7 / 273
第一章 ここは何処?
6 竜がいる世界
しおりを挟む
『竜がいる世界!』
ユーリは夏至祭の夜、熱をだした。
竜を見て興奮していた人々も、夕ご飯までには家に帰りたいとピクニックを片付けた。ウィリー達も赤ん坊がいるからと早めに家路についた。
朝のうきうきとした感じはなく、ウィリーもローラも無口だった。二人は、竜と、それに騎乗していた竜騎士に動揺していた。自分たちが捨てて来た世界を垣間見て、今の幸せな生活が脅かされるような気がしたのだ。
ユーリも変だと感じていたが、普通の人間は狼と話したりしないし、植物や風とも話さない。
『お帰り』ポーチからのっそりと立ち上がったシルバーに『ただいま』と留守番のお礼を言ってたウィリーは、ローラの叫び声に驚いた。
「ユーリ? ユーリ!……熱がある!」
町からの帰り道で、眠ってしまったユーリをベットに寝かしつけたローラは、ぐったりとした様子の我が子の額に額をつけ熱があるのに気がついた。
「こんな幼い赤ちゃんを、人ごみに連れて行ったからだわ」
ぐったりと横たわるユーリに、自責の念で、胸の締め付けられる。
ウィリーも動揺し、医者を呼んで来ると馬車を走らせたが、町には常勤の医者がいないのを途中で気づき、髪をかきむしった。そこに、夏至祭から帰るアマリア達が通りかかった。
「お医者さんはどこに居ますか? ユーリが熱をだして! お医者さんはどこに!」
血相を変えて質問してくるウィリーを無視して、よっこらしょ! と馬車に乗り込んで来たアマリアは、ユーリの様子を見てくるよと旦那を家に帰した。
「ユーリが熱なんです! お医者さんを呼んで来ないと!」
アマリアに家に連れて行っておくれと言われたウィリーは、医者を呼びに行かなければと抵抗した。
「ほら、さっさと家に帰んな! ローラは一人なんだろ。心細くて泣いてるかもしれないよ」
医者を呼んで来るにも時間がかかる。その間、ローラを一人きりにしておくよりは、何人もの子どもを育て上げたアマリアがそばに居てくれた方が安心だと、ウィリーは猛スピードで帰宅した。
「ああ、これは知恵熱だね! 心配いらないよ。赤ちゃんは熱を出すもんさ。水分補給をしっかりさせて、汗をかいたら下着を変えてやりな。朝にはケロリとしてるさ」
それでも心配だから医者を呼んで来るというウィリーを止めた。
「隣町にしか医者は居ないし、今から呼びに行っても真夜中を過ぎるよ。朝になっても熱が引かなかった時に、呼びに行けば良いんだよ」
アマリアの指示で、湯冷ましを飲ませると、少し熱も下がった。そろそろ新米パパママも落ち着いた頃だろうと、迎えに来た旦那の馬車に乗り込みながら、朝になれば熱はひいてるさとアマリアは帰って行った。
アマリアの言う通り、朝にはユーリの熱はひいていた。ローラとウィリーは、赤ん坊の熱にうろたえ、何も出来なかった自分たちを反省した。
過去の事に動揺していなければ、もっと早くユーリの異常に気づけたのではと思ったローラは、もう二度と捨てて来た場所の事は考えないと心に決めた。ウィリーも、もっとどっしりと構えて家族を守らなければと心に誓った。
「お熱ひいたわね~。良かったでちゅね」
額を離して熱が引いたのを確認したローラは、ほっとしてユーリに微笑みかける。
ユーリは竜を見て此処が地球ではないと悟った。
竜がいる世界! ショックを受けたが、こうして微笑みかけてくれる愛情深い両親がいるなら、地球でなかろうと、竜がいようと、どうでも良いような気がした。
有里は幼い時に両親を交通事故で亡くし、祖母に育てられた。祖母は優しい人だったが、やはり親のいない寂しさを感じながら育った。
狼と話せるパパと、植物と話せるママ。少し変わってるが、愛情深い両親に育てられ、農家の娘として成長するのは有里の『田舎でスローライフ』という望み通りかもしれない。
まぁ、竜は余計だけど……皆の反応からしてめったに見る物じゃ無いみたいだし関係ないと、ユーリは勝手に納得した。
関係ないと切り捨てられた竜。確かに、この田舎で竜を見る事は数年に一度あるかないかで、普通の人々と竜が関わる事は無い。でも、ユーリの家族は普通では無いという事実を無視していた。
ユーリは夏至祭の夜、熱をだした。
竜を見て興奮していた人々も、夕ご飯までには家に帰りたいとピクニックを片付けた。ウィリー達も赤ん坊がいるからと早めに家路についた。
朝のうきうきとした感じはなく、ウィリーもローラも無口だった。二人は、竜と、それに騎乗していた竜騎士に動揺していた。自分たちが捨てて来た世界を垣間見て、今の幸せな生活が脅かされるような気がしたのだ。
ユーリも変だと感じていたが、普通の人間は狼と話したりしないし、植物や風とも話さない。
『お帰り』ポーチからのっそりと立ち上がったシルバーに『ただいま』と留守番のお礼を言ってたウィリーは、ローラの叫び声に驚いた。
「ユーリ? ユーリ!……熱がある!」
町からの帰り道で、眠ってしまったユーリをベットに寝かしつけたローラは、ぐったりとした様子の我が子の額に額をつけ熱があるのに気がついた。
「こんな幼い赤ちゃんを、人ごみに連れて行ったからだわ」
ぐったりと横たわるユーリに、自責の念で、胸の締め付けられる。
ウィリーも動揺し、医者を呼んで来ると馬車を走らせたが、町には常勤の医者がいないのを途中で気づき、髪をかきむしった。そこに、夏至祭から帰るアマリア達が通りかかった。
「お医者さんはどこに居ますか? ユーリが熱をだして! お医者さんはどこに!」
血相を変えて質問してくるウィリーを無視して、よっこらしょ! と馬車に乗り込んで来たアマリアは、ユーリの様子を見てくるよと旦那を家に帰した。
「ユーリが熱なんです! お医者さんを呼んで来ないと!」
アマリアに家に連れて行っておくれと言われたウィリーは、医者を呼びに行かなければと抵抗した。
「ほら、さっさと家に帰んな! ローラは一人なんだろ。心細くて泣いてるかもしれないよ」
医者を呼んで来るにも時間がかかる。その間、ローラを一人きりにしておくよりは、何人もの子どもを育て上げたアマリアがそばに居てくれた方が安心だと、ウィリーは猛スピードで帰宅した。
「ああ、これは知恵熱だね! 心配いらないよ。赤ちゃんは熱を出すもんさ。水分補給をしっかりさせて、汗をかいたら下着を変えてやりな。朝にはケロリとしてるさ」
それでも心配だから医者を呼んで来るというウィリーを止めた。
「隣町にしか医者は居ないし、今から呼びに行っても真夜中を過ぎるよ。朝になっても熱が引かなかった時に、呼びに行けば良いんだよ」
アマリアの指示で、湯冷ましを飲ませると、少し熱も下がった。そろそろ新米パパママも落ち着いた頃だろうと、迎えに来た旦那の馬車に乗り込みながら、朝になれば熱はひいてるさとアマリアは帰って行った。
アマリアの言う通り、朝にはユーリの熱はひいていた。ローラとウィリーは、赤ん坊の熱にうろたえ、何も出来なかった自分たちを反省した。
過去の事に動揺していなければ、もっと早くユーリの異常に気づけたのではと思ったローラは、もう二度と捨てて来た場所の事は考えないと心に決めた。ウィリーも、もっとどっしりと構えて家族を守らなければと心に誓った。
「お熱ひいたわね~。良かったでちゅね」
額を離して熱が引いたのを確認したローラは、ほっとしてユーリに微笑みかける。
ユーリは竜を見て此処が地球ではないと悟った。
竜がいる世界! ショックを受けたが、こうして微笑みかけてくれる愛情深い両親がいるなら、地球でなかろうと、竜がいようと、どうでも良いような気がした。
有里は幼い時に両親を交通事故で亡くし、祖母に育てられた。祖母は優しい人だったが、やはり親のいない寂しさを感じながら育った。
狼と話せるパパと、植物と話せるママ。少し変わってるが、愛情深い両親に育てられ、農家の娘として成長するのは有里の『田舎でスローライフ』という望み通りかもしれない。
まぁ、竜は余計だけど……皆の反応からしてめったに見る物じゃ無いみたいだし関係ないと、ユーリは勝手に納得した。
関係ないと切り捨てられた竜。確かに、この田舎で竜を見る事は数年に一度あるかないかで、普通の人々と竜が関わる事は無い。でも、ユーリの家族は普通では無いという事実を無視していた。
13
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる