完結 悪女の幼馴染の別れは公爵令息の溺愛の始まり~気弱令嬢で八方美人の悪女の幼馴染辞めました!~

シェルビビ

文字の大きさ
上 下
4 / 15

ただ者じゃない公爵令息

しおりを挟む
 子爵家に公爵家から手紙が届いた。両親が面倒くさそうな顔をして手紙を読んで私に渡してきた。内容はハンカチに刺繍をして欲しいと仕事の依頼だった。値段も書いてあったので仕事として承ることにした。

 布に糸を通すときこの瞬間が好きでたまらない。自分が思い描いていたものが白いキャンパスに塗られる感覚に似ている。

 完成した時達成感もあり。昔の作品と比べることもできる。作品を通して過去の自分と対話することも出来るのだ
。その時の心境が糸や縫い方で伝わってくる。自室にある過去の刺繍達は頑張っていた過去の自分の証拠だった。


 それに私は


 オカネダイスキ……!!


 刺繍の糸も高いので無償で作るには躊躇してしまう。布代だって馬鹿にならない。それが仕事の依頼を受けることで自分では作らない作品を作ることが出来る。お金がもらえる。20歳頃から老後どうやって過ごそうと思ってお金を溜めた。刺繍をしながら薬草を取り弓矢で獣取って捌いて肉屋で買い取って貰った。
 刺繍の糸を取るために入った森で罠を仕掛けて獲物が手に入ったら薬草店で蛇も売りに行った。

 ヘビは傷つけない方がいい。生きたまま捕まえて薬草店で売ると性欲剤になると聞いた。森で手に入れる刺繍の糸も年々手に入りにくくなり最後は糸がなくなった。今は森の中に糸は残っている。

「それにしても鷹がハリネズミを嘴で毛繕いしている刺繍なんて見たこともないわ。斬新なデザインだったから引き受けたけれど公爵家はただ者じゃないわね。ハリネズミに毛繕いしたら痛いじゃない、ふふっ」

 クリーム色に目がオレンジがかった赤色に近い茶色のアンバー色を使ってハリネズミを縫っていく。仕事の依頼を受けてから指定された糸と布が届いて指示通りに縫っている。

 公爵家だったらお抱えの裁縫職人がいるはずだ。でも余りにも奇抜なデザインで引き受けてくれないのだろう。裁縫職人はプライドが高い人は高い。自分で仕事が選べるくらい仕事があるのが羨ましいと思いながら仕事をしていた時期もあった。

 日も暮れてきたので作業していた手を止める。テーブルの上の籠に出来上がった物を乗せた。

「もう寝ないと。期限はたっぷりあるのだから早く出来たら次の納期が早くなるわ。無理せず出来る日数で提出しないと」

 お茶を近くにいるメイドに頼んで私はその日眠った。

 ♢

 アビーの声で目が覚めるとテーブルの上に置いていた依頼された布には紅茶がかかっていた。白い生地で依頼していたものが紅茶の色に染まっている。

 やってくれるじゃない。舐めた真似して、いつものように怒らないとでも思っているのかしら。

 やった人間は分かっている。この家にはキリエの手下がいる事を覚えていてよかった。メイドのハンナは実はキリエと仲が良いことは知っていたけれど、ここまでやるとは思わなかった。これが公爵家からの依頼で作っている事の意味を理解していないのか理解しているのか。

 可哀想なキリエを守っているつもりでしょうね。言っている事は分かっている。どうせ全部私のせいにしているに決まっている。

「アビーどうしましょう、期限を守れなくなりそうだわ」
「公爵家に手紙を書きますか?先触れを出して謝りに行きますか?」
「そうね……早く次の人を見つけないといけないから謝りに行くわ」

 布を見ながら悲しげにしているとドアの隙間から誰かが見て喜んでいる。悪意のある喜びはすぐに分かるのだから手加減なんてしないわ。

 アビーは私が着替えるのでドア閉じてカギを閉めた。壁の一部を押すと中から金庫と隠しカメラが出てきた。

 私の家は変わっていて自室に金庫がある。記憶を思い出して最初にしたのは金庫と隠しカメラを手に入れることだった。両親も金庫のために時間を使いたくないので大きなものが部屋にある。隠しカメラは最近出始めたもので、魔道具で面白いものがあると言ったら買ってくれた。面倒くさがりで本当にありがたいわ。

 深夜に何をしていたのかはっきりわかるくらい繊細な映像で思わずほくそ笑む。証拠のカメラは執事に渡して商品たちは公爵家に自分の手で持っていかないと。

(公爵家は何度見ても大きいわね。何度も見たことがあるけれど今の人生は初めてになるものね。人生どうなるか分からないものね。彼も私も。)

 公爵家の前に馬車が着くと使用人たちが出迎えてくれた。アビーも私も呆気に取られているとメイドが応接室まで案内してくれた。

 目の前にはアフタヌーンティーで使われる
 最上級のおもてなしと感じてしまう貧乏性の自分が憎い。公爵家の人にとっては普通の事、平常心平常心よ……。

 依頼された商品を渡して一通り見てもらった。公子も嬉しそうな顔をしているので満足した。次の依頼をその時受けたのだけれど、ハリネズミと鷹のぬいぐるみを作って欲しいと言われた。

「公子が言えばどんな令嬢でも作ってくれると思いますわ」
「アリア、君が作った人形が欲しい。ダメかい?」

 目の前に金額が書かれた契約書が出されたわ。買った方が安いのだけれど、と思いながら依頼を受けることにした。オーダーメイドのぬいぐるみは受け付けてくれないのかもしれない。30歳になった時は手芸はブームになっていて刺繍意外も手作りが多くなっているのよね。期限は3か月で材料は用意してくれるので作ることにした。

「また屋敷まで持ってきてくれないだろうか」
「分かりました。お持ちしますわ」
「嫌いな物はあるかい?」

 好きな物じゃなくて嫌いな物を聞くなんて公子は珍しい質問の仕方をする。

「チョコレートは苦手ですがオペラは好きです。公爵家のシェフが作るケーキはどれも美味しいと聞いております」
「……オペラ?すまない、私はケーキが苦手であまり食べないからどのような物だろうか」
「四角い形のケーキでアーモンドパウダーの入ったスポンジにコーヒーシロップを塗ってバタークリームを塗って冷やしてを繰り返すケーキです。甘さと苦さが絶妙で美味しいと聞きました。」

 公子は顎に手を当てて考え事をしていた。近くのメイドに話しかけると紙と色鉛筆を持ってきて目の前で出された。

「シェフが作り方を忘れてしまったかもしれないから絵で描けるなら描いてくれないか。他のケーキも覚えている物は描いて欲しい」
「勿論です。絵は下手ですが描かせていただきます」

 その場で絵を描き始めるとあっという間に絵を描き終えた。余白が余っているのでついでに絵を描いていた時思い出した。公爵家のシェフは城下町にケーキ屋さんを開くのは10年後だったことを。

 今出したらまずいんじゃない――。でもケーキ屋さんを開いて1年後に地元に帰ってしまい二度と食べられなかったケーキが出されると思うと我慢できるはずないじゃない。開店の時に行かないと売り切れていて食べられなかったケーキたちを思い出して描いていた。
 公子が紅茶の2回目のおかわりをしたとき描き終わった。懐中時計で見て見ると30分しか経っていない。

 書いた商品は3つ。オペラ、ナポレオンパイ、季節のゼリー。それ以外は季節の商品で知らないものも多かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。

かのん
恋愛
 真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。  けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。 「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。  ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

処理中です...