」
ユーリは靴音を響かせて遠ざかっていく、相変わらず頑固なユージーンが、お祖父様に似ているような気がした。
「貴方のお兄さんのユージーンって悪い人じゃないけど、なんか苦手なの。他人なのに妙に私のお祖父様に似ているからかもしれない。威圧感のある目つきも似てるのよね」
同級生の何人かは問題をおこしたユーリと距離を置いたが、フランツは「馬鹿な事したね」と苦笑して、普段通りに付き合ってくれている。今日、校長室の前でユージーンと出会った件を話していたユーリはフランツが唖然としてるのに気づいた。
「え~、知らなかったの? 僕と君はマウリッツ公爵家の系図では従兄だけど、フォン・アリスト家の系図ではハトコだよ。僕達のお祖母様は、君のお祖父様の妹だからね。アリスト卿は僕達の大祖父様になるんだ。ユージーンはアリスト卿を崇拝しているから、似てると聞いたら喜ぶよ」
ユーリはフランツを初めて見たとき、パパに似ていると感じたのを思い出した。フランツの茶色の瞳はいつも笑いを含んでいて、人当たりの良さもパパに似ていると思う。
「あのう……でも、父と母が駆け落ちしたのでマウリッツ公爵は凄くお怒りだったと聞いたけど? それなのに、お祖父様の姪を息子の嫁に貰ったの?」
未だに老公爵の怒りはおさまらないので、ユーリは母方の親族はリューデンハイムで会ったフランツとユージーンしか会ってなかった。
「まぁ、お祖父様としてはアリスト卿の姪を貰ったとは認めたくないだろうね。サザーランド公爵のお嬢様をお嫁に貰ったと思ってるよ。サザーランド公爵家はメルローズ王女様もお興しいれされているし、名門だからね」
ユーリは、フォン・アリストの屋敷の自分の部屋の飾り付けをしてくれた、大祖母様のシャルロット・フォン・サザーランドを思い出して首をすくめた。
「では、貴方達のお母様はあのシャルロット様の娘なのね。なるほど! それでユージーンのシャツはいつもビラビラ……いえ、高そうなレースが付いているのね。それにしては、フランツはあっさりしたシャツを着てるわね」
ユーリの言葉にフランツは大爆笑した。サザーランド公爵家もマウリッツ公爵家も、祖母と母の少女趣味には閉口していたのだ。
「母が嫁いで一番にしたのは、気難しい老公爵をどうやって説得したのか、屋敷中のカーテンを柔らかな薔薇色の物に変える事だったそうなんだ。その時に、誰か止めとけば良かったんだよね。その後、少しずつ母の趣味で屋敷は変革を続け、今では御伽の国のお姫様が住まうようなロマンチックな屋敷になってて、居心地の悪いことったら。僕はハッキリ母にビラビラしたシャツは嫌いだと言ったけど、ユージーンは紳士だから言えないんだよね」
フランツは祖母と母の少女趣味のせいで、皆がどれほど迷惑しているか思い出して溜め息をついた。
サザーランド公爵に嫁いだメルローズ王女は、姑のシャルロットの少女趣味の被害者の筆頭だろう。嫁いだ当時、王妃様も皇太子妃も、メルローズ王女が王宮に着てくるドレスには頭を痛めていた。メルローズ王女は王妃に似て女性としては長身で、可愛らしいフリフリのドレスより、スッキリとした物の方が似合うし、本人も好みだと知っていた。
それなのに似合わないドレスを着ている王女を、姑の少女趣味につき合わされているのだと同情していたのだ。でも、実際はメルローズ王女の結婚相手のサザーランド公爵は母や姉のフリフリのドレスを見慣れていて、あっさりとした服よりも好み、結婚したての熱々の王女は夫の好みに合わせていたのだ。今でもサザーランド公爵夫妻は熱々だが、メルローズ夫人は少しフリルやレースをついたドレスを着こなしており、王妃もほっとしていた。
「母上は、サザーランドのお祖母様からユーリがロザリモンド姫に似ていると聞いて、凄く会いたがってるけど、お祖父様が頑固だからね。父上も姪の君に会いたがっているんだけど、お祖父様が会う前にはまずいだろうと我慢しているんだ。お祖父様はもともと頑固だったけど、お祖母様が亡くなって隠居してからは、ますます頑固さに磨きがかかってね。両親はご機嫌を損ねるのが嫌なんだと思う」
ユーリもフランツやユージーンの親である叔父夫婦には会ってみたいが、祖父の老公爵が自分を拒絶しているのなら会えないのも仕方ないと溜め息をつく。
「まぁ、母と会ったらフリフリドレス着さされるから、会わない方がユーリの為かもね。ところで、いつまで皇太孫殿下とユーリは罰を受けるの? もう罰を受けだして半月は経つよね?」
ユーリはフランツの言葉に「こちらこそ、いつまで罰を受けるのか知りたいわ」と二度目の溜め息をつく。そうこうするうちに夏至祭が近づき、期末試験が始まった。
リューデンハイムは夏至祭と、冬至祭の長期休暇前に期末試験が行われ、成績不良の生徒や、竜騎士になる素質が基準に満たない生徒は学校を去るという厳しい規則がある。
特に、見習い竜騎士に昇格する試験は厳しく、なかなか一回で合格する予科生はいない。見習い竜騎士試験は何回でも受けられるというのが建て前ではあったが、17才を過ぎて予科生というのは開校からまだ一人もいないと聞くと、15才から受けて4回以内に合格しないと見込みがないという事になる。
今回も5年生が見習い竜騎士の試験を受けたが、合格したのは一人だけで、15才で受験1、2回目の生徒は次の冬至祭前の試験に再チャレンジする事にしたが、16才の予科生はリューデンハイムを去っていった。
皇太孫殿下とユーリも無事に一年前半を合格した。
フランツはクラスで一番の成績で級友達を驚かせたが、ユーリは前から賢いのに気づいていたので当然だと思った。
「フランツは飛び級しないの? その成績なら、一年の後半飛ばして二年でもいけるでしょう」
「ユーリだって二年でもいけるだろ。飛び級しないのかい?」
成績は一番がフランツ、二番がユーリ、三番がグレゴリウスと三人が飛び抜けていた。
「私は前なら飛び級していたと思う。でも、私はまだ9才の子供なんだなぁと、この前問題をおこして実感したの。見習い竜騎士になったら、竜騎士ほどじゃないけど責任が生じるでしょ。まだ子供なんだから、当分は予科生で良いのよ」
ユーリの言葉に、フランツは我が意を得たりと頷く。
「そうだよね! 急いで、責任ある大人になる必要ないよ! それに、せっかくモテモテの見習い竜騎士の制服を着るなら、社交界に出られる年齢じゃなきゃ勿体ないよね」
後半の動機には賛同しかねるが、普通、この年頃の子供があまり持たない意見に共鳴する相手と巡り会えた幸運に二人は感謝した。
試験も終わり夏至祭前になると、ユーリはいつまで罰が続くのだろうと悩むようになった。地方出身の生徒達が夏至祭を故郷で過ごそうと荷物を作り出すと、無期限というのは一体いつまでなんだろうと落ち込んだ。
初めて過ごすユングフラウの夏は、北のヒースヒルよりもかなり暑く感じる。去年過ごしたフォン・フォレストの夏も、日中は暑かったが海風が気持ち良かった。それに都会のユングフラウには人が溢れてて、より暑く感じられる。
ユーリは無期限の外出禁止なので、週末もフォン・アリスト邸に帰れなかったので、ゆっくりと快適な空間で寛ぐ事もできなかった。
リューデンハイムの寮は各自個室でベットと勉強机と服のしまえる戸棚でいっぱいの大きさだ。夏のこの時期、窓を開けても風は吹き込まず夜も寝苦しかった。
ユーリは罰の竜舎の掃除がだんだんつらくなっていた。農家育ちで、慣れている敷き藁の入れ替えをすますと思わず「はぁ~」と溜め息をつく。
一緒に罰掃除していたグレゴリウスも、同じく「はぁ~」と溜め息をつき、二人は顔を見合って力なく笑う。
「もうすぐ夏休みだけど、いつまで罰が続くのかしら?」
「無期限って、いつまでなんだろう?」
二人で掃除道具を片付けながら、愚痴っていると、運悪く通りかかった校長先生に聞かれてしまった。
「まだまだ反省が足りないようだね。無期限は無期限だよ!」
校長先生は二人に喝をいれると、さっさと校舎の方に歩いて行った。
二人は歩き去る校長先生を呆然と見送る。
「もしかして、私たち夏休み無しなの?」
「無期限は無期限って? 夏休み中も罰掃除なのか?」
どっとその場に座りこむグレゴリウスとユーリだった。
二人は罰の竜舎掃除や、罰の給仕当番は仕方がないと諦めたが、二人の無責任な行動に腹を立てた教師や生徒が多かったので、針のムシロに座らされているような気がした。
特に、見習い竜騎士の試験を受ける予科生の5年は、受験のプレッシャーから気分がささくれ立ているいて、聞くにたえない噂を流した。
見習い竜騎士のユージーンも、二人の無責任な行動には腹を立てた。が、ふと食堂で耳にした「皇太孫殿下とユーリが駆け落ちした」という噂には激怒して、予科生に鉄拳制裁を加え、生真面目なユージーンが初の罰を受けるはめになった。
ユーリは校長先生から説教されて、部屋から出てくるユージーンと、間が悪く鉢合わせする。毎日義務づけられている反省文を提出しにきて、校長室のドアをノックしかけてた時に中からユージーンが礼儀正しく、でも足音に怒りをこめて出てきたのだ。
「ユージーン、ありがとう。嫌な噂を話してた予科生を懲らしめてくれたって皆言ってるわ。校長先生に怒られたの? ごめんなさい」
「ユーリ、君に感謝される覚えもなければ、謝られる覚えもない。私は見習い竜騎士として、後輩指導したまでにすぎない」
ユーリは靴音を響かせて遠ざかっていく、相変わらず頑固なユージーンが、お祖父様に似ているような気がした。
「貴方のお兄さんのユージーンって悪い人じゃないけど、なんか苦手なの。他人なのに妙に私のお祖父様に似ているからかもしれない。威圧感のある目つきも似てるのよね」
同級生の何人かは問題をおこしたユーリと距離を置いたが、フランツは「馬鹿な事したね」と苦笑して、普段通りに付き合ってくれている。今日、校長室の前でユージーンと出会った件を話していたユーリはフランツが唖然としてるのに気づいた。
「え~、知らなかったの? 僕と君はマウリッツ公爵家の系図では従兄だけど、フォン・アリスト家の系図ではハトコだよ。僕達のお祖母様は、君のお祖父様の妹だからね。アリスト卿は僕達の大祖父様になるんだ。ユージーンはアリスト卿を崇拝しているから、似てると聞いたら喜ぶよ」
ユーリはフランツを初めて見たとき、パパに似ていると感じたのを思い出した。フランツの茶色の瞳はいつも笑いを含んでいて、人当たりの良さもパパに似ていると思う。
「あのう……でも、父と母が駆け落ちしたのでマウリッツ公爵は凄くお怒りだったと聞いたけど? それなのに、お祖父様の姪を息子の嫁に貰ったの?」
未だに老公爵の怒りはおさまらないので、ユーリは母方の親族はリューデンハイムで会ったフランツとユージーンしか会ってなかった。
「まぁ、お祖父様としてはアリスト卿の姪を貰ったとは認めたくないだろうね。サザーランド公爵のお嬢様をお嫁に貰ったと思ってるよ。サザーランド公爵家はメルローズ王女様もお興しいれされているし、名門だからね」
ユーリは、フォン・アリストの屋敷の自分の部屋の飾り付けをしてくれた、大祖母様のシャルロット・フォン・サザーランドを思い出して首をすくめた。
「では、貴方達のお母様はあのシャルロット様の娘なのね。なるほど! それでユージーンのシャツはいつもビラビラ……いえ、高そうなレースが付いているのね。それにしては、フランツはあっさりしたシャツを着てるわね」
ユーリの言葉にフランツは大爆笑した。サザーランド公爵家もマウリッツ公爵家も、祖母と母の少女趣味には閉口していたのだ。
「母が嫁いで一番にしたのは、気難しい老公爵をどうやって説得したのか、屋敷中のカーテンを柔らかな薔薇色の物に変える事だったそうなんだ。その時に、誰か止めとけば良かったんだよね。その後、少しずつ母の趣味で屋敷は変革を続け、今では御伽の国のお姫様が住まうようなロマンチックな屋敷になってて、居心地の悪いことったら。僕はハッキリ母にビラビラしたシャツは嫌いだと言ったけど、ユージーンは紳士だから言えないんだよね」
フランツは祖母と母の少女趣味のせいで、皆がどれほど迷惑しているか思い出して溜め息をついた。
サザーランド公爵に嫁いだメルローズ王女は、姑のシャルロットの少女趣味の被害者の筆頭だろう。嫁いだ当時、王妃様も皇太子妃も、メルローズ王女が王宮に着てくるドレスには頭を痛めていた。メルローズ王女は王妃に似て女性としては長身で、可愛らしいフリフリのドレスより、スッキリとした物の方が似合うし、本人も好みだと知っていた。
それなのに似合わないドレスを着ている王女を、姑の少女趣味につき合わされているのだと同情していたのだ。でも、実際はメルローズ王女の結婚相手のサザーランド公爵は母や姉のフリフリのドレスを見慣れていて、あっさりとした服よりも好み、結婚したての熱々の王女は夫の好みに合わせていたのだ。今でもサザーランド公爵夫妻は熱々だが、メルローズ夫人は少しフリルやレースをついたドレスを着こなしており、王妃もほっとしていた。
「母上は、サザーランドのお祖母様からユーリがロザリモンド姫に似ていると聞いて、凄く会いたがってるけど、お祖父様が頑固だからね。父上も姪の君に会いたがっているんだけど、お祖父様が会う前にはまずいだろうと我慢しているんだ。お祖父様はもともと頑固だったけど、お祖母様が亡くなって隠居してからは、ますます頑固さに磨きがかかってね。両親はご機嫌を損ねるのが嫌なんだと思う」
ユーリもフランツやユージーンの親である叔父夫婦には会ってみたいが、祖父の老公爵が自分を拒絶しているのなら会えないのも仕方ないと溜め息をつく。
「まぁ、母と会ったらフリフリドレス着さされるから、会わない方がユーリの為かもね。ところで、いつまで皇太孫殿下とユーリは罰を受けるの? もう罰を受けだして半月は経つよね?」
ユーリはフランツの言葉に「こちらこそ、いつまで罰を受けるのか知りたいわ」と二度目の溜め息をつく。そうこうするうちに夏至祭が近づき、期末試験が始まった。
リューデンハイムは夏至祭と、冬至祭の長期休暇前に期末試験が行われ、成績不良の生徒や、竜騎士になる素質が基準に満たない生徒は学校を去るという厳しい規則がある。
特に、見習い竜騎士に昇格する試験は厳しく、なかなか一回で合格する予科生はいない。見習い竜騎士試験は何回でも受けられるというのが建て前ではあったが、17才を過ぎて予科生というのは開校からまだ一人もいないと聞くと、15才から受けて4回以内に合格しないと見込みがないという事になる。
今回も5年生が見習い竜騎士の試験を受けたが、合格したのは一人だけで、15才で受験1、2回目の生徒は次の冬至祭前の試験に再チャレンジする事にしたが、16才の予科生はリューデンハイムを去っていった。
皇太孫殿下とユーリも無事に一年前半を合格した。
フランツはクラスで一番の成績で級友達を驚かせたが、ユーリは前から賢いのに気づいていたので当然だと思った。
「フランツは飛び級しないの? その成績なら、一年の後半飛ばして二年でもいけるでしょう」
「ユーリだって二年でもいけるだろ。飛び級しないのかい?」
成績は一番がフランツ、二番がユーリ、三番がグレゴリウスと三人が飛び抜けていた。
「私は前なら飛び級していたと思う。でも、私はまだ9才の子供なんだなぁと、この前問題をおこして実感したの。見習い竜騎士になったら、竜騎士ほどじゃないけど責任が生じるでしょ。まだ子供なんだから、当分は予科生で良いのよ」
ユーリの言葉に、フランツは我が意を得たりと頷く。
「そうだよね! 急いで、責任ある大人になる必要ないよ! それに、せっかくモテモテの見習い竜騎士の制服を着るなら、社交界に出られる年齢じゃなきゃ勿体ないよね」
後半の動機には賛同しかねるが、普通、この年頃の子供があまり持たない意見に共鳴する相手と巡り会えた幸運に二人は感謝した。
試験も終わり夏至祭前になると、ユーリはいつまで罰が続くのだろうと悩むようになった。地方出身の生徒達が夏至祭を故郷で過ごそうと荷物を作り出すと、無期限というのは一体いつまでなんだろうと落ち込んだ。
初めて過ごすユングフラウの夏は、北のヒースヒルよりもかなり暑く感じる。去年過ごしたフォン・フォレストの夏も、日中は暑かったが海風が気持ち良かった。それに都会のユングフラウには人が溢れてて、より暑く感じられる。
ユーリは無期限の外出禁止なので、週末もフォン・アリスト邸に帰れなかったので、ゆっくりと快適な空間で寛ぐ事もできなかった。
リューデンハイムの寮は各自個室でベットと勉強机と服のしまえる戸棚でいっぱいの大きさだ。夏のこの時期、窓を開けても風は吹き込まず夜も寝苦しかった。
ユーリは罰の竜舎の掃除がだんだんつらくなっていた。農家育ちで、慣れている敷き藁の入れ替えをすますと思わず「はぁ~」と溜め息をつく。
一緒に罰掃除していたグレゴリウスも、同じく「はぁ~」と溜め息をつき、二人は顔を見合って力なく笑う。
「もうすぐ夏休みだけど、いつまで罰が続くのかしら?」
「無期限って、いつまでなんだろう?」
二人で掃除道具を片付けながら、愚痴っていると、運悪く通りかかった校長先生に聞かれてしまった。
「まだまだ反省が足りないようだね。無期限は無期限だよ!」
校長先生は二人に喝をいれると、さっさと校舎の方に歩いて行った。
二人は歩き去る校長先生を呆然と見送る。
「もしかして、私たち夏休み無しなの?」
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