9 / 19
第ニ章 逆恨み
2 魔王の城?
しおりを挟む
「同じ大阪に建っているビルとは思えないなぁ。なんだか魔王が住む城みたいだ……」
東三条の運転手付きの高級車から降り立った政宗は、ガラス張りの高層ビルを見上げて羨ましそうに呟く。
「これだけのビルなら、テナント料金は幾らになるのですか?」
社長を出迎える秘書に案内され、ピカピカのエントランスに入りながら、無礼な質問をする政宗に東三条は眉を顰める。きょろきょろと値踏みをするように見渡している目に、不信感が膨らんでくる。助手だからと強引についてきた留美は『まずいわぁ』とフォローする。この点では、銀孤よりは探偵の助手として留美の方が役に立つのかもしれない。
「政宗さんは、あのビルのオーナーだから気になるのね。でも、あのビルのテナント料とこのビルのを比べても意味は無いと思うわ」
「いやぁ、ついねぇ。輝正大伯父さんも遺してくれるなら、こんなビルを遺してくれたら遊んで暮らしていけたのにと考えちゃって。それに喫茶店を続けなきゃいけないだなんて、条件もつけてくるしさぁ」
「貴方はあのビルのオーナーなのですか?」
東三条はエレベーターを待ちながら、政宗と留美との会話を聞いていたが驚いた。古びてはいるが、趣のあるビルのオーナーだとは知らなかったのだ。もしかして、資産家の息子なのかと政宗を観察するが、白いシャツと黒いパンツ姿の痩せぎすな青年からは、そんな様子は感じられない。
この服装はグリーンガーデンの制服というか、輝正が好んで着ていたので、銀孤も同じ格好をしているし、政宗にも着るようにと、毎朝きちんとアイロンを掛けたのを用意しているのだが……政宗の白いシャツは、開店前にソファーで寝転んでミステリー小説を読んだりして、何となくグシャとしているし、猫背気味なのも良くない。秘書も社長が何故このような若者をつれてきたのか尋ねたそうにしているが、東三条は無視する。
「そうよ、一応はちゃんとしているの」
そうフォローする留美ももう少し何とかならないのかと溜息を押し殺す。せめて、しゃんと立たないかと、背中をパシンと叩きたくなる。
そうこう話している内に、チンとエレベーターの扉が開く。
「へぇ、外が見えるのかぁ」
まるで子どものようにエレベーターの窓に張り付いて外を眺めている政宗に、留美と東三条は呆れる。
「あっ、彼処にビルが見えるなぁ」
「えっ、何処に?」
「ほら、あのちっちゃな……屋上に菜園があるビルだよ」
「へぇ、屋上で何を植えているの?」
瑠美が興味を持って尋ねるが、政宗は銀狐に任せているので、何を育てているのか知らない。
「さぁね、多分ミントとかハーブだとは思うけど……こうして見ると、本当に小さいなぁ」
「全く政宗さんは、オーナーだというのに銀さんに任せっきりね。せめて、こちらの探偵業の方はちゃんとしてね」
自分が紹介したのだからと、留美はコソッと念押しするが、生憎と狭いエレベーターの中なので東三条と秘書の耳にも届いていた。
チン! とドアが開き、スリースター社が借り切っている階へと到着した。にこやかな受付嬢に鼻の下を伸ばす政宗の腕を引っ張りながら、留美は東三条の後を追いかける。
『何だか、本当に魔王の城みたいだ……』
受付から奥へと進むにつれて、段々と東三条に憑いている黒い影が活性化していく。どうやら、このビルには何か悪霊が集まっているようだと、政宗は回れ右して帰りたくなった。
「政宗さん、何をしているの?」
伯母とはいえ悪霊に憑かれた留美だから、何か霊感でもあるのでは無いかと考えていた政宗だが、全くこの雰囲気の悪さを感じ取っていないのにがっかりする。
「本当に助手失格だなぁ」
「まぁ、失礼ね! それより、早く原因を突き止めなきゃいけないんでしょ」
ぐぃぐぃと腕を引っ張られて、黒い渦の方へと政宗は進んで行く。
東三条の運転手付きの高級車から降り立った政宗は、ガラス張りの高層ビルを見上げて羨ましそうに呟く。
「これだけのビルなら、テナント料金は幾らになるのですか?」
社長を出迎える秘書に案内され、ピカピカのエントランスに入りながら、無礼な質問をする政宗に東三条は眉を顰める。きょろきょろと値踏みをするように見渡している目に、不信感が膨らんでくる。助手だからと強引についてきた留美は『まずいわぁ』とフォローする。この点では、銀孤よりは探偵の助手として留美の方が役に立つのかもしれない。
「政宗さんは、あのビルのオーナーだから気になるのね。でも、あのビルのテナント料とこのビルのを比べても意味は無いと思うわ」
「いやぁ、ついねぇ。輝正大伯父さんも遺してくれるなら、こんなビルを遺してくれたら遊んで暮らしていけたのにと考えちゃって。それに喫茶店を続けなきゃいけないだなんて、条件もつけてくるしさぁ」
「貴方はあのビルのオーナーなのですか?」
東三条はエレベーターを待ちながら、政宗と留美との会話を聞いていたが驚いた。古びてはいるが、趣のあるビルのオーナーだとは知らなかったのだ。もしかして、資産家の息子なのかと政宗を観察するが、白いシャツと黒いパンツ姿の痩せぎすな青年からは、そんな様子は感じられない。
この服装はグリーンガーデンの制服というか、輝正が好んで着ていたので、銀孤も同じ格好をしているし、政宗にも着るようにと、毎朝きちんとアイロンを掛けたのを用意しているのだが……政宗の白いシャツは、開店前にソファーで寝転んでミステリー小説を読んだりして、何となくグシャとしているし、猫背気味なのも良くない。秘書も社長が何故このような若者をつれてきたのか尋ねたそうにしているが、東三条は無視する。
「そうよ、一応はちゃんとしているの」
そうフォローする留美ももう少し何とかならないのかと溜息を押し殺す。せめて、しゃんと立たないかと、背中をパシンと叩きたくなる。
そうこう話している内に、チンとエレベーターの扉が開く。
「へぇ、外が見えるのかぁ」
まるで子どものようにエレベーターの窓に張り付いて外を眺めている政宗に、留美と東三条は呆れる。
「あっ、彼処にビルが見えるなぁ」
「えっ、何処に?」
「ほら、あのちっちゃな……屋上に菜園があるビルだよ」
「へぇ、屋上で何を植えているの?」
瑠美が興味を持って尋ねるが、政宗は銀狐に任せているので、何を育てているのか知らない。
「さぁね、多分ミントとかハーブだとは思うけど……こうして見ると、本当に小さいなぁ」
「全く政宗さんは、オーナーだというのに銀さんに任せっきりね。せめて、こちらの探偵業の方はちゃんとしてね」
自分が紹介したのだからと、留美はコソッと念押しするが、生憎と狭いエレベーターの中なので東三条と秘書の耳にも届いていた。
チン! とドアが開き、スリースター社が借り切っている階へと到着した。にこやかな受付嬢に鼻の下を伸ばす政宗の腕を引っ張りながら、留美は東三条の後を追いかける。
『何だか、本当に魔王の城みたいだ……』
受付から奥へと進むにつれて、段々と東三条に憑いている黒い影が活性化していく。どうやら、このビルには何か悪霊が集まっているようだと、政宗は回れ右して帰りたくなった。
「政宗さん、何をしているの?」
伯母とはいえ悪霊に憑かれた留美だから、何か霊感でもあるのでは無いかと考えていた政宗だが、全くこの雰囲気の悪さを感じ取っていないのにがっかりする。
「本当に助手失格だなぁ」
「まぁ、失礼ね! それより、早く原因を突き止めなきゃいけないんでしょ」
ぐぃぐぃと腕を引っ張られて、黒い渦の方へと政宗は進んで行く。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる