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第三章 リューデンハイム生
4 グループ研究
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ユーリがリューデンハイムに入学した当初、まだ他の同級生達が女の子にどう接したら良いのか躊躇っている時からフランツは優しかった。
「はじめまして、ユーリ! 私はフランツ・フォン・マウリッツ。そう、君の従兄なんだよ」
金髪と茶色の瞳のハンサムなフランツの手を、ユーリは躊躇いながら握る。
「フランツ……ええっと、私のことをマウリッツ公爵家では認めてないのでは?」
「ああ、お祖父様は頑固だからね。でも、父上も母上も本当はユーリに会いたくて、うずうずしているんだ。それに私達はリューデンハイムの同級生なんだから、仲良くしても何も問題はないさ」
マウリッツ公爵家のフランツは、話に聞いてた権高な老公爵とは違い、人当たりの良い性格で、すぐに仲良くなった。ただ、フランツに引き合わされた、兄の見習い竜騎士ユージーンとは気が合いそうにもなかった。ユージーンも悪い人間ではないのだが、公爵家の跡取りとして誇り高く育てられたので、農家育ちのユーリとは価値観が違っていた。
「兄はユーリの皇太孫殿下への態度が気にいらないみたいですよ」
ユージーンに従兄としてユーリの不遜な態度を改めさせろと命令を受けたが、フランツは従うつもりはなく、伝言を伝えて終わりにする。
「別に、ユージーンに気にいって貰わなくても結構だわ。そんな事より、今度のグループ研究を一緒にしない? テーマはまだ発表されてないけど、きっと二人で調べるのは面白いと思うの」
年下だが頭の良いユーリと組むのが嫌な訳がなく、フランツは二つ返事で引き受ける。それに可愛い女の子と、一緒に勉強するのは考えただけで楽しい。
実は、グレゴリウスもグループ研究をユーリと組んでしたいと思っていたのだが、誘うきっかけをつかめずにいた。グレゴリウスは最初のボタンの掛け違えから、ギクシャクしている二人の関係を修復したいと願っていた。
「先生、僕とユーリは一緒にグループ研究して良いですか?」
グループ研究のテーマの発表前にフランツは手を挙げて、二人で組む許しを得た。
級友達は、一人しかいない女の子と組むと宣言したフランツの勇気に驚きながらも、10才独特の気恥ずかしさを紛らわす為に「熱いねぇ」「よっ! お二人さん」とはやし立てる。
グレゴリウスは二人をはやし立てる級友達に腹が立ち「黙れ!」と叫ぼうとしたが、フランツは平然と言い返す。
「へへ~、良いだろう! 羨ましいかい? 早い者勝ちだよ~」
級友達は「チェッ、フランツの奴、上手い事やったな~」と羨ましがった。
ユーリは黙って座っていると、本当にお淑やかな貴族のお嬢様に見え、年頃の男の子の理想像にピタリと嵌まったので、級友達は次は誘おうと決意した。
ただし、残念な事にユーリが黙って座っている事は少なかった。授業中、先生に当てられて答えないことは一度も無かったし、質問の鋭さに級友達は年下のユーリに度肝を抜かれていた。
グレゴリウスも幼い時から一流の家庭教師にミッチリしごかれていたので、級友達は流石だなぁと思っていた。
フランツはのんびりした雰囲気で、級友達も気楽に付き合っていたが、実は頭が凄く良かった。賢いからこそ、いつもフランツがのんびりして見えるのだと、ユーリは一緒に組んで勉強して気がつく。
「今回のテーマの『流通』って、何でも良いのかしら。流通と言っても、流通手段、流通貨幣、流通産業、流通網、流通品、あと何があるかな? どれを切り口にするか、決めて調査しないと時間の無駄になるわよね。フランツは何にしたい? どれが面白そうかしら?」
フランツ達以外にも何組か自主的に組を申し出た他は、先生が指名して組が作られ、テーマが『流通』と発表されると、ユーリとフランツ以外は図書室に向かった。皆が出ていった教室でユーリとフランツは、作戦を決めてから調査しようと話し合う。
「流通かぁ~! 流通の仕組みとか、流通するのは品物だけじゃないよね、情報とかも流通に入るかな? でも、僕らは商人でも、造幣局の役人でもない、竜騎士を目指す生徒として『流通』を考えたら面白そうだけど、どう思う?」
「竜騎士を目指す生徒として流通を考えるかぁ。面白そうだわ! 竜も一種の流通手段だし、スピードは馬車や鳥よりも速いわ。でも、竜を使った情報の流通も、面白いかもしれないわね。でも、これは竜騎士の仕事でもデリケートな物だし、私は良く知らないの」
ユーリとフランツは竜が情報、人間、荷物を運ぶという点に注目して、色々調べて発表することにした。
「竜の宅急便をつくると想像してみて発表したらどうかしら? 何かどこかで聞いたような言葉ね」
フランツは「竜の宅急便って?」とピンとこない。
「今、手紙や荷物を送る時は、駅馬車が止まる町まで行って、駅馬車に持って行って貰うしかないでしょ。とっても不便だし、いつ着くかも解らないので困るのよ。急な知らせは鳥を使う事もあるけど、鳥は荷物は運べないし、竜が荷物を自宅か、取り扱い所に引き取りに来て、送り先まで送るサービスをするのよ」
フランツは竜が荷物を運ぶなら速いと感心はしたが、すぐに欠点も思いつく。
「ユーリ、竜はスピードは一番だけど、利便性は劣るんじゃないかな。竜は馬に比べて少ないから、各町に取り扱い所がつくれないから、大都市だけを繋ぐシステムしかできそうにないよ」
ユーリもそれには同意する。
「そうなのよね。でも、竜騎士であるか、竜騎士の知り合いがいると、凄く便利なの。貴族や裕福な人でも、身近に竜騎士がいないと不便してるかなと思ったの。彼らなら高い料金も払えるから、竜の宅急便も良いかなって思ったんだけど、無理かな? 本当は、低料金で一般の人にも使って貰いたいけど、竜は大食いだから、コスト高なのよねぇ」
フランツはユーリが竜の宅急便の実現化をも考えているのに驚き、衝撃を受けた。
「ユーリ、君は竜と既に絆を結んだ竜騎士なんだよ。生活の為に働く必要ないじゃないか」
ユーリはフランツが公爵家の子息なんだと改めて気づく。
「あら、なんで竜騎士が働いちゃいけないの? フランツは公爵家の子息だから、色々収入があるかもしれないけど、働かなきゃお金は貯まらないわよ。私は竜騎士を早期引退して、田舎でスローライフしたいの! でも、イリスって大食いだから、農家の収入じゃ養えないでしょ、だからお金を貯めなきゃ」
フランツは頭がクラクラしてきた。
「ユーリ、君は自分の立場を全く理解してないよ。君は継承権2位を持っているんだよ。竜騎士を早期引退して、田舎で農家だなんて無理だよ。それに君はフォン・フォレスト家とフォン・アリスト家の跡取りだから、お金を貯める必要なんかないじゃないか」
ユーリはフォン・フォレストのお祖母様の跡取りだとは考えてもいなかったので、フランツの言葉に驚く。
「私は、フォン・フォレストの跡取りなの? ヒースヒルで農業するのが夢なのに、困ったなぁ」
困る所が違うだろうと、心の中で突っ込む。
「ユーリの夢は農業することなの?」
公爵家に生まれ育ったフランツには、思いもよらないユーリの夢に呆れる。
「ええ、子どものころから、大人になったら、農業をしたいと思ってたの。でも、女一人で農家の経営は力仕事とか多いから無理でしょ? 優しくて働き者の旦那さんと結婚できたら良いなと思っていたのよ」
ユーリの夢物語にフランツは脱力する。
「君はイリスの絆の竜騎士なんだよ」
「そうなのよね、イリスと絆を結んだので、計画は変更したの。竜騎士にならないと駄目だから、働き者の旦那さんは却下だわね。竜騎士を引退してからの農業だから、年取ってからの結婚ってなかなか難しそうだもの。それに、イリスは力持ちだから畑仕事手伝ってくれるかもと期待してるの。でも、フォン・フォレストを継がなきゃいけないのかな? どうなんだろう?」
竜に農作業させるという発想を持った竜騎士が、今まで一人でもいただろうかとフランツは呆れる。フランツはユーリが皇太孫殿下の妃の第一候補だと知らないのだろうか? と疑問を持った。毎朝、皇太孫殿下とユーリが、王妃様に挨拶に伺候しているのは周知の事実だ。
『王妃様がユーリの後見人を引き受けられたのは、皇太孫殿下の未来の妃を見守り、指導するためだと言われてるけど……どうも本人は農民希望だし、全く知らないみたいだね』
普通の貴族の令嬢なら、王妃様に目を掛けて貰ったら、私は将来の皇太子妃! とのぼせ上がるのにと、クスクス笑う。
「なによ、フランツ笑ったりして!」
「御免! ちょっと変なことを考えていたんだ」
二人でじゃれあっていると、教室に先生が顔を覗かせた。
「まだ、君達は教室に居たんだね。グループ研究の優等のご褒美は外泊だよ。皆、図書室で必死で調べものしているのに、呑気だなぁ」
先生の言葉で脱線していたのに気づいた二人は、竜の宅急便を実際に運営するシミュレーションを作ってみようと、ユングフラウの街に出て調査しようと外に出る。
「私、ユングフラウに来て一月だし、街に出るの初めてなの。だから、どこに行けば荷物を運んでくれる駅馬車が止まる場所かも知らないわ、フランツは知ってる?」
ユーリもフランツも貴族の子息で、自分で荷物を出したりした事がないと、お互いに顔を見合って笑う。
「リューデンハイムの守衛に聞いてみよう。地方から学校に来ている生徒もいるから、荷物とか送ったりしてる生徒もいると思う。守衛に出入りの業者を教えて貰えば良い」
守衛に出入りの業者を聞いて二人は、料金や、日数について調査する。
「フォン・フォレストまで荷物を送ったら、何日後に着きますか?」
シミュレーションの為に、フォン・フォレストに何日で荷物が着くのか聞いたが、駅馬車の停車場の主人は答えあぐねた。
「何日ったって、天候や、積み替えの馬車の都合もあるしねぇ。次の馬車が出てたり、遅れたりするから、正確に着く日数なんてわかりませんや」
それでも、大体でいいですからと問い直すと「まぁ、すんなり行きゃあ10日かな」と答えてくれた。
「10日、私が前にお祖父様とフォン・フォレストからユングフラウに竜で来た時は、急いでたから5時間で着いたわ。休憩もなしだったから、疲れたけど、途中で休憩しても7時間あれば着くと思うの。やっぱり、竜は速いわよね」
当たり前の事に感心しているユーリにフランツは「料金は安いよ」と釘をさす。
学校に帰り、二人で竜の宅急便がいくらなら使う人がいるのか考えたが、お互いにお金の苦労を知らなかったから、値段設定には苦労した。
「僕達、まだ子どもなんだね。今回、自分が何も知らないって、実感したよ」
フランツの言葉にユーリも同意する。
「グループ研究の目的は、生徒達に何も知らないと気づかせる事かもね。自分が何も知らないのに呆れたわ。料金設定は、竜の宅急便を使ってくれそうな商人に聞いてみたいけど、そんな人知らないし困ったわね」
二人で「裕福な商人ねぇ」と頭を抱えた。二人とも貴族階級なので商人の知り合いはいなかった。
竜の宅急便の研究が行き詰まって、他のにしようかなと思った時に、ユーリは別の考え方を思いつく。
「そうだわ、幾らなら使うかはわからないけど、竜を養うのに幾ら掛かるかはわかるわよね。シミュレーションなんだから、必要経費+利益で良いんじゃないかな?」
フランツは自分が考えてもしなかった、逆転の法則を見つけ出した、ユーリに賞賛の眼差しを送る。
「そうだね、竜の必要経費なら、竜舎の人に聞けばわかる! こちらの料金を決めれば良いんだ。後は、知り合いでなくても、商人にその値段なら竜の宅急便を使うか、聞き取り調査すればOKだ」
グループ研究の目処がついたのが嬉しくて、ユーリとフランツはお互いの手を握りあってぴょんぴょん跳ねた。
図書室で、組んでいる級友とグループ研究を粗方調べ終えたグレゴリウスは、間が悪い事に、二人が手を繋いで仲良くふざけている姿を目撃してしまう。
『ユーリがフランツと手を握りあってる!』
教室の入り口でUターンして出て行ったグレゴリウスに、ユーリは気がつかなかったが、フランツは気づき、ヤバい! と心の中で叫んだ。グレゴリウスは王族として厳しく躾られていたから、級友達にも生意気な口をきいたりはしないし、親切に接していたが、唯一の例外がユーリだった。
フランツはグレゴリウスがユーリを好きだから、つい意地悪をしてしまうのだと察していたので、誤解させて気の毒に思う。もちろん、フランツもユーリが好きだったが、従兄としてだった。皇太孫殿下の許嫁とも言われてる女の子に恋愛感情を持つなんて不敬な考えは、公爵家に育ったフランツには持てなかった。
『皇太孫殿下が誤解しないと良いけどなぁ。それに、殿下と組んでいる奴にも見られたよね。自分とユーリの噂が流れたら、ユージーンに長々と説教されるだろうな……』
ユージーンつかまらないようにしようと決心するフランツだった。
少し不機嫌なグレゴリウスや、それに同情するフランツは、グループ研究の提出期限がきて、通常の授業に戻り何となくホッとした。
ユーリとフランツのグループ研究は優等を取り、週末の外泊が許可された。
「やったぁ! 外泊ゲットだ!」
「嬉しいわ」
二人は喜んだが、フランツはグレゴリウスをこれ以上刺激したくないので、ユーリと接触するのは避けた。
「はい、これがご褒美の外泊許可証だよ」
先生からそれぞれ1枚外泊許可証を貰って、嬉しそうに眺める。リューデンハイムは夏至祭と冬至祭の前後1月の長期休暇以外の外泊は、予科の生徒になかなか認めないので、ユーリもフランツも心から喜んだ。
見習い竜騎士になると社交界にデビューする者もいるので、外泊が許されているだけに不満を持つ予科生は多かったのだ。
グレゴリウスはユーリが外泊許可証を大事そうに眺めるのを見て、何かおかしいと感じた。
フランツが外泊したら屋敷で大きな風呂に入る! と宣言して、同級生からブーイングを受けているのを振り向きもしないで、許可証を見つめて考え込んでいるユーリが何か企んでいるのではと、恋する少年は勘づいた。
「はじめまして、ユーリ! 私はフランツ・フォン・マウリッツ。そう、君の従兄なんだよ」
金髪と茶色の瞳のハンサムなフランツの手を、ユーリは躊躇いながら握る。
「フランツ……ええっと、私のことをマウリッツ公爵家では認めてないのでは?」
「ああ、お祖父様は頑固だからね。でも、父上も母上も本当はユーリに会いたくて、うずうずしているんだ。それに私達はリューデンハイムの同級生なんだから、仲良くしても何も問題はないさ」
マウリッツ公爵家のフランツは、話に聞いてた権高な老公爵とは違い、人当たりの良い性格で、すぐに仲良くなった。ただ、フランツに引き合わされた、兄の見習い竜騎士ユージーンとは気が合いそうにもなかった。ユージーンも悪い人間ではないのだが、公爵家の跡取りとして誇り高く育てられたので、農家育ちのユーリとは価値観が違っていた。
「兄はユーリの皇太孫殿下への態度が気にいらないみたいですよ」
ユージーンに従兄としてユーリの不遜な態度を改めさせろと命令を受けたが、フランツは従うつもりはなく、伝言を伝えて終わりにする。
「別に、ユージーンに気にいって貰わなくても結構だわ。そんな事より、今度のグループ研究を一緒にしない? テーマはまだ発表されてないけど、きっと二人で調べるのは面白いと思うの」
年下だが頭の良いユーリと組むのが嫌な訳がなく、フランツは二つ返事で引き受ける。それに可愛い女の子と、一緒に勉強するのは考えただけで楽しい。
実は、グレゴリウスもグループ研究をユーリと組んでしたいと思っていたのだが、誘うきっかけをつかめずにいた。グレゴリウスは最初のボタンの掛け違えから、ギクシャクしている二人の関係を修復したいと願っていた。
「先生、僕とユーリは一緒にグループ研究して良いですか?」
グループ研究のテーマの発表前にフランツは手を挙げて、二人で組む許しを得た。
級友達は、一人しかいない女の子と組むと宣言したフランツの勇気に驚きながらも、10才独特の気恥ずかしさを紛らわす為に「熱いねぇ」「よっ! お二人さん」とはやし立てる。
グレゴリウスは二人をはやし立てる級友達に腹が立ち「黙れ!」と叫ぼうとしたが、フランツは平然と言い返す。
「へへ~、良いだろう! 羨ましいかい? 早い者勝ちだよ~」
級友達は「チェッ、フランツの奴、上手い事やったな~」と羨ましがった。
ユーリは黙って座っていると、本当にお淑やかな貴族のお嬢様に見え、年頃の男の子の理想像にピタリと嵌まったので、級友達は次は誘おうと決意した。
ただし、残念な事にユーリが黙って座っている事は少なかった。授業中、先生に当てられて答えないことは一度も無かったし、質問の鋭さに級友達は年下のユーリに度肝を抜かれていた。
グレゴリウスも幼い時から一流の家庭教師にミッチリしごかれていたので、級友達は流石だなぁと思っていた。
フランツはのんびりした雰囲気で、級友達も気楽に付き合っていたが、実は頭が凄く良かった。賢いからこそ、いつもフランツがのんびりして見えるのだと、ユーリは一緒に組んで勉強して気がつく。
「今回のテーマの『流通』って、何でも良いのかしら。流通と言っても、流通手段、流通貨幣、流通産業、流通網、流通品、あと何があるかな? どれを切り口にするか、決めて調査しないと時間の無駄になるわよね。フランツは何にしたい? どれが面白そうかしら?」
フランツ達以外にも何組か自主的に組を申し出た他は、先生が指名して組が作られ、テーマが『流通』と発表されると、ユーリとフランツ以外は図書室に向かった。皆が出ていった教室でユーリとフランツは、作戦を決めてから調査しようと話し合う。
「流通かぁ~! 流通の仕組みとか、流通するのは品物だけじゃないよね、情報とかも流通に入るかな? でも、僕らは商人でも、造幣局の役人でもない、竜騎士を目指す生徒として『流通』を考えたら面白そうだけど、どう思う?」
「竜騎士を目指す生徒として流通を考えるかぁ。面白そうだわ! 竜も一種の流通手段だし、スピードは馬車や鳥よりも速いわ。でも、竜を使った情報の流通も、面白いかもしれないわね。でも、これは竜騎士の仕事でもデリケートな物だし、私は良く知らないの」
ユーリとフランツは竜が情報、人間、荷物を運ぶという点に注目して、色々調べて発表することにした。
「竜の宅急便をつくると想像してみて発表したらどうかしら? 何かどこかで聞いたような言葉ね」
フランツは「竜の宅急便って?」とピンとこない。
「今、手紙や荷物を送る時は、駅馬車が止まる町まで行って、駅馬車に持って行って貰うしかないでしょ。とっても不便だし、いつ着くかも解らないので困るのよ。急な知らせは鳥を使う事もあるけど、鳥は荷物は運べないし、竜が荷物を自宅か、取り扱い所に引き取りに来て、送り先まで送るサービスをするのよ」
フランツは竜が荷物を運ぶなら速いと感心はしたが、すぐに欠点も思いつく。
「ユーリ、竜はスピードは一番だけど、利便性は劣るんじゃないかな。竜は馬に比べて少ないから、各町に取り扱い所がつくれないから、大都市だけを繋ぐシステムしかできそうにないよ」
ユーリもそれには同意する。
「そうなのよね。でも、竜騎士であるか、竜騎士の知り合いがいると、凄く便利なの。貴族や裕福な人でも、身近に竜騎士がいないと不便してるかなと思ったの。彼らなら高い料金も払えるから、竜の宅急便も良いかなって思ったんだけど、無理かな? 本当は、低料金で一般の人にも使って貰いたいけど、竜は大食いだから、コスト高なのよねぇ」
フランツはユーリが竜の宅急便の実現化をも考えているのに驚き、衝撃を受けた。
「ユーリ、君は竜と既に絆を結んだ竜騎士なんだよ。生活の為に働く必要ないじゃないか」
ユーリはフランツが公爵家の子息なんだと改めて気づく。
「あら、なんで竜騎士が働いちゃいけないの? フランツは公爵家の子息だから、色々収入があるかもしれないけど、働かなきゃお金は貯まらないわよ。私は竜騎士を早期引退して、田舎でスローライフしたいの! でも、イリスって大食いだから、農家の収入じゃ養えないでしょ、だからお金を貯めなきゃ」
フランツは頭がクラクラしてきた。
「ユーリ、君は自分の立場を全く理解してないよ。君は継承権2位を持っているんだよ。竜騎士を早期引退して、田舎で農家だなんて無理だよ。それに君はフォン・フォレスト家とフォン・アリスト家の跡取りだから、お金を貯める必要なんかないじゃないか」
ユーリはフォン・フォレストのお祖母様の跡取りだとは考えてもいなかったので、フランツの言葉に驚く。
「私は、フォン・フォレストの跡取りなの? ヒースヒルで農業するのが夢なのに、困ったなぁ」
困る所が違うだろうと、心の中で突っ込む。
「ユーリの夢は農業することなの?」
公爵家に生まれ育ったフランツには、思いもよらないユーリの夢に呆れる。
「ええ、子どものころから、大人になったら、農業をしたいと思ってたの。でも、女一人で農家の経営は力仕事とか多いから無理でしょ? 優しくて働き者の旦那さんと結婚できたら良いなと思っていたのよ」
ユーリの夢物語にフランツは脱力する。
「君はイリスの絆の竜騎士なんだよ」
「そうなのよね、イリスと絆を結んだので、計画は変更したの。竜騎士にならないと駄目だから、働き者の旦那さんは却下だわね。竜騎士を引退してからの農業だから、年取ってからの結婚ってなかなか難しそうだもの。それに、イリスは力持ちだから畑仕事手伝ってくれるかもと期待してるの。でも、フォン・フォレストを継がなきゃいけないのかな? どうなんだろう?」
竜に農作業させるという発想を持った竜騎士が、今まで一人でもいただろうかとフランツは呆れる。フランツはユーリが皇太孫殿下の妃の第一候補だと知らないのだろうか? と疑問を持った。毎朝、皇太孫殿下とユーリが、王妃様に挨拶に伺候しているのは周知の事実だ。
『王妃様がユーリの後見人を引き受けられたのは、皇太孫殿下の未来の妃を見守り、指導するためだと言われてるけど……どうも本人は農民希望だし、全く知らないみたいだね』
普通の貴族の令嬢なら、王妃様に目を掛けて貰ったら、私は将来の皇太子妃! とのぼせ上がるのにと、クスクス笑う。
「なによ、フランツ笑ったりして!」
「御免! ちょっと変なことを考えていたんだ」
二人でじゃれあっていると、教室に先生が顔を覗かせた。
「まだ、君達は教室に居たんだね。グループ研究の優等のご褒美は外泊だよ。皆、図書室で必死で調べものしているのに、呑気だなぁ」
先生の言葉で脱線していたのに気づいた二人は、竜の宅急便を実際に運営するシミュレーションを作ってみようと、ユングフラウの街に出て調査しようと外に出る。
「私、ユングフラウに来て一月だし、街に出るの初めてなの。だから、どこに行けば荷物を運んでくれる駅馬車が止まる場所かも知らないわ、フランツは知ってる?」
ユーリもフランツも貴族の子息で、自分で荷物を出したりした事がないと、お互いに顔を見合って笑う。
「リューデンハイムの守衛に聞いてみよう。地方から学校に来ている生徒もいるから、荷物とか送ったりしてる生徒もいると思う。守衛に出入りの業者を教えて貰えば良い」
守衛に出入りの業者を聞いて二人は、料金や、日数について調査する。
「フォン・フォレストまで荷物を送ったら、何日後に着きますか?」
シミュレーションの為に、フォン・フォレストに何日で荷物が着くのか聞いたが、駅馬車の停車場の主人は答えあぐねた。
「何日ったって、天候や、積み替えの馬車の都合もあるしねぇ。次の馬車が出てたり、遅れたりするから、正確に着く日数なんてわかりませんや」
それでも、大体でいいですからと問い直すと「まぁ、すんなり行きゃあ10日かな」と答えてくれた。
「10日、私が前にお祖父様とフォン・フォレストからユングフラウに竜で来た時は、急いでたから5時間で着いたわ。休憩もなしだったから、疲れたけど、途中で休憩しても7時間あれば着くと思うの。やっぱり、竜は速いわよね」
当たり前の事に感心しているユーリにフランツは「料金は安いよ」と釘をさす。
学校に帰り、二人で竜の宅急便がいくらなら使う人がいるのか考えたが、お互いにお金の苦労を知らなかったから、値段設定には苦労した。
「僕達、まだ子どもなんだね。今回、自分が何も知らないって、実感したよ」
フランツの言葉にユーリも同意する。
「グループ研究の目的は、生徒達に何も知らないと気づかせる事かもね。自分が何も知らないのに呆れたわ。料金設定は、竜の宅急便を使ってくれそうな商人に聞いてみたいけど、そんな人知らないし困ったわね」
二人で「裕福な商人ねぇ」と頭を抱えた。二人とも貴族階級なので商人の知り合いはいなかった。
竜の宅急便の研究が行き詰まって、他のにしようかなと思った時に、ユーリは別の考え方を思いつく。
「そうだわ、幾らなら使うかはわからないけど、竜を養うのに幾ら掛かるかはわかるわよね。シミュレーションなんだから、必要経費+利益で良いんじゃないかな?」
フランツは自分が考えてもしなかった、逆転の法則を見つけ出した、ユーリに賞賛の眼差しを送る。
「そうだね、竜の必要経費なら、竜舎の人に聞けばわかる! こちらの料金を決めれば良いんだ。後は、知り合いでなくても、商人にその値段なら竜の宅急便を使うか、聞き取り調査すればOKだ」
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図書室で、組んでいる級友とグループ研究を粗方調べ終えたグレゴリウスは、間が悪い事に、二人が手を繋いで仲良くふざけている姿を目撃してしまう。
『ユーリがフランツと手を握りあってる!』
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フランツはグレゴリウスがユーリを好きだから、つい意地悪をしてしまうのだと察していたので、誤解させて気の毒に思う。もちろん、フランツもユーリが好きだったが、従兄としてだった。皇太孫殿下の許嫁とも言われてる女の子に恋愛感情を持つなんて不敬な考えは、公爵家に育ったフランツには持てなかった。
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ユージーンつかまらないようにしようと決心するフランツだった。
少し不機嫌なグレゴリウスや、それに同情するフランツは、グループ研究の提出期限がきて、通常の授業に戻り何となくホッとした。
ユーリとフランツのグループ研究は優等を取り、週末の外泊が許可された。
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「嬉しいわ」
二人は喜んだが、フランツはグレゴリウスをこれ以上刺激したくないので、ユーリと接触するのは避けた。
「はい、これがご褒美の外泊許可証だよ」
先生からそれぞれ1枚外泊許可証を貰って、嬉しそうに眺める。リューデンハイムは夏至祭と冬至祭の前後1月の長期休暇以外の外泊は、予科の生徒になかなか認めないので、ユーリもフランツも心から喜んだ。
見習い竜騎士になると社交界にデビューする者もいるので、外泊が許されているだけに不満を持つ予科生は多かったのだ。
グレゴリウスはユーリが外泊許可証を大事そうに眺めるのを見て、何かおかしいと感じた。
フランツが外泊したら屋敷で大きな風呂に入る! と宣言して、同級生からブーイングを受けているのを振り向きもしないで、許可証を見つめて考え込んでいるユーリが何か企んでいるのではと、恋する少年は勘づいた。
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前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
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没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
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異世界転生~チート魔法でスローライフ
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【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
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転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
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‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
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大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
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異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
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