クズ聖王家から逃れて、自由に生きるぞ!

梨香

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第一章 クズ聖王家から逃げるぞ!

凍える覚醒

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『冷たい!』
 私が覚醒した時、冷たい氷のような水の中だった。

 パリン! と私を護ってくれていたサーシャの魂が粉々になり、天へと一直線に飛び去った。

 残された剥き出しの魂の私は、寒さに凍え、即死しそう。溺れ死ななきゃだけどね。


『ああ、なんてクズばかりなのでしょう』

 ふっと、真っ白な空間に掬い上げられた。寒くない! 溺れていない! これだけでもありがたい。

『サーシャ……貴女には、砕け散った聖女サーシャの魂の代わりに、頑張って生きて貰います』

 私は、その声を発している方に目を向けた。凄い高貴なオーラを纏っているから、女神様だと分かったけど、どこか見覚えのある姿だ。
 銀髪に紫色の瞳、勿論、まだ少女のサーシャより、ゴージャスだし、オーラが違うけどね。

『ふふふ……貴女は女神の愛し子、私の姿を写した身ですもの』

 サーシャが女神の愛し子? それは無いんじゃない! 猛烈に腹が立ってきた。

「愛し子をこんな酷い目に遭わせるなんて!」
 
 私は、サーシャの中で覚醒しないで護られて眠っていただけだけど、そりゃ、十五歳まで苦労の連続だったよ。

『それなりの加護を与えているから、サーシャは生き延びたのよ』

 シレッという女神様に、私は猛然と抗議する。

「赤ちゃんの時に殺されそうになったり、貧乏な修道院で飢えながら成長したわ。それに、やっと王家に引き取られた時には、隣国アスラの第四夫人! いぇ、そこまではサーシャは耐えていたのよ!」

 極貧の修道院生活、その中でもサーシャは頑張って、より貧しい子どもたちを食べさせようと野良仕事、それに魔物狩りもしていた。

 十五歳になった時、突然、王都に呼び出され、あのクズな聖王家の一員だと認められて、サーシャは喜んでいたのだ。これで、少しは貧しい人々を救えると!

「隣国の好色王アマースの第四夫人になれと命じられた時も、その見返りとしてもたらさられる支援が、少しでも貧しい国民の為に使われるならと……」

 女神様が、綺麗な眉を片方上げた。

『あのクズ達が、それを国民の為に使うものですか! 今すぐにでも、この国を滅ぼしてしまいたいぐらいだわ』

 ああ、やっぱりね! 覚醒前だったから、ぼんやりとしか状況判断できなかった。なんとかサーシャに『逃げるのよ!』と伝えようとしたのだけど、本人の意思が強くて無理だったのだ。

『貴女は、聖女には向かない性格だけど、あちらの世界の知識も持っているわ。何とか生き延びて、聖女になる子孫を残して欲しいのです』

 えっ、やはり私はこの世界の生まれでは無かったんだ。ぼんやりとした意識の中でも、科学が発展していない生活に違和感があったんだよね。

「では、私の子どもが聖女になるのですか?」

 女神様は、首を傾げている。未来を読んでいるのかな?

『そうかもしれないし、孫、曾孫に聖女? 聖人? 聖王? が生まれるのかもしれないの。未来は複雑で、私にも不確定要素が多くて、全てを見透す事はできないの。できていたら、このクズ聖王家になる前に潰していたわ』

 私は、女神様をジッと睨みつける。分かっていても、教えてくれる気が無いのかも?

『本当に貴女は、サーシャとは違うわね。でも、生き抜いていくのには、そちらの方が良いのかも』

 勝手な女神様に腹が立った。ああ、人間なんて蟻ぐらいにしか思っていないのだろう。

「私は、子どもを産むなんて気はないわ! こんな文明が未発達な世界でお産なんて命懸けじゃない!」

 そう、前の世界だって、お産で命を落とす人もいた。お風呂だって、滅多に入らないこの世界で、お産なんて御免だよ。不潔な産婆のせいで、産褥熱で死んじゃいそう。

『ふぅむ、困った子ねぇ。こちらは、彼方とは違うけど、魔法があるから大丈夫よ。それに、貴女には私の加護があるから、安産になるわ』

 はぁぁ、全く私の意思を無視している女神様だね。

「こちらの男性で、女性の意思を尊重してくれる人なんて会ったことも無いし、そんな奴の子なんて産みたく無いんです!」

 修道院でも、男性の修道院長は威張っていたし、自分の食事は一品多くしていた。サーシャの父親も兄弟もクズばっかりだったからね。

『まぁ、あんなクズばかりではないわ。それに、貴女の好きな相手と子どもを作ってくれれば良いのよ。世の中には素敵な男性もいるわ』

 どうやら、サーシャの血が重要みたい。それなら、交渉しなきゃね! 好色な隣国の第四夫人なんて、私は御免だからさ。

「どうしても子どもを産まないといけないのなら、もっと加護が必要です。素敵な男性と巡り合えるまで、生き延びないと話にならないから」

 そう、貧乏で立ち場が弱くては、素敵な男性を選ぶどころではない。
 この世界では、弱い女性はとことん酷い目に遭うのだ。サーシャの母親マリアも、あのクズ聖王パーベェルに手をつけられ、子どもを産み、クズ王妃オルグェーヌに殺されたのだ。
 サーシャも一緒に殺される筈だったのに、生き延びたのは女神様クレマンティアの加護のお陰みたいだけどさぁ。過酷すぎるよ!

『ふぅ、彼方の世界の神様も要求が多いと嘆いていらした通りね。まぁ、仕方ないわ。どの様な加護が欲しいの? その代わり、子どもは産むと約束してね!』

 子どもを産むのは嫌だけど、これを承諾しないと話は進まない。第四夫人、まっしぐらだよ。

「もしかして、サーシャの魂が宿るのでしょうか?」

 女神様クレマンティアは、にっこり笑って答えない。本当に身勝手だよ! 寛容クレマンティアなんて、嘘だね!

『まぁ、なんて無礼な子でしょう。でも、私は寛容だから許してあげますわ。さぁ、さっさと加護を願いなさい』

 よっしゃぁ! 頑張って交渉するぞ! 先ずは、第四夫人になる運命を避けなきゃ。
 その為には、輿入れ道中で逃げ出す必要がある。
 サーシャには、その知識がない。勿論、中で眠っていた私にもね。
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