クズ聖王家から逃れて、自由に生きるぞ!

梨香

文字の大きさ
上 下
21 / 71
第一章 クズ聖王家から逃げるぞ!

オーク!

しおりを挟む
 ギルド長の部屋で、隊長と一緒に座る。
「バンズ隊長、オークが交易都市エンボリウムの近くの森に移動したようだな」
 隊長の名前がわかったけど、それより喉が渇いている。

「あのう、俺は下でエールが飲みたいのですが……くたくたなので」
 ギルド長が秘書にお茶を持ってくるようにと命じる。お茶より、エールが欲しいとは言えない雰囲気だ。

 お茶を一口飲み、喉を潤す。
「それで、アレク、どこで二頭のオークを討伐したのだ? 場所は分かるか? どう言う状況だったのだ?」

 矢継ぎ早のギルド長の質問だ。
火食い鳥カセウェアリーの生息域、三角岩の辺りです」

 ギルド長と隊長は、秘書が持ってきたお茶には口も付けず「クソッ!」と罵る。

「近いな! 前にオークを討伐したのは、二年前か! また湧いたのだな」
 ギルド長の言葉に、バンズ隊長も渋い顔だ。
「三角岩は、交易都市エンボリウムに近すぎる!」

 後は、お偉いさん達に話し合って貰おう! 私は、ビッグボア二頭とオーク二頭の代金を貰わないとね! それに、お茶ではなくエールが飲みたい!

「失礼します!」
 席を立とうとしたら、二人に睨まれた。
「おい、何処に行くつもりだ! アレクには詳しく状況を説明してもらわないと、討伐隊を派遣できないからな!」

「ええっ! もう全部話しましたよ。俺はクタクタだし、腹が減っているから、下でエールとステーキを食べたいです」

 二人にギロリと睨まれて、考えながら、状況を説明する。

火食い鳥カセウェアリーの依頼を受けたので、生息域を調べて三角岩まで行きました。火食い鳥カセウェアリーを捕まえて、解体している時にビッグボアを見かけた。でも、討伐しても持って帰れないから、気づかれないうちに帰る事にしたのです」
 ここまでは、二人とも、ふむ、ふむと頷いていた。中級の冒険者として、ごく普通の行動なのだろう。

「ギルドに戻って火食い鳥カセウェアリーの依頼部位を納め、まだビッグボアがいるかもしれないと思いました。それで、荷車を借りて森の奥まで行ったら、ビッグボアがまだいたので討伐したんです」
 ここら辺から、二人が首を捻っている。

「ギルドから森の奥まで、荷車を引っ張って行ったのが早すぎないか?」
 転移で飛んだとは言えない。

「俺は、身体強化が使えるから。荷車があるから、それに乗せて帰っても良いけど、解体料金を払うのが勿体無いから、そこでビッグボアを解体する事にした。血の匂いを嗅ぎつけたのかオークがやってきたので、討伐しました。これで全部ですよ」
 
 自分で話していても、嘘くさい! でも、ほぼ真実なんだよね。ビッグボアは、昨日討伐したんだけどさ。誤差だよ!

「ふぅ、冒険者ギルドの中級っていうのは、とても凄腕なのですね。火食い鳥カセウェアリーを討伐し、ビッグボアを二頭討伐して解体中に、オーク二頭討伐ですか?」
 バンズ隊長が呆れている。

「まぁ、アレクは特殊だからな。兎に角、三角岩の付近でオークと遭遇したのは、間違いないだろう。下でエールでもステーキでも好きにしてくれ! ただし、ギルド内にいて欲しい」

 それは困る!
「えええっ、俺は買取りして貰ったら、買い物に行きたいのです。矢ももっと欲しいし、武器屋に頼んでいるナタとスコップ、それに手入れして貰っているナイフも取りに行きたいから」

 文句を言ったら、ギルド長に睨まれた。元金級、おっかない!

「やはり冒険者になったばかりのヒヨッコだな。オークが街の近くにいる意味がわかっていない。下でエールを飲みながら、ルシウス達に説明してもらえ!」

 まぁ、兎も角、エールにはありつきそうだ。なんて呑気な事を考えながら、下に降りたら、蜂の巣を突いたような大騒動だった。

「アレク、お前がオークを二頭も討伐したと皆が言っているが、本当か?」
 ルシウスが真剣な顔で訊ねる。

「ああ、火食い鳥カセウェアリーの依頼を受けて、三角岩に行ったんだ。そこで、ビッグボアを二頭、見かけたから、ギルドに依頼部位を納め、荷車を借りてから討伐したのさ。解体していたら、オークがやってきたから、討伐したんだ。二頭を持って帰るのは、大変だった」

 嘘を何回も言っていると、本当の事の様に感じてくるね。嘘つきは、泥棒の始まりと言うけど、泥棒から私の転生人生は始まったからね。

「兎に角、買い取って貰ったお金を貰おう。その後で、エールだ!」
 
 騒つくギルド内だけど、受付には何人も並んでいる。私も並ばなきゃ!

「三角岩でオークを討伐したのか! おい、本当に?」
 ルシウス、顔が怖いよ!
「嘘じゃないさ! 火食い鳥カセウェアリーの生息域を調べて、三角岩に行ったんだからな!」

 ギルド内の騒めきが大きくなる。
「三角岩は、交易都市エンボリウムに近すぎる!」
 かなり森の奥だと思っていたけど、銀級とかは、もっと奥まで行っているのかな?

「オークの小さな群れなら、もっと奥にいる筈だ! つまり、大きな群れで移動しているのだ」
「冬の間に、何処かの村、いや町が襲われたのか? オークが繁殖しているぞ!」
「何処の町だ? それか、商隊か馬車が何件か行方不明になっていたな。中には女や奴隷が乗っていたのもある!」

 オークが女を攫って犯すとは聞いたけど、もしかして繁殖をするのか? 女神様クレマンティア、なんと言う魔物を作ったのだ!

『ブッ、ブー! 本当に失礼な子ね! 私は魔物など作っていないわ! 魔物がいる世界で苦しんでいる人々を何とか救いたいと思って、頑張っているのよ! オークを殲滅しなさい・・・・・・・・・・!」

 女神様クレマンティアの神命が降り、凄い頭痛がして、椅子に座りこむ。
 オークの事を考えると、一気に食欲が失せた。でも、酔いたい気分だ。
 子どもさえ作れば、後は自由にして良いという約束だった筈だ。でも、オークは許せない! 

「エール、いやハチミツ酒が欲しい」
 酒場の女給に頼んだが、ジャスに止められた。
「エールにしておけ! 討伐隊が組まれるぞ。早くオークの巣を見つけて、殲滅しないと大繁殖するからな」

 初心者以外の全員がギルド内で待機している。エールを飲みながらも、誰も口を開かない。

 生ぬるいエールが苦く感じる。

 ギルド長とバンズ隊長が階段の途中で止まって、討伐隊の派遣を宣言する。
「一刻も早くオークの巣を見つけ、殲滅するぞ! 中級以上の冒険者は、全員強制参加だ!」
 ああ、絶対に髪が伸びる案件だ。その確信があった。女神様クレマンティアの怒りが、心の中で燃えていたから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...