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第九話『護衛任務 後編』

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 二日目の道中も、森に辿り着くまでは何事もなく馬車を進めることができた。

 魔大陸ならともかく、バルフレア大陸のそれも、冒険者の集うヴェルスタット王国内において、魔物が大量発生するということは、通常は有り得ない。
 絶対数が少ないのだ。遭遇することのほうが稀である。

 冒険者ギルドの依頼も、薬草採集や探し物、野盗避けの護衛任務、アイテム探しが主となっている。
 前回のようなゴブリン討伐や今回のような魔物向けの護衛任務が珍しいのだ。



 しばらくして森の入口に到着した商隊と俺達冒険者パーティー。先頭の馬車からボルグが降り、他の冒険者達を集める。

「いいか? これから森に入るが、森の中は一本道で周りの視界は然程良くない。
 どこにオークが潜んでいるか分からんし、どこから襲いかかってくるかも分からん。
 各自、今まで以上に警戒をしておいてくれ」

 ボルグの言葉に全員が頷き、乗っていた馬車に乗り込み、馬車は森の中を進みだす。

 森の中は一つの道が続いていた。周囲の木々は鬱蒼と生い茂っており、視界は確かに悪い。
 道自体も馬車が二台分通れればいいくらいの幅なので、万一囲まれでもしたら対処に苦慮するだろう。

 森の道は舗装されていない為、馬車がガタガタ揺れてかなり尻が痛い。歩かなくてもいいことを考えれば楽ではあるのだが、これは堪える。
 隣りを見るとエルザもどうやら同じようで、目には涙を浮かべている。
 対照的にエルリックは慣れているのかどこ吹く風で、周囲の警戒にあたっている。

「エルザ、大丈夫か?」
「え、ええ。これくらいどうってことないわ」

 涙目で答えているからだろう。全く説得力がない。無理する必要はないんだが……。



 森に入って三十分くらい経っただろうか? 不意に馬車が停まり、周囲が慌ただしくなる。

「オークだ! オークが出たぞっ」

 ボルグの声で、俺達は馬車から急いで降り、周囲を警戒する。
 どうやら先頭の馬車にオークが現れているようだが、ここから見える限りでは五匹しか見えない。
 その五匹はボルグとアンガス、そしてアリサが相対している。
 他の馬車に乗っていた冒険者達も降りており、俺達同様に周囲を警戒しているようだ。

「ボルグの加勢に行かなくていいの?」

 エルザの言葉に俺は首を傾げる。話を聞いていなかったのか、いや、聞いてたよな? 
 俺は周囲の警戒をしつつ、呆れ顔でエルザの方を見る。

「ボルグ達をよく見てみろ。オークの数は五匹だろ? 
 そして今回オークの群れは二十匹近く出現しているという話しだったよな?」
「確かそんな話だったわね」
「そこまで分かってるなら分かるだろ? 
 はぁ……残り十五匹近くものオークが、どこかに潜んでこちらを狙っているというわけだ。
 それなのにボルグ達のほうに行ったら、誰がこの馬車を守るんだ?」
「あぅ。そういえばそうね……」

 言われて気づくようでは冒険者としてダメなんだがなと苦笑しつつ、エルザの頭を二・三回軽く叩いてやる。
 むぅ、と口を膨らませる顔も可愛いのだが……どうやらお出ましのようだ。

「来たぞッ、左右からそれぞれ六匹、後ろから三匹! 
 俺が後ろの三匹を持つから、エルザと兄さんは『氷虎』のジャックとネイの指示に従ってくれ」
「分かったわ!」
「了解だ」

 二人は即座にジャックとネイのいる左側へと向かう。
 右側にチラリと目をやると『風精霊』の面々が相対しているので、ひとまずは大丈夫だろう。
 ……さてと。

 後ろを振り返ると、遠目に見えていたオーク三匹が今まさに俺に攻撃を仕掛けようと向かってきている。
 それぞれ手には棍棒、斧、剣を持っており、革の鎧を身につけていた。

 俺は【英雄領域】を発動させ、トウカ作のミスリルの剣を鞘から抜く。
 刀身は美しく輝いており、俺の能力に反応しているのか、発光しているようにも見える。

「いくぞ!」

 掛け声と同時に俺は腰を低くして、瞬時に棍棒を持ったオークの直ぐ脇へと駆け寄る。
 オークが驚くのかどうかは良く分からないが、オークの表情は歪んだように見えた。
 馬車の傍にいたはずの人間が、一瞬で自分の脇にいるのだ。
 驚いたとしても無理はない。驚くだけでは済まないのだが。

 俺は棍棒を持ったオークの脇腹目掛けて剣を振るうが、オークは反応することすら出来ていない。
 瞬間、オークは上半身と下半身の二つに分かれてしまった。その切り口からは血飛沫が上がっている。

 斧を持ったオークと剣を持ったオークは、あまりの出来事に固まってしまっている。
 だが、それは悪手だ。そんな好機を逃すほど、俺は甘くはない。

 斧を持ったオークは首を、剣を持ったオークは心臓をそれぞれ狙い、攻撃を仕掛ける。
 我に返ったオークが避けようとするがもう遅い。
 斧を持ったオークの首は血飛沫とともに宙を舞い、剣を持ったオークは心臓を一突きされると、四肢をジタバタさせもがいたが直ぐに動かなくなり、その生涯を終えた。

 ミスリルの剣を軽くひと振りし、血を落とす。刀身を見るが骨を断ち切ったというのに、刃こぼれ一つ落ちてはおらず、輝きを保ったままだ。

 トウカの腕に感心しつつ、視線を直ぐに前方に移すと、既に二匹倒し終えたようで、エルザとエルリックがそれぞれオークを一匹ずつ、ジャックが2匹を相手取っている。
 と、そこに風を引き裂く弦の音とともに一本の矢が放たれた。
 吸い込まれるようにジャックが相手取っていた二匹のうちの一匹の眉間に矢が突き刺さり、オークの体は崩れ落ちる。

 矢の出処を見ると、そこには弓を持ったネイ。彼女が放ったものだったか、と俺は感心する。
 狙い通り矢を命中させたことに安堵したのか、ネイは軽く息を吐いている。
 狙いを定めて一本の矢に全てを込めるという行いは、かなりの精神力を要するのだろう。額からは汗が滴り落ちていた。

「こ……の、喰らいなさいっ!」

 エルザが振り抜いた渾身の一撃だが、以前見たゴブリンの時と同じく、オークは真っ二つに分かれ、血を振り撒きながら倒れる。

「ふんっ!」

 エルリックがオークの剣による一撃を、ミスリルの剣で受ける。
 するとオークの握っていた剣はミスリルに耐え切れず、砕けてしまう。
 オークが怯んだ隙を見逃さず、エルリックはオークに向かってミスリルの剣を一薙ぎすると、オークはミスリルをその身に受け、崩れ落ちる。
 二人は問題ないようだ。

「ちィっ!」

 反対にジャックが相対していたオークは、周りのオークに比べると多少手強いようで、オークが持つ斧に苦戦している。
 もしかしたら、ジャックの力量がエルザやエルリックに比べると低いだけなのかもしれないが……。

 オークは醜悪な顔をジャックに向け、厭らしく口角を上げると、それを見たジャックは冷や汗を垂らしていた。

 ふむ、別に騎士ではないし一対一に拘る必要はないな。それに良く考えたら、そもそも相手は魔物だ。
 オークがジャックに意識を向けている隙にオークに近づき、心臓目掛けてミスリルの剣で突き刺す。

 不意打ちを突かれた形となったオークは驚愕の表情を浮かべているが、既に遅い。
 数回痙攣した後、大きく震えて動きを止めた。

「ッ、悪い。助かった」

 先ほどのオークの攻撃を喰らったのだろう、ジャックの肩からは血が流れている。
 命に別状はなさそうだが……俺は、ジャックの肩に手をやる。

「『生命癒術』」

 その一言でジャックの肩の周りが柔らかく暖かな光に包まれる。
 光が消えるとジャックの肩の傷は跡すら残らず、綺麗さっぱり元に戻っていた。

「こ、こりゃ凄え! 
 回復魔法は何回か見たことがあるが、こんな風に一瞬で治す回復魔法なんて初めてだぜ! ありがとな!」
 
 興奮しているジャックの声に俺は苦笑するしかない。
 自分の【生命癒術】の効果など、他の術者と比べたことなどないのだ。
 ジャックがここまで興奮しているということは、それなりに凄い効果なのだろう。

 前方のオークは重戦士であるバルガスが、盾役となり攻撃を受け止め、ボルグの氷付与の剣とアリサの攻撃魔法によってあっという間に片が付いていた。
 慣れたもので、三人とも余裕の表情をしている。これで残るは右側だけなのだが……。


「きゃあぁッ!」

 右側から甲高い悲鳴が聞こえてくる。急いで悲鳴の聞こえた右側へと向かうと、そこにいたのは既に事切れたオーク六体とその近くに立ち並ぶ『風精霊』の四人。
 そして……

「オ、オーガッ!?」
「な、なんでこんな場所にオーガが……」
「そんなっ! オークだけじゃなかったのッ!?」

 森の奥にいたのは、全長三メートルはあろうかという巨体に真っ赤な瞳をこちらに向けたオーガだった。
 口からは涎をダラダラと垂れ流しており、両手には何も持っていないものの、だから安心だとは口が裂けても言えない。

 オーガはゴブリンやオークに比べ、遥かに強靭な肉体を持ち、全身が鉄よりも硬いと言われており、普通の武器では傷をつけることが出来ないばかりか、武器の方が破壊されてしまう。
 そんな強靭な拳で殴られでもしたら人間などひとたまりもないだろう。
 もし掴まれでもしたら、最悪だ。腕力も凄まじく、人間の体であれば簡単に引きちぎることが出来る。

 ランクで言えば銀等級冒険者が三人掛かりでようやく一体倒せるかどうかという魔物だ。
 そのオーガが二匹。そう二匹も目の前にいるのだ。『風精霊』の悲鳴も当然だろう。

 横を見るとボルグの表情が目まぐるしく変化している。
 どう指示すればいいか必死に考えを巡らせているのだろう。
 ボルグの使う氷付与の武器であれば、ダメージを与えることは出来るだろうが、ボルグの付与は他人には使用出来ないと言っていた。

 更にオーガは魔法への耐性もある。アリサとエルザが使用出来る魔法程度では、傷をつけることは出来ないだろう。
 
 となると、他にオーガにダメージを与えることが出来るのは俺達『神へ至る道』だけになる。
 ミスリルの剣とエルザの剣であれば、例えオーガであっても傷つけることが出来るはずだ。
 事ここに至っては迷っている暇などない。

「ボルグさん」
「……なんだ?」
「俺に案があります」
「案……だと?」

 ボルグが訝しげな表情でこちらを睨む。
 そんなに睨まなくても割と確実な案なんだがな。

「俺達『神へ至る道』の三人の武器はミスリル製です」
「なッ! 何だと!? それは本当か?」
「えぇ。ですから一匹は俺達に任せてくれませんか? 
 残り一匹を、攻撃はボルグさんが行い、残りのメンバーで支援や牽制を行う。
 これで何とか乗り切れるんじゃないかと踏んでいるんですが……乗りませんか?」

 正確にはエルザの剣はミスリル以上だろうが、そこは黙っておく。
 ニヤリと笑みを浮かべてボルグにそう言うと、ボルグは苦虫を潰したような顔をする。
 そして幾度か考えるような素振りを見せるが、最終的には頭を左右に振り、俺の顔を見る。

「ちッ。鉄等級冒険者ばかりの、しかも冒険者になって一週間も経ってないっていうお前らに、オーガを一匹任せるのは有り得ねぇ話だが、オーガにダメージを与えることが出来る武器は限られてる。
 いいか、無理だけはすんじゃねえぞ?」
「分かってますよ。ボルグさんの方こそ、ボルグさん以外にダメージを与える事が出来るやつはいないんです。
 無茶はしないでくださいよ」
「はッ! 新人ルーキーに心配されてるようじゃ、銀等級冒険者だなんて言っても、俺もまだまだだな……じゃ、やるぞッ!」

 ボルグと健闘を称え合い、俺達はお互いの戦いに向かう。



 眼前に迫るオーガは、俺達を獲物エサと認めたようだ。
 涎まみれの口を開け、尖った牙を剥き出しにする。俺達は剣を手に身構えた。

「グオオオオオオオオオォッ!」

 オーガが耳をつんざく雄叫びを上げると、一瞬俺達の身体に硬直が走る。
 これはッ!

 しまった、と思った時には既に遅かった。
 オーガは俺に向かってその強靭な拳をもって殴りかかる。
 硬直は一瞬だった為、すんでのところで左手に嵌めている銀の小手を上げ、オーガの拳を防ごうとするが……もちろん防ぐことなど出来るはずもない。
 オーガの拳を受けた俺の身体は軽々と吹き飛ばされる。

「かはッ!」

 軽く五メートルは吹き飛ばされただろうか。大木に背をぶつける形で俺の身体は停止する。
 背中を激しく打った痛みと、オーガの拳を受けた左腕の痛みに襲われる。
 ……左腕の方は折れてるな。くっ……エル……ザと、エルリック……は……

「カーマインっ! ……よくもッ! よくもやったわねッ!」

 エルザの口調に怒気が混じり、恐ろしいほどの剣幕でオーガを睨みつける。
 エルリックの表情も似たようなもので、目を尖らせ身体を震わせている。

「エルリック! 左からいくから貴方は右から合わせて! いくわよッ!」
「おうッ!」

 言うや否やエルザが放たれた矢のごとく、オーガの左側に向かって疾駆する。
 続けてエルリックもミスリルの剣を振り上げ、オーガの右側から飛び上がる。
 オーガは左右から襲いかかってくる二人を交互に見やるが、女だからと甘くみたのか、エルザの方を向き、その強靭な拳を振り抜く。

「っっ! こんのッ! 甘いのよッ」

 オーガの拳がエルザに当たろうかという寸前、エルザの身体は更に速度を上げ、オーガの脇をすり抜ける。
 誰も居ない空を振り抜き、バランスを崩したオーガに向かってエルリックがミスリルの剣を振り抜く。
 オーガは咄嗟に左腕を上げたが、ミスリルの剣を防げるはずはなく、女性の腰ほどもある太い左腕は切断され血飛沫を上げる。

「グギャアアアアアアッ!」
「これでえぇ! 最 後チェックメイトよッ!」

 オーガが左腕を抑えながら絶叫するが、その隙を逃すはずもない。
 オーガの後ろに回っていたエルザが、輝きを放った剣をオーガの顔面目掛けて、渾身の一撃を入れる。

「グギャッ! グギャウウウッ!」

 脳幹を貫かれたオーガは、痙攣しながら膝をつく。いくら強靭な肉体を持つオーガといえど、脳を破壊されては生きてはいけない。
 暫く痙攣を繰り返していたオーガであったが、やがて身動きを止め、頭から血を流すだけの骸となった。

 時間にすると、俺が攻撃されてから一分も経っていないだろう。
 依然として俺の身体を激痛が襲っていたが、二人の見事な動きに感心する。
 だが、いつまでもこのままという訳にはいかない。

「ッ!『生命癒術』」

 自身に回復魔法を掛けると、瞬時に背中と左腕の痛みは消える。
 ……オーガが【咆哮ハウリング】を使ってくるとは知識不足だった。
 最初に攻撃を仕掛けてきたのが俺で良かった。あれがもしエルザやエルリックだったら……。

「カーマインッ! 大丈夫……なの?」
「カーマイン! 大丈夫か?」

 エルザとエルリックが、それはもう心配そうな表情でこちらに近づき尋ねてくる。
 不謹慎にも嬉しくなった俺は思わず笑みを溢したが、直ぐに顔を引き締めて返事をした。

「あぁ、大丈夫だ。咄嗟に左腕を出せたのと、自分で【生命癒術】を使ったからな。
 それが無かったら正直ヤバかった。……おっと、この話は後だ。ボルグさん達の援護に行くぞッ」



 ボルグ達が相手取っている方に向かうと、そこは激戦地と化していた。

 アリサが攻撃魔法、ネイが弓矢、アンリが投擲で牽制しつつ、それに気を取られたオーガを攻撃し、バックステップで間合いから外れる。
 遠距離陣をバルガスとミーナで守り、アンナとジャックは予備として警戒、もし怪我を負った際の回復役としてミーシャが控えるといった布陣で立ち向かっている。

 何度もボルグに切られたのであろう。オーガの強靭な肉体もボロボロになっていた。
 苛立たしげに顔を歪めつつも肩で息をしている。
 これならもう一息で倒せるだろう……そう思った周囲の空気が若干弛緩したのは、決して誰も責められはしないだろう。
 鉄等級冒険者中心にオーガと相対していたのだ。数が多いといえ、精神の消耗度は尋常ではない。

 だが、その隙を逃すほどオーガも甘くはない。
 オーガは最後の力を振り絞り【咆哮】を使用した。

「グオオオオオオオオオォッ!」

 瞬間、その場にいた全員が例外なく硬直状態になる。オーガはその好機を逃さず、後ろを振り返り走り出す。
 そう、本能で己の不利を悟ったオーガは逃げ出したのだ。
 オーガは必死で逃げる。逃げる。
 だが、オーガは気づかなかった。唯一、オーガの【咆哮】が効かなかった者が居たことに……。

 不意に後ろを振り返ったオーガの表情は驚愕に包まれている。何故ならば……。

「ここでお前を逃すわけには行かないんだよッ!」

 そう、俺が直ぐ後ろまで駆け寄って来ていたからだ。
 俺は、オーガが【咆哮】をする瞬間に、自身に【生命癒術】を掛けて【咆哮】の効果を無効化していた。
 実は【生命癒術】の効果は、何も身体の損傷だけではない。精神異常にも効果があるのだ。

「もら……ったあああああッ!」

 ミスリルの剣でオーガの身体に容赦ない一撃を入れる。ミスリルの剣によって、オーガの身体は左肩から右腰にかけて切り裂かれ、血を振り撒きながらその場に倒れる。

「!? ……ギャ……!?」

 地面を這いずりながらも逃げようとするオーガの心臓目掛けて剣を突き刺し、オーガは物言わぬ骸と化した。



 馬車まで戻ると、ボルグや他の冒険者達が笑顔で出迎えてくれる。

「わはははは! やるじゃねーか! 鉄等級の腕前じゃねーぞ。
 こりゃあっという間に抜かれちまいそうだぜッ」

 ボルグがそう言って俺の肩をバンバン叩く。ちょっと! ボルグさん、叩く力が強くないですかね。痛い! 痛いよ……
 
 ボルグの称賛の言葉を皮切りに皆が次々と俺やエルザ、エルリックを褒める。
 このパーティーじゃ荷が重いオーガ二匹を、実質俺達『神へ至る道』だけで倒した形になってしまったのだ。
 俺の場合は美味しいところをもらっただけのような気がしなくもないが、止めをさしたのは事実なので、そう思われても仕方ないか。

「オーガっていう誤算はあったが、誰も死なずに済んだんだ。
 俺達はホント運がいい。何せ『神へ至る道』っていう『期待の新人スーパールーキー』が一緒だったんだからな! 
 冒険者ギルドにもちゃんとお前らの活躍を伝えておくぜ! なぁ、皆?」

 俺達以外の冒険者が全員当然だという顔で頷く。馬車の中で息を潜めていた商人達や御者達も出てきて、俺達に礼を言ってくる。

「本当に有難うございます。これで安心して行き来出来るようになります」
「いえ、冒険者皆の助けがあったからですよ。
 決して俺達だけの力ではありませんので……」
「おぉっ! 何と謙虚な……私共からも冒険者ギルドにはきちんと報告させて頂きましょう」
「おぅ! 頼むぜ、商人さん!」
「あ、あの。ですから……」

 俺はホントの事を言っただけなのだが、商人達もボルグ達も俺たちへの評価がうなぎ上りになっている。
 おかしいな……。これ以上言っても、恐らく何も変わりはしないと俺達は判断し、結局そのままにしておくことにした。



 全員の体調確認、馬車の状態を確認した俺達は、オークとオーガの証明部位である爪と牙を採取し、出発を再開する。

 ここを抜ければ、後は何事もなくシリウスに辿り着くことが出来るだろう。

 一時間ほどで馬車は森を抜け、周囲には草原が広がる。気持ちのいい風が辺りの草を優しく撫でる。

 今回は失敗が多かったな、と反省しつつ外の流れ行く風景を眺めた。
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