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離縁状

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 今日も街のどこかで人形劇を開かれる。今の聖女の印象を少しでも良くするために。

 異世界からやってきた黒髪黒目の不思議な力を持つ少女は、国王陛下を癒し民に希望を与えた。

 心優しい国王陛下は戦が終わった国を建て直し、他国よりも裕福で文明が進められた。もう何十年も病に苦しんでいた国王陛下は、少女を聖女と認定した。聖女を王子と騎士が好きになった。王子も騎士も聖女が望む物を手に入れる。聖女の立場は危うい。他国で暴れる邪竜を討伐し、確固たる立場を与えたのは騎士だった。騎士はとあるものが引き換えになったが英雄となった。

 国の英雄は恋の戦いに敗れ、聖女様が王子と結婚した。舞踏会で集団の前で発表され、英雄の矜恃はボロボロにされた。この時の彼は尊厳破壊され、一瞬だけ無表情になった。すぐに表情を取り戻すと2人に祝いの言葉をかける。

 物語には続きがあって英雄は成金伯爵の娘と結婚をした。あの手この手で契約書にサインさせ、強引に逃げ道を塞いで囲ったのだ。表向きは傷心の心を癒した少女と結婚した事にされた。

 聖女も王子も報復を恐れていた。恨みの矛先が娘に向けば自分たちに被害は出ないと。

 そんなふたりを貴族たちは馬鹿にしている。見てくれに騙された哀れな王子。彼等の幸福はずっと続くはずがない。

 子供たちは無邪気に聖女様の人形劇を鑑賞する。人の心を弄んだ人間の末路が幸せになるわけが無い。人形劇で寂しそうに聖女と王子を見つめる英雄。人の気持ちに共感できる子は英雄様の事を思い涙ぐむ。

 伯爵令嬢は金で愛を手に入れた。そんな事をして幸せかと聞かれたら、私はこう答えるだろう。

 ――当たり前よ。世の中は行動した人だけが結果を残せるの。多少強引でも見目麗しい者同士が結婚した方がいいに決まっている。

 顔がいい英雄様と結婚出来るなら私はどんな事でもしてみせる。

 英雄様の名前はリオネル。私レティの夫になる人の名前だ。

 結婚式当日。騎士の正装服を纏った彼と白いウエディングドレスを着た私が並んでいた。無愛想な顔もたまらない。彼の二つ名に期待を込めて、結婚式で軽くキスをした。

 猫を被るは私の得意な事だった。結婚初夜に初心でカマトトぶるなんてお手の物だ。

 憎くて仕方の無い女を無理やり襲って抱いてっ!と興奮で身震いしている時に夫であるリオネルがやってきた。いつもよりも気合を入れて丁寧にお化粧をしている。ニヤける口元を隠し、彼の熱杭にご挨拶をしようと向き合った。

 天国から地獄とはこの事だ。

 男盛りの騎士団長は女を目の前にし、全く勃起しなかったのだ。静寂に潤滑油と下肢の擦る音が嫌に響く。私の蜜壷と彼の下肢に触れているのだが、テクニックがないせいで気持ちよくない。勃起しないおちんちんは触れていても楽しくない。

 人生で1番情けなく苦痛な時間。結局白濁は出さず、初夜を過ごす羽目になった。

 夫は美しい人だった。精巧な人形のように美しく、射精したらもっと綺麗な人だっただろう。

 初夜はしくじったけれど、私はめげなかった。身体が繋げられなくても心は繋がることが出来る。

 そんな事を期待していたけれど、彼は職場に寝泊まりし帰ってきても会話をしなかった。
 だから一緒に眠る時は必ず擦って眠るようにした。

 ――結婚して早3年。夫に抱かれなくて3年が経つ。周囲の人達が赤ん坊を連れている姿が自然に目に映る。同じ時期に結婚した人は2人目の出産をして忙しそうにしている。

「離縁状も書いたから、後は出ていくだけね」

 結婚生活に終止符を打ち、今から夫と暮らす屋敷から出ていく。これでも一生懸命に夫と何とか出来ないか試行錯誤した結果だ。彼は私が触れようとすると避け、妻としての役目すら果たさせてくれなかった。

 有り余る宝石とドレスが贈られても着ていく先がなければ意味がない。夫は結婚してから社交場に行くこともなかった。無関心ほど傷つくことはない。夫と過ごした日々に未練もなければ後ろ髪を引かれる思いはしない。

 これから自由に暮らすの。まず初めに男娼を買ってセックスするんだ。
 足取りは軽い。これからセックス三昧な日々を送れるのだから。

 今思うと本当に哀れな女だった。男娼を連れ込んで子供を作ればよかった。そんなことをしても彼は自分の子供として受け入れてくれるだろう。

 彼ほどやさしい人はいないと私は知っている。
 離縁状だって顔にたたきつけてやりたい。
 だけど、私に出来そうにない。

 使用人や執事の申し訳のなさそうな顔も見なくてせいせいするわ。頑張った貴族のお茶会も子供がいないことを責められた。抱いてくれないのにどうすればいいのよ。

 もうこんな生活もお終い。

 セックスしてくれないから離縁するなんて馬鹿げている。でも、私は彼に抱かれることを期待して結婚したのよ。
 娼婦殺しの絶倫騎士団長じゃなければ結婚していないくらいに。

 申し訳のなさから必要のない宝石やドレスを贈ってくれるけれど、こんなものが欲しいわけじゃない。
 欲しいのは絶倫のイチモツだけだ。

 頭の中をセックスでいっぱいにして振り返ると見知らぬ男性がいた。
 大きく手を振りかざし、私は叫ぶことを忘れて何も出来ずに頭を押さえた。

 ――ちょっと待ってよ。やり残したことがあるの。セックスしてない。絶倫夫リオネルと本当はセックス三昧な日々を送りたかったの。

 その瞬間、辺りが光り輝いて空間が歪む。薄れていく意識の中で、次は勃起しない触れもしてくれない夫なんかいらないと思った。
     
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