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思った時には行動は終わっている

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 マクギリアスは戸惑っていた。

 もちろん、再び少女に出会えたことは純粋に嬉しい。

 だが、今は素直に喜べない理由があった。

 彼女のすぐ傍で、単眼の巨人キュクロプスが鈍器を振りかざしていたからだ。

 このままでは少女が危ない。

「危な――」

 そこまで口にして、マクギリアスは異変に気付く。

 単眼の巨人キュクロプスが鈍器を振りかざしたまま、微動だにしないのだ。
 あとはただ、振り下ろすだけでいいというのに。

「砦でお会いして以来かしら。お元気そうでなによりですわ」

 少女が単眼の巨人キュクロプスの隣でそんな言葉を口にするものだから、マクギリアスは余計に混乱する。

 もしかして、彼女にはこの巨大な単眼の巨人キュクロプスが見えていないのか、と。
 
「あ、ああ。貴女も以前と変わりないようだ。ところでひとつお聞きしたいのだが、構わないだろうか」

「どうぞ」

「貴女の傍に単眼の巨人キュクロプスがいるのだが……」

「ええ、存じております」

 よかった。
 ちゃんと見えているようだ。

 マクギリアスはホッと安心――しかけたところで、思いとどまる。
 安心など出来る状態ではないではないか。

 しかし、いまだに単眼の巨人キュクロプスはピクリとも動こうとしない。

 なぜ攻撃してこないのかは分からない。
 それでも、先ほどの攻撃を見たマクギリアスからすれば、奴が隣に立っているというだけで脅威でしかない。

「危ないからそこから離れるんだ」

「危ない? なぜでしょう」

 マクギリアスの言葉に、少女が首を傾げる。

「その単眼の巨人キュクロプスは危険だ」

「ああ、コレのことですか」

 少女は単眼の巨人キュクロプスに目を向ける。

 だが、それはほんの一瞬で、直ぐに興味をなくしたかのようにマクギリアスに視線を戻した。

「心配してくださってありがとうございます。ですが、大丈夫ですわ」

 少女がニッコリと微笑みを浮かべた。
 少女の笑みは、花が咲いたかのような華やいだものだった。
 
 ――美しい。

 マクギリアスは見惚れてしまう。
 しかし、すぐ頭を振って正気に戻る。

 見惚れている場合ではないし、なにより少女の言ったことが気になった。

「大丈夫とはどういうことだろうか? そこにいる単眼の巨人キュクロプスは再生能力を持っている。急所を攻撃しても回復してしまうほどだ。更に奴が手にしている武器。地面を見てもらえればわかると思うが、地形が変わってしまうほどの威力だ。いくら貴女でも――」

「危ない、そう仰りたいのですね」

「その通りだ」

 少女の実力は知っている。
 勇者駿しゅんとアルベルトを同時に相手にして勝利したのだ。

 だが、それでもやはり単眼の巨人キュクロプスは危険だ。

「それに単眼の巨人キュクロプスだけではない。街の外にもたくさんの魔物がいる。ここは私が何とかするので、貴女はどうか安全なところへ」

「お優しいのね」

 少女の蠱惑めいた微笑に、マクギリアスの胸がドキリと跳ねる。

「でも、困ったわ。せっかく何とかすると言ってくださったのに余計なことをしてしまいました」

「……余計なこと?」

 マクギリアスの言葉に、少女が頷く。

「たいへん申し上げにくいのですけれど……倒してしまいました」

「……は?」

 マクギリアスがポカンと口を開けた瞬間、それは起きた。

 少女の隣にいた単眼の巨人キュクロプスの体が、黄金色の輝きに包まれたかと思うと、膨大な量の光が発生して周囲を煌々こうこうと照らし始めたのである。

「くっ!」

 聖地を覆い尽くすほどの眩い光。
 そのあまりの眩しさにマクギリアスは目をつむってしまう。

 次にマクギリアスが目を開けたとき、そこに単眼の巨人キュクロプスの姿はなく。

「こ、これは……」

 あったのは単眼の巨人キュクロプスが手にしていた巨大な鈍器と、単眼の巨人キュクロプスのものと思われる魔石だった。

 呆気にとられているマクギリアスの背後から、大きな歓声が上がった。

 振り返ると、魔物と対峙していた兵士たちが各々の武器を突き上げながら喜んでいる。

 外にもかなりの魔物がいたはずだ。
 
 少なくともこの短時間で殲滅出来るかずではなかった。

 もしや。

 マクギリアスは少女を見た。

「すべて貴女が?」

「余計なお節介でしたかしら」

 やはりそうだ。
 目の前の少女が魔物を全て倒してくれた。

 だが、砦の時と同じく、どうやって倒したのかマクギリアスには理解できなかった。

 心臓を貫いても動く化物だ。
 マクギリアスだけならきっと倒せなかっただろう。

 仮に倒せたとしても街は甚大な被害となったはずだ。

 マクギリアスはまた少女に助けられたのだ。

「いいや、お節介などではない。街を救ってくれたことに感謝する」

 マクギリアスは少女に頭を下げる。

 少女に助けられたのはこれで2度目だ。

「いいえ、元はといえば私が招いたことですから」

「それはどういう……」

「おしゃべりが過ぎましたわね。そうそう、街を救ったのは王子様ということにしておいてください」

「なんだって?」

 マクギリアスは理解できなかった。

 聖地を魔物から救ったとなれば、人々から感謝され、王宮からも褒美が出ることは間違いない。

 砦のときもそうだ。

 なぜ、表に出ようとしないのか。
 それとも出られないわけでもあるというのか。

 マクギリアスは少女に問いかけようとした。

 しかし、マクギリアスが言葉を発するよりも早く、少女が動いた。

 少女はマクギリアスの傍まで近づいたかと思うと、人差し指でマクギリアスの口にそっと触れる。

 まるでこれ以上は聞かないで、と言わんばかりに。

 マクギリアスの方も、人差し指とはいえ少女と触れたことで体温が一気に上昇した。

「では、私は失礼しますね」

 そう言って、マクギリアスから離れる。

「あ……」

 マクギリアスは少女に向かって手を伸ばそうとした。
 
 ――待て待て、手を伸ばしてどうするつもりだ!

 エリーを誘って聖地にきているのだ。
 自分を救ってくれた名も知らぬ少女にまた会えたからといって、何と言葉をかけるつもりだ。

 今まで女性を遠ざけていたのに、2人も気になるとは……これではただの女好きではないか。

 マクギリアスは自己嫌悪に陥っていた。

 マクギリアスから離れた少女の足が、ある場所で止まる。

「そうだ、この魔石。もらっていきますね」

 そう言って少女が魔石を拾い上げる。
 少女の手には収まりきらないほど大きな魔石だ。

 マクギリアスは止めようとしなかった。

 あれほど巨大な魔石だ。
 価値は計り知れないし、きっと王国にとって益をもたらすに違いない。

 だが、危険な魔物を倒したのは目の前の少女だ。

 所有権は当然だが彼女にあるべきであり、置いていってくれとは言えるはずもない。

「代わりと言ってはなんですが、こちらの魔石を置いていきますわ」

 少女は空中に向かって手を伸ばす。

 すると、何もない空間から、単眼の巨人キュクロプスの魔石に勝るとも劣らないほど大きな魔石が姿を現した。

「これを見せれば王子が魔物を倒した証となるでしょう」

「いったいどこから……いや、それよりも……」

 少女が取り出した魔石も大変貴重なものだと分かる。

 それをポンと置いていくなど……。

「お気になさらずに受け取ってください。私には必要のないものですから」

 少女はそう言うと、単眼の巨人キュクロプスの魔石を何もない空間にしまう。

「では、ごきげんよう」

 少女は服の裾を軽く持ち上げ、優雅に一礼する。
 顔を上げ柔らかな笑みを見せたかと思うと、次の瞬間にはマクギリアスの前から姿を消した。
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