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用意してもらった席に座ると、ふかふかで座り心地の良いソファに思わずリラックスしてしまった。自然とフェリオにも「隣に座って」と話しかけると、彼は少し照れながらも私の隣に座ってくれた。背の高いフェリオが座ると、ソファが沈み、自然と私の頭が彼の腕に寄りかかる形になった。こんなに男性と近づくのは、これで二度目だ。
私はそっと彼の腕に手を絡めてみたが、フェリオは嫌がる素振りを見せない。むしろ、手を握ると彼の耳が赤くなり、その表情にどこか可愛らしさを感じた。ふと、彼の微笑みに妖艶さを感じてしまい、無意識に彼のことを魅力的な男性だと思ってしまう自分がいた。
そんな中、劇場の明かりが落ち、幕がゆっくりと上がり始めた。舞台は華やかで、幻想的な雰囲気が漂う。豪華な装飾と美しい照明が交差し、登場人物たちが次々と現れる。彼らの衣装は緻密で、まるで絵画から飛び出してきたかのような色彩とデザインに目を奪われた。
観劇は初めてだったけれど、その世界にすぐに引き込まれていった。舞台の内容は、片思いの男が一目惚れした女性にアプローチする物語だった。男の切ない感情が見事に表現され、彼の必死な姿に心が揺さぶられた。観客席からは時折、ため息や笑い声が聞こえ、皆が舞台に夢中になっているのが分かる。
登場人物たちの演技は力強く、舞台全体が一つの生きた物語として、観客の心に直接語りかけてくるかのようだった。フィリオも私と同じように、舞台に目を奪われているのが分かり、その姿を横目で見るたびに、私の胸は少しずつ高鳴っていった。
舞台が終わると、フレイが教えてくれた人気のカフェで食事を取ることにした。フレイは「ここのケーキは絶品だから、ぜひ食べてほしい」と言っていたので、私もケーキを注文してみることにした。フィリオは紅茶だけを注文し、普段あまり食事を取らないと話していた。
注文した紅茶とケーキが届くと、私は少しだけケーキを口に含んでその味を味わった。口の中に広がる果実の甘さと酸っぱさが、絶妙なバランスで融合し、無限の味わいを再現していた。今まで食べたケーキの中で、これほど美味しいものはなかった。私は一口一口を大切に、ゆっくりと味わいながら食べていると、ウェイターがもう一つ同じケーキを運んできた。
「食べて」
「いいんですか?」
「こんなに美味しそうに食べてくれる人は初めてだから」
そう言って微笑むフィリオの姿に、私は完全に恋に落ちてしまった。好き、私、この人が好き。この人と一緒なら、きっと人生が楽しくなるはず。そんな思いが込み上げてくると、せっかちな私はすぐに行動に移してしまった。
カフェを出た後、市場にあるとあるお店に向かった。フレイたちが話していたそのお店は、気軽に特定のアイテムが買える場所だった。
「何を買うつもりですか?」
フィリオにそう聞かれても、私は答えなかった。今の私には勢いがある。
「あの、すいません。これで買える、女性から男性に送るものをください」
「はいよ!」
「そんなお金を払って何を買うんですか?」
「お金は」
フィリオが心配そうに尋ねると、店主は彼に向かって笑いながら言った。
「兄ちゃん、ちょっと黙んな。この子、けじめをつけようってんだ」
用意してもらった品物を手に取ると、私はそれをフィリオの前に差し出し、手のひらに乗せた。
「初めて出会ったけれど、こんな気持ちになったのは初めてなの。結婚してください」
「え!いくらなんでも進み過ぎじゃないか。もっとゆっくり恋愛を楽しもうよ」
店主の意見を無視して、私は自分のメリットを必死に伝えた。
「私、良い子です。浮気はしません。それに好き嫌いがなくて、一緒に食事を楽しめます。それから、私は貴方のことを人生で一番好きになる人間になると思います」
フィリオは目を丸くして私を見つめていたが、その表情からは驚きと困惑が混じっているのが分かった。しかし、私の真剣な表情に、彼も次第に落ち着きを取り戻していくようだった。
暫く黙っていたフィリオの手のひらから指輪を取ると、私はそれをフェリオの左手の薬指にそっと着けて見つめていた。彼は何も言わずに私を見つめていて、その沈黙がかえって私を不安にさせた。立ち尽くしていると周囲の邪魔になりそうだったので、私は彼を連れて市場の広い場所に向かった。お互いに無言のまま歩き続け、彼が何を考えているのか全く分からなかった。
ぼんやりと歩いていると、見慣れた姿が視界に入った。
「あれ、キズナじゃない?」
「ユウ…」
私は一応形式的に挨拶をすると、ユウは馬鹿にするような表情でフェリオと私を見比べていた。その視線にどこか嫌な予感がした。
「ギル様~。どうしてこちらにいらっしゃるんですかぁ?」
ユウが甘ったるい声で呼びかけると、私は一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
「えっ…この人はフェリオじゃないの?」
私の困惑が隠せないでいると、ユウは嘲笑するように続けた。
「変身魔法をかけているけれど、ギル様に間違いないわよ。どうしてギル様がこんなところにいるのか分からないけれど…って、薬指に着けているその指輪!いったいどこの雌がこんなことを…!」
ユウの言葉が耳に突き刺さり、私は驚きと戸惑いでその場に立ち尽くしてしまった。ギル様…?私は再びフェリオの顔を見上げたが、彼はただ黙っていた。だが、その瞳の奥には何か言いたげな光があった。
彼女が一瞬のうちに変身魔法を解いてしまうと、目の前のフェリオはたちまちギルの姿へと変わった。私の頭の中は混乱し、まさかと思いながらも現実を受け入れざるを得なかった。ユウは「急ぎの用事がある」と言い残し、私たちを残して立ち去ってしまった。
「騎士団長なの?嘘をついていたの?」
私の心の中で次々と疑問が湧き上がってきた。なぜ、どうして?でも、その疑問を彼にぶつける勇気が私にはなかった。彼が何かを言おうと口を開いた瞬間、その言葉を聞きたくなくて、私は反射的にその場から逃げ出してしまった。
自分の行動が信じられず、頭が真っ白になりながら、走り続けた。その日は、家に帰ってから何度も自分の行動を思い返しては、恥ずかしさのあまりベッドの上でのたうち回っていた。ギル様が騎士団長だなんて、どうして気づかなかったのだろう…。一度彼に心を許した自分が悔しくて、でもその気持ちがどうしようもなく切なかった。
私はそっと彼の腕に手を絡めてみたが、フェリオは嫌がる素振りを見せない。むしろ、手を握ると彼の耳が赤くなり、その表情にどこか可愛らしさを感じた。ふと、彼の微笑みに妖艶さを感じてしまい、無意識に彼のことを魅力的な男性だと思ってしまう自分がいた。
そんな中、劇場の明かりが落ち、幕がゆっくりと上がり始めた。舞台は華やかで、幻想的な雰囲気が漂う。豪華な装飾と美しい照明が交差し、登場人物たちが次々と現れる。彼らの衣装は緻密で、まるで絵画から飛び出してきたかのような色彩とデザインに目を奪われた。
観劇は初めてだったけれど、その世界にすぐに引き込まれていった。舞台の内容は、片思いの男が一目惚れした女性にアプローチする物語だった。男の切ない感情が見事に表現され、彼の必死な姿に心が揺さぶられた。観客席からは時折、ため息や笑い声が聞こえ、皆が舞台に夢中になっているのが分かる。
登場人物たちの演技は力強く、舞台全体が一つの生きた物語として、観客の心に直接語りかけてくるかのようだった。フィリオも私と同じように、舞台に目を奪われているのが分かり、その姿を横目で見るたびに、私の胸は少しずつ高鳴っていった。
舞台が終わると、フレイが教えてくれた人気のカフェで食事を取ることにした。フレイは「ここのケーキは絶品だから、ぜひ食べてほしい」と言っていたので、私もケーキを注文してみることにした。フィリオは紅茶だけを注文し、普段あまり食事を取らないと話していた。
注文した紅茶とケーキが届くと、私は少しだけケーキを口に含んでその味を味わった。口の中に広がる果実の甘さと酸っぱさが、絶妙なバランスで融合し、無限の味わいを再現していた。今まで食べたケーキの中で、これほど美味しいものはなかった。私は一口一口を大切に、ゆっくりと味わいながら食べていると、ウェイターがもう一つ同じケーキを運んできた。
「食べて」
「いいんですか?」
「こんなに美味しそうに食べてくれる人は初めてだから」
そう言って微笑むフィリオの姿に、私は完全に恋に落ちてしまった。好き、私、この人が好き。この人と一緒なら、きっと人生が楽しくなるはず。そんな思いが込み上げてくると、せっかちな私はすぐに行動に移してしまった。
カフェを出た後、市場にあるとあるお店に向かった。フレイたちが話していたそのお店は、気軽に特定のアイテムが買える場所だった。
「何を買うつもりですか?」
フィリオにそう聞かれても、私は答えなかった。今の私には勢いがある。
「あの、すいません。これで買える、女性から男性に送るものをください」
「はいよ!」
「そんなお金を払って何を買うんですか?」
「お金は」
フィリオが心配そうに尋ねると、店主は彼に向かって笑いながら言った。
「兄ちゃん、ちょっと黙んな。この子、けじめをつけようってんだ」
用意してもらった品物を手に取ると、私はそれをフィリオの前に差し出し、手のひらに乗せた。
「初めて出会ったけれど、こんな気持ちになったのは初めてなの。結婚してください」
「え!いくらなんでも進み過ぎじゃないか。もっとゆっくり恋愛を楽しもうよ」
店主の意見を無視して、私は自分のメリットを必死に伝えた。
「私、良い子です。浮気はしません。それに好き嫌いがなくて、一緒に食事を楽しめます。それから、私は貴方のことを人生で一番好きになる人間になると思います」
フィリオは目を丸くして私を見つめていたが、その表情からは驚きと困惑が混じっているのが分かった。しかし、私の真剣な表情に、彼も次第に落ち着きを取り戻していくようだった。
暫く黙っていたフィリオの手のひらから指輪を取ると、私はそれをフェリオの左手の薬指にそっと着けて見つめていた。彼は何も言わずに私を見つめていて、その沈黙がかえって私を不安にさせた。立ち尽くしていると周囲の邪魔になりそうだったので、私は彼を連れて市場の広い場所に向かった。お互いに無言のまま歩き続け、彼が何を考えているのか全く分からなかった。
ぼんやりと歩いていると、見慣れた姿が視界に入った。
「あれ、キズナじゃない?」
「ユウ…」
私は一応形式的に挨拶をすると、ユウは馬鹿にするような表情でフェリオと私を見比べていた。その視線にどこか嫌な予感がした。
「ギル様~。どうしてこちらにいらっしゃるんですかぁ?」
ユウが甘ったるい声で呼びかけると、私は一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
「えっ…この人はフェリオじゃないの?」
私の困惑が隠せないでいると、ユウは嘲笑するように続けた。
「変身魔法をかけているけれど、ギル様に間違いないわよ。どうしてギル様がこんなところにいるのか分からないけれど…って、薬指に着けているその指輪!いったいどこの雌がこんなことを…!」
ユウの言葉が耳に突き刺さり、私は驚きと戸惑いでその場に立ち尽くしてしまった。ギル様…?私は再びフェリオの顔を見上げたが、彼はただ黙っていた。だが、その瞳の奥には何か言いたげな光があった。
彼女が一瞬のうちに変身魔法を解いてしまうと、目の前のフェリオはたちまちギルの姿へと変わった。私の頭の中は混乱し、まさかと思いながらも現実を受け入れざるを得なかった。ユウは「急ぎの用事がある」と言い残し、私たちを残して立ち去ってしまった。
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自分の行動が信じられず、頭が真っ白になりながら、走り続けた。その日は、家に帰ってから何度も自分の行動を思い返しては、恥ずかしさのあまりベッドの上でのたうち回っていた。ギル様が騎士団長だなんて、どうして気づかなかったのだろう…。一度彼に心を許した自分が悔しくて、でもその気持ちがどうしようもなく切なかった。
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