クズ聖王家から逃れて、自由に生きるぞ!

梨香

文字の大きさ
上 下
39 / 71
第二章 防衛都市までの道

アルシア町

しおりを挟む
 大きな街道から脇道に進路を変えた。森がより近くになり、魔物と遭遇するのも増えたけど、割と小物が多いので、『草原の風』が矢で射殺す。

「あの弓使い、凄いよなぁ!」
 急所をビシッと射抜く。私のは、たまに当たる程度だからなぁ。

「まぁ、練習するしかないさ」
 ルシウスに慰められた。女神様クレマンティア抜きだと、神聖魔法も簡単なのしか使えない。空間魔法は秘密にしているし、私って使えない奴じゃないの?

 ちょっと落ち込みながら、荷馬車の横を歩く。

 夕方になる頃、アルシア町の外壁が見えて来た。
「凄い厳重な壁なんだな」
 北の大陸でも大都会は高い厳重な壁で囲まれていたけど、田舎の町はせいぜい石が積んである程度だった。

「魔物が出るし、盗賊も出るからな! でも、中に入れば、少しは休めるさ!」

 アルシア町の外側は、畑になっていて、日中は外で畑仕事をする人もいるのだろう。
 畑の外側にも木の柵があるけど、魔物は気にしないんじゃないかな? 気分的な物なのかも。

 高い壁の上は人が歩けるようになっていて、門だけでなく、壁の上からも四方を見張っている。
 四隅には鐘が設置されているから、魔物が出たら鐘を叩くのだろう。

「カインズ商会の者だ。防衛都市カストラに行く途中だが、魔物の集団に襲われたので、二晩ここで休憩する」

 グレアムさんとハモンドさんが門の兵士に事情を説明する。

「魔物の集団? どんな魔物だったのだ?」

 兵士は気になるよね。近くに魔物の集団がいたと聞くと。

「ヴリシャーカピの集団だった。八十頭近く討伐したが、二十頭以上は逃げられた」

 兵士が苦い顔をした。ヴリシャーカピが嫌いなのだろう。私も嫌いだから、わかる。

「皮を鞣す職人がいるなら紹介してくれ!」

 これは、喜んで紹介してくれた。町の人の収入にもなるからだろう。

「荷馬車は、町の広場に止めてくれ。何か欲しい物がある住民もいるかもしれない」

 やっと中に入れた。ジャスが言っていたほど、のんびりはできない感じだよ。

 だって、荷馬車の周りに町の人が集まって来たからね。

「カピの皮を下ろしてくれ! 鞣して貰う。肉もできるだけ、加工して貰うから下ろしてくれ!」
 これらは、御者達の半分がしている。後の半分は、集まって来た町の人との交渉だ。

「アレク、馬の世話だ!」
 護衛任務には、これも含まれるみたいだね。
 アルシアの町の広場には、こういう商隊がよく来るのか、井戸も馬が水を飲む大きな桶も完備してある。

 力の強いジャスが水を汲む。今日は、浄水を出さなくても良さそう。
 それと、料理は宿屋がしてくれるみたい。寝るのは、テントだけどさ。

 馬の世話が終わると、それぞれが自分の武器の手入れを始める。

「アレク、矢を補充したり、ナタを研いで貰わなくて良いのか?」

 矢は、あまり無くなってはいない。使っていないとも言えるね。でも、補充できるならしておこう。

「ナタは研いでもらいたい。解体でかなり脂がついたから」

 ジャスやルシウスの真似をして、戦闘や解体の後は、一応は手入れをしたけどね。

「こりゃ、酷い! もっと手入れをしなきゃ駄目だぞ」

 ジャスに叱られた。ジャスの大剣、あれだけヴリシャーカピをぶっ切っていたのに、素人目からしたらピカピカだ。

「見張りの時に研いだりしなかったのか?」
 ルシウスにも呆れられた。

 兎も角、アルシア村の武器屋に向かう。

「何か用かい」
 あっ、無愛想な武器屋だ。交易都市エンボリウムの普通に対応してくれる武器屋の親父が懐かしい。

「ナタの手入れを頼む」と言ったら渋い顔をした。農具だと思われたのかも?

「うん? これは普通のナタでは無いのだな……良いだろ!」
 上から目線が気になるけど、ナタを五銀貨クランで研いでもらう。

「後、矢の補充をしたい」
 十本ほど買っておく。カピに当たったのは回収したけど、やはり曲がっていて使えないから。

 無愛想だけど、普通に手入れしてくれるし、売ってくれるから良かったのかも? 
『お前に売る矢は無い!』とか言われなくて。

 カインズ商会の人達は、アルシア村でも商売をするのに忙しそうだ。

『クレージーホース』のメンバーは、他の馬を柵の中に入れて護衛しながら、自分の愛するスレイプニルの世話をしている。

 私が用があるのは、『草原の風』のメンバーだ。矢の使い方と斥候の仕方を教えて貰いたい。

 それなのにクレアに捕まった。
「アレク、ベィビィに乗せてやろう」
 ちょっとそれは遠慮したい。

「馬に乗れないと護衛任務で困る時もあるぞ」
 オルフェも言い出す。親切心からだろうが、スレイプニルは馬より一回り大きいんだよね。

「馬には乗れる!」嘘じゃないよ。修道院には、院長の白いロバと荷馬車を引くための農耕馬が四頭飼ってあったからね。

 畑を耕したり、収穫した物を売りに行く時に、御者もしたけど、急なお使いの時は馬に乗ったから。まぁ、サーシャがだけどさ。

「それでも、練習した方が良いだろう?」
 どうやら信用されていないのかも。まぁ、私は馬に乗った事はないんだけどさ。

「スレイプニルじゃない方が良いのでは?」
 一回り大きいスレイプニルより、荷馬車を引いている馬の方が大人しそうだ。だって、魔物を蹴り殺していたからさぁ。遠慮したい。

「スレイプニルに乗れたら、馬なんか簡単だ!」
 クレア、親切なのか、強引なのか、押し切られた。

「ベィビィ、宜しく!」
 兎に角、ご機嫌を取っておく。鐙に片足を掛けて、身体強化で鞍の上に乗る。

「高いなぁ!」
 これ、本心! スレイプニルの上から見る景色、少し違って見える。

「良いだろう! アレクならスレイプニルも慣れると思うんだ」

 ちょこっとだけ、アルシア町の中を歩かせる。町の人は、やはりスレイプニルが怖いみたいで、さっと避ける。

 ぐるっと一周して、広場に戻る。
「乗せてくれて、ありがとう!」
 お礼を言っていると、ルシウスが側に来て「アレクはやらないぞ」とクレアに牽制した。
「ふふん、それはアレクの自由じゃないかな?」
 いや、護衛任務中心の『クレイジーホース』はちょっと嫌かも? かと言ってダンジョンがどうなのかも知らないんだけどね。

「神聖魔法使いは、引く手数多なのさ。一番初めに唾をつけたからといって、そのまま仲間にするのは狡いぞ」

 ふぅ、クレアには悪いけど、今は星の海シュテルンメーアで修業中なんだよ。

「俺は、自分で星の海シュテルンメーアに入ったんだ。他に移りたくなったら、その時に決める」
 
 当分は一緒だと思う。でも、アイテムボックスを使うなら、一人の方が楽なのかも? 兎も角、冒険者の基礎も知らないから、教えて貰いたい。これって、狡い? 

 いや、マジックバッグを作って、広めたら? なんて、二人のエキサイトした口喧嘩を聞きながら考えていた。
 ジャス、いつもならバッサリ切るのに、クレア相手だと本当に意気地なしだね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...