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第十三章 迫る影
4 エスメラルダと緑の魔力
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「エスメは船に乗るのは初めてだったよね、大丈夫かい?」
結婚式を済ませた後に、モリソンの湾の突き出した半島に建てられた屋敷で二人っきりの時間を過ごしたショウとエスメラルダは、その間にジェープレス基地に先行させていたブレイブス号にサンズとルカで舞い降りた。
エスメラルダはショウに肩をだかれて、サンズの交尾飛行の後の夜を思い出しポッと頬を染めたが、荷物などを部屋に運ぶ侍女を手伝おうと慌てる。
「侍女に任せておけば大丈夫だよ」
今まで巫女姫とはいえ、村人と同じ生活をしていたエスメラルダは、王太子の妻として侍女が常に側にいて用事をしてくれる生活に慣れるのに時間がかかりそうだ。
「でも……やはり、荷物を片づけるのを手伝うわ」
衣装櫃を運ぶのは乗組員や侍女に任せるが、片づけたりは自分でしたいと船室に降りるエスメラルダを、ショウはやれやれと見送る。ララやロジーナも出航の時は、荷物を片づける為に船室に降りたが、それは侍女を手伝うのではなく、監督する為だった。
「ご結婚おめでとうございます、綺麗な花嫁様ですね」
花嫁が船室に降りたのを見計らって、ワンダー艦長が声をかける。
「ワンダー、ありがとう。早くメーリングに着きたいんだ」
ワンダー艦長もサンズが航海中に卵を産むのは心配だったので、バージョン士官に帆を全開にさせろと命じる。ヒヨッコだった士官候補生達も少しは使えるようになり、きびきびと乗組員達に指示を出していく。
パアッと広がった真っ白な帆の上に、王太子の旗艦の印である金で縁取られた青色の三角旗がたなびいている。真っ白の翼を広げた真白が、マストのてっぺんに止まり、海風を気持ちよさげにうける。
ショウが帆に風を送り込むと、帆はパアンと膨らみ、ブレイブス号はぐんとスピードをあげた。ワンダー艦長は胸いっぱいに新鮮な海風を吸い込んで、いつ見ても惚れ惚れする風の魔力だと崇拝の目をむける。
『ショウ、そんなに急がなくても、二週間は産まれないよ』
サンズに魔力を使い過ぎないようにと注意されたショウは、優しい騎竜にもたれて、そっちこそ大丈夫なのかと尋ねる。
『パトリックの騎竜ペリーと交尾飛行して、その上ヘインズの騎竜モリーとだろ……疲れてないのか?』
サンズは若いから平気だよと、満足そうに目を閉じ、ショウも寄りかかって、のんびりと帆に風を送り込む。
横に寝そべっているルカは、少しサンズを羨ましそうに見ていたが、エスメラルダがやっと片付けを終えて甲板に出で来て、目の周りを掻いてくれたので、満足そうに目を閉じた。
ウォンビン島で、エスメラルダは昔の同胞に歓待され、ブレイブス号の乗組員達も交代で休息を取り、メーリングを目指す。
「これなら余裕をもって着きそうだ」
本当ならウォンビン島でもっと時間を過ごしたかったが、サンズの卵を大使館の竜舎で落ち着いて産ませたかった。
「サンズが卵を産んだら、孵るまでは側に付いてやりたい」
新婚旅行中だけど、その間はカミラ夫人と見物をして貰うかもとショウはエスメラルダに謝る。
「まぁ、そんなことを謝らないで下さい。騎竜が卵を産むのは、とてもおめでたいことですもの」
ここまでは本題では無いのだと、ショウは覚悟を決める。
「イルバニア王国の首都ユングフラウは、竜に護られているんだよ。リューデンハイムという竜騎士を養成する学校があってね、そこに私の妹のエリカと、婚約者のミミが通っているんだ」
風に乗って途切れ途切れ途切れにショウ王太子と新妻の会話がワンダー艦長の耳に届き、大変だなぁと同情する。
エスメラルダは父親のヘインズから、ショウ王太子の妻や婚約者について説明を受けていたので、大丈夫だと微笑む。ショウは大人の対応のエスメラルダにホッとしたが、ミミはどうだろうなぁと、溜め息をついた。
『ショウ! 何か問題なのか? ヘビをとるのは得意だ!』
マストから真白がショウの肩に舞い降りて、手伝いを申し込むが、ミミの気を宥めてくれとは頼めないので、気持ちだけ貰っておくと、のどの羽根を撫でる。
航海は順調で、未だ半月になる前にメーリングに着いた。
「まぁ! とても賑やかそうな港町ですねぇ!」
モリソンも栄えてきてるが、未だメーリングの足元にも及ばないなとショウは笑う。
「レイテはメーリングに劣らず栄えているよ」
いつか見せてあげようと、肩を抱き寄せる。
『ねぇ、未だ産みはしないけど、竜舎でイルバニア王国の美味しい牛を食べたいな。ルカにも美味しいと話したから、早く食べさせてあげたいんだ』
サンズに急かされて、荷物を乗せるとメーリングの領事館へと飛び立つ。真白も負けずとついてくる。
領事館のタジン領事は、前触れもなく訪れたにもかかわらず、熱血歓迎してサンズとルカにも丸々と肥った牛を、そして真白にも柔らかな子山羊を与えてくれる。
『美味しい牛だねぇ!』
ウォンビン島の山羊も美味しかったけど、イルバニア王国の牛は脂がのってて美味しいと、サンズとルカはご機嫌だ。
『まぁ、そんなに美味しかったの? ショウ様、領事様にお礼を申しあげて下さい』
ショウ王太子から礼を言われて、タジン領事は満足そうに頷いたが、ハッと裏庭のバラが次々と開くのを見て驚く。
「ショウ王太子は緑の魔力もお持ちなのですか? いえ、違いますね! これはエスメラルダ様の力なのですね」
浮き浮きと話すタジン領事に、秘密厳守だよ! と念を押したショウだが、そんなの当たり前です! と言い返されてしまった。
「それに、ユングフラウには緑の魔力持ちのユーリ王妃がいらっしゃいますから、常にバラが花盛りです。エスメラルダ様の力はバレたりしませんよ」
なるほどと、納得しているうちに、さぁ、宴会! と張り切るタジン領事を止めるのが遅れてしまったショウは、本当に東南諸島の男は宴会好きで困るとエスメラルダに愚痴るのだった。
結婚式を済ませた後に、モリソンの湾の突き出した半島に建てられた屋敷で二人っきりの時間を過ごしたショウとエスメラルダは、その間にジェープレス基地に先行させていたブレイブス号にサンズとルカで舞い降りた。
エスメラルダはショウに肩をだかれて、サンズの交尾飛行の後の夜を思い出しポッと頬を染めたが、荷物などを部屋に運ぶ侍女を手伝おうと慌てる。
「侍女に任せておけば大丈夫だよ」
今まで巫女姫とはいえ、村人と同じ生活をしていたエスメラルダは、王太子の妻として侍女が常に側にいて用事をしてくれる生活に慣れるのに時間がかかりそうだ。
「でも……やはり、荷物を片づけるのを手伝うわ」
衣装櫃を運ぶのは乗組員や侍女に任せるが、片づけたりは自分でしたいと船室に降りるエスメラルダを、ショウはやれやれと見送る。ララやロジーナも出航の時は、荷物を片づける為に船室に降りたが、それは侍女を手伝うのではなく、監督する為だった。
「ご結婚おめでとうございます、綺麗な花嫁様ですね」
花嫁が船室に降りたのを見計らって、ワンダー艦長が声をかける。
「ワンダー、ありがとう。早くメーリングに着きたいんだ」
ワンダー艦長もサンズが航海中に卵を産むのは心配だったので、バージョン士官に帆を全開にさせろと命じる。ヒヨッコだった士官候補生達も少しは使えるようになり、きびきびと乗組員達に指示を出していく。
パアッと広がった真っ白な帆の上に、王太子の旗艦の印である金で縁取られた青色の三角旗がたなびいている。真っ白の翼を広げた真白が、マストのてっぺんに止まり、海風を気持ちよさげにうける。
ショウが帆に風を送り込むと、帆はパアンと膨らみ、ブレイブス号はぐんとスピードをあげた。ワンダー艦長は胸いっぱいに新鮮な海風を吸い込んで、いつ見ても惚れ惚れする風の魔力だと崇拝の目をむける。
『ショウ、そんなに急がなくても、二週間は産まれないよ』
サンズに魔力を使い過ぎないようにと注意されたショウは、優しい騎竜にもたれて、そっちこそ大丈夫なのかと尋ねる。
『パトリックの騎竜ペリーと交尾飛行して、その上ヘインズの騎竜モリーとだろ……疲れてないのか?』
サンズは若いから平気だよと、満足そうに目を閉じ、ショウも寄りかかって、のんびりと帆に風を送り込む。
横に寝そべっているルカは、少しサンズを羨ましそうに見ていたが、エスメラルダがやっと片付けを終えて甲板に出で来て、目の周りを掻いてくれたので、満足そうに目を閉じた。
ウォンビン島で、エスメラルダは昔の同胞に歓待され、ブレイブス号の乗組員達も交代で休息を取り、メーリングを目指す。
「これなら余裕をもって着きそうだ」
本当ならウォンビン島でもっと時間を過ごしたかったが、サンズの卵を大使館の竜舎で落ち着いて産ませたかった。
「サンズが卵を産んだら、孵るまでは側に付いてやりたい」
新婚旅行中だけど、その間はカミラ夫人と見物をして貰うかもとショウはエスメラルダに謝る。
「まぁ、そんなことを謝らないで下さい。騎竜が卵を産むのは、とてもおめでたいことですもの」
ここまでは本題では無いのだと、ショウは覚悟を決める。
「イルバニア王国の首都ユングフラウは、竜に護られているんだよ。リューデンハイムという竜騎士を養成する学校があってね、そこに私の妹のエリカと、婚約者のミミが通っているんだ」
風に乗って途切れ途切れ途切れにショウ王太子と新妻の会話がワンダー艦長の耳に届き、大変だなぁと同情する。
エスメラルダは父親のヘインズから、ショウ王太子の妻や婚約者について説明を受けていたので、大丈夫だと微笑む。ショウは大人の対応のエスメラルダにホッとしたが、ミミはどうだろうなぁと、溜め息をついた。
『ショウ! 何か問題なのか? ヘビをとるのは得意だ!』
マストから真白がショウの肩に舞い降りて、手伝いを申し込むが、ミミの気を宥めてくれとは頼めないので、気持ちだけ貰っておくと、のどの羽根を撫でる。
航海は順調で、未だ半月になる前にメーリングに着いた。
「まぁ! とても賑やかそうな港町ですねぇ!」
モリソンも栄えてきてるが、未だメーリングの足元にも及ばないなとショウは笑う。
「レイテはメーリングに劣らず栄えているよ」
いつか見せてあげようと、肩を抱き寄せる。
『ねぇ、未だ産みはしないけど、竜舎でイルバニア王国の美味しい牛を食べたいな。ルカにも美味しいと話したから、早く食べさせてあげたいんだ』
サンズに急かされて、荷物を乗せるとメーリングの領事館へと飛び立つ。真白も負けずとついてくる。
領事館のタジン領事は、前触れもなく訪れたにもかかわらず、熱血歓迎してサンズとルカにも丸々と肥った牛を、そして真白にも柔らかな子山羊を与えてくれる。
『美味しい牛だねぇ!』
ウォンビン島の山羊も美味しかったけど、イルバニア王国の牛は脂がのってて美味しいと、サンズとルカはご機嫌だ。
『まぁ、そんなに美味しかったの? ショウ様、領事様にお礼を申しあげて下さい』
ショウ王太子から礼を言われて、タジン領事は満足そうに頷いたが、ハッと裏庭のバラが次々と開くのを見て驚く。
「ショウ王太子は緑の魔力もお持ちなのですか? いえ、違いますね! これはエスメラルダ様の力なのですね」
浮き浮きと話すタジン領事に、秘密厳守だよ! と念を押したショウだが、そんなの当たり前です! と言い返されてしまった。
「それに、ユングフラウには緑の魔力持ちのユーリ王妃がいらっしゃいますから、常にバラが花盛りです。エスメラルダ様の力はバレたりしませんよ」
なるほどと、納得しているうちに、さぁ、宴会! と張り切るタジン領事を止めるのが遅れてしまったショウは、本当に東南諸島の男は宴会好きで困るとエスメラルダに愚痴るのだった。
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