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こんなことってありえない
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提出済みの婚約届。
本人の了承なしに話が進むなんてまるで……まるで……。貴族じゃない!!政略結婚しても旨味がない女にどうして公爵家が婚約してくるわけ?公爵家の領地に入ると道が整備されていて馬車がガッタンゴットン揺れずに済んでいる。
一度来た時には気が付かなかった活気のある領地は人々の顔に笑顔が溢れている。領地も豊かな証拠なのねと思って横を向いたらケーキ屋さんが見えた。
黒でシックなデザインのお店の外観でショーケースに入ったケーキが綺麗に並べられている。
……10年後に開店するお店に似ていない?アビーが呑気に行列が出来ていますねと言っているけれど、あのデザインも描いたの私だわ。場所が公爵領地になっただけで外観がそっくりだ。お店にどうしてハリネズミがケーキを食べているのだろう。
夢……だよね。
子爵家の小娘が描いた絵を元にお店を開きましたとか頭がどうかしているわ。アビーもお店を見て気が付いたみたいだ。
「ハンカチに刺繍していたハリネズミにそっくりですね」
「そうね、鷹はいないけれど」
何をしたいのか意味が分からずぼんやりと返事をすることしか出来なかった。公爵家に着くとゆっくりと門が開いた。門番が黒い鉄格子が開くと玄関に公子の姿が見えた。
馬車から降りると公子が手を引いてサロンに案内してくれた。サロンに着くと提案したお菓子が人気で新しいメニューを教えて欲しいと聞いてきた。
「公子、あのですね」
「アフィンでいいですよ。アリア」
近くにいた執事を見ると眼圧で言ってもいいと指示を受ける。
「これ以上はお話しできません。子供が言っている事を真に受けてはいけませんわ」
「僕も子供ですがお店は運営できていますよ」
ああ、話が通じない。そもそも私が考えたレシピがあるのだからお金を貰ってもいいじゃない。でも元を辿ると公爵家のシェフのメニューをペラペラ喋って描いたから元手がタダ。
「運営できているのですね。おめでとうございます。それでは婚約ですがどういう意味ですか?そちらにメリットはないですよ」
「メリットがあるかないかは僕が決めます。」
「分かりました。婚約は解消してくれないのですね」
「当り前です。しません」
14歳の癖に強情で人の話を聞くそぶりもない。この男の鼻を明かしたくて仕方がない。
「アフィン様は人を笑わせたことはありますか?」
「ありません。する必要がないですから」
周りの執事やメイドを見ると本当の事らしい。なるほど、婚約解消はこれで決めよう。
「私は突然婚約破棄されて驚いています。もし結婚するなら結婚相手と笑い合い苦楽を共にするつもりです。笑いは日常で必要な事だと思います。そう思いませんか?」
「そうですね」
よっしきた!と脳内で小躍りしていると表情に出さずに話を勧めた。
「では1時間以内に私を笑わせてください。本人の確認無しに婚約届を出して処理したのですから出来るはずだと思いますわ。」
「1時間は短いと思います。出来たら願いを叶えてくれますか?」
「無理難題を吹っ掛けたのはそちらも同じです。願いなら叶えましょう。ただし身体を傷つける死ぬこと以外です。無理難題をこれからも言い続けるような婚約者なんて必要ないと思うので解消しましょう。そして学校に行っていい相手を見つけましょう」
アフィンは立ち上がると席を離れてサロンから出て行ってしまった。公爵令息を怒らせてしまったと思いながら、平民落ちなら慣れているので今からどうやって生きようかと思っていた。
50分後アフィンは手に布を被せた何かを持ってやってきた。私の目の前に置くとそっと布を剥がした。
「アフィンのマフィンです」
……今この人冗談を言ったのかしら、アビーと目を合わせると真顔になって肩を震わせている。
一文字違いの冗談を言うなんて何て卑怯な!
アフィンのマフィンって
気が付いたら笑っていたヒイヒイ言ってアビーも私の肩を叩いて笑っている。間の取り方も上手かった。公子冗談を言う才能もあるなんて流石です。これもお勉強の中に入っているのかしら、泣き笑いをしてしまった。
「僕の勝ちですね」
これは素直に参ったというしかないだろう。彼が願いをかなえて欲しいというのなら叶えてあげよう。呼吸を整えて公子を見ると彼は耳を赤くしていた。
「笑っていただけましたね。」
「アフィン様は人を笑わせる才能もあったのですね。意外ですね」
「貴族は人を笑わす事をしませんからね」
しんみりしているアフィン様も何か苦労しているのだろう。
まだ14歳だものね。
若いのよね。
でも知っているわ。溺愛ストーカー公爵令息にジョブチェンジすることを。
もしかして頑張れば、爽やかフレッシュな公爵令息になるチャンス?クールミントなアフィン様になれるきっかけがあれば、女性に執着することなく自分の人生を歩む公爵領地を豊かにしてくれる。
そうしたら針子の皆も暮らしが豊かになっていいことづくめじゃない。
これは未来への投資の一歩。
「僕の願いですが聞いていただけますか?」
「はい、なんでしょうか」
現実に戻されてアフィンを見ると、とてもいい笑顔をしている。冗談を言える貴族が近くにいないせいだろう。
「僕の祖母に会って欲しいのです」
何で?
本人の了承なしに話が進むなんてまるで……まるで……。貴族じゃない!!政略結婚しても旨味がない女にどうして公爵家が婚約してくるわけ?公爵家の領地に入ると道が整備されていて馬車がガッタンゴットン揺れずに済んでいる。
一度来た時には気が付かなかった活気のある領地は人々の顔に笑顔が溢れている。領地も豊かな証拠なのねと思って横を向いたらケーキ屋さんが見えた。
黒でシックなデザインのお店の外観でショーケースに入ったケーキが綺麗に並べられている。
……10年後に開店するお店に似ていない?アビーが呑気に行列が出来ていますねと言っているけれど、あのデザインも描いたの私だわ。場所が公爵領地になっただけで外観がそっくりだ。お店にどうしてハリネズミがケーキを食べているのだろう。
夢……だよね。
子爵家の小娘が描いた絵を元にお店を開きましたとか頭がどうかしているわ。アビーもお店を見て気が付いたみたいだ。
「ハンカチに刺繍していたハリネズミにそっくりですね」
「そうね、鷹はいないけれど」
何をしたいのか意味が分からずぼんやりと返事をすることしか出来なかった。公爵家に着くとゆっくりと門が開いた。門番が黒い鉄格子が開くと玄関に公子の姿が見えた。
馬車から降りると公子が手を引いてサロンに案内してくれた。サロンに着くと提案したお菓子が人気で新しいメニューを教えて欲しいと聞いてきた。
「公子、あのですね」
「アフィンでいいですよ。アリア」
近くにいた執事を見ると眼圧で言ってもいいと指示を受ける。
「これ以上はお話しできません。子供が言っている事を真に受けてはいけませんわ」
「僕も子供ですがお店は運営できていますよ」
ああ、話が通じない。そもそも私が考えたレシピがあるのだからお金を貰ってもいいじゃない。でも元を辿ると公爵家のシェフのメニューをペラペラ喋って描いたから元手がタダ。
「運営できているのですね。おめでとうございます。それでは婚約ですがどういう意味ですか?そちらにメリットはないですよ」
「メリットがあるかないかは僕が決めます。」
「分かりました。婚約は解消してくれないのですね」
「当り前です。しません」
14歳の癖に強情で人の話を聞くそぶりもない。この男の鼻を明かしたくて仕方がない。
「アフィン様は人を笑わせたことはありますか?」
「ありません。する必要がないですから」
周りの執事やメイドを見ると本当の事らしい。なるほど、婚約解消はこれで決めよう。
「私は突然婚約破棄されて驚いています。もし結婚するなら結婚相手と笑い合い苦楽を共にするつもりです。笑いは日常で必要な事だと思います。そう思いませんか?」
「そうですね」
よっしきた!と脳内で小躍りしていると表情に出さずに話を勧めた。
「では1時間以内に私を笑わせてください。本人の確認無しに婚約届を出して処理したのですから出来るはずだと思いますわ。」
「1時間は短いと思います。出来たら願いを叶えてくれますか?」
「無理難題を吹っ掛けたのはそちらも同じです。願いなら叶えましょう。ただし身体を傷つける死ぬこと以外です。無理難題をこれからも言い続けるような婚約者なんて必要ないと思うので解消しましょう。そして学校に行っていい相手を見つけましょう」
アフィンは立ち上がると席を離れてサロンから出て行ってしまった。公爵令息を怒らせてしまったと思いながら、平民落ちなら慣れているので今からどうやって生きようかと思っていた。
50分後アフィンは手に布を被せた何かを持ってやってきた。私の目の前に置くとそっと布を剥がした。
「アフィンのマフィンです」
……今この人冗談を言ったのかしら、アビーと目を合わせると真顔になって肩を震わせている。
一文字違いの冗談を言うなんて何て卑怯な!
アフィンのマフィンって
気が付いたら笑っていたヒイヒイ言ってアビーも私の肩を叩いて笑っている。間の取り方も上手かった。公子冗談を言う才能もあるなんて流石です。これもお勉強の中に入っているのかしら、泣き笑いをしてしまった。
「僕の勝ちですね」
これは素直に参ったというしかないだろう。彼が願いをかなえて欲しいというのなら叶えてあげよう。呼吸を整えて公子を見ると彼は耳を赤くしていた。
「笑っていただけましたね。」
「アフィン様は人を笑わせる才能もあったのですね。意外ですね」
「貴族は人を笑わす事をしませんからね」
しんみりしているアフィン様も何か苦労しているのだろう。
まだ14歳だものね。
若いのよね。
でも知っているわ。溺愛ストーカー公爵令息にジョブチェンジすることを。
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そうしたら針子の皆も暮らしが豊かになっていいことづくめじゃない。
これは未来への投資の一歩。
「僕の願いですが聞いていただけますか?」
「はい、なんでしょうか」
現実に戻されてアフィンを見ると、とてもいい笑顔をしている。冗談を言える貴族が近くにいないせいだろう。
「僕の祖母に会って欲しいのです」
何で?
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