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第二章 白鳥になれるのか?

22  王宮での食事会

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 ジュリアは、ルーシーに髪の毛に緩やかなカールをつけて貰ったりして、王宮での食事会に相応しいドレス姿に着替える。

「ジュリア、これは私が若い頃につけていた真珠のネックレスです。お前に似合うでしょう」

 粒の揃った綺麗な真珠のネックレスが、若いジュリアの清楚さを引き立てる。

「お祖母様、ありがとうございます」

 グローリアは長い内乱の軍資金を調達する為に、手持ちの宝石をほとんど売り払っていたが、娘の頃につけていた真珠のネックレスは、亡き母親から貰った物なので残しておいたのだ。

「よく似合ってますよ。さぁ、エドモンド公をお待たせしてはいけないわ」

 馬車で王宮へと向かいながら、グローリアはシェフィールドの街が暗く沈んでいるのに心を痛める。

「お祖母様、どうかされたのですか?」

 孫娘の心配そうな緑色の目を見て、グローリアは昔はシェフィールドの街の繁栄を話して聞かせる。

「このシェフィールドは、それは美しく繁栄していたのですよ。空には虹がかかり、バラが咲き誇り、ディアナ河には人魚が遊んでいたのです。それなのに……いいえ、これからシェフィールドを昔の姿に戻さなくては!」

 ジュリアも夕方とはいえ、人影も疎らな街を眺めて、活気のあるシェフィールドにしたいと頷いた。



 王宮での食事会に、少しジュリアは緊張していたが、祖父のエドモンド公と叔父のレオナルド公子、祖父母のゲチスバーモンド伯爵夫妻、それと城代のジョージ卿とサリンジャー師という身内のメンバーだけだったのでホッとする。

「ジュリア! 姉上にそっくりの瞳だね」

 叔父というより、年の離れた兄に見えるレオナルド公子に抱き締められる。ジュリアは、身内とはいえ若い男性の胸に抱かれて、ドキドキする。

「これこれ、レオナルド! ジュリアが驚いているではないか!」

 孫娘を息子にも近づけたくないと、エドモンド公は引き離す。グローリアは、これはなかなか甘々のお祖父様振りだと笑う。

「グローリア伯爵夫人、お恥ずかしいところを見せてしまいました。しかし、ジュリアはエミリアにそっくりだから……」

 ジュリアは、駆け落ちするほど激しい恋愛をしたお母さんも美人ではなかったのかしら? と不思議な顔をする。

「まぁ、また貴女ったら……」

 グローリアはまた卑屈なことを考えていると、ジュリアにメッと叱りつける。

「エドモンド公は、エミリア姫の肖像画をお持ちでは無いかしら?」

 父のフィッツジェラルドの幼い時の肖像画は、緑蔭城で見たジュリアだが、絵の中の可愛い子どもが父親だと実感は湧かなかった。若くして亡くなったので、成長してからの肖像画は未だ描かれてなかったのだ。

 エドモンド公は、胸から下げているロケットを外すと、ジュリアに渡す。

「これは私の宝物だが、お前にあげよう。私にはジュリアがいてくれるから」

 金のロケットを開くと、茶色の髪と緑色の瞳が美しいエミリア姫が微笑んでいた。

「これがお母様……とても綺麗な人だったのね……一目会いたかったわ……」

 涙ぐむジュリアをグローリアは抱き締めて、本当に両親に会わせてやりたかったと背中を撫でてやる。

「さぁ、食事にしよう! 未だシェフィールドは食糧不足だが、緑蔭城からかなり運んで来てくれたので、今宵はまともな物が食べれそうだ」

 ゲチスバーモンド伯爵は、大袈裟にお礼を言われて苦笑する。そして、緑蔭城に帰るジョージ卿に首都へ食糧を運ぶ指示をする。

 グローリア伯爵夫人をエドモンド公がエスコートし、レオナルド公子がジュリアをエスコートする。茶色の髪と緑の瞳は肖像画のお母様と似ていると、ジュリアが見上げていると、レオナルド公子は「なに?」と笑いかける。

「いえ、母の話を聞きたいと思ったのです。父の事は緑蔭城で色々と聞きましたが、母のことは巫女姫だったとしか……」

 アドルフ王の側室に無理矢理されたとも聞いたが、それを口にするのははばかった。レオナルドもジュリアが口にしなかった件を思い出したが、せっかくの食事会を台無しにするのは避ける。

「エミリア姉上の話題なら大歓迎だよ! 私の自慢の姉上だったのだからね。優しくて、でも芯は強い方だったよ」

 食事会は緑蔭城から運んできた食糧で、皆はお腹いっぱいになったが、エドモンド公はシェフィールドの民達を考えてしまう。

「私は明日には緑蔭城に向かいます。近隣の領地からも食糧を買い上げて、シェフィールドに送ります。戦争が終わったので、今年は農民達も畑に帰りますし、精霊達の恵みもあるでしょう」

 元々豊かな南部と違い、精霊達の恵みで豊かな暮らしをしていた北部のダメージを、秋の収穫時期まで支えていかなければと、エドモンド公やゲチスバーモンド伯爵は難しい顔をする。

「水晶宮の精霊使い達も協力します。戦争で精霊達は少なくなりましたが、平和になったのです。これからは、民の為に働くのですから、精霊達も協力してくれるでしょう」

 サリンジャー師の言葉に、湿っぽくなっていた食事会も、前向きな陽気な雰囲気になる。エドモンド公に恭順を誓った北部の貴族達の中には、歴年の領地の不作を訴える者も多かったのだ。


 食事会の後は、サロンでエミリア姫の思い出話をエドモンド公とレオナルド公子がジュリアに話してくれた。

『なんだか、お母様が身近に感じるわ』

 やっと、自分の両親について知った気持ちになる。それと同時に、戦争で傷ついた祖国のお役に立ちたいとジュリアは考えた。

「サリンジャー師、私も何かお役に立ちたいのです」

 サリンジャーは、もっと修行をしなくてはと微笑んだ。

「水晶宮には私の師匠であるカリースト師がおられます。ジュリアはカリースト師について修行をするべきです」

 ジュリアは何故サリンジャー師が教えてくれないのだろうと、不思議に思う。祖父のゲチスバーモンド伯爵が、事情がわかっていないジュリアに説明する。

「サリンジャー師は北部で復興の手伝いをされるのだ。それに、ジュリアは巫女姫になれる程の魔力を持っている。本来なら精霊使いの長になるカリースト師について修行をした方が良いのだよ」

 能力は高いが若いサリンジャー師は、未だ巫女姫を教えるのは経験不足だと判断された。それに、カリースト師は闇の精霊も名前を預ける程の人格者なのだ。

「私の師匠のカリースト師は、厳しい指導もされますが、優しい方です。私はこれから北部やシェフィールドの行き来で忙しくなるので、落ち着いて指導できません」

 北部の荒れた土地を癒しに行くと言われたら、サリンジャー師を止めることはできない。しかし、ジュリアは少し寂しく感じる。

「サリンジャー師、お身体に気をつけて下さいね。無理をなさらないように」

 自分を見上げるジュリアの緑色の眸が美しいとサリンジャーは感じて、ドキンとした。

『馬鹿な! ジュリアは私の教え子なのだぞ!』

 それに、エドモンド公が王位に就けば、ジュリアには王孫として若く有力な貴公子達から縁談が山ほど舞い込むだろうと、内心で苦笑する。

「サリンジャー師、未だ北部にはアドルフ王軍の残党もいます。お気をつけて」

 同じくシェフィールドを去り、緑蔭城に帰るマーカス卿に肩を軽く叩かれて、サリンジャーは馬鹿な想いから現実的な考えに戻る。

「私も北部でアドルフ王を捜します。しかし、北部の貴族達はエドモンド公に恭順を示したいと、アドルフ王の探索に熱心ですから、潜んでいるとは考えられないのです。南部の港から外国に逃亡を謀るかもしれません」

 南部は反アドルフ王の領主が多いが、何人かは中立の立場を取っていた者もいたと、ジョージは探っておくと約束する。

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