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勇者を目指せ!?

第46話 

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 翌日の夕方。

 ゼノスは学院長室の前にいた。
 オルフェウス学院長から呼び出しを受けたためだ。
 扉をノックすると中から「入りなさい」というオルフェウス学院長の声が聞こえてきたので、ドアノブに手をかけて中へと入る。

 イリス・レーベンハイトと侍女のロゼッタ・クレヴァニール。ユリウス・アウグストゥスと妹のレティシア。
 そこには、ルミナス王国とヴァナルガンド帝国の生徒代表が顔を揃えていた。
 二組は対面する形でソファに座り、オルフェウス学院長は奥の席に着いている。

 どうやら自分が最後らしい。

「すまねえ、待たせちまったみたいだな」
「遅れたわけではないから、謝罪は不要じゃ。まずは席に着くといい」

 ゼノスの謝罪に、柔和な笑みを浮かべながらオルフェウス学院長が答えた。
 ゼノスは軽く頭を下げ、勧められたソファに腰を下ろす。

「それで、呼び出された理由は何なんだ? ここにいる顔ぶれを見た限りじゃ、俺は場違いな気もするんだがな」

 イリスとユリウス、そしてレティシアは王族だ。
 ロゼッタはイリスの侍女なので、呼ばれていても不思議ではない。
 だが、自分は表面上は共和国の平民だ。
 呼び出された理由が分からなかった。

「ほっほっほ! 場違いなどではないぞ。ゼノスくんを呼び出したのにはちゃんと理由がある」
「へー、そりゃいったいどんな理由だ?」
「アルカディア共和国の生徒代表としてじゃよ」
「俺が、共和国の生徒……代表だと?」

 ゼノスが眉を寄せると、左にいたイリスが口を開く。

「私とロゼッタは王国の生徒代表として呼び出されたのよ。アウグストゥス様たちは帝国の生徒代表としてね」
「そういうわけだ」

 ユリウスが鷹揚に頷く。

「待ってくれ。イリスたちが代表ってのは理解できるけどよ。何で俺が代表なんだ?」

 と、ゼノスが疑問を投げかける。
 だが、疑問に思っているのはゼノスだけのようだ。
 その場にいた全員から「何を言っているんだ」という目を向けられる。

「課外授業で幾度となく皆をまとめておきながら何を言っておるんじゃ? では聞くが、ゼノスくん以外の共和国の生徒で、代表と呼べる者がおるのかね?」

 オルフェウス学院長に問われたゼノスは、即座に言い返すことができなかった。
 共和国の代表だ、と胸を張って言える生徒が浮かばなかったのだ。
 予想の内だったのだろう。
 オルフェウス学院長がニヤリ、と余裕のある笑顔をゼノスに向ける。

「分かってもらえたかね。学院長の立場的に、生徒に対して優劣をつけるようなことは言いたくはないが、儂はゼノスくんが適任じゃと思っておる」
「私もオルフェウス学院長の意見に同意します」
「俺もだ」

 イリスとユリウスがそう言うと、ロゼッタとレティシアも頷く。

「この学院でのゼノスくんの活躍は生徒の皆がよく知っておる。この場にいる者たちしか知らぬこともあるが……それはさておくとしてじゃ」

 オルフェウス学院長の纏う雰囲気が変わった。
 ゼノスだけでなく、その場にいた全員が居住まいを正す。

「君たちを呼び出した本題に入ってもよいかね?」
「ああ」

 オルフェウス学院長のセリフに、ゼノスを含めた一同が頷く。

「今から一週間後。新たに三人の先生がこの学院にやって来ることが決まった」
「三人も……ですか?」

 疑問を呈したのは、イリスだった。
 口にしないだけで、ゼノスも同じことを考えていた。

 入学当初からオルフェウス学院長以外の教師は一人のみ。
 新たにやって来たアルヴィナ先生だって、ウィリアム先生の代わりとしてやって来たに過ぎない。
 それも、ウィリアム先生が去ってから一ヶ月経ってようやくだ。

 それが急に一気に三人も増えるというのだから、気になったのも当然といえる。

「とはいっても、やって来る先生方は勇者協会に所属している魔術師ではないのじゃ」
「勇者協会に所属していない、だと? そのような者が俺たちを教える立場に就くというのか?」

 これに反応したのはユリウスだ。

「安心してほしい。少なくとも素性はきちんとしておる。王国に帝国、共和国から身元を保証された者たちじゃからな」
「国から身元を保証された……なるほど、そういうことですか」

 ロゼッタが一人だけ頷く。
 今の言葉で何かを察したようだ。

「何がそういうことなの、ロゼッタ? 私たちにも分かるように教えてちょうだい」
「それぞれの国から、教師という名目で魔術学院に人員を派遣するということですよ、姫様。まあ、監視の意味合いの方が強いかもしれませんが」
「……ロゼッタくんの言う通りじゃ。理由はいろいろとあるが、一番はやはりウィリアム先生の件が大きくてな」

 ああ、と全員が納得した。
 ウィリアム先生の件は、三ヵ国に報告されている。
 勇者協会に所属している魔術師が魔族と繋がっていたのだ。

 各国は、王族や若くて将来有望な人材を魔術学院に送っている。
 新たにきた魔術師が魔族と繋がっていないと勇者協会が保証したところで、はいそうですかと素直に信じることはできない。

 だからといって魔術学院を廃し、生徒を引き上げることもできなかった。
 三ヵ国が協力し合う、初めての一大計画なのだ。

 このまま継続するにはどうすればいいか。
 それを考えた結果、三ヵ国はそれぞれ一名ずつ、教師を兼ねた監視役を魔術学院に送ることにした。

 内部から勇者協会から派遣された教師に問題がないか監視しつつ、身近で自分の国の生徒たちの成長を見守る。

 ウィリアム先生の件を出されては、オルフェウス学院長も首を縦に振るしかなかった。

「まあ、普段の授業などはアルヴィナ先生が受け持つ。これに変わりはない。違いがあるとすれば、課外授業の際に三人の先生も同行するということじゃ。その時が一番危険が伴うからの」
「よく考えたら今までが異常だったんですよね……」

 イリスがポツリと呟く。

 生徒は実戦経験がない者ばかりだった。
 レベルの低い魔族とはいえ、いきなり実戦に放り出されてよくこれまで無事だったなと、イリスがため息と共に肩を落とした。

 実際、何度も危ない場面はあった。
 ゼノスがいなければ、きっと多くの死傷者が出ていたはずだ。

「そこはすまんかったと思っておる」

 オルフェウス学院長が静かに頭を下げた。

「やって来る三人の名前は分かっているんでしょうか?」
「いや、儂も知らされておらんのじゃ」

 レティシアの言葉に、オルフェウス学院長は首を横に振る。

「名前も知らねえって大丈夫かよ」

 ゼノスは呆れた声でオルフェウス学院長を見る。

「今の儂の立場的に強く言えなくてのう……」

 がっくりと肩を落とすオルフェウス学院長の姿に、ゼノスは何も言えなくなってしまう。

 ――まあ、ちょうどいいか。

 ゼノス自身、イリスとアルヴィナ先生には気を付けておいた方がいいと話をしたばかりだ。
 自分以外に目を光らせてくれるのなら多い方がいい。
 そのぶん、イリスに集中できる。

「君たちを呼び出したのはこのことを伝えるためじゃ。話はこれで終わりじゃから帰ってもらって構わんよ」

 オルフェウス学院長はそう言って、話を切り上げた。
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