除霊は致しません! 先ずは話し合いましょう!

梨香

文字の大きさ
上 下
18 / 19
第ニ章 逆恨み

11  ルミに惚れた男

しおりを挟む
 マスカレードはキャバクラとしては落ち着いた高級な店だったが、胡蝶や木蓮とは比べようもない。しかし、キャバ嬢達の年齢は若く、政宗は浮き浮きする。

「これは東三条様、マスカレードにようこそ」

 上客を出迎えたマネージャーに「ルミちゃんはいるか?」と尋ねる東三条の上の黒い影を政宗は黒縁の眼鏡を外して観察する。ここのルミが原因だと思って足を運んだのに、小さくなってブルブル震えている。

『留美さんが東三条さんに近づいても嫉妬したのに、何故だろう?』

 店の奥から「東三条さぁん」と金色の巻き髪を翻しながら、ルミがやってきた。銀蝶は、やれやれと東三条に呆れた視線を送る。ルミはミニのワンピースにそれでよく歩けるものだと政宗が呆れる程の金色の華奢なミュールで、東三条の腕にすがりつく。

「このハンサムさんはだぁれ?」

 銀狐の美貌に目を付けたルミに、東三条は苦笑する。

「こちらは銀さん、政宗さん、そして胡蝶の銀蝶ママだよ」

「よろしく! ルミでぇす!」

 可愛いし、元気は良いが、このルミが原因なのか? と政宗は首を捻る。

「ルミさん、少しお話を聞いても良いかしら?」

 ルミも迫力ある銀蝶ママに、少しテンションを落として「はい」と答える。政宗の出番がない。

「その腕時計は何方から頂いた物なの?」

 政宗はルミの細い腕に煌めく腕時計を眺め、黒い影に覆われているのに遅まきながら気づく。

「ああ、これは前によく指名してくれていたお客様にプレゼントされたの……名前は……ええっと?」

 ちょっと待ってね! とスマホを出して「武藤慎二」と答えた。

 ルミに名前を呼ばれたのが嬉しいのか、黒い影はポアンポアンと跳ねる。

『名前もスマホを見ないと思い出せない相手でも良いのか?』

 政宗は呆れるが「慎ちゃん、この頃顔を見せてくれないのよねぇ」なんて言われると、黒い影なのに何故かピンク色めいてくる。

「その武藤慎二さんは、何をしておられるのかしら?」

 銀蝶ママが主導権を持ってルミに質問する。

「さぁ、確かIT関連の会社の社長さんだとか? でも、この頃はご無沙汰だし、本当の話かどうかもわからないわ」

 つれない言葉に黒い影はシュルルルルと小さくなる。

「どうやら、武藤慎二さんがこの黒い影の主みたいですね」

 東三条は、同じIT関係の社長と聞いても武藤慎二という名前には聞き覚えが無かった。

「ルミちゃん、その武藤慎二さんと会いたいのだけど、連絡してくれるかな?」

 上客の頼みとはいえ、他の客と会わせるのをルミは躊躇する。

「前に欲しいと言っていたバッグを買ってあげるから」

「えっ! 本当に? じゃあ、呼び出しちゃう?」

 銀蝶は、躾のなっていないルミを睨みつけるが、政宗はここに「呼んで下さい!」と頼む。

「武藤慎二さんは、ルミちゃんに弱いみたいですから、ここで話し合った方が良いでしょう」

「でも、ここに東三条様がいらっしゃるとわかっているのに来るでしょうか?」

 銀狐は心配するが、ルミの呼び出しに武藤慎二は浮き浮きとやってきた。

「ルミちゃん! 今すぐ会いたいだなんて、困った子だなぁ」

 三十過ぎなのにぶくぶく太って髪の毛も寂しい武藤は、どう見ても東三条のライバルにはなり得ない。

『それにしても、何故、恨みを持つ東三条がいるのに出てきたのか?』

 政宗には理解できないが、武藤はルミしか目に入ってないようだ。席に案内されて、やっと憎き東三条の存在に気づく。

「ふん! IT産業の曹操さんか!」

 憎々しげに言う武藤だが、黒い影は変化がない。政宗は、この影は武藤なのか? と疑問を持つ。

「そちらもIT関連の社長さんだとルミちゃんから聞きましたが……」

 名刺を差し出した東三条に、武藤も渋々名刺を渡す。

「古い名刺しかないけどな……」

「この住所は? あのビルに会社があったのですか?」

「借りていたオフィスを追い出されるわ、仕事は横取りされるわ。その上、ルミちゃんまで!」

 黒い影が一気に巨大化する。その黒い影は武藤の感情のままに東三条の上に被さる。

「きゃあ~! 何? 東三条さん、どうしたの?」

 倒れこんだ東三条に驚くルミの甲高い声に武藤も怯む。

「ルミちゃん、少しテンションを落としてくれないか?」

 黒い影は小さくなり、意識を失いかけた東三条も回復する。

「どうやら、この武藤さんは東三条さんを恨むあまり、無意識に魂を飛ばしていたみたいですね。でも、こんなことをしていたら武藤さんにも良い結果はもたらさないでしょう」

 政宗は、きょとんとしている武藤が何か呪詛を使ったのではなく、無意識の内に魂を飛ばしていたのだと驚いた。

「東三条さん、ルミちゃんにバッグを買ってあげたら、この店には来ない方が宜しいですよ」

 銀蝶ママに言われるまでもなく、こんな呪いを掛けられた原因がルミにあるのなら、距離を置きたいと頷く。

「ええっ! 東三条さんが来ないと寂しいわぁ」

「ルミちゃん、僕が来るから……でも、仕事もうまく行ってないから、毎晩は来られないんだ」

 政宗はあんな呪いを掛けられるぐらいなら仕事の斡旋ぐらいしてやれば良いだろうと、東三条に目配せする。

「武藤さんにはビルの件で迷惑をお掛けしたようだ。そのお詫びを兼ねて、何か仕事のオファーをしたいと考えています。それでルミちゃんに呼び出して貰ったのです」

「なんだ……ルミちゃんが会いたいと俺なんかにメールくれるわけないよな」

 ルミが自分に会いたかった訳ではないと肩を落とす武藤に、全員が呆れる。

「まぁ、オファーは歓迎ですよ! 儲ければ、ルミちゃんに会いに来れるし」

 東三条の上の黒い影が消えたのを政宗は確認して、折角のキャバクラを楽しもうとキャバ嬢を物色する。

「さぁ、これで解決したみたいですから、私達は帰りましょう」

「いや、銀蝶ママはお帰りになっても結構ですが……」

「政宗様、明日からマスターの修行をして頂きます」

 銀蝶ママと銀狐に両方から腕を取られて、政宗はマスカレードから連れ出された。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...