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第ニ章 逆恨み
4 仕事の怨み?
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秘書の椅子に座っている東三条は、気分が優れないみたいだが、黒い影は活性化している。
「どうやら東三条さんに恨みがあるから取り憑いているみたいですね。でも、社長室に近づくとより強力になるのは、何故なのかな? 東三条さんに取り憑いているなら、何処でも同じじゃないのか?」
呑気に人に憑いているのか? 場所に憑いているのか? と腕組みして考えている政宗に瑠美は呆れる。
「東三条のおじ様は具合が悪そうよ。さっさと質問したら?」
「まぁ、考えてもわからないし、質問してみようか。ええっと、東三条さんに恨みがあるんですよね?」
黒い影はぐぉお~と大きくなる。ふむふむと、政宗は確認できたと頷く。しかし、影が大きくなると東三条はぼんやりとしてくる。
「ちょっと! まずいんじゃない?」
「そりゃまずいと思うけど……質問しなきゃ、こんな強力な悪霊に取り憑かれた東三条さんはそのうち死んじゃうよ。まぁ、このビルを売れば話は簡単だけどね」
「こんな立派なビルを簡単に売ったりできないわよ」
「そうかなぁ? 命の方が大切だと思うけど」
瑠美に睨まれて、政宗は肩を竦める。
「貴方が東三条さんに恨みがあるのは確認できたけど、それはこのビルに関係するのかな?」
黒い影は天井まで広がる。
「げげげ……まずいなぁ! 一時撤退しよう! 瑠美さんも逃げるんだ!」
政宗は東三条の腕を持って秘書室から逃げ出す。瑠美は黒い影など見えないが、慌てて政宗の後を追う。
秘書室から出て、かなり遠くまで東三条の腕を持って引きずるように逃げる。
「何事ですか?」
社長の腕を持って乱暴に連れて行こうとしている政宗に、秘書は不信感を顕に詰問する。
「会議室にコーヒーを運んで! なるべく薫り高いのにしてね!」
ぐったりしている東三条を会議室の椅子に座らせ、政宗もどっすんと椅子に座る。
「こりゃあ、かなり強力な悪霊だなぁ。銀さんについて来て貰えば良かった」
秘書は胡散臭い青年に命令される謂れは無いとは思ったが、社長が愛飲しているキリマンジャロを淹れて会議室に運んだ。
「あっ、良い薫りだ! キリマンジャロですね!」
政宗はちゃっかりと一口飲んで、ホッと一息ついた。
「東三条さんも飲んだ方が良いですよ! あっ、瑠美さんも飲んだら?」
自分勝手な政宗を睨みつけていた瑠美は、まだぼんやりとしている東三条の手にコーヒーカップを持たせて、手を添えて飲ませてやる。
「……はぁあ……」
コーヒーが喉を通ると、東三条は大きな息を身体の奥底から吐き出した。
「社長! どうされたのですか? この青年に何かされたのですか?」
自分を心配してくれる秘書には悪いが、出ていくように指示する。
「それで、何かわかったのですか?」
銀狐の淹れたコーヒー程ではないが、少し回復した東三条は、政宗に質問する。
「どうやらこのビルに関する怨みのようです。いやぁ、あんなに巨大化するだなんて、やはり此処は危険すぎます」
自分も危ない所だったと、政宗は背もたれに身体を預ける。
「それで、その黒い影はそのまま放置してても大丈夫なのですか?」
政宗は黒縁の眼鏡を外して、東三条の頭の上にぷかぷか浮いている黒い影を見る。瑠美は、眼鏡を外した政宗の顔が意外とイケているのに驚く。自分の時は、顔をチェックするどころではなかったのだ。
「秘書室にはいませんから、秘書さんに害はないですよ」
眼鏡を外した政宗が東三条の頭の上を見ていたので、きっと黒い影はそこにいるのだろうと瑠美は推察した。
「そこにいる黒い影をこのままにしていちゃいけないんじゃないの?」
「まぁ、このままだと東三条さんも死んじゃうでしょうね。この悪霊はビル関係の怨みがあるみたいだから、手放せばかなり弱くなりそうなんだけど……ねぇ、売っちゃいましょうよ!」
自分の死を宣告された東三条は、流石に顔色を変えたが、政宗の言葉を信じてビルを売る気にはならない。
「馬鹿馬鹿しい! もう結構だ! お引き取り願いたい」
瑠美は、自分の両親も政宗を初めは胡散臭く感じたのだと、東三条が怒りだしたのにも驚かない。
「でも、このままでは……東三条のおじ様、政宗さんは無礼だし、横柄だけど、嘘はついていないと思うの」
瑠美が取りなそうとしたが、政宗は「じゃあ、失礼します!」と言って、サッサと席を立つ。
「政宗さん!」瑠美はエレベーターの前で政宗を捕まえる。
「あのまま東三条さんをほっておいて良いの?」
「私がビルを手放せと言っても、聞く耳を持たないのだから仕方ない。それに、本人が引き取ってくれと言っているんだよ」
チンとエレベーターのドアが開き、乗り込んだ政宗は「乗らないの?」と瑠美に声を掛けたが、首を横に振るので「じゃあ」と閉まるボタンを押した。
「政宗の馬鹿! 薄情者! 怠け者!」
閉まったエレベーターのドアに向かって、瑠美は悪態をついた。
「どうやら東三条さんに恨みがあるから取り憑いているみたいですね。でも、社長室に近づくとより強力になるのは、何故なのかな? 東三条さんに取り憑いているなら、何処でも同じじゃないのか?」
呑気に人に憑いているのか? 場所に憑いているのか? と腕組みして考えている政宗に瑠美は呆れる。
「東三条のおじ様は具合が悪そうよ。さっさと質問したら?」
「まぁ、考えてもわからないし、質問してみようか。ええっと、東三条さんに恨みがあるんですよね?」
黒い影はぐぉお~と大きくなる。ふむふむと、政宗は確認できたと頷く。しかし、影が大きくなると東三条はぼんやりとしてくる。
「ちょっと! まずいんじゃない?」
「そりゃまずいと思うけど……質問しなきゃ、こんな強力な悪霊に取り憑かれた東三条さんはそのうち死んじゃうよ。まぁ、このビルを売れば話は簡単だけどね」
「こんな立派なビルを簡単に売ったりできないわよ」
「そうかなぁ? 命の方が大切だと思うけど」
瑠美に睨まれて、政宗は肩を竦める。
「貴方が東三条さんに恨みがあるのは確認できたけど、それはこのビルに関係するのかな?」
黒い影は天井まで広がる。
「げげげ……まずいなぁ! 一時撤退しよう! 瑠美さんも逃げるんだ!」
政宗は東三条の腕を持って秘書室から逃げ出す。瑠美は黒い影など見えないが、慌てて政宗の後を追う。
秘書室から出て、かなり遠くまで東三条の腕を持って引きずるように逃げる。
「何事ですか?」
社長の腕を持って乱暴に連れて行こうとしている政宗に、秘書は不信感を顕に詰問する。
「会議室にコーヒーを運んで! なるべく薫り高いのにしてね!」
ぐったりしている東三条を会議室の椅子に座らせ、政宗もどっすんと椅子に座る。
「こりゃあ、かなり強力な悪霊だなぁ。銀さんについて来て貰えば良かった」
秘書は胡散臭い青年に命令される謂れは無いとは思ったが、社長が愛飲しているキリマンジャロを淹れて会議室に運んだ。
「あっ、良い薫りだ! キリマンジャロですね!」
政宗はちゃっかりと一口飲んで、ホッと一息ついた。
「東三条さんも飲んだ方が良いですよ! あっ、瑠美さんも飲んだら?」
自分勝手な政宗を睨みつけていた瑠美は、まだぼんやりとしている東三条の手にコーヒーカップを持たせて、手を添えて飲ませてやる。
「……はぁあ……」
コーヒーが喉を通ると、東三条は大きな息を身体の奥底から吐き出した。
「社長! どうされたのですか? この青年に何かされたのですか?」
自分を心配してくれる秘書には悪いが、出ていくように指示する。
「それで、何かわかったのですか?」
銀狐の淹れたコーヒー程ではないが、少し回復した東三条は、政宗に質問する。
「どうやらこのビルに関する怨みのようです。いやぁ、あんなに巨大化するだなんて、やはり此処は危険すぎます」
自分も危ない所だったと、政宗は背もたれに身体を預ける。
「それで、その黒い影はそのまま放置してても大丈夫なのですか?」
政宗は黒縁の眼鏡を外して、東三条の頭の上にぷかぷか浮いている黒い影を見る。瑠美は、眼鏡を外した政宗の顔が意外とイケているのに驚く。自分の時は、顔をチェックするどころではなかったのだ。
「秘書室にはいませんから、秘書さんに害はないですよ」
眼鏡を外した政宗が東三条の頭の上を見ていたので、きっと黒い影はそこにいるのだろうと瑠美は推察した。
「そこにいる黒い影をこのままにしていちゃいけないんじゃないの?」
「まぁ、このままだと東三条さんも死んじゃうでしょうね。この悪霊はビル関係の怨みがあるみたいだから、手放せばかなり弱くなりそうなんだけど……ねぇ、売っちゃいましょうよ!」
自分の死を宣告された東三条は、流石に顔色を変えたが、政宗の言葉を信じてビルを売る気にはならない。
「馬鹿馬鹿しい! もう結構だ! お引き取り願いたい」
瑠美は、自分の両親も政宗を初めは胡散臭く感じたのだと、東三条が怒りだしたのにも驚かない。
「でも、このままでは……東三条のおじ様、政宗さんは無礼だし、横柄だけど、嘘はついていないと思うの」
瑠美が取りなそうとしたが、政宗は「じゃあ、失礼します!」と言って、サッサと席を立つ。
「政宗さん!」瑠美はエレベーターの前で政宗を捕まえる。
「あのまま東三条さんをほっておいて良いの?」
「私がビルを手放せと言っても、聞く耳を持たないのだから仕方ない。それに、本人が引き取ってくれと言っているんだよ」
チンとエレベーターのドアが開き、乗り込んだ政宗は「乗らないの?」と瑠美に声を掛けたが、首を横に振るので「じゃあ」と閉まるボタンを押した。
「政宗の馬鹿! 薄情者! 怠け者!」
閉まったエレベーターのドアに向かって、瑠美は悪態をついた。
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