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断捨離

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「いくら態度を改めても親に見捨てられているから駄目ね」

「お嬢様の専属メイドに選ばれても嬉しくないわ」

「傲慢で我儘で嫉妬深い性格。挙句の果てにロエル様に嫉妬しているじゃない。呆れてものが言えないわ。ミリア様もロエル様に懐いているわ」

 あの後どうやら眠ってしまったらしく、水を飲みにキッチンに向かっているとメイドたちの話し声が聞こえてきた。壁を背にして跪くと元のラウラの感情が溢れそうになる。

 ――どうしてこんなことになっているの。いつも私は冷遇されている。

 ラウラは愛されヒロインのはずなのに、家庭内で冷遇され妹ミリアが優遇されているらしい。昨今の悪役令嬢のような立場の悪さ。普通ヒロインは天真爛漫で愛されて無垢なはずなのに。

 こっちの世界のロエル様は周囲から評判がいい。ゲーム内で地味で目立たない公爵令嬢だが、ある時から性格が変わる。傲慢で我儘な性格になり、ラウラを酷く非難してくるのだ。詳しく覚えていないが、彼女の地雷を踏んだのだろう。近づくのは危ないやめておこう。

 ゲームだとミリアとラウラは仲が良く、おねだり上手な妹のためにダンジョンに向かうエピソードもある。それなのに、どうしてラウラは冷遇されているのだろう。ため息をつきキッチンまで向かうと使用人たちは驚きを隠せない。

「喉が渇いたの。お水を頂戴」

「申し訳ございません。お嬢様、部屋までお持ちいたします」

 感謝の言葉を口にする心の余裕は今はない。多分、元のラウラもこうしていたはずだ。少しずつ流れてくる記憶と今の状況が勝手に比較され感傷的な気分になってしまう。

 メイドたちがやってくると飲み物や食べ物がテーブルに並べられていく。怒られないようにするために必死で仕事をしているようだ。仕事だから当たり前の事だ。ただ、仲良く出来ないことが残念でならない。

 記憶の中でのラウラは親友はおろか友達もいなかった。いつも誰かを卑下し、誰かを虐めるように誘導していた。悪女と例えられても否定できない。まともな両親の意見を聞かず、馬鹿にし親子関係も成人を迎えたら切られてしまうだろう。

「ありがとう。もう下がってもいいわ」

 いつものように抑揚のない声で命令をすれば、使用人たちもすぐに下がった。何処か安堵した態度で肩の力が抜けている。

 異世界で友達が欲しかった。普通に同じテーブルでお菓子を食べて、ありきたりな事を話してみたかった。今の私には絶対に出来ない事が分かるから、涙が出そうになっても絶対に泣かない。温かい紅茶を口に含むと緊張が緩み、肩を撫でおろした。

 私はヒロインじゃなくて悪役令嬢になったのかもしれない。

 神獣を持っているロエルの情報を仕入れるのは簡単な事だった。王子の婚約者で周囲に優しい心優しい少女というのが周囲の印象が強かった。ロエルは原作だと公爵令嬢だが目立たず、一歩後ろに下がって見守る穏やかな性格の子だった。つり目の赤髪で赤い瞳の女の子だ。

 ――せっかく転生したのだから、イーサンもハスラーもロエルにも会ってみたい。そうよ。もうこうなったら現実を楽しむしかないじゃない。

 父に呼び出され向かうと舞踏会の招待状が届いたことを告げられた。人生初の舞踏会に胸が躍ったが、その後ミリアを連れて行きたいことをハッキリ伝えられた。

「いいと思うます。ミリアにとって経験になると思うので」

「お前は行きたいと駄々を捏ねると思ったが杞憂だったな」

「もう私も大人にならないといけませんから」

「そうか」

 父の声が上擦り好感度が上がったみたいだ。これなら今までの悪行も思春期特有のもので、荒れててすいませんでしたということにならないかしらと、下心が出てしまう。
 どうして今まであんなに酷い態度を取っていたのだろうか。

 前世の戻れないように過去に戻れないから考えても仕方がない。
 舞踏会に行ってみたかったなと思いながら、気分転換にクローゼットの中身を出すことにした。前世は借金地獄だったため、断捨離が趣味だったことが影響している。

 クローゼットの中に着ていないドレスが山ほどあり、着用出来ないものや流行りではないものは処分することにした。少しでもお金を貯めてダンジョンに向かいたかったのもある。普通の令嬢がダンジョンに行くとなったら、大掛かりなことになる。

 神獣がいなくても攻略方法を知っている。それは男性と二人きりで攻略に行くことだ。好感度が上がり魔力の上限も上がる。一石二鳥である。

 妹にダサいドレスの処分を求められていたらしく、侍女を連れてドレスを持って買取店に向かうことになった。
 まさか初めて入った異世界のお店が買取店になるとは。私が生まれて初めてだと思う。普通屋敷に招いて査定されるかと思っていた。アイテムボックスに入っているから持ち運びは楽だが、苦笑いしてしまう。

 査定が始まるとやることがなく、店舗の中にある販売のお店に足を踏み入れた。
 ここには攻略キャラに贈るアイテムが多数揃っていて、勿論推しのイーサンのアイテムもある。特別な愛のセリフを囁いてもらうために購入しなければならない。これはガチオタとしての使命よ。ルンルン気分で目的の物を探しすぐに見つかった。

 攻略アイテムが軒並み完売しているし、値段が高すぎて手が出ない。
 1円が1リルの世界で、1000万リルは高すぎる。商品の意味を理解していない人には価値が全く分からないだろう。今ここで買い物をしたら父の好感度が下がってしまう。

 仕方がないと諦めて、ダサいドレスの買取金額を貰い外に出た。意外なことに買取金額が高く、これなら問題ないとすぐに売り払ってしまった。着ているダサいドレスも買い取ってもらい、新品のワンピースを買ってみた。侯爵家ならオーダーメイドのドレスを頼めるが、今までの浪費を考えるとお願いしにくい。懐が温かくなり、市場で普段は買わないお菓子を買い無駄遣いを楽しんだ。

 この日はいつもと違って気分が良かった。普段なら気にしない道の傍らが映り息を呑んだ。

 ――神様は私の事を見捨てていなかったんだ。

 小さな子供が果物の切れっぱしに齧り付き舐めている。銀髪に琥珀色の魅惑的な瞳のイーサンの護衛のアージェスがいたのだ。小さくなった原因は分からないが、アージェスだと私は確信した。首に奴隷の首輪が嵌められているから、任務の時に失敗して小さくなったのだろう。イーサンと出会うのはもう少し後の事だから、引き渡すときに健康状態がいい状態で渡したい。

 持っていたお菓子で誘き寄せて抱っこすると意外なことに大人しい。目と目が合うと驚いた表情をして顔を胸に擦り付けてきた。

 侍女が何か言いたげにしたが無視をした。自然に頭を撫でると、固まった髪の毛が手に触れた。肌もガサガサで身体もガリガリだ。

「これの健康状態をよくする方法を知ってる?」

「や、やぁ」

「おチビちゃんを可愛くしてあげるだけよ。待ってて」

 侍女に命令をすると回復薬を飲ませるといいと聞き買いに行ってもらった。飲ませると見る見るうちに健康になった。錬金術師の資格も彼女が持っていることがすぐに理解し、心の中で落胆した。今は違法になっている奴隷の首輪は解除出来る人間の元で外してもらった。洗浄魔法をお願いし彼を綺麗にして貰った。
 アージェスの服も売られていたので買い戻すことに成功した。DLCコンテンツのものだけれど気にしない。

 ダサいドレスを売った代金は綺麗さっぱり消えてしまった。

 腕にだっこしたまま屋敷に戻るとアージェスは眠っていて、ベッドの近くに服を置いた。
 謎が多いアージェスは攻略が出来ないし、特に気にする内容がないから覚えているところが少ない。無言でイーサンを威圧するタイプで戦闘にも参加しない。

 それにしても小さいアージェスはとても可愛い。もしも変態に売りつけられていたら腸が煮えくり返ってしまう。恐らく2歳くらいだろうか。上手く話せず助けを求められなかっただろう。

 ギュッと抱きしめると今までのアージェスの事を想像して泣いていた。
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