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第ニ章 逆恨み
8 生霊?
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スリースターズの本社ビルに足を踏み入れた途端、東三条の様子が変わった。
「東三条のおじ様、大丈夫ですか?」
留美はぐらついた東三条を気遣うが、銀狐は政宗を再度止める。
「このビルに憑いている悪霊が東三条さんが帰ってきて活性化しています。これは手強すぎますよ」
銀狐にとって輝政様が大切にしていたグリーンガーデンを続けていくことが使命であり、政宗がやっている探偵ごっこなどには興味がない。まして、こんな凶暴な悪霊が巣食っているビルになどで政宗が死んだりしたら困ったことになるのだ。
戸籍もない銀狐では喫茶店の経営はできない。身勝手といえば身もふたもないが、銀狐なりに政宗を心配しているのだが、本人は昼との違いに気をとられている。
「ふうん、何故かなぁ? 今までも東三条さんが夜にオフィスで仕事をしたことはありそうなのに……こんな状態じゃあ仕事どころじゃないよねぇ」
留美は相変わらず政宗は人として何か足りないのではないかと腹を立てる。
「ちょっと、こんな状態の東三条さんを放置していて良いの? 昼間に政宗さんが何か怒らせたから、こんな風になっているんじゃない?」
一人で長身の東三条を支えている留美を、政宗も銀狐も手伝おうともしない。
「何だか、この悪霊は夜に関係しているのかな? 時間と共に変化するだなんて……もしかして生きているのか?」
「まさか生霊だと?」
悪霊の中でも生霊はたちが悪い。何故なら、死んでいるなら成仏するとか消滅する可能性があるが、生きている霊のその念を消すのは難しいのだ。
この軟弱な政宗には、その人間を見つけ出すのも難しいたろうし、万が一見つけ出したとしても説得するとか、始末するなどできそうもないと銀狐は溜息を押し殺す。
「さぁ、まだ生霊だとは確信できないけど……このビルに執着している事と東三条さんにかなりの怨みを抱いているのは明らかだな。こんな状態では健康を害するだろうから、今夜は撤退だな」
そう言いつつも、政宗は黒縁の眼鏡を外して東三条の上をジッと見つめる。
『お前は何をしたいんだ?』
相変わらず人もだが霊を怒られるのも上手い。ぐおおぉ~と黒い影は巨大化し、政宗にのしかかりそうになる。
「危ない!」
銀狐は政宗を押し退け、短剣を黒い影に向ける。すると、黒い影はきゅるるるる~と小さくなった。
『ふうん、意外と気が小さいんだな』
政宗の馬鹿にしたような言葉に反応して、黒い影は巨大化し、天井を覆い尽くすほどになった。
「銀さん、東三条さんから切り離せない?」
ぐったりと床に倒れそうな東三条を留美一人で支えているのに、全く手伝おうともしない二人だ。
「下手に切り離そうとして失敗したら、生霊だった場合は主は死んでしまうかもしれません。まぁ、厄介ごとが解決できて良いでしょうね」
銀狐はキラリと短刀を東三条に向ける。こんな時、銀狐は人間ではないのだと政宗はゾクッとする。
「銀さん、ちょっと待った! 生霊の本体が死んだら困るよ。私は除霊もしないけど、殺すのはもっとしたくないからね」
東三条から切り離れるものかと覆い被さっていた黒い影は、政宗が銀狐を止めたので、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「刃物を取り出すだなんて、本当に危ないわね! 東三条のおじ様、大丈夫ですか?」
「留美さん……すみません」
少し落ち着いていた黒い影がまた大きくなる。その様子を見ていた政宗はポンと手を叩いた。
「留美さん、東三条さんから離れて!」
「だって、支えてあげなきゃ」とぶつくさ言いながらも、留美は東三条から離れる。
「やっぱり! 黒い影は留美さんが東三条さんに寄り添っているのが気に入らないんだ」
黒い影は相変わらず東三条に取り憑いているが、留美が離れると小さくなる。
「この影はビルと東三条さんと留美さんに拘りを持っているようだ。留美さん、何か思い当たることは無い? 実は年の離れた恋人だとか? あっ、援助交際?」
ピシャと政宗の頬を留美が平手打ちにする。
「援助交際だなんて、冗談じゃないわよ。東三条のおじ様と父は前からの知り合いだけど、私はこの件で政宗さんを紹介するまでは会った事も無かったのよ」
叩かれた頬を撫でながら「チェッ、違うのか!」とぼやく政宗だった。
「この影が留美さんの恋人もしくは片思いの相手で、東三条さんに嫉妬したのかと推理したのだけど……無理があるか。留美さんは援助交際などしなくても甘いパパがいるしなぁ」
推理小説ばかり読んでいるくせに探偵にはなれそうにもない政宗に全員が溜息をつく。
「私は違うけど……他の女の人ならあるかも? 東三条のおじ様はモテそうだもの」
ぐったりしている東三条に皆の視線が集まる。確かに中年だが身体もジムで鍛えているのか引き締まっているし、高級なスーツに身を包んだ東三条ならモテそうだ。
「留美さんはここまで! 親御さんも心配しているでしょうから、お帰り下さい。さぁ、東三条さん行きつけのクラブ巡りをしましょう。この悪霊はビルと女絡みの恨みをあなたに持っているようですからね! 調査しなければ」
「ちょっと何よ! 東三条のおじ様の行きつけのクラブだなんて、高級に決まっているわ。政宗さんはただ酒を飲みたいだけでしょう」
留美は抗議するが、未成年をクラブに連れて行くのはまずいだろうと東三条はタクシーに乗せて芦屋に帰らせた。
「さぁ、北新地に繰り出すぞ! 大阪に住んでいるけど北の新地なんか足を踏み入れたことが無いんですよねぇ」
あまり具合が良さそうに無い東三条のことなど御構い無しで、はしゃぐ政宗だった。
「東三条のおじ様、大丈夫ですか?」
留美はぐらついた東三条を気遣うが、銀狐は政宗を再度止める。
「このビルに憑いている悪霊が東三条さんが帰ってきて活性化しています。これは手強すぎますよ」
銀狐にとって輝政様が大切にしていたグリーンガーデンを続けていくことが使命であり、政宗がやっている探偵ごっこなどには興味がない。まして、こんな凶暴な悪霊が巣食っているビルになどで政宗が死んだりしたら困ったことになるのだ。
戸籍もない銀狐では喫茶店の経営はできない。身勝手といえば身もふたもないが、銀狐なりに政宗を心配しているのだが、本人は昼との違いに気をとられている。
「ふうん、何故かなぁ? 今までも東三条さんが夜にオフィスで仕事をしたことはありそうなのに……こんな状態じゃあ仕事どころじゃないよねぇ」
留美は相変わらず政宗は人として何か足りないのではないかと腹を立てる。
「ちょっと、こんな状態の東三条さんを放置していて良いの? 昼間に政宗さんが何か怒らせたから、こんな風になっているんじゃない?」
一人で長身の東三条を支えている留美を、政宗も銀狐も手伝おうともしない。
「何だか、この悪霊は夜に関係しているのかな? 時間と共に変化するだなんて……もしかして生きているのか?」
「まさか生霊だと?」
悪霊の中でも生霊はたちが悪い。何故なら、死んでいるなら成仏するとか消滅する可能性があるが、生きている霊のその念を消すのは難しいのだ。
この軟弱な政宗には、その人間を見つけ出すのも難しいたろうし、万が一見つけ出したとしても説得するとか、始末するなどできそうもないと銀狐は溜息を押し殺す。
「さぁ、まだ生霊だとは確信できないけど……このビルに執着している事と東三条さんにかなりの怨みを抱いているのは明らかだな。こんな状態では健康を害するだろうから、今夜は撤退だな」
そう言いつつも、政宗は黒縁の眼鏡を外して東三条の上をジッと見つめる。
『お前は何をしたいんだ?』
相変わらず人もだが霊を怒られるのも上手い。ぐおおぉ~と黒い影は巨大化し、政宗にのしかかりそうになる。
「危ない!」
銀狐は政宗を押し退け、短剣を黒い影に向ける。すると、黒い影はきゅるるるる~と小さくなった。
『ふうん、意外と気が小さいんだな』
政宗の馬鹿にしたような言葉に反応して、黒い影は巨大化し、天井を覆い尽くすほどになった。
「銀さん、東三条さんから切り離せない?」
ぐったりと床に倒れそうな東三条を留美一人で支えているのに、全く手伝おうともしない二人だ。
「下手に切り離そうとして失敗したら、生霊だった場合は主は死んでしまうかもしれません。まぁ、厄介ごとが解決できて良いでしょうね」
銀狐はキラリと短刀を東三条に向ける。こんな時、銀狐は人間ではないのだと政宗はゾクッとする。
「銀さん、ちょっと待った! 生霊の本体が死んだら困るよ。私は除霊もしないけど、殺すのはもっとしたくないからね」
東三条から切り離れるものかと覆い被さっていた黒い影は、政宗が銀狐を止めたので、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「刃物を取り出すだなんて、本当に危ないわね! 東三条のおじ様、大丈夫ですか?」
「留美さん……すみません」
少し落ち着いていた黒い影がまた大きくなる。その様子を見ていた政宗はポンと手を叩いた。
「留美さん、東三条さんから離れて!」
「だって、支えてあげなきゃ」とぶつくさ言いながらも、留美は東三条から離れる。
「やっぱり! 黒い影は留美さんが東三条さんに寄り添っているのが気に入らないんだ」
黒い影は相変わらず東三条に取り憑いているが、留美が離れると小さくなる。
「この影はビルと東三条さんと留美さんに拘りを持っているようだ。留美さん、何か思い当たることは無い? 実は年の離れた恋人だとか? あっ、援助交際?」
ピシャと政宗の頬を留美が平手打ちにする。
「援助交際だなんて、冗談じゃないわよ。東三条のおじ様と父は前からの知り合いだけど、私はこの件で政宗さんを紹介するまでは会った事も無かったのよ」
叩かれた頬を撫でながら「チェッ、違うのか!」とぼやく政宗だった。
「この影が留美さんの恋人もしくは片思いの相手で、東三条さんに嫉妬したのかと推理したのだけど……無理があるか。留美さんは援助交際などしなくても甘いパパがいるしなぁ」
推理小説ばかり読んでいるくせに探偵にはなれそうにもない政宗に全員が溜息をつく。
「私は違うけど……他の女の人ならあるかも? 東三条のおじ様はモテそうだもの」
ぐったりしている東三条に皆の視線が集まる。確かに中年だが身体もジムで鍛えているのか引き締まっているし、高級なスーツに身を包んだ東三条ならモテそうだ。
「留美さんはここまで! 親御さんも心配しているでしょうから、お帰り下さい。さぁ、東三条さん行きつけのクラブ巡りをしましょう。この悪霊はビルと女絡みの恨みをあなたに持っているようですからね! 調査しなければ」
「ちょっと何よ! 東三条のおじ様の行きつけのクラブだなんて、高級に決まっているわ。政宗さんはただ酒を飲みたいだけでしょう」
留美は抗議するが、未成年をクラブに連れて行くのはまずいだろうと東三条はタクシーに乗せて芦屋に帰らせた。
「さぁ、北新地に繰り出すぞ! 大阪に住んでいるけど北の新地なんか足を踏み入れたことが無いんですよねぇ」
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