聖女強化担当の騎士団長が、媚薬から助けてくれた人を探しているけれど絶対にバレたくない。

シェルビビ

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 異世界からやってきた聖女様一行が魔獣を討伐した。大型の竜が村を襲い、王都にまで被害が出そうになるところで止めを刺した。それはそれは素晴らしいパレードが開かれて国民一同大喜びだった。

 そんな彼らを讃えるために開かれたパーティー会場で、ひとり不貞腐れるのが私、キズナだったりする。

 煌びやかな会場は、今まで見た事がないくらい美しく、品がいい調度品が並べられている。異世界からやってきた聖女ユウが、我が物顔で歩いているのだから笑えてしまう。本当は彼女の隣にいる侍女達が、聖女の力を持っている事は私は知っている。

 聖女ユウが何故か私を指名して、一緒に魔獣討伐に行くことになった。何の力もない私がついていったところで足手まといなのに。彼女たちと一緒に食事の準備をするうちに仲良くなった。最初は警戒していた彼女たちも、私の働きぶりに噂通りの人間じゃないと判断したみたいだ。

 ユウは私よりも先に異世界にやって来て、皆から信用されている。身長が低くて甘い顔立ちの彼女が、少し困った顔をしただけで手助けするだろう。

「またあの女、イライラするわね」
「婚約者がいる男性ばかり護衛にするのよ。いい加減にして欲しいわ」

 ……何処にいても、女の敵は女という事は変わらない。レースがふんだんに使われた特注のドレスを着た令嬢や扇子で口を隠した令嬢たちは、少しでも集まると悪口を言い始める。その悪口を聞いて、心の中で大きく頷いた。

 ユウという女は、小賢しくて憎たらしい女だ。あいつと出会ったのは、半年前の事。森に迷っていた私は、騎士に拾われて王城にやってきた。

 せっかく異世界にやってきたんだから、チート能力で大活躍して、そして素敵な男性と付き合ってみたい。
 そんな事を考えていた時間が、異世界に来て一番夢を見られた時間だった。

『あなた、日本から来たの?』

 制服を着ている私をジロジロ見ると溜息をついた。この時点で苛立ってしまったが、先に来たのは彼女の方が先だ。

『はい、日本から来ました。キズナと言います』
『ダサい名前ね。ああ、私はユウ。ここでは聖女をやっているの』

 最初に名前を馬鹿にされてから、彼女は私のある事ない事言いふらした。皆、ユウが言うならキズナは性格が悪いと決めつけて距離を取られる。
 しかし、彼女は性格が悪ければ頭も悪かった。嫌がらせをする相手を私以外にもしていて、彼女の性格の悪さは王城に知れ渡る事となる。

 ユウは聖女の力があるから、今は問題ないけれど今後どうなるか分からない。
 私も謎の力があるけれど、この力は本当に限定的な使い方しか出来ないから。

 誰かが贈ってくれたドレスを着て、壁際に立っていると浮ついた男が話しかけてきそうになった。周りの人がニヤニヤと卑しい笑みを浮かべる。どんな反応をされるのか今か今かと待ちわびているのだ。
 短く息を吐くと、こちらに向かってくる男に向かって極小の魔力を放った。当たった場所は、男の弱点である場所で、近寄ってくると苦悶の表情を浮かべる。

「……? っ……!」

 男性の下半身の部分が濡れていく。慌てて手で隠す男性は顔を真っ赤にしていた。

 身体が先に異常に気がついて何処かに向かう。誰にも見られないように外に向かうと、一目散に向かうのは娼婦館だろう。こういう嫌がらせをしてくる連中には、同じように魔力を使っている。

 男女問わず魔獣も人間も、困惑した表情を浮かべるのは堪らなく可愛らしい。

 何処かから視線を感じたので、横を見ると鬼気迫る表情の騎士団長ギルがいた。ああ、いつもアイツはこちらを睨みつけて、忌々しい顔をする。騎士を害する人間だと思われていて、嫌われる原因がある事は分かっている。

 聖女の劣化品でもいいから、抱きたいという男たちは沢山いた。私の見た目は、身長160センチで切れ長の一重、髪の毛は黒髪で腰まで伸ばしている。胸は自慢じゃないが大きい方だと思う。Kカップとグラビアモデルもビックリな大きさだ。こっちの世界の女性は胸が大きいから違和感がない。

「よ、またやってるな~」
「フレイ! 良かった。今日は顔見知りがいなくて、不安だったんだ」
「さっき会場から出た男は、ババアに抱かれてたよ」
「そうなんだ。仕方がない事だよ。食物連鎖の最後は何時だって強者だもん。お腹空いてない?私は空いているよ」

 こっちの世界に来てから初めて出来た友達のフレイは、魔術師の性欲をする解消係として働いている。娼婦と違って本番無しの彼女たちは、指先一つで大量に射精させる技術を持っている。だから、私が神レベルのセックス技術の加護を貰ったことを知っている。処女なのに、恥ずかしい加護だから誰にも言えない。

「そうか、よく待っててくれたね。それにしても豪華な会場で、お酒も美味しくて、ずっと飲んでいたんだ。一緒に食べに行こうよ」
「うん」

 令嬢たちの視線が気になって、食べ物のある場所に近づけなかった。フレイに手が引かれると、目的の場所に着いて肉をお皿に乗せた。テーブル席も用意されていて、そこに近づくと仲の良い子が纏まって座っていた。

 ユウの話を鵜呑みにせずに受け入れてくれたのは、彼女たちで私は心から彼女の事を信用している。やっぱり、同じ共通の能力があるおかげか、同じように苛められた事があるらしい。
 フレイの同僚の子達は全員美人で可愛い。そして魔術師たちは彼女たちと結婚したいと考えている事もお見通しだ。

 公共の場で仕事の会話はしてはいけない事になっているけれど、皆の頭の中は仕事でいっぱいだろう。男性たちが歩いている姿を見ているけれど、視線の先にあるのはひとつだけだ。

「どいつもこいつもだらしないな」
「見ているだけで目が腐る。帰ったらいっぱい魔術師たちを相手にしようっと」

 私はこの世界に来て、本当の友達が出来た気がする。こっちの世界に来る前の環境は地獄だったから。
 日本にいた頃の私は、それはそれは本当に真面目な女の子だった。真面目で周りが求める子を演じていた。頭は良い方じゃないけれど、顔が賢そうなのか身長が高いからなのか馬鹿になれなかった。

『キズナさんって、に頭が悪いんだね』

 一度テストの点数が低かった時に、クラスにいた女の子が吐いた言葉。頭が悪い事がいけない事だと思い込んで、一生懸命に勉強を頑張った。

『キズナさんって、に可愛い物が好きなんだね』
『キズナさんって、に運動が出来ないんだね』

 言われるたびに自分の事を隠すようになっていた。何にも興味がない振りをして、普通の振りをする生活を送っていれば、傷つく事がないと思って。

 毎回違う人から、何かを言われる度にストレスが蓄積していた。
 そういうあんた達は何が出来る?と。

 だから、この世界に来た時に我慢しないと決めた。いつもニコニコヘラヘラして、その場しのぎの会話をしていた過去の自分をなかった事にする。素直に行動をすると、人生が上手く行き始めた。

 聖女様は騎士団長にウザ絡みをしていて、彼は酔っぱらった振りをする聖女を他の人に押し付ける。
 それを見て、私達は見えないようにお腹を抱えて笑っていた。

 勧められたお酒を楽しく飲んで、楽しく飲み明け暮れた。
 本当に異世界に来てよかった、と本気で思うくらい陽キャな人生だ。

「キズナ、そういえば彼氏って作らないの?」
「作るわけないじゃん。男なんて面倒くさいし、それに誰も私の事なんて好きにならないって」

 そう言いながらお酒を飲んでいると、酔っぱらった誰かが近づいてきた。その人は嫌な感じがしないし、楽しく会話が出来ていたと思う。

 彼氏が出来ちゃうかもしれない。彼氏が出来たら何をするのか決めていた。
 まず初めにデートをする。市場でただ歩くだけでもいいし、観劇を見に行って人気のカフェで食事をしてみたい。それに馬にも乗ってみたい。乗れない人なら、故郷の事をお互い語り合いたい。

 次の日、ベッドで目が覚めると全裸になっていて、横にいたのは騎士団長ギルだった。
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