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第ニ章 逆恨み
6 スペイン風オムレツを食べながら……
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バターで炒めたじゃがいもが入ったスペイン風オムレツを食べながら、政宗は作戦を練っていた。
「やはり、彼方から依頼しなおして貰わないとビルの中に勝手には入れそうに無いな」
グサリとオムレツをフォークで刺して、ムギュムギュと美味しそうに咀嚼する。喫茶店のマスターとして、コーヒーぐらいは淹れ方を覚えて欲しいと渇望している銀狐は、早く食べ終えてもらって教えようと、やきもきしている。
しかし、政宗がゆっくりと味わって食べている間に、ランチタイムになった。このグリーンガーデンの香り高いコーヒーと一種類しかないが常に外れがないランチを目当てにサラリーマンやOLがやってきた。
「政宗様も手伝って下さい」
食後のコーヒーを優雅に飲んでいる政宗に、出来上がったスペインオムレツの皿を運ばせる。
「留美さんが居ないと、こういう時は不便だな」
初めは煩いと感じていた留美だが、居ないとなると寂しい気がするのを、政宗は誤魔化して文句を言う。
「元々、この店はオーナーと私で十分なのです。さぁ、これも運んで下さい」
確かに贅沢な空間に僅かな席しか置いていないグリーンガーデンなので、二人で十分なのだが……それは、政宗が真面目にオーナーとして働くという事を前提としての話だ。
「やれやれ……」
天狐のくせにやたらと美味しいランチなどを作るから、こうして手伝わなくてはいけないと渋々ながら政宗は運ぶ。
カラン、カランとドアベルが鳴る。この銀製のドアベルは人数にあった数だけ鳴る機能がある。
「すみません、満席ですよ……東三条さん……」
一人だけなのに二回鳴ったのは、東三条に悪霊が憑いているからだ。
「あれから考えたのだ。ビルを売却する事は無理だが、このままでは……」
自ら断ったのに、こうしてまた頼みに来たのを気恥ずかしく感じているらしく、入口に立ち止まっている。
そんな時に、カラン! とドアベルが鳴り、留美が入ってきた。
「私が説得してあげたのよ。さぁ、先ずはランチを食べてから話し合いましょう。わぁ、スペインオムレツね!」
留美は席が満席なのも気にしないで、東三条をカウンターへと案内する。
「ランチを二つお願いね!」
銀狐は、カウンターに政宗以外が座るのは好きではない。しかし、喫茶店の経営も上手くいって欲しいので、客は客だと、留美の図々しい態度にも我慢する。
「私はここのソバ粉入りガレットが大好きなの。でも、スペインオムレツも美味しいわね」
喫茶店のランチに然程は期待していなかった東三条も、スペインオムレツを一口食べて「ううむ」と唸る。
「美味しいですね。失礼だか、レストランを開けるのではありませんか? 資金なら相談に乗りますが……」
東三条は、こんなに腕が良いのに何故こんな喫茶店で働いているのかと、人間離れした美貌の男を眺める。
「私はこの喫茶店を守ることを第一に考えております」
天狐はレストラン開業なんかは興味がない。恩人である正輝様が大事にされていた喫茶店を営業していくことだけが、生き甲斐なのだ。
「銀さんは欲が無いのね。だから、こんな喫茶店で働いているのかもね」
留美にこんな喫茶店と言われて銀狐は機嫌が悪いが、東三条はなかなか趣きのある店内と上質なコーヒーに満足する。
「大阪はよく知っているつもりだったが、まだまだ知らない事も多そうだ。今回の件も、私の理解の範疇を超えている。先程は失礼いたしました」
ランチ後のコーヒーを配り終えた政宗に、東三条は頭を下げる。
「まぁ、突然あんなビルを売れと言われても、なかなかハイとは言えませんよね。でも本当はそうした方が良いのですよ」
東三条のコーヒーに便乗して「今度はモカ!」と図々しいオーダーをして、隣の席に座る。
「ビルを売る以外の解決策は無いのでしょうか?」
「今度は、銀さんも一緒に付いて行ってもらいます。だから、もう少し詳しく話し合って、怨みの理由を探ってみたいのです。貴方を怨んでいるのは確かですが、あの場所にも執着しているようなのですよねぇ。何か思い当たりませんか?」
モカを淹れていた銀狐は、いつ一緒に行くことになったのか? と腹を立てる。
「ちょっとお待ち下さい。喫茶店をそうそう閉めて行くわけにはいけません」
「ええっ、さっき協力してくれると言ったじゃないか」
「それは、政宗様がコーヒーの淹れ方をマスターすると言われたから……」
「そうよねぇ、喫茶店のマスターなのにコーヒーも淹れられないだなんて駄目よね」
余計な口を挟んだ留美を政宗は睨みつける。やはり、居ない方がいい! と内心で罵る。
「皆が退社した後の方が此方にとっても都合が良いので、コーヒーの淹れ方を学んでからでも……」
東三条は、政宗にギロリと睨まれて、出されたコーヒーを持ち上げて一口飲む。
「やはり絶品だ! このコーヒーの淹れ方なら、私も習いたいです」
こうして政宗は、銀狐からコーヒーの淹れ方を熱血指導されることになった。探偵業もなかなかハードだ。
「やはり、彼方から依頼しなおして貰わないとビルの中に勝手には入れそうに無いな」
グサリとオムレツをフォークで刺して、ムギュムギュと美味しそうに咀嚼する。喫茶店のマスターとして、コーヒーぐらいは淹れ方を覚えて欲しいと渇望している銀狐は、早く食べ終えてもらって教えようと、やきもきしている。
しかし、政宗がゆっくりと味わって食べている間に、ランチタイムになった。このグリーンガーデンの香り高いコーヒーと一種類しかないが常に外れがないランチを目当てにサラリーマンやOLがやってきた。
「政宗様も手伝って下さい」
食後のコーヒーを優雅に飲んでいる政宗に、出来上がったスペインオムレツの皿を運ばせる。
「留美さんが居ないと、こういう時は不便だな」
初めは煩いと感じていた留美だが、居ないとなると寂しい気がするのを、政宗は誤魔化して文句を言う。
「元々、この店はオーナーと私で十分なのです。さぁ、これも運んで下さい」
確かに贅沢な空間に僅かな席しか置いていないグリーンガーデンなので、二人で十分なのだが……それは、政宗が真面目にオーナーとして働くという事を前提としての話だ。
「やれやれ……」
天狐のくせにやたらと美味しいランチなどを作るから、こうして手伝わなくてはいけないと渋々ながら政宗は運ぶ。
カラン、カランとドアベルが鳴る。この銀製のドアベルは人数にあった数だけ鳴る機能がある。
「すみません、満席ですよ……東三条さん……」
一人だけなのに二回鳴ったのは、東三条に悪霊が憑いているからだ。
「あれから考えたのだ。ビルを売却する事は無理だが、このままでは……」
自ら断ったのに、こうしてまた頼みに来たのを気恥ずかしく感じているらしく、入口に立ち止まっている。
そんな時に、カラン! とドアベルが鳴り、留美が入ってきた。
「私が説得してあげたのよ。さぁ、先ずはランチを食べてから話し合いましょう。わぁ、スペインオムレツね!」
留美は席が満席なのも気にしないで、東三条をカウンターへと案内する。
「ランチを二つお願いね!」
銀狐は、カウンターに政宗以外が座るのは好きではない。しかし、喫茶店の経営も上手くいって欲しいので、客は客だと、留美の図々しい態度にも我慢する。
「私はここのソバ粉入りガレットが大好きなの。でも、スペインオムレツも美味しいわね」
喫茶店のランチに然程は期待していなかった東三条も、スペインオムレツを一口食べて「ううむ」と唸る。
「美味しいですね。失礼だか、レストランを開けるのではありませんか? 資金なら相談に乗りますが……」
東三条は、こんなに腕が良いのに何故こんな喫茶店で働いているのかと、人間離れした美貌の男を眺める。
「私はこの喫茶店を守ることを第一に考えております」
天狐はレストラン開業なんかは興味がない。恩人である正輝様が大事にされていた喫茶店を営業していくことだけが、生き甲斐なのだ。
「銀さんは欲が無いのね。だから、こんな喫茶店で働いているのかもね」
留美にこんな喫茶店と言われて銀狐は機嫌が悪いが、東三条はなかなか趣きのある店内と上質なコーヒーに満足する。
「大阪はよく知っているつもりだったが、まだまだ知らない事も多そうだ。今回の件も、私の理解の範疇を超えている。先程は失礼いたしました」
ランチ後のコーヒーを配り終えた政宗に、東三条は頭を下げる。
「まぁ、突然あんなビルを売れと言われても、なかなかハイとは言えませんよね。でも本当はそうした方が良いのですよ」
東三条のコーヒーに便乗して「今度はモカ!」と図々しいオーダーをして、隣の席に座る。
「ビルを売る以外の解決策は無いのでしょうか?」
「今度は、銀さんも一緒に付いて行ってもらいます。だから、もう少し詳しく話し合って、怨みの理由を探ってみたいのです。貴方を怨んでいるのは確かですが、あの場所にも執着しているようなのですよねぇ。何か思い当たりませんか?」
モカを淹れていた銀狐は、いつ一緒に行くことになったのか? と腹を立てる。
「ちょっとお待ち下さい。喫茶店をそうそう閉めて行くわけにはいけません」
「ええっ、さっき協力してくれると言ったじゃないか」
「それは、政宗様がコーヒーの淹れ方をマスターすると言われたから……」
「そうよねぇ、喫茶店のマスターなのにコーヒーも淹れられないだなんて駄目よね」
余計な口を挟んだ留美を政宗は睨みつける。やはり、居ない方がいい! と内心で罵る。
「皆が退社した後の方が此方にとっても都合が良いので、コーヒーの淹れ方を学んでからでも……」
東三条は、政宗にギロリと睨まれて、出されたコーヒーを持ち上げて一口飲む。
「やはり絶品だ! このコーヒーの淹れ方なら、私も習いたいです」
こうして政宗は、銀狐からコーヒーの淹れ方を熱血指導されることになった。探偵業もなかなかハードだ。
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