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第2章

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宿を見つけ、3人は中に入ると、厳つい虎が店番をしている。
「今から3人。泊まれるかい?」
厳つい虎は怪訝そうに3人を見ると、ふっと顔を緩ませ案内してくれた。

「今日は特に寒いのに、子供2人連れて歩くのは感心しないが早く暖かくしてやりな。部屋は二階だ。料金は前払いで子供の分はオマケしてやるよ、大人2人分だ。」

「「子供2人?」」
虎の言葉に3人は目が点になる。

「すまないが、大人3人しかいないんだが?」
そう答えるロードに不思議そうな顔をする虎。指を指しながら確認している。

「いやいや。大人2人だろ?お前さんに可愛らしいお嬢さん。でっかい坊やの熊だろ、その背中にチビちゃんがいるだろうが。全く、俺の目を誤魔化そうとしたってダメだからな?」
ニヤリとする虎にアランは抗議する。

「えっ!私が坊や??立派な大人ではないか!!」
『ちょっちょっと、待って。アランの背中にチビちゃんって?』
「ん?私の背中かい?鞄しか無いが?」

クルッと振り向くと、真奈美とロードはビクッと驚いた。

「アランーーーお前、いつ鞄に入れたんだ?」
『・・・』

「ん?なんだい?どうかしたのかい?何を入れた?食料と着替えを入れたが・・・・・え?誰?」
2人に言われ、鞄を下ろすと鞄が空いており、灰色の髪が見えていた。静かに開けるとそこには小さな子供がスヤスヤ眠っているのが分かる。固まる3人に虎は声をかける。

「おやおや、もしかして。その子供はお前さん達の知らない子かい?困ったな、この顔は儂も見た事がないなーーーとりあえず、今日はお前さん達が預かってくれるかい?明日の朝、町のみんなに聞いてみよう。預かってもらうなら、料金は取らん。ただ、しっかりと面倒をみとくれよ?」
虎はギロリと鋭い眼光を向けながら鍵をロードに渡す。
知らない子供を優しく鞄ごと抱き抱え、アランもコクコク頷く。


二階に上がり、鍵と同じ模様を探すと角部屋だった。
室内にはベットが2つあり、テーブルが1つ。簡素な作りだった。


「さて、この子が誰か分からないが。いつまでも鞄に入れておくのは可哀想だな。」
ロードはアランから鞄を受け取り、すやすや眠る子供を鞄から出してあげた。

「ーーーこの種族は・・・アラン。厄介な子供を招き入れてしまったな。」
そう言うとベットに寝かせた子供を2人に見せる。


『ん?何の種族なんですか?』
スヤスヤ眠る子供の肌は青白く、髪の色は灰色で小さな薄茶色の翼が生えていた。お尻からは長い爬虫類に似た尻尾が見えている。そして、何も身につけていなかったのか鞄に入っていた毛皮に小さな体でうずくまっていた。

「わたしも分からないが、羽と尻尾があるのが珍しいのか?」
首をかしげる2人に呆れ椅子に腰掛けながら、子供の種族に付いて話してくれた。


「全く、何故分からないんだ?はぁ、何から話そうか。獣人が人間の奴隷になった理由は知ってるかい?」
「それはーー確か、何処かの王族が獣人を捉えて皆に見せびらかしたのが始まりだったような?」

「そうだ。馬鹿な人間が物珍しさに獣人を狩り出したのが始まりだ。それから、年月が経ち。今では当たり前の様に奴隷や卑下で見られる。冒険者として生活している者もいるが、稼ぎは人間より半分以下だ。そこまでは大丈夫だな?
本題とズレてしまったが、この子供の種族はーサラマンデル。初めて人間に捕まった種族だ。火を出すから怖がられるが、獣人の中ではとても温厚で、争いを好まないからかーーーほぼ狩られてしまったはずだ。今では天上人と同じぐらい貴重だろうな」

「サラマンデル?!まだ生きていたのかーーーこんなに小さな体で・・・親は?親は何処にいるんだ?」
「多分、居ないだろう。元々、寒いところが苦手な種族だ。ここにいるのがおかしいんだ。ーーー私の記憶では、何年か卵のまま土の中にいるんだが、もしかしたら・・・」
そこまで言い、言葉に詰まるロード。
ジッと子供を見つめたまま、黙り込んでしまった。



「サラマンデルは危険を察知すると、卵を安全な場所に隠すんだ。そして、自ら囮になり子供を守る。この子供が1人なら、親はもういないだろう。」

『産まれた時に誰も居ないーーーこんな小さいのに・・・私達を見つけて、1番暖かそうなアランの鞄に潜り込んだ。って事?』
「そうだと思う。まだ産まれたてだったのかもな、あの寒さでは長く生きて居られないはずだ」


哀しい事実に胸が痛くなる。
何も知らず、寝息をたてているサラマンデルの子供。
産まれて初めて見る世界にひとりぼっちだなんて。
悲しくなり、子供と一緒に横になる真奈美。優しく頭を撫でながら顔を見ると、その目には涙の跡があった。たくさん泣いたのだろうか、瞼も赤く腫れているのが分かる。
真奈美は目頭が熱くなり、泣きたいのを堪えながら優しく包み込む様にして子供を抱き寄せる。
無意識にスリスリしてくる子供に愛おしく感じる。


ロードとアランは、真奈美に声をかけられず。もう一つのベットで男2人で眠るのだった。

外から冷たい風が入り込んで来たが、ロードがそっと防風魔法をかけ、室内を暖かくしてくれた。そのおかげで、
サラマンデルの子供と真奈美、アランはいつのまにか寝てしまった様だ。


(さて、子供をどうするか。あの容姿では気づかれるよな、それに産まれたばかりだ。サラマンデルは魔力が強いし、火を属性に持つからこの環境は過酷だなーー急いだ方がいいな・・・)
1人危惧しながら考え込むロードであった。
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