聖女強化担当の騎士団長が、媚薬から助けてくれた人を探しているけれど絶対にバレたくない。

6

「え、勢い余って指輪を渡したの！？それで彼、着けちゃったの？」

　フレイは驚きの声を上げ、テーブルに身を乗り出してきた。

「うん…」

　私は小さく頷きながら、頭を抱えた。

　王都の賑やかな酒場。木造の暖かみのある内装に、賑わう人々の笑い声やグラスの音が響く。フレイたちは私の初デートの話を聞くために集まってくれた。照明の灯りが優しくテーブルを照らし、心地よい空間に私たちは座っていた。お酒を飲みながら、私の話が良いつまみのネタになるならと、彼らは今日は奢ってくれることに決めたらしい。

「それでどうなったの？」

　フレイは続けて問いかけた。興味津々といった様子で、私の返答を待っている。

「…実は、変身魔法をかけた騎士団長だったの…」

　その瞬間、テーブルに座っていたみんなが一瞬沈黙した後、驚きと呆れが混じった声が一斉に上がった。

「ああ、あの人、そういうことをしそうだな」

　と、ひとりがため息をつきながら言った。

「ええっ！？」

　他のメンバーも次々に驚愕の声を上げ、騎士団長の行動に対する見解を述べ始めた。

「聖女様に対しても執着心が強いって噂だし、あの人ならやりかねないわね」

　と、別のメンバーが眉をひそめながら言った。

　私の心は重くなっていった。初めて会った人に告白するだけでもかなりの勇気が必要だったのに、さらに勝手に指輪を渡してしまったことが、今となっては大きな後悔となって胸にのしかかっている。

「これ…多分、終わったかもしれない…」

　私はそう呟きながら、グラスに手を伸ばした。

「まあまあ、そんなに気を落とさないで。これからどうするか考えようよ」

　フレイが優しく声をかけてくれたが、彼女の表情には心配の色が隠せなかった。

　酒場の騒がしさが、私の胸のざわめきをさらにかき立てていた。みんなの優しさがありがたくも感じられたが、どうしようもない現実に対する不安が、次第に私の心を覆っていくのを感じた。

「どうして指輪を渡したの？」

　フレイが疑問を投げかけると、私は少し躊躇しながらも答えた。

「結婚したいと思ったから…」

　そう言い返すと、フレイや他の友人たちはさらに興味深そうな表情で私を見つめていた。

「だって、今まで男の人とまともに話したことがなかったんだもん。普通に話せただけで、結婚を意識しちゃうのは仕方ないでしょ？このまま生きていて、そんな相手に出会えるのかも分からないのに…。フレイが『好きな人に指輪をあげる』って言ってたから、それで露天のお店に行ったのに…」

「えっ、あのお店に行ったの？」

　フレイが驚いたように聞き返した。

「指輪は買ってもらったの？」

　その問いに、私は少し気まずそうに答えた。

「私だけが買った…」

　その瞬間、酒場の賑やかな空気が一変し、沈黙が広がった。みんながグラスに手を伸ばし、何とかその場の気まずさをお酒で誤魔化そうとする様子が見て取れた。

「買ってくれなかったんだ…」

　誰かがぽつりと呟いた。

「あ、もしかして騎士団長ってお金ないのかもね」

「それとも、あのお店ですぐにお返しを買わなかったってことは、意識してもらえてないのかもしれないね…。次の男、紹介してあげるわ」

　その言葉が胸に重く響いた。あのお店は、魔術師の間で有名な場所で、指輪を買って店主の前で着けることは、愛を誓う意味があるのだ。なぜなら、その店主は元々有名な神官で、彼が作った指輪には特別な意味が込められているからだ。

「やっぱり、意識してもらえてなかったんだ…。もしかして、ユウの邪魔になるから、わざとファンの振りをして近づいてきたとか…」

　その考えが頭をよぎり、私はさらに落ち込んでしまった。自分の気持ちが一方的で、彼の本心が分からないことが、どうしようもなく悲しかった。