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9.疫病が流行らなかった公爵領

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 公爵夫妻が帰ってきて、かいつまんだ話を執事から聞かされて驚いていた。申し訳なさそうな表情だが、喜んでいるのがすぐに分かった。回帰前に16年も一緒に住んでいたせいだ。公爵閣下も精神が安定していて良かったと安堵した。

「息子が本当に申し訳ない事をした(よくやった! 嫁に欲しいと思っていたが孫が先に出来るとは)」

「ブルーム家には一度お見合いで声を掛けに行ったことがあるのよ。あなたはまだ10歳で、家を出た後だったわ。こうしてお嫁さんに来てくれるなんて嬉しいわ(ラシエル! 騎士団長になったのは今日のためだったのね! 確かに生存本能が高くなって妊娠させやすいと聞いたことがあるわ。孫、孫、孫!名前の呼び方今のうちに決めておきましょう)」

 公爵家のアイコンタクトを覚えていたせいで、言いたい事を理解できてしまい居たたまれない。
 妊娠はしないし、この先一生出来ないのだから。

「ここに住むのは3か月後の検診まででよろしいですね」

「ああ、そうして欲しい(リーファと一緒に暮らせる、幸せ過ぎて夢みたいだ)」

 以前と違って無表情の強面なのに考えていることがハッキリ分かる。また義理の家族と期間限定だが住むことになるなんて。裸の絵を取り返すために行動したら、一緒に住むことになってしまった。

 着る物も化粧品も全部用意して頂き、部屋は当たり前のようにラシエルの部屋が割り当てられた。他に部屋はありますよね?と聞きたかったが諦めた。

 元気になった公爵閣下が炎の魔法で部屋を燃やし、公爵夫人が水の魔法で消化させる未来しか見えない。

 ♢♢♢

「一緒の部屋で過ごすのだからベッドは分けましょう」

「どうして」

「寝言も寝相が悪いからです」

 嘘では無い。祖父の家に住んでいた時も魘されていたし、1人で暮らしていた時も悪夢で目が覚めた。

「俺も同じだ。君と違うところは、疲れていると眠りが深くなってなかなか起きない」

 上手く言い返されて一緒の部屋で過ごすことになった。以前と違ってラシエルをみているとムラっとしてしまい、おかしくなりそうだ。絶対に身体を許してはいけない。夫だった頃のラシエルに毎日犯されていた時の事を少し身体が疼く。
 頭の中で、やらなければならないもう一つの事を思い出して口にした。

「顔が少し赤い、熱があるのか?」

「ありません。あの暇なので書庫を案内して頂けませんか?」

 出来るだけ明るい口調でお願いすると書庫を案内してくれることになってくれた。公爵家の書庫は広くて大きい。前と変わらない本の並べ方をしているから、公爵領で何があったのか資料を探せるだろう。

 問題はラシエルだ。

 すぐに見つけてしまうと尋問され、手ぶらで帰ったらここに来た意味がない。背後にくっついている男を巻かないといけない。

「あれ、うっかりパンツ履き忘れてしまいました。このままだとお腹が冷えて赤ちゃんが凍えちゃう」

「な、なんだって! 今すぐ部屋に帰ろう」

 抱っこされそうになり、サッと避けると下に蹲ってお腹を抑えた。

「お気に入りの下着を履かないと動けそうにないです。今すぐ私が住んでいた屋敷に戻って、黒地のマイクロビキニを持ってきて貰ってもいいですか? ついでに猫耳カチューシャも持ってきてください」

「ぐっ、分かった。出来るだけ動かずに待っててくれ!」

 ラシエルは長い脚で外まで走っていく事を確認して、領地のことが書かれている棚に向かった。下着も猫耳カチューシャも持ってないから、資料を見つけたら迎えに行けばいいや。
 一つの本を取り出して隠し扉に差し込むと領地に関する書類の棚が開かれる。

 ここ10年で領地に疫病が流行らなければ、水害も事前に食い止めたらしく領民の数も減っていなかった。自分が見ていた未来と違い安心していた。

 ふと、重なった書類の下に本が置かれていた。
 前回の公爵閣下が失くしていた本で、タイトルは書かれていない。よく酔っぱらっていた時に、繰り返し言っていた言葉が口に出ていた。意味不明な言葉の羅列。何度かしっくりくるまで繰り返し、言葉に魔力を加える。

「リーファ嬢! ドスケベボディを際立たせるマイクロビキニと他に着て欲しい服を持ってきました。他は気に入りそうな服を少し買ってきました」

「ありがとうございます」

 この短時間で探してくるなんて。ないのに見つけてきたところが、執念を感じてしまう。

小さな声で「本当にエッチな可愛い皮被りのおちんちんなんだから」と呟くと本が光り出した。
 光が一点の方向に向かっているので本を持って歩いた。そこにはラシエルが立っていた。

「バレてしまったか、これは公爵家の一族の秘密だ」

「閣下!」

「父上!」

 振り返るとそこには公爵閣下が佇んでいた。ずっと私たちの行動を見ていたのか、険しい表情をしている。

「代々公爵家の血筋は子供が出来にくい。そこでご先祖様はオークキング様に毎日お祈りをした。彼らは強いフェロモンを発して獲物を凌辱する。孕ませに特化した能力を引き継ぐ事で、強い血筋を残していた。しかし、私の代で暗号を引き継げず一人しか子供を産ませてあげられなかった」

 本が勝手に開かれて、オークのバキバキに強そうな血管の浮き出た陰茎と収縮した陰嚢が書かれていた。そのページが光り出すと苦しそうな声を上げているラシエル。

「生まれ変わるのだ。ラシエル。オークの孕ませ特化のおちんちんに」

 今も前のラシエルもちんちんはコンプレックスだ。確かにオークのちんちんなら格好いいだろう。強い雄の象徴だ。でも、わたしは……。

「こんな絵のおちんちんよりも今のおちんちんの方が格好いいよ」

「「えっ!」」

「こんなに大きなおちんちん入れても気持ちよくないし、奥まで入らないよ。おちんちんの根元までスッキリ入るサイズの方がいいに決まっているから。オークチンポにならないで」

「そんなこと言って騙すつもりだろう」

「こんなに可愛いおちんちんの事騙して何がしたいのよ! オークチンポになったら、結婚してやらない! もう好きにしてよ」

「リーファ、俺のちんぽのことそんなに好きなのか?」

 もちろん好きに決まっている。言葉に出来ない感情が爆発して本に魔力をありったけ注いでしまう。

 何度も行為をしてきて愛を確認しあってきた。他人のものを見たことがないが、世界中でいちばん素晴らしいものだと思う。

 前も今も体型が変わらなかった私と筋肉質な大きな身体になったラシエル。見栄えはオークちんぽの方がいいに決まっているけれど、16年も抱かれたら死んでしまう。

 孕ませ特化じゃなくていい。ラシエルはそのままでいて欲しい。感度もそのままでいい。

 光を発した本が姿形を変え、本来の姿に戻っていく。

「よぉ、人間ども私の名前はオークの王ジール様だ。願いを叶えなかった人間は生まれて初めてだ。よろしくな。暫く面倒になる」

 小さな角の生えた黒豚が喋り出し、やってきた公爵夫人が叫んで倒れた。
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