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第三章 白鳥

16  レリック卿と馬車で

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 祖父母達に言いくめられ、ジュリアは精霊達とピクニックに行くことにした。

『いつもお世話になっているんだから、精霊達が喜ぶならピクニックに行っても良いわ。カリースト師も気分転換をしなさいと早く帰されたのだろうし』

 貧乏性のジュリアは、自分だけ遊んでいるのは気が引けたが、精霊達への感謝をあらわすためだと言われては仕方ない。

「えっ、そんなに沢山の方と行くのですか?」

 祖父母はお互いに推しの中の推しを選んでピクニックに参加させることにしたのだが、何故か招待していない子息達の姿も見える。でも、そこは愛想良く参加を認めつつ、グローリアは自分の推しをジュリアのエスコート役に選ぶことにする。

「ええ、こんなに良い天気なのですもの。それに、皆様方も多かれ少なかれ精霊使いの素質がある方ばかりで、精霊に感謝を伝えたいと仰っているのよ」

 祖母のグローリアは、城代のマーカス卿推しだったのだが、真面目なのが災いして、パーティが終わった次の日には緑陰城に帰ってしまっていた。でも、夫が推す南部同盟に有利な貴公子だけでなく、自分の付き合いがある性格がわかった子息達もピクニックに招待した。

「ピクニックに行くと決めたのは昨日なのに、大勢いらっしゃるのね?」

 不思議がるジュリアだったが、精霊達が『ピクニック!』と騒いでいるのを見て、他の方の近くにいる精霊達も『行きたい!』とせっついたのだろうと納得した。

 グローリアは、自分が推す友人の孫息子をジュリアに紹介し、エスコートを託す。夫が後ろで自分の推しである大貴族のハーフコート伯爵の嫡男を紹介しようとしているが、そんなの無視! 本人はまだしも、あそこの姑は気難しい。そんなの孫娘には近づけたくない。それに、緑陰城の跡取りには頭が良くて性格の良い二男で十分なのだ。

「ジュリア、この方はレリック卿ですよ」

 濃い茶色の髪の長身の貴公子を紹介され、ジュリアはパーティで踊った相手だと朧げな記憶を引っ張り出す。

「レリック卿、ジュリアです。今日はピクニックに参加して下さり、ありがとうございます」

 レリック卿は、にこやかにジュリアの手を取り、触れるか触れないかのキスをしながら応える。

「ジュリア嬢、私も多少ながら精霊の助けを得ています。それなのにお礼もそこそこで、今回ピクニックに誘って頂けて、とても嬉しく思っています」

「まぁ、では今回参加される方々は精霊達に感謝したいと思っておられるから、こんなに大勢なんですね」

 レリック卿は、グローリア伯爵夫人からピクニックの開催理由を教えられていたので、挨拶にそれを含めていただけで、本音は巫女姫になるジュリア嬢と親しくなりたかったからだ。それに、ここに集まった貴公子達の本音も同じだと見抜いていた。それに気づいてなさそうなジュリア嬢に驚き、好感を持つ。

「ジュリア嬢は、本当に純心で巫女姫に相応しいですね」

 ジュリアを他のライバルを蹴散らしながら、馬車にエスコートし、レリック卿は他の恋愛上手な令嬢とは違うのに気づいた。このジュリアには高慢だと噂されているハーフコート伯爵夫人の嫁は無理だと思い、グローリア伯爵夫人が自分を推したのだと内心で苦笑する。

「いいえ、私なんか……」

 ジュリアは、オレーリア師に闇の精霊を呼び出す許可も下りないのにと俯く。そんなジュリアをレリック卿は、こんなに精霊達に愛されているのに無自覚なのかと驚く。

「ジュリア嬢、貴女はもっと自信を持たなくてはいけませんね。ほら、ご覧なさい! あれ程の精霊達を集めるのはシェフィールドにもそんなにいませんよ」

 馬車の窓から外を見ると、ピクニックに浮かれた精霊達が乱舞しながらついてきている。

「まぁ、でもそれは皆様も精霊にお礼を言いたいとピクニックに参加されたのだからでは?」

「それは少しは私の周りにいる精霊もあるでしょうけど、ほとんどはジュリア嬢とピクニックに行きたいと昨夜から騒いでいるのですよ。シェフィールド中の精霊が集まっているのかもしれませんね」

 ジュリアは、そんなにピクニックに集まっていたら水晶宮の仕事に差し障りがあるのではと心配になる。

「それは大変ですわ。オレーリア師に叱られないと良いのですが……それでなくても、修行が行き詰まっているのに……」

 しおしおと落ち込むジュリアをどう慰めようかレリック卿が考えていると、窓からマリエールが飛び込んできた。

『ジュリア! もうすぐピクニックね! こんなにいっぱいの精霊と一緒に遊べるの久しぶりだわ。内戦の前に戻ったみたい』

 膝の上で浮き浮きと話すマリエールを抱っこして、ジュリアは『もしかして』と質問する。

『ねぇ、マリエール。こんなに精霊がピクニックに集まるのって、もしかして皆んなにお喋りしたの?』

『えへん! そうよ! ピクニックなんだから大勢の方が楽しいじゃない』

 やっぱり! とがくっりするジュリアをレリック卿は慰める。

「シェフィールドには元々精霊が多いのですが、内戦ですっかり少なくなってしまったのです。でも、こうして平和になり、精霊が戻ってきてくれて嬉しいです。水晶宮のオレーリア師も、少ない時期でもやってこられた訳ですし、精霊達がピクニックを楽しむのを怒られたりしませんよ」

「そうかしら……」

「そうですよ! 精霊使いは精霊に甘いものですし、ピクニックで感謝を伝えるだなんて巫女姫でしか考えつきません」

「巫女姫ではありません。私は……」

 これほど精霊に愛されているのに、何故にこんなに自信が無いのかレリック卿は首を傾げる。

『ジュリアは巫女姫に相応しいと思うわ。オレーリアもサリンジャーに、ジュリアなら立派な巫女姫になると言ってたもの』

『まぁ、盗み聞きは良くないわ。でも、それが本当なら嬉しいわ! 私が尊敬する二人の師匠がそう考えておられるなら、頑張るわ!』

『ジュリア! 頑張らなくて良いの。今のままで精霊はジュリアのことが大好きなんだから』

 ジュリアとマリエールの会話を微笑みながら聴いていたレリック卿は、噂に聞いた生い立ちから自信が持てないのだろうと推察した。

「もうそろそろピクニック会場につきますよ。おや、あの馬車は? ルーファス王子も来られているようてますね」

「えっ、ルーファス王子が? 屋敷にはおられなかったと思うけど?」

 訳が解っていなそうなジュリアだったが、レリック卿はピクニックの噂を聞きつけて、慌てて直接来たのだろうと苦笑する。

 
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