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第十章 結婚生活
17 シェパード大使の憂鬱
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ショウがマリオ島で二度目の新婚旅行を楽しんでいた頃、レイテのカザリア王国大使館では、シェパード大使が本国からの手紙で頭を悩ましていた。
「父上、そろそろエドアルド国王陛下も我慢の限界ですよ。私をわざわざ派遣なさるぐらいですから……外務省での初の特命任務が、ターシュを連れ帰ることだなんて、私もがっかりですよ」
ユリアンは、息子の愚痴など聞いている場合では無かった。
「ジュリエット! 何故だぁ! お前、母上から何か聞いていないか?」
顔色を変えた父上にベンジャミンも驚いて、ぷるぷると震える手に持っている母上からの手紙に何が書いてあったのかと、疑問が湧いてきた。
「父上? 母上から何か……」
ガシッとベンジャミンの肩を掴んで、ユリアンは詰問する。
「ジュリエットに恋人でもできたのか? お前や可愛い娘が2人もいるというのに、離婚したいと手紙で告げてきた」
ベンジャミンは中年の危機に瀕した両親の問題にかかわるつもりはなかったが、自分の任務達成の為には、大使である父上にシャンとしてもらわないと困る。
「まさか、母上に限って浮気などされませんよ。父上がニューパロマに帰って来られないので、寂しく思っておられるのでしょう。それに……浮気は父上の方ではないですか? レイテの妓廊に、ちょくちょく出掛けておられるとか……」
息子の肩から手を外して、コホンとわざとらしく咳払いする。
「あれは、それだ……私は音楽に造詣が深く、東南諸島の民族音楽を修得する為に通っているだけだ。それに大使として、ほら、お付き合いとかもあるのだ! お前も外交官の端くれなら、わかるはずだ。だが、母上にはこのことは内緒だぞ」
単身赴任の父上が綺麗な芸妓と遊ぼうが、大人のベンジャミンは知ったことでは無いと思ったが、母上との離婚は厄介だと眉を顰める。
「父上! 駐東南諸島連合王国大使を何年やっておられるのですか? そろそろ本国に帰る時期でしょう。妹達も婚約しましたし、母上は父上抜きの婚約披露パーティーなど格好がつかないと嘆いておられますよ」
ユリアンは深い溜め息をつく。
「私だってニューパロマが恋しいよ。国のハロルドは、東南諸島の秘密主義が理解できないんだ。外務大臣だからと、無茶な命令ばかりして……アスラン王の後宮のお気に入りなんて、誰にもわからないのに……。それに、ターシュの件は私の責任じゃないのに……責めるなら、ぼんくらな王宮の鷹匠だろう! アスラン王の無礼な鷹匠は、次々に卵を産ませているのに、何年も何をしていたんだ」
やさぐれた父上の愚痴を聞いていても仕方が無いと、ベンジャミンはターシュと雛達の現在の様子を詳しく説明して貰う。
「一度目に孵った雛達は、若鷹に成長して巣立ったよ。これで帰国できると思った途端、二回目の卵が産まれたんだ。そりゃあ白雪は綺麗な鷹だけど、ニューパロマの王宮にも可愛い雌鷹が何羽も……」
すぐに愚痴りだす父上を宥め、やっとべンジャミンは二回目の雛達の中に話せる鷹がいるのかどうかも、わかっていないと聞き出した。
「あの無礼な鷹匠によると、今回は白い雛と、茶色い雛が一羽ずつだそうだ。お前も会ってみればわかるが、あのように無礼な鷹匠など世界中探してもいないぞ。アスラン王は、よく首を刎ねないものだ」
その無礼な鷹匠に断られて、雛にも会って無いと愚痴る。これではエドアルド国王やマゼラン外務大臣が怒って、自分を派遣するはずだと溜め息をつきたくなる。
「父上、一回目の雛達で、雄の真白は話せるのですね。しかし、その真白はショウ王太子の側にいたいと言ってるのか……二回目の雛達の中には話せるのはいないのですか?」
息子にまで責められて、ユリアンはキレた。
「鷹と話せるのは、ショウ王太子しかいないんだから、仕方ないじゃないか。雛が孵る前から、探索航海やら、ローラン王国へ行ったきりなんだぞ」
ベンジャミンは、ショウの乗ったカドフェル号は、とうにレイテに到着している筈だと首を捻る。
「おかしいなぁ……私がメーリングを出航する時に、カドフェル号は港で碇泊していたが、あちらは軍艦なのだから途中で追い越した筈だ」
ショウが時間稼ぎで、カドフェル号に娯楽島で一日休暇を与えているとは知らないベンジャミンは変だと首をひねる。
「ともかく、ショウ王太子がレイテに帰港されたら、雛達に会わせて貰いましょう。ユングフラウで、何か用事を済ませておいでなのかもしれませんね」
ターシュと話せるショウが帰国するまでは、父上を見習って東南諸島の民族音楽でも聞きに行こうと、ベンジャミンは考えた。朝っぱらから妓廊に行くわけにもいかないと、ベッドに横たわり船旅の疲れを癒やしながら綺麗な芸妓を夢想していたベンジャミンは、父親に叩き起こされる。
「カドフェル号が帰港したぞ! 王宮に行こう!」
帰国したばかりで迷惑なのではと、ベンジャミンは礼儀に反すると注意したが、妻に離婚されては大変だと焦っている父上に引きずられるように王宮へ向かう。
「ショウ王太子に、至急お目にかかりたい」
カザリア王国の大使が王太子に会いたいと予約も無しに王宮に乗り込んで来たので、伝達がバッカス外務大臣まであがった。
「やれやれ、御子息のベンジャミン卿がレイテに派遣されたのは、ターシュの件でしょうかねぇ」
呑気そうなバッカス外務大臣だが、フラナガン宰相は少し苛ついている。
「バッカス外務大臣、その肝心のショウ王太子は何処ですかな?」
バッカス外務大臣はご存知でしょうにと肩を竦める。
「ララ妃と新婚旅行のやり直し中ですよ。さて、若いのに遣り手だと噂になっているベンジャミン卿に会いに行きましょうか」
フラナガン宰相は、ベンジャミン卿とバッカス外務大臣が恋仲になろうとなるまいと関心が無いが、アスラン王を見習ってショウが勝手に王宮を留守にするのを許したくなかった。
「ミヤ様に尋ねてみよう」
孫娘のファンナの件も話を詰めたいと、フラナガン宰相がミヤの部屋を訪ねている頃、シェパード大使とベンジャミン卿は新任のバッカス外務大臣に丁重にもてなされていた。
「シェパード大使、このような立派な跡取りがいらっしゃるとは心強いですね。ベンジャミン卿、レイテの滞在を楽しんで下さいね」
王宮の侍従達がお茶の用意をし、新任の外務大臣が自らもてなしてくれているのに、外交官としてはショウ王太子にすぐに会わせろとは言い出しにくい。
シェパード大使とベンジャミン卿は、何故かレイテの芸妓の紹介をされている状況に困惑し、バッカス外務大臣の話の持っていき方の上手さに内心で舌を巻いた。
「いや、その……レイテの綺麗どころでは無いのです。さっさとターシュを連れて帰国しないと……ショウ王太子にお目通り願います」
バッカス外務大臣が読み間違えるのは珍しいが、ユリアンは妻から離婚するぞと脅されていたのだ。
バッカスは、シェパード大使は珍しく強気だと内心で訝しむ。帰国早々の王太子に会わせろだなんて、無粋な真似をするような人物ではないと思っていたのだ。しかし、肝心のショウは、王宮にいない。どう誤魔化そうかと、バッカスは考えた。
王宮を抜け出して新婚旅行のやり直し中だなんて、外国の外交官に絶対に教えたくない。カザリア王国とは友好的な関係だが、この情報が他国に漏れて、王太子を危険な目に遭わせる可能性も無いとはいえないからだ。
「ああ、ショウ王太子は新婚ですから、後宮でとっても大事なご用の最中なのですよ。後宮には男は立ち入り禁止ですし、まぁ野暮な真似はできませんしねぇ」
暗にエッチの最中だから、お目通りは無理と断られて、シェパード大使とベンジャミン卿は思わず少年のように頬を染めて王宮を辞した。
バッカス外務大臣も自分を先に帰らして、王宮を抜け出す算段をしたショウに、少しばかり腹を立てていたので、好き者だと誤解されようが知ったことではないと肩を竦める。
「やれやれ、ショウ王太子が帰って来られるまで、日参しそうだわねぇ。まぁ、ベンジャミン卿とその騎竜には興味がありますから、丁重におもてなししましょう」
飛んで火にいる夏の虫だと、バッカス外務大臣は騎竜のマリオンに子竜を持たせてやれるかもしれない期待で、ほくそ笑んだ。
「父上~! だから、帰国早々は無理だと言ったのですよ」
気恥ずかしい思いで王宮を辞した馬車の中で、息子に愚痴られてユリアンはトホホな気分になる。
「だいたいターシュをショウ王太子に付いて行かせたエドアルド国王陛下が悪い! ジュリエット! すぐに帰国するから、離婚だけは思いとどまってくれ~」
両親の離婚は困るし、自分の特命任務もやり遂げたいが、父上のやる気が空回りするのではと、ベンジャミンは先行きが不安になった。
ベンジャミンは、後宮に篭るほど愛している妻がいるなら、メリッサとまで結婚しなくても良いのにと内心で愚痴る。
綺麗で、セクシーで、賢いメリッサを、ベンジャミンは思い浮かべて切ない気持ちになったが、まだ諦めきれない自分の初恋を外交官の仮面の下に隠した。
「父上! ターシュの羽根は、カザリア王国の紋章にもなっているのです。絶対に連れて帰りましょう!」
急にやる気満々になった息子が、ショウの許嫁のメリッサに未練を残しているのではと、恋愛感の鋭いシェパード大使はドキッとする。
「おぃおぃ……」
東南諸島の王太子の許嫁の姫君に横恋慕などするなと説教をしかけたが、青春真っ只中の息子に何を言っても無駄だと口を閉じた。自分の若気の過ちを思い出し、気をつけて監視する為にもニューパロマに早く帰国しなくてはと、ユリアンは溜め息をついた。
「父上、そろそろエドアルド国王陛下も我慢の限界ですよ。私をわざわざ派遣なさるぐらいですから……外務省での初の特命任務が、ターシュを連れ帰ることだなんて、私もがっかりですよ」
ユリアンは、息子の愚痴など聞いている場合では無かった。
「ジュリエット! 何故だぁ! お前、母上から何か聞いていないか?」
顔色を変えた父上にベンジャミンも驚いて、ぷるぷると震える手に持っている母上からの手紙に何が書いてあったのかと、疑問が湧いてきた。
「父上? 母上から何か……」
ガシッとベンジャミンの肩を掴んで、ユリアンは詰問する。
「ジュリエットに恋人でもできたのか? お前や可愛い娘が2人もいるというのに、離婚したいと手紙で告げてきた」
ベンジャミンは中年の危機に瀕した両親の問題にかかわるつもりはなかったが、自分の任務達成の為には、大使である父上にシャンとしてもらわないと困る。
「まさか、母上に限って浮気などされませんよ。父上がニューパロマに帰って来られないので、寂しく思っておられるのでしょう。それに……浮気は父上の方ではないですか? レイテの妓廊に、ちょくちょく出掛けておられるとか……」
息子の肩から手を外して、コホンとわざとらしく咳払いする。
「あれは、それだ……私は音楽に造詣が深く、東南諸島の民族音楽を修得する為に通っているだけだ。それに大使として、ほら、お付き合いとかもあるのだ! お前も外交官の端くれなら、わかるはずだ。だが、母上にはこのことは内緒だぞ」
単身赴任の父上が綺麗な芸妓と遊ぼうが、大人のベンジャミンは知ったことでは無いと思ったが、母上との離婚は厄介だと眉を顰める。
「父上! 駐東南諸島連合王国大使を何年やっておられるのですか? そろそろ本国に帰る時期でしょう。妹達も婚約しましたし、母上は父上抜きの婚約披露パーティーなど格好がつかないと嘆いておられますよ」
ユリアンは深い溜め息をつく。
「私だってニューパロマが恋しいよ。国のハロルドは、東南諸島の秘密主義が理解できないんだ。外務大臣だからと、無茶な命令ばかりして……アスラン王の後宮のお気に入りなんて、誰にもわからないのに……。それに、ターシュの件は私の責任じゃないのに……責めるなら、ぼんくらな王宮の鷹匠だろう! アスラン王の無礼な鷹匠は、次々に卵を産ませているのに、何年も何をしていたんだ」
やさぐれた父上の愚痴を聞いていても仕方が無いと、ベンジャミンはターシュと雛達の現在の様子を詳しく説明して貰う。
「一度目に孵った雛達は、若鷹に成長して巣立ったよ。これで帰国できると思った途端、二回目の卵が産まれたんだ。そりゃあ白雪は綺麗な鷹だけど、ニューパロマの王宮にも可愛い雌鷹が何羽も……」
すぐに愚痴りだす父上を宥め、やっとべンジャミンは二回目の雛達の中に話せる鷹がいるのかどうかも、わかっていないと聞き出した。
「あの無礼な鷹匠によると、今回は白い雛と、茶色い雛が一羽ずつだそうだ。お前も会ってみればわかるが、あのように無礼な鷹匠など世界中探してもいないぞ。アスラン王は、よく首を刎ねないものだ」
その無礼な鷹匠に断られて、雛にも会って無いと愚痴る。これではエドアルド国王やマゼラン外務大臣が怒って、自分を派遣するはずだと溜め息をつきたくなる。
「父上、一回目の雛達で、雄の真白は話せるのですね。しかし、その真白はショウ王太子の側にいたいと言ってるのか……二回目の雛達の中には話せるのはいないのですか?」
息子にまで責められて、ユリアンはキレた。
「鷹と話せるのは、ショウ王太子しかいないんだから、仕方ないじゃないか。雛が孵る前から、探索航海やら、ローラン王国へ行ったきりなんだぞ」
ベンジャミンは、ショウの乗ったカドフェル号は、とうにレイテに到着している筈だと首を捻る。
「おかしいなぁ……私がメーリングを出航する時に、カドフェル号は港で碇泊していたが、あちらは軍艦なのだから途中で追い越した筈だ」
ショウが時間稼ぎで、カドフェル号に娯楽島で一日休暇を与えているとは知らないベンジャミンは変だと首をひねる。
「ともかく、ショウ王太子がレイテに帰港されたら、雛達に会わせて貰いましょう。ユングフラウで、何か用事を済ませておいでなのかもしれませんね」
ターシュと話せるショウが帰国するまでは、父上を見習って東南諸島の民族音楽でも聞きに行こうと、ベンジャミンは考えた。朝っぱらから妓廊に行くわけにもいかないと、ベッドに横たわり船旅の疲れを癒やしながら綺麗な芸妓を夢想していたベンジャミンは、父親に叩き起こされる。
「カドフェル号が帰港したぞ! 王宮に行こう!」
帰国したばかりで迷惑なのではと、ベンジャミンは礼儀に反すると注意したが、妻に離婚されては大変だと焦っている父上に引きずられるように王宮へ向かう。
「ショウ王太子に、至急お目にかかりたい」
カザリア王国の大使が王太子に会いたいと予約も無しに王宮に乗り込んで来たので、伝達がバッカス外務大臣まであがった。
「やれやれ、御子息のベンジャミン卿がレイテに派遣されたのは、ターシュの件でしょうかねぇ」
呑気そうなバッカス外務大臣だが、フラナガン宰相は少し苛ついている。
「バッカス外務大臣、その肝心のショウ王太子は何処ですかな?」
バッカス外務大臣はご存知でしょうにと肩を竦める。
「ララ妃と新婚旅行のやり直し中ですよ。さて、若いのに遣り手だと噂になっているベンジャミン卿に会いに行きましょうか」
フラナガン宰相は、ベンジャミン卿とバッカス外務大臣が恋仲になろうとなるまいと関心が無いが、アスラン王を見習ってショウが勝手に王宮を留守にするのを許したくなかった。
「ミヤ様に尋ねてみよう」
孫娘のファンナの件も話を詰めたいと、フラナガン宰相がミヤの部屋を訪ねている頃、シェパード大使とベンジャミン卿は新任のバッカス外務大臣に丁重にもてなされていた。
「シェパード大使、このような立派な跡取りがいらっしゃるとは心強いですね。ベンジャミン卿、レイテの滞在を楽しんで下さいね」
王宮の侍従達がお茶の用意をし、新任の外務大臣が自らもてなしてくれているのに、外交官としてはショウ王太子にすぐに会わせろとは言い出しにくい。
シェパード大使とベンジャミン卿は、何故かレイテの芸妓の紹介をされている状況に困惑し、バッカス外務大臣の話の持っていき方の上手さに内心で舌を巻いた。
「いや、その……レイテの綺麗どころでは無いのです。さっさとターシュを連れて帰国しないと……ショウ王太子にお目通り願います」
バッカス外務大臣が読み間違えるのは珍しいが、ユリアンは妻から離婚するぞと脅されていたのだ。
バッカスは、シェパード大使は珍しく強気だと内心で訝しむ。帰国早々の王太子に会わせろだなんて、無粋な真似をするような人物ではないと思っていたのだ。しかし、肝心のショウは、王宮にいない。どう誤魔化そうかと、バッカスは考えた。
王宮を抜け出して新婚旅行のやり直し中だなんて、外国の外交官に絶対に教えたくない。カザリア王国とは友好的な関係だが、この情報が他国に漏れて、王太子を危険な目に遭わせる可能性も無いとはいえないからだ。
「ああ、ショウ王太子は新婚ですから、後宮でとっても大事なご用の最中なのですよ。後宮には男は立ち入り禁止ですし、まぁ野暮な真似はできませんしねぇ」
暗にエッチの最中だから、お目通りは無理と断られて、シェパード大使とベンジャミン卿は思わず少年のように頬を染めて王宮を辞した。
バッカス外務大臣も自分を先に帰らして、王宮を抜け出す算段をしたショウに、少しばかり腹を立てていたので、好き者だと誤解されようが知ったことではないと肩を竦める。
「やれやれ、ショウ王太子が帰って来られるまで、日参しそうだわねぇ。まぁ、ベンジャミン卿とその騎竜には興味がありますから、丁重におもてなししましょう」
飛んで火にいる夏の虫だと、バッカス外務大臣は騎竜のマリオンに子竜を持たせてやれるかもしれない期待で、ほくそ笑んだ。
「父上~! だから、帰国早々は無理だと言ったのですよ」
気恥ずかしい思いで王宮を辞した馬車の中で、息子に愚痴られてユリアンはトホホな気分になる。
「だいたいターシュをショウ王太子に付いて行かせたエドアルド国王陛下が悪い! ジュリエット! すぐに帰国するから、離婚だけは思いとどまってくれ~」
両親の離婚は困るし、自分の特命任務もやり遂げたいが、父上のやる気が空回りするのではと、ベンジャミンは先行きが不安になった。
ベンジャミンは、後宮に篭るほど愛している妻がいるなら、メリッサとまで結婚しなくても良いのにと内心で愚痴る。
綺麗で、セクシーで、賢いメリッサを、ベンジャミンは思い浮かべて切ない気持ちになったが、まだ諦めきれない自分の初恋を外交官の仮面の下に隠した。
「父上! ターシュの羽根は、カザリア王国の紋章にもなっているのです。絶対に連れて帰りましょう!」
急にやる気満々になった息子が、ショウの許嫁のメリッサに未練を残しているのではと、恋愛感の鋭いシェパード大使はドキッとする。
「おぃおぃ……」
東南諸島の王太子の許嫁の姫君に横恋慕などするなと説教をしかけたが、青春真っ只中の息子に何を言っても無駄だと口を閉じた。自分の若気の過ちを思い出し、気をつけて監視する為にもニューパロマに早く帰国しなくてはと、ユリアンは溜め息をついた。
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