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 酔っぱらって目を覚ましたら、隣に全裸の騎士団長ギルが眠っていた。私も全裸だ。何度確認しても、私の事が嫌いな男が全裸で眠っている。聖女信者の強化担当のギルは、女性関係に関して潔癖すぎる為に周囲に人を寄せ付けない。
 聖女様に純潔を捧げた騎士団長だと、片思いが大好きな人間から陰から見守られていた。

 まさか、と思って少し動くと中から精液が漏れた。処女なのに精液だと分かる理由は、友達を迎えに行く時に嗅いでいた匂いだからだ。独特の匂いで、栗の花の匂いや洗剤にそっくりな匂いがする。

 記憶がないのに犯されていたなんて、処女のしがらみが解放されて安心した反面、絶望に震えた。

 ギルは私の事が大嫌いだ。今回の魔獣討伐の時に、魔術師団の人から伝言を頼まれて伝えようとしたら、凄い顔で睨まれた。背後にいた魔獣も申し訳なさそうに、後退りしていた。
 この男は、容赦なく女でも躊躇なく殺せるタイプだ。もしも酔っぱらって寝た相手が、私だと知ったら何をするのか分からない。袋叩きにされて海に流されるかもしれない。

 異世界人関係なしに、権力を振り回して抹消される。最初から来なかった事にされて、私の首をお土産にユウに褒められようとするだろう。私はこっちの世界に来てから、大したことをしていない。だって目立ちたくなかったから。

 物音を立てないように起き上がったら、背後で気配を感じる。振り返るのが怖くて仕方がない。

 (神様。どうか、哀れな信徒に力を与えて下さい)

「……起きているのか? 初めてだったから、身体が辛いだろう。もう少し寝ていても構わないが、っ!何をする、くっ」

 私は相手を気持ちよくさせると、行為の前後の記憶を消すことが出来る。神様からの祝福で授かった能力は、気絶するくらい気持ちのいい射精能力だ。

「や、やめろ、おっ、はぁはぁ」
「ごめんなさい、忘れてください。いけ、逝ってしまえ、今まで見た事がない世界へ!」
「くっ、やめ、ろ」
「がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ」

 頭に手を添えられると本気で死を感じた。両手で包み込んで本気で扱くと、歯を食いしばってギルは射精した。

「朝からこんなにも責めるとは」
「まだ喋れるなんて元気が良すぎる。くらえ!」
「イったばかりで、敏感で、ぐっ」
「がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ、ここが正念場だよ、騎士団長っ」
「ギルって呼べ」
「ギル、ギル、ギル、ギル、ギル」
「あっ、いっぱい出てしまう」

 三回射精させると、ベッドはギルの精液で汚れてしまう。眠っているギルと精液は、現代アートのように美しい 。私は大急ぎでシャワーで身体を洗うと痕跡を完璧に消し、ドレスに着替えて家まで目指す。

 部屋から出ていく瞬間、誰かに見られていないか怖かったけれど、誰もいなかった。沢山ある部屋の中で、アルコールの匂いが広がっている。パーティ会場が公爵家だと、客間がこんな風に使われるのかと、勉強になった。

 フレイ達がいる部屋に入ると、ベッドで雑魚寝していたので、ソファに腰掛けた。これで身体についている精液くささは気にならない。

 後はみんなと一緒に、宿舎に帰るだけだ。最初は王宮に住んでいたけれど、ユウに私の事を聞いた侍女たちから無視されていた。ご飯も適当な物を用意され、何を聞いてもはぐらかされた。気がついてくれたフレイ達に、魔術師団に来るように誘われた。その後、フレイ達の宿舎に住めると聞いて大喜びした。
 用意してくれたのは偉い人だと思ったので、玉座に座る国王陛下に向かって最大限の敬礼と快楽を与えた。若くして国王陛下になった王子は26歳で、まだ結婚相手はいない。国王陛下は不意を突かれたせいか、それはそれは気持ちのよさそうな声をあげて喜んだ。その声は蕩けるような甘美な声で、国を守る人間としての自覚と忠誠心を高める声として十分な物だった。急に言葉にならない声を出した事で、隣にいたユウは驚いていた。

 その声を思い出していると、知らない間に眠っていた。

「キズナ起きて、もう帰るわよ」
「あ、ごめん」

 身体を揺すぶられて目を覚ますと、帰る準備をしているフレイ達がいた。少し寝ただけで、身体がスッキリしていて目覚めがいい。

 こんな気持ちになれるなら、恋人を作って結婚してみてもいいかもしれない。元の世界に戻れないと聞いてしまった時から、こっちの世界で家族を作りたい気持ちはあったから。
 別の世界から来た私を受け入れてくれて、利用することがない人がいい。もしも子供が出来て、私が死んでも居場所を残したい。貴族階級がある世界だけれど、爵位が無くてもいいと思っている。そういう相手に相応しいと到底思えないから。

 この後、宿舎で誰と寝たか事情を話さず、フレイから避妊薬貰って妊娠しないようにした。

 それからしばらく平穏な日々が続いた。以前と比べてユウの事や周りの人たちの声が気にならなくなった。とても幸せな日々を過ごしていたけれど、それは突然の嵐のようにやってきた。

「え、騎士団長が血眼で媚薬から助けた人を探しているんだって。相手を密告したら、お金が貰えるんだって」

 食堂で食事を取っている時に、フレイの友人イェールが話し出して内心驚いていた。何事もなかったかのように、適当に返事をする。これまで面倒くさい会話に対して、適当に返事をする癖をつけておいてよかった。

「騎士団長の癖に媚薬が効いているって、恥ずかしいよね。うちの魔術師たちなら、ぜーったいに効かないもん」
「媚薬が強いのか、騎士団長が弱いのか。どっちにしても士気が下がりますね」
「相手は男だから、私達には関係ないね。だって本で読んだけれど、騎士団長って男女問わず犯されるものって書いていたんだから」

 イェールの発言に、驚いたものの納得が出来るところがあった。確かに、犯されてもおかしくない顔をしている。聖女の事が一途に好きで、彼女が襲われそうになったら身を挺して守ってくれるだろう。

「これから、身体検査があるんだって。みんなどうする?」
「どうして身体検査をするの?」

 何食わぬ顔で聞くと、驚くべき返事が返ってきた。

「騎士団長の体液が相手の体内に残っているから、痕跡を探すらしいよ。詮索魔法の一種を使える魔術師を同行させるんだって。そこまでする意味がわかんないよね」
「本当にそうだよね」

 明るく返事をすると、内心焦っていた。もしもバレたらどうなるんだろう。考えたくもない想像が頭に巡る。私、騎士団長の事あまり知らない。そもそも知ろうと思わないし、距離を置いていたから。
 食事を食べ終えても頭の中がグルグルと考えている。彼女たちについていくと、フレイは急に足を止めた。

「私、昨日知らない人と寝たから無理」

 顔を上げるとフレイが笑って口にした。それに続いて受けたくない女性が集まって、部屋の前にいる受付の女性に出来ないことを告げる。

「ミリーも。誰と行為をしたか覚えてないけれど、でも調べられたくないもん」
「そうよ。騎士団長の純潔が奪われたとして、私たちに関係ないわ。キズナも受けないよね」
「うん」

 受付の女性もみんなの意見に同意していた。そもそも、この国では女性が妊娠しても、相手を探すという事はしない。未婚の母にも孤児にも福祉が細部まで行きわたり、一人でも育てる事が出来るからだ。
 だから、騎士団長が必死で相手を探している意味が理解出来ない。

 時間が経てば騎士団長も諦めるだろう。
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