上 下
7 / 21

6.5 黒歴史

しおりを挟む
 セシリアと出会って拭えなかった違和感。2度目の人生が初めてだから、彼女を見逃してあげたい。

 誰だって最初から上手くいくはずがない。彼女は私よりも幸せだったはずだ。

 侯爵家の夫妻は娘を美しく着飾らせ自由にさせていた。ラシエルに執着しなければ、彼女は視野が広く前向きに行動できる。友達に囲まれて楽しそうに話しているところを何度も見て羨ましいと思っていた。

「他に夢中になれるものがなかったのが無かったのかな」

 独り言を呟いて、昔の自分を思い出した。誰かに気に入られたくて、「大好き」を多用していた物知らずの伯爵令嬢。

 完全な黒歴史だ。

「リーファ様は素直ですね」

 この言葉の中に、愛されたくて馬鹿みたいだが含まれていた。子供ならいいが、小さいうちだけだ。人前で好きを多用するのは、媚びているのだ。

 人に好意をすぐに伝えなければ、すぐにひとりぼっちの惨めな伯爵令嬢に戻りそうで怖かった。

 服装も周囲に合わせて、足並みを揃える。権力者が寵愛する妻に逆らえる人なんていない。
 素直にラシエルに報告するから向こうもやりずらかっただろう。

 メルことメルニー・モレの件が話題になっている今、お茶会があり参加することにした。セシリアと極力会いたくない。

 もしも会った時に同じドレスとか笑えない。場が凍りつくに決まっている。

 絶対に選ばないようなドレスを選んで会場に向かうと男性たちも集まっていた。女性だけのお茶会だと思っていたが、直前になってガーデンパーティに変更したのだ。

 有り得ない。連絡が来なかったのは、優先順位が低い証拠だ。ここと取引をしないと心に決めて頃合いを見て帰ることにした。

 会場の中心にセシリアと主催者が集まっていて挨拶をする。思わず口を抑えて扇子で表情を隠した。

 キツイ顔立ちにカントリー風のダサい野暮ったいドレス。イメージは草原で走る少女だろう。自分の黒歴史を目の前で再現されて、今すぐベッドで転がりたい気持ちを抑える。

 私は16歳で彼女は19歳。似合っていない服装に苦笑いするしかない。田舎から出てきた流行おくれの令嬢なら分かるけれど、彼女は生粋の貴族で流行の物を着た方がいい。誰か、おかしい服だって注意しなさいよ。

「ごきげんよう、アンヘル様」

「やぁ、よく来たね。君のこと待っていたよ。クロッカス嬢が挨拶をしたいそうだ」

 とことこやってきたセシリアが目の前にいる。目つきの悪さは変えられない。私の事が大嫌いなセシリアは、今の私をどうみているのだろうか。セシリアはボリュームのあるドレスが好きで、身体のラインが出るドレスは着なかった。今の野暮ったいドレスは無理をして服を着ているのだろうか。地味でダサいドレスをこれから先も着ると思うと少し不憫だと思った。

 私たちはこの時やっと初めて正面で向かい合って挨拶をした。

「クロッカス侯爵家のセシリアと申します」

「お初お目にかかります。ブルーム伯爵家のリーファと申します」

 早くこの場を立ち去りたい。セシリア様は薄い茶色の髪の毛を腰まで伸ばし、鋭い青い瞳を垂れ目にお化粧していた。

 今の彼女に婚約者はいない。

 以前は元がいいからモテていたが以前は男に奔放してて、男性ウケが悪かった。
 今は違う意味で危ない女性だ。幼児が着そうな服装をしている。彼女と会話が盛り上がる事はなく、私達はすぐに離れた。

 セシリアの取り巻きになりたい女性が声をかけていた。特注で作らせたダサいドレスが気になっている。すごいセンスだ。お金出して田舎者になりたいのだろうか。

「私もセシリアお姉さまのようになりたいのです」

 いや、向こうは王妃を輩出した名家です。お姉さま呼びはちょっと失礼では無いのかな。

「お姉さま。私はひとりっこだから嬉しいわ。ありがとう、エミリア大好きよ」

 本人は気にしていないようだ。自分がやってきたことを再現されると心にダメージを負う。

 ここは私と違うとハッキリしたことがある。私を「妹にしたい」や「姉にしたい」と冗談で言う人がいたけれど、姉はクズだったから要らないし妹は必要だと思ったことがないため首を振っていた。

 セシリアはこれから先どうなるのだろうか。自分を隠して生きて楽しいのかな。ため息をつきたい気持ちを隠して、必要な人に声を掛けて会場を後にした。

 全部過去の自分を思い出す行動だ。

 今すぐおうちに帰りたい。

 すれ違うようにラシエルの馬車が会場を目指していた。セシリアを心配しているのだろう。仲が良い事で何よりだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

【R18】身代わり令嬢は、銀狼陛下に獣愛を注がれる

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 人間の国で王太子妃となるべく育てられた公爵令嬢エマ。だが、エマの義妹に獣人国との政略結婚が持ち上がった際に、王太子から「君の妹を好きになってしまった」と言われて義妹に奪われた挙げ句、エマが獣人国に嫁がされることになってしまった。  夫になったのは、獣人国を統べる若き皇帝ファング・ベスティエ。狼獣人と人間の混血である彼は、ほとんど人間といって差し支えのない存在だ。だが、あまり愛のある結婚とは言えず、妻として求められるのは月に一度きりであり、満月の前後には全く会うことが出来ない。  そんな状態が1年近く続いたある時、豹令嬢から「私は満月の日の前後、ファング様から夜の呼び出しがあっている」と告げられてしまい――? ※ムーンライトノベルズで日間1位になりました。 ※10000字数程度の短編。全16話。 ※R18は正常位(半獣人)→対面座位(獣人)→後輩位(獣姦)、苦手な人は避けてください。

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】

鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡ ★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。 ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?! ★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます ★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』) ★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。 ★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい! その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。 いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!

【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。 ※R18には※ ※ふわふわマシュマロおっぱい ※もみもみ ※ムーンライトノベルズの完結作

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...