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第ニ章 カザリア王国の日々
23 アレックス教授
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バギンズ教授の研究室から、アレックス教授の研究室までは遠くて、逃げるのを恐れたのか、ただ長身の教授とはコンパスの違いがあったからか、ショウは引きずられるように連れて行かれていたので着衣も乱れてしまった。
「もう、こんなに引っ張らなくても、逃げませんよ」
又、真名を読めと連れて来られたのかなと少しウンザリしながらショウは、乱れた服の打合せをなおしていた。その際に首から下げていた竜心石のネックレスが外に出ていたのに気づかなかった。
「ショウ君、それは!」
せっかく綺麗に整えた服の打合せを、又ぐしゃぐしゃにされて、首から下げているネックレスを持ち上げられたショウは首にチェーンが食い込んで、苦しいと叫ぶ。
「ああ、失礼! それは竜心石だね。東南諸島にあるとは聞いていたが、君が持っているだなんて知らなかった。少し、見せてくれるかな」
ショウは父上の竜心石と混同していると思ったが、誤解を解くのは面倒だと、無言でネックレスをアレックス教授に渡した。
「これは、今まで見た竜心石と少し違うね。私が見た竜心石は、中に青い炎がチラチラ燃えているように見えたんだ。こんなに輝いているのは、ユーリの竜心石以来初めてだ。色もエメラルドグリーンだし、中のは炎と言うより太陽の光が反射した海の青さみたいだ」
アレックス教授はジックリ眺めて満足したのか、ネックレスをショウに返した。ショウも父上の竜心石は、中に青い炎が燃えているように見えたのを思い出した。
「これは竜心石では無いのかもしれませんね。何か別の石かも……」
父上は竜心石だと言われたけど、何個もの竜心石を見た事のあるアレックス教授も、このような竜心石を見たことが無いと言ったので、ショウは首に掛けた時にチリチリした感じがしたのは静電気のせいだったのかもと考えた。
「別の石? 東南諸島連合王国に代々伝わっている竜心石では無いのですか? では、何処でその石を手に入れたのですか」
アレックス教授は自分用の竜心石があれば、実験に役立つと探していたが、そんじょそこらに転がっている物では無かったので、ショウがメーリングのバザールで買ったと聞いて悔しがった。
「一マークってことは、一クローネですよね~! 私がずっと探しているのに、手に入らないのは運が無いからなのかなぁ。これは竜心石だと思いますよ、今まで見たのとのは違うけど……そうだ! 良い事を思いついた! 竜心石の真名で活性化したら、竜心石だと確信できる」
一瞬、アレックスはユーリから秘密にするように言われたのを思い出したが、二十年も前の事だし時効だと勝手な解釈をする。
「竜心石の真名は『魂』なんだ。これを心に思い浮かべてみてくれないか」
そう言うとアレックスは、ノートに『魂』の文字を書いて、ショウに見せる。
「『魂』? 竜心石って竜の心の石……『魂』かぁ……」
ショウが『魂』の文字を思い浮かべた途端に、手に持っていた竜心石が輝きを増す。それと同時に風が巻き起こり、それでなくても書類や本が彼方こちらに無造作に投げ散らかされた研究室は、グチャグチャになってしまった。
「すいません、部屋を散らかしてしまって!」
アタフタと部屋に散らかった本や書類を拾い集めているショウを制して、アレックスは輝きを増した竜心石を見せてくれと頼んだ。
「やはり、これは竜心石ですよ。メーリングのバザールの屋台かぁ~。行ってみようかなぁ」
今すぐにでも行きそうな勢いにショウはたじたじになったが、大きな息をつくと竜心石を返した。
「ショウ君、君には竜心石が必要だから、きっと引き寄せられたのですよ。イルバニア王国のユーリ王妃も、赤ちゃんの時に御守り石として竜心石を祖母から貰ったと聞いています。彼女も真名が読めたのですよね~。ショウ君も真名が読めるみたいですし、何か二人には共通点があるのかもしれません」
ショウはもしかしたらユーリ王妃は前世の記憶があるから、真名が読めるのかもと思ったが、アレックス教授が彼女の家系は魔法王国シンの末裔ではと言い出したので、自分みたいな死神の記憶の消去ミスなんてそうそういないだろうと考えた。
「アレックス教授、父上はゲオルク王のように魔力にとらわれてはいけないと言われたのですが、竜心石を活性化するのは濫用になるのでしょうか?」
ショウはさっき暴走しかけた風の力に驚いて質問する。
「アスラン王が心配されるのも無理はありませんが、貴方が竜を愛しているのなら、あんな馬鹿な事はしないでしょう。ローラン王国のゲオルク王は、自分の竜の魔力のみならず、王弟の竜の魔力まで引き出していたのです。その結果、彼の騎竜カサンドラは、竜として悲惨な死を選びました。絆の竜騎士に裏切られ、魔力を使い果たした騎竜カサンドラはユーリの矢で射殺されたのですが、あれは絶望からの解放だったのかもしれませんね。普通、竜には矢は刺さりませんから、自殺したと考えた方がすんなりします」
ショウはサンズを愛していたので、ゲオルク王の騎竜カサンドラの悲劇的な死に衝撃を受けた。
「僕がサンズと絆を結ぶと、サンズの魔力を知らず知らず使ってしまうかもしれませんね。絶対に絆を結ばないようにしよう」
アレックスは、ショウが自分の言葉を誤解しているのに気づいた。
「ああ、そうじゃないんです。竜は絆の竜騎士を持たないと、身体も成熟しないし、子竜も持てません。それに私は竜騎士で無いから、端から見ているだけですが、絆の竜騎士と騎竜との関係は親密で一体感に溢れたものですよ。ただ一人の例外で判断しないで下さい。貴方のパートナーの竜が絆を結びたがっているのなら、結んでやるのが竜の幸せです。竜は絆の竜騎士を求めるものなのですから。それにゲオルク王のように国中の竜を支配下に置いたり、結界をあちこち張ったりしない限り、騎竜の魔力を使い果たしたりしません」
アレックスは流石にエドアルド王が王宮に結界を張っている事は、東南諸島連合王国の王子には言わなかったが、かなり竜心石や騎竜について説明をしてくれた。
ショウはアレックス教授が親切でアレコレ説明してくれたのだと感激していたが、すぐに自分の甘さに気づく。
「研究室にショウ君を連れて来たのは、これを読んで頂こうと思ったからなんです」
机の下の木箱からズッシリと重たそうな本や、古文書を嬉しそうに出してきた。
「まさか、アレックス教授! フォン・フォレストの館を家捜しすると言っていたけど……」
ちゃんと許可を取って持って来たのですかというショウの質問に、アレックスはしゃあしゃあと答える。
「無くなったのも気づいてないのですから、大丈夫ですよ。さぁ、ショウ君、早く読んで下さい。万が一気がつかれたら、返却しなければいけませんからね~」
「コレって泥棒というのでは……」
泥棒の片棒を担がされるのは嫌だったが、にっこり笑うアレックス教授に竜心石の真名を教えてあげたじゃないですかと急かされて、渋々ショウは漢文のような古文書を読みだす。
その夜、竜心石の真名で活性化させたせいか、古文書の真名を沢山読まされて魔力に当たったのか、普段は健康なショウは珍しく熱を出してしまった。
パシャム大使はアレックス教授が怪しいと怒ったが、ショウは教授は関係ないと庇った。一応、カザリア王国の侯爵であるアレックスに暗殺者でも送りかねないパシャム大使に釘をさしたが、交代の軍艦が来るまでこき使われたショウは、止めなければ良かったかもと一瞬考えてしまった。
「変人だけどバギンズ教授の旦那様だし、東南諸島が手を汚さなくても、イルバニア王国が黙って無いだろうな……」
案の定、フォン・フォレストから古文書を持ち出した件で、イルバニア王国大使ユージーン・フォン・マウリッツから強固な抗議を受けたエドアルド王に、アレックスは徹底的に叱られたが、過去に鷹のターシュを手に入れた功績もあるので、どうにか牢には繋がれずにすんだ。
「半年以上も無かったのに、気づかなかったのだから、要らないのではないか?」
そう、うそぶくアレックスに、エドアルド王とハロルド外務大臣は、やはり牢で反省させるべきではと頭を抱えた。
「罰として、自分でモガーナ様に返しに行くんだ」
エドアルド王の厳命に、流石のアレックスもフォン・フォレストの魔女と呼ばれるモガーナに内緒で古文書を持ち出したのを責められるのは勘弁して欲しいと懇願したが、同盟国からキツく抗議されて頭にきていたので許されなかった。
「そうだ! 東南諸島のショウ王子が読んだのだから、同罪ですよね。彼に返却させましょう……やはり、駄目ですか……名案だと思ったのになぁ」
何処までも懲りないアレックスを国外追放したくなったエドアルド王だったが、身内の恥を外国に出すのは困るでしょうと側近達に止められた。
「アレックスが、父上の従兄弟だなんて考えられぬ。曾祖父が浮気なんかするからだ!」
そう文句を言いながら、自分も浮気をして庶子を産ませたのを思い出して、頬を染めたエドアルド王だった。
「もう、こんなに引っ張らなくても、逃げませんよ」
又、真名を読めと連れて来られたのかなと少しウンザリしながらショウは、乱れた服の打合せをなおしていた。その際に首から下げていた竜心石のネックレスが外に出ていたのに気づかなかった。
「ショウ君、それは!」
せっかく綺麗に整えた服の打合せを、又ぐしゃぐしゃにされて、首から下げているネックレスを持ち上げられたショウは首にチェーンが食い込んで、苦しいと叫ぶ。
「ああ、失礼! それは竜心石だね。東南諸島にあるとは聞いていたが、君が持っているだなんて知らなかった。少し、見せてくれるかな」
ショウは父上の竜心石と混同していると思ったが、誤解を解くのは面倒だと、無言でネックレスをアレックス教授に渡した。
「これは、今まで見た竜心石と少し違うね。私が見た竜心石は、中に青い炎がチラチラ燃えているように見えたんだ。こんなに輝いているのは、ユーリの竜心石以来初めてだ。色もエメラルドグリーンだし、中のは炎と言うより太陽の光が反射した海の青さみたいだ」
アレックス教授はジックリ眺めて満足したのか、ネックレスをショウに返した。ショウも父上の竜心石は、中に青い炎が燃えているように見えたのを思い出した。
「これは竜心石では無いのかもしれませんね。何か別の石かも……」
父上は竜心石だと言われたけど、何個もの竜心石を見た事のあるアレックス教授も、このような竜心石を見たことが無いと言ったので、ショウは首に掛けた時にチリチリした感じがしたのは静電気のせいだったのかもと考えた。
「別の石? 東南諸島連合王国に代々伝わっている竜心石では無いのですか? では、何処でその石を手に入れたのですか」
アレックス教授は自分用の竜心石があれば、実験に役立つと探していたが、そんじょそこらに転がっている物では無かったので、ショウがメーリングのバザールで買ったと聞いて悔しがった。
「一マークってことは、一クローネですよね~! 私がずっと探しているのに、手に入らないのは運が無いからなのかなぁ。これは竜心石だと思いますよ、今まで見たのとのは違うけど……そうだ! 良い事を思いついた! 竜心石の真名で活性化したら、竜心石だと確信できる」
一瞬、アレックスはユーリから秘密にするように言われたのを思い出したが、二十年も前の事だし時効だと勝手な解釈をする。
「竜心石の真名は『魂』なんだ。これを心に思い浮かべてみてくれないか」
そう言うとアレックスは、ノートに『魂』の文字を書いて、ショウに見せる。
「『魂』? 竜心石って竜の心の石……『魂』かぁ……」
ショウが『魂』の文字を思い浮かべた途端に、手に持っていた竜心石が輝きを増す。それと同時に風が巻き起こり、それでなくても書類や本が彼方こちらに無造作に投げ散らかされた研究室は、グチャグチャになってしまった。
「すいません、部屋を散らかしてしまって!」
アタフタと部屋に散らかった本や書類を拾い集めているショウを制して、アレックスは輝きを増した竜心石を見せてくれと頼んだ。
「やはり、これは竜心石ですよ。メーリングのバザールの屋台かぁ~。行ってみようかなぁ」
今すぐにでも行きそうな勢いにショウはたじたじになったが、大きな息をつくと竜心石を返した。
「ショウ君、君には竜心石が必要だから、きっと引き寄せられたのですよ。イルバニア王国のユーリ王妃も、赤ちゃんの時に御守り石として竜心石を祖母から貰ったと聞いています。彼女も真名が読めたのですよね~。ショウ君も真名が読めるみたいですし、何か二人には共通点があるのかもしれません」
ショウはもしかしたらユーリ王妃は前世の記憶があるから、真名が読めるのかもと思ったが、アレックス教授が彼女の家系は魔法王国シンの末裔ではと言い出したので、自分みたいな死神の記憶の消去ミスなんてそうそういないだろうと考えた。
「アレックス教授、父上はゲオルク王のように魔力にとらわれてはいけないと言われたのですが、竜心石を活性化するのは濫用になるのでしょうか?」
ショウはさっき暴走しかけた風の力に驚いて質問する。
「アスラン王が心配されるのも無理はありませんが、貴方が竜を愛しているのなら、あんな馬鹿な事はしないでしょう。ローラン王国のゲオルク王は、自分の竜の魔力のみならず、王弟の竜の魔力まで引き出していたのです。その結果、彼の騎竜カサンドラは、竜として悲惨な死を選びました。絆の竜騎士に裏切られ、魔力を使い果たした騎竜カサンドラはユーリの矢で射殺されたのですが、あれは絶望からの解放だったのかもしれませんね。普通、竜には矢は刺さりませんから、自殺したと考えた方がすんなりします」
ショウはサンズを愛していたので、ゲオルク王の騎竜カサンドラの悲劇的な死に衝撃を受けた。
「僕がサンズと絆を結ぶと、サンズの魔力を知らず知らず使ってしまうかもしれませんね。絶対に絆を結ばないようにしよう」
アレックスは、ショウが自分の言葉を誤解しているのに気づいた。
「ああ、そうじゃないんです。竜は絆の竜騎士を持たないと、身体も成熟しないし、子竜も持てません。それに私は竜騎士で無いから、端から見ているだけですが、絆の竜騎士と騎竜との関係は親密で一体感に溢れたものですよ。ただ一人の例外で判断しないで下さい。貴方のパートナーの竜が絆を結びたがっているのなら、結んでやるのが竜の幸せです。竜は絆の竜騎士を求めるものなのですから。それにゲオルク王のように国中の竜を支配下に置いたり、結界をあちこち張ったりしない限り、騎竜の魔力を使い果たしたりしません」
アレックスは流石にエドアルド王が王宮に結界を張っている事は、東南諸島連合王国の王子には言わなかったが、かなり竜心石や騎竜について説明をしてくれた。
ショウはアレックス教授が親切でアレコレ説明してくれたのだと感激していたが、すぐに自分の甘さに気づく。
「研究室にショウ君を連れて来たのは、これを読んで頂こうと思ったからなんです」
机の下の木箱からズッシリと重たそうな本や、古文書を嬉しそうに出してきた。
「まさか、アレックス教授! フォン・フォレストの館を家捜しすると言っていたけど……」
ちゃんと許可を取って持って来たのですかというショウの質問に、アレックスはしゃあしゃあと答える。
「無くなったのも気づいてないのですから、大丈夫ですよ。さぁ、ショウ君、早く読んで下さい。万が一気がつかれたら、返却しなければいけませんからね~」
「コレって泥棒というのでは……」
泥棒の片棒を担がされるのは嫌だったが、にっこり笑うアレックス教授に竜心石の真名を教えてあげたじゃないですかと急かされて、渋々ショウは漢文のような古文書を読みだす。
その夜、竜心石の真名で活性化させたせいか、古文書の真名を沢山読まされて魔力に当たったのか、普段は健康なショウは珍しく熱を出してしまった。
パシャム大使はアレックス教授が怪しいと怒ったが、ショウは教授は関係ないと庇った。一応、カザリア王国の侯爵であるアレックスに暗殺者でも送りかねないパシャム大使に釘をさしたが、交代の軍艦が来るまでこき使われたショウは、止めなければ良かったかもと一瞬考えてしまった。
「変人だけどバギンズ教授の旦那様だし、東南諸島が手を汚さなくても、イルバニア王国が黙って無いだろうな……」
案の定、フォン・フォレストから古文書を持ち出した件で、イルバニア王国大使ユージーン・フォン・マウリッツから強固な抗議を受けたエドアルド王に、アレックスは徹底的に叱られたが、過去に鷹のターシュを手に入れた功績もあるので、どうにか牢には繋がれずにすんだ。
「半年以上も無かったのに、気づかなかったのだから、要らないのではないか?」
そう、うそぶくアレックスに、エドアルド王とハロルド外務大臣は、やはり牢で反省させるべきではと頭を抱えた。
「罰として、自分でモガーナ様に返しに行くんだ」
エドアルド王の厳命に、流石のアレックスもフォン・フォレストの魔女と呼ばれるモガーナに内緒で古文書を持ち出したのを責められるのは勘弁して欲しいと懇願したが、同盟国からキツく抗議されて頭にきていたので許されなかった。
「そうだ! 東南諸島のショウ王子が読んだのだから、同罪ですよね。彼に返却させましょう……やはり、駄目ですか……名案だと思ったのになぁ」
何処までも懲りないアレックスを国外追放したくなったエドアルド王だったが、身内の恥を外国に出すのは困るでしょうと側近達に止められた。
「アレックスが、父上の従兄弟だなんて考えられぬ。曾祖父が浮気なんかするからだ!」
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