クズ聖王家から逃れて、自由に生きるぞ!

梨香

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第二章 防衛都市までの道

初めての見張り当番

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 ルシウスがカインズ商会のグレアムとハモンドと話している間も、キャンプ地の設営は着々と進む。
 テントが二つ、一つはカインズ商会オンリー。こっちにグレアムとハモンドと御者の一部が寝るみたい。
 もう一つは、御者の残りと護衛達。私たちは、こっちだね。

「グレアムさんと話を付けてきた。今日、明日は大丈夫だけど、水の樽が空になったら、浄水を入れて欲しいそうだ。アレク、一樽で五銀貨クランにしかならないが、皆も助かるから引き受けてくれ」

 どうやら、川の上流で大雨が降ったようで水が濁っているみたい。その濁った水で調理したスープやお茶を飲むのは御免だから、引き受けよう!

「良いよ!」と簡単に言ったら、ジャスがぶつぶつ文句を言う。

「アレク、そんな甘い態度だと、とことんつけ込まれるぞ!」
 それって、クレアにかな? いつもはハッキリと文句を言うけど、ジャスの歯切れが悪いから、ちょっと意味がわからないよ。

「アレクは見張り当番は初めてだから、夜一だ。まぁ、星の海シュテルンメーアは三人だから、順番に回すけどな」
 ルシウスに言われて頷く。

「今夜は、夜一のは『クレージーホース』のオルフェと『草原の風』のバリーが一緒だから、アレクでも大丈夫だろう」

 うん? 他のパーティは四人、星の海シュテルンメーアは三人。これって、私たちはお休み無しなの? ちょっと不満な顔をしたみたい。

「今夜は、まだまだ交易都市エンボリウムに近いから、魔物も盗賊も出ないだろう。でも、森の奥や山岳地帯になると、夜中の二番目は他のパーティは、二人出してもらう。まぁ、時には休める日も組んで貰えるさ」

 そんな交渉は、リーダーのルシウスに任せよう!

「魔物が襲ってきたら、寝ている暇はなくなるから、今のうちに休んでおこうぜ!」
 ジャスは真夜中から三時、一番キツいと思うけど、朝の方が嫌いだと言っていたね。
 
「あっ、俺がジャスを起こすのか?」
 そして、ジャスが寝ていた場所で寝るの? まぁ、他の奴の後で寝るのも何だかなぁって気がするから、良いけどね。

 食事は、スープとパンとビッグボアを焼いた物。ジャスとルシウスは、エールを飲んでいるけど、この後、見張り当番だから我慢しよう。

 キャンプ地は、荷馬車を周りに止め、馬やスレイプニルを簡単な柵に繋ぐ。荷馬車の中の広場にテントが二個。
 食事を作った後の焚き火の周りで、見張り当番はするのだ。でも、時々は周囲を見回る必要もあるみたい。

 魔法の脳内地図マッパエムンディで、見たら良いのだけど、初めての見張り当番だから、先輩達の遣り方に従うよ。

『クレージーホース』のオルフェは、茶髪の大男だ。一見、とっつき難くそうだけど、浄水をスレイプニルが気に入ったので、にこりとした顔は、まぁまぁハンサムに見えたよ。

『草原の風』のバリーは、浅黒い細い人で、しなやかな動きをする。勿論、足音なんか立てないし、弓を持っている。腰のナイフだけでなく、あちこちに隠し持っているのは、顔合わせの時のナイフ投げで知っているよ。

「ちゃんと、見張りをするんだぞ!」
 そう、偉そうに私に言って、ジャスはテントに行く。他の人もサッサと眠ったみたい。

 焚き火の周りに、三人で座っているけど、何だか落ち着かない。あまり知らない人と黙っているのって、気まずいよね?

「見回りに行ってくる!」と立ちあがろうとしたら、オルフェに止められた。

「アレク、見張り当番は初めてか? まだ、皆が寝静まってもいない時から、見回りに行く必要はないさ」

 バリーも頷いているから、座る。何だか、新人丸出しで格好悪い! 恥ずかしい!

「誰でも新人の時はあるさ。見回りする時は、二人でするんだ。一人は残っているけどな」

 オルフェに色々と教えてもらう。

「今回はカインズ商会だから、楽なんだぞ。途中の村に泊まることもあるからな」
 
「へぇ、知らなかったよ」と言うと、バリーも教えてくれる。

交易都市エンボリウム防衛都市カストラの間の護衛は、まだ楽な方さ。自由都市群パエストゥムとの間には盗賊が多い。本当に気が休まらない」

 苦い口調なのはわかる気がする。魔物は、討伐しなくちゃいけないし、肉とか魔石とか皮とか討伐部位も手に入る。
 でも、盗賊ってレッドウルフのもっと悪い奴の集団だよね! 絶対に嫌だよ!

「何故、盗賊なんかになるんだろう?」

 二人に苦笑された。

防衛都市カストラに一攫千金を夢見て行く冒険者は多い。だが、依頼を受けてもなかなか上級には上がれない者がほとんどだ。努力をするのが嫌になり、楽な方に転がり落ちる者もいるのさ」
 
 ううっ、私なんか中級になったばかりだよ。それも、ほとんど、女神様クレマンティアの加護頼りだしね。

「それと、良い仲間に恵まれるかどうかの運もあるな。俺は、斥候だからダンジョンに潜る時は『草原の風』から抜ける場合が多い。その時に、組むメンバーによっては、凄く楽に進める場合もあるし、死にそうな目に遭う時もある」

「えっ、パーティを組んでいるのに、他の人とダンジョンに行くのですか?」

 驚いた! ずっと、ルシウスとジャスと一緒だと思っていたから、足元が揺らいだ気がする。そりゃ、いつかは薬師で食べていけたら良いなとか、考えたりしているけど、先の先の夢って感じだからさ。

「それは、パーティごとに違うさ。『クレージーホース』はダンジョンに向かないパーティだから、魔物討伐もするが、ほぼ護衛依頼だ。だから、この数年は固定メンバーだぞ」

 そうか、スレイプニルの水や餌をダンジョンでは用意できないのかも?

「ダンジョンから出た時、良い護衛依頼があれば『草原の風』のメンバーで集まる感じかな? 今でも、ダンジョンに潜っているメンバーも二人いるぞ」

 へぇ、そういう緩い縛りのパーティも良いのかも?

「そろそろ見回りに行こう! アレクついて来い!」
 
 初めての見張り当番は、先輩のオルフェとバリーの指示に従って、休む、見回り、休む、見回りを繰り返して終わった。

「次の奴を起こして、交代だ!」
 オルフェもバリーも慣れているから「交代だぞ!」と肩を叩いて起こし、その場所に横になる。

「ジャス!」と起こそうとしたけど、もう起きていた。
「アレク、サッサと寝ろよ!」
 チェッ、言われなくたって寝るよ! と思ったけど、なかなか寝付けなかった。いびき、誰だか知らないけど、うるさいんだよ!
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