上 下
1 / 105
第1章 王都編

第1話  主人公、家を追い出される

しおりを挟む
「助けてください」

「全く、なんでこんな風になったのかな」

豪華な街並みに騒がしい喧騒、王都の景色に普通なら感動して立ち止まって景色を見たりする人もいるだろう。しかし、フェリクス・クレソンは路地裏でいかにも暴漢と思われる人達に囲まれていた。フェリクスの頭の中は呑気に先日、父ダルク・クレソンの言葉を思い出していた。

「お前はどうして、無駄に才能を持っているのにそう、やる気を出さないんだ」
「そういわれてもね~」

フェリクスは父親に咎められているにも関わらず、気にもせず本を読んでいた。

「だから、お前には王都の学校に行ってもうことにした」
「へぇ~そうなんだ、って今、なんて言った、親父」
「お前には王都の学校に行ってもらうことにした」

「何で?」

「お前の上の兄さんたちはしっかりと自分の職について働いているのにお前と来たら、毎日、グウタラと本を読んでいるだけじゃなか」
「店の売り上げには貢献してるだろ。それで問題ないだろ」
「いいや、問題だ。確かに、お前はこの商会には貢献しているかもしれないがお父さんはお前の将来が心配なの」
「そんなこと言われても、俺はこの生活で満足してるから十分だ」
「いいや、そんなことだから、お前には女性が近寄ってこないんだ。王都の学校でそんな性格も直してもらってこい」

「嫌だ」

「お前に拒否する権利はない。お前たち、この馬鹿息子を店の前にほっぽりだせ」

後ろで待機していた3人の護衛がフェリクスの腕と足をがっしりと掴んだ。

「ちょっ、お前ら離せ――」
「すみません、若、これも旦那様からの命令ですので」

ダルクはフェリクスに向かって一振りの刀を投げた。

「お前なら、これだけで充分だろ。王都の支店には連絡しておくから、そこで準備して学校に行け」

どうやらダルクは本気の様だ。フェリクスを放りだした後も、護衛達はフェリクスから目を離さず、警戒して店に戻ら無いようにしている。

「おーし、おやじの決意はわかった。そこまでいうなら、そうしてやる。だが、その前にお前たち覚悟は出来ているだろうな」

「「「はい、若、一本お願いします」」」

「いい答えだ。お前ら、しばらくは会えないから、みっちり稽古をつけてやる」

「「「お願いします」」」

そして、一週間後、今に至る。

「てめぇ、何の真似だぁぁ、カッコつけてヒーロー気取りかぁ」
「僕にはそん―」
「ありがとうございます。旅の方」

フェリクスが口を開く前に暴漢に襲われていた女性が口を開いて言葉を遮った。

「この人数さで勝てると思うなよぉ――」
「話を聞いてくれるかい」

面倒臭そうに拳をフェリクスが拳を振るうと暴漢の1人がぶっ飛び壁に激突した。

「やりやがったな、てめぇ」
「実力差を少しは感じてくれると嬉しいんだけど」

もう一度フェリクスが拳を振るう。これもまた、あり得ない速度で壁までにぶっ飛んだ。

他の奴らは今の光景が信じられないという風に目を見開いている。

「まだ、やるかい」

ヒィと言う悲鳴を上げ、暴漢たちは路地裏へと消えて行った。しっかりと壁に激突した連中も回収をしていた。

「あの、ありがとうございます」
「はいはい、もう用は済んだよね、あっち行って」

それだけ言うとフェリクスは女性には目もくれず、表通りに足を向けた。

「あれがうちの商会の若頭ですかい。なんとも頼もしいね」

その姿を屋根の上から見下ろしている影が1つあった。

クレソン商会、1代で出来た新進気鋭の商会だが今では王都でも1、2を争う商会まで成長していた。しかし、その商会にはこれといった特徴のある商品は存在しない。普通ならば、何かしらの商品が商会自慢の商品ですという感じになるのだが、クレソン商会にはそんなことはなく、満遍なく商品が揃っていた。その商品が他の商会より品質が良く、尚且つ安いとなれば、一番売れるのは必然だった。他の商会からしてみれば、恨みのいい的だった。他の商会から当たりの辛い時期も過ぎ、苦労を重ね、今の商会を作ったダルク・クレソンは同業者たちから見えれば、生ける伝説だった。

そんな商会の入り口には連日、人だかりが出来ていた。

フェリクスはその横を通り、人から横入りをするなという視線を受けるが気にせず、商会の受付の所に進んだ。

「何の御用でしょうか」
「ダルクに言われて、ここで王都の学校の準備をしろと言われて来たんだけど」
「そうですか」

突然、受付嬢が腕をフェリクスの方へ腕を向けた。その腕は僅かに光っている。

フェリクスはその光に向かって、素早く何かを光った指先で書いた。それによって受付嬢の腕の光が消える。自分のされたことに驚いているのか受付嬢の目が丸くなった。

「解除ですかなるほど、確かにフェリクス様のようですね」
「問答無用で魔法ね、親父が考えそうなことだ」

受付嬢はフェリクスに魔法を放とうとしたのだがフェリクスは魔法を無効化してしまったのだ。通常なら構築される魔法陣を壊すか反魔法で対抗するのだが、フェリクスが選択したのは一番安全に魔法を無効化できる解除だった。しかし、安全に魔法を無効化出来る分、その解除は他の2つの方法に比べて時間がかかる欠点が存在する。フェリクスはその欠点が無いかの様に魔法が発動する一瞬の間で解除を行ってしまった。

「こちらが入学費と制服と学校で使用する教材です」
「それだけですか?」
「はい、フェリクス様が入学するのは王都でも由緒あるセイレン学院です」
「あの全寮制の学校ね」
「あと、会頭の方から手紙を一筆、預かっております」

受付嬢は綺麗に封蝋されている手紙を渡してきた。わざわざ、手紙をあることに若干の不安を感じて、フェリクスは受け取った手紙の封を切った。

【フェリクスへ
 これの手紙を見ているということは無事、王都に着けたということだな。こんな手紙をわざわざ付けたのには理由があってな、何の巡り合わせか、お前がセイレン学院に入学させるつもりで準備していたがその段階でこの国の王女アリサ様も入学なさることが分かった。特に王女様に取り入ってこいだの、そんな悪徳商人的な真似はしなくていいが、お前はトラブルを呼び込む天才だ。王女様にはくれぐれも粗相の無いように頼むぞ。
           追伸 嫁でも見つけてこい  父ダルク・クレソンより】

(つまり、面倒事は起こすなってことね。親父殿)

それだけ読むと、フェリクスは手紙を魔法で一瞬にして消し炭に変えた。

「それじゃ、ありがと、マリアンヌさん。また、何か用があったら、ここに来させてもらうよ」
「何故、自分の名前を―」

1度も口にしていないのにフェリクスは自分の名前を知っていたことに動揺をマリアンヌは隠せなかった。

「商会の人員ぐらい、覚えているさ。特に魔法が使える人なんてね」

それだけ言うと颯爽とフェリクスは商会を去って行った。

(あれが一番才能があると言われているダルク・クレソンの三男ね。欠点があるとすればやる気と書かれていたけど、本当みたいね。果たして彼が本気を見せたらどれだけの人が驚くのかしら)

先ほど出て行った、フェリクスは短い時間であの年では考えられない才能の片鱗をマリアンヌに見せていった。学院に入れば、いくら実力を隠していても広がるのは時間の問題だろう。そう思うと僅かにマリアンヌはワクワクが止まらなかった。

言われた通り、セイレン学園にフェリクスは来ていた。

(贅沢品、ばっかだな)

門を通り、学園の受付まで行くまでに銅像や噴水などがあり、商人として父が扱っているものもあるのでフェリクスには値段が簡単にわかってしまう。恐らく、一般人が値段を聞けば、絶対に近寄らないだろう。

フェリクスはそんな贅沢品を見ながら、受付に着いた。

「あの入学希望、なんですが」
「お名前は伺って、宜しいでしょうか」
「フェリクス・クレソンです」
「分かりました。こちらへどうぞ」

受付の女性は他の物に受付を任せるとフェリクスを連れて歩き出した。

「フェリクス・クレソンは君かね」
「ハイ、そうですが、これは何でしょうか」

そう言われてフェリクスが連れてこられたのはまるで闘技場だった。そこにいたのは、杖をついている初老のおじいちゃんだった。

カツンとその人が杖を鳴らすと突然、フェリクスは暗闇に包まれた。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

この眼の名前は!

夏派
ファンタジー
「パンイチ最高ッッ!!!!!!!!!」  目が覚めたら、パンイチで椅子に括り付けられていた。  異世界に転生した俺は、チート能力を期待していたが、実際の職業はまさかの無職。  唯一もらった眼の力も「相手の嫌なこと」、「相手の好きなこと」だけがわかる力?!  夢の異世界なのに、剣も魔法も使えない展開に!  どうなっちまうんだ俺の異世界ライフ!  ゆるゆる異世界ファンタジー。俺YOEEE系。コメディ感覚でどうぞ。  よく誤字ります。ご了承を。  投稿は今現在忙しいので不定期です。  第13回ファンタジー小説大賞、890位獲得。これからの伸びに注目。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...