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第2章

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甲冑を着た兵士達が整列する中を煌びやかな服装で颯爽と歩いている男がいた。
その先には立派な椅子に座り、怪訝な表情をしている国王。下には跪いている者がおり、重苦しい雰囲気が見て取れる。

その者の脇まで行き男は口を開いた。

「おやおや。誰かと思ったら、せっかく私が捕まえて来た魔人を逃し、高い魔力を持った者を見つけたから自分が蘇らせるとか大口を叩いていたリードリッヒではないか?今更、許しを請いに来たのか?はっ、元からお前には無理だったんだよ。早く魔人を見つけて来い!」
「ぐっ」
「言い返す事も出来ないのか?は~ぁ、父上。こんな情けないやつにあんな大役を任せなければ良かったんですよ。今からでも、全て私に任せて下さい!魔人もまた、見つけて来ますよ?」ニタリと下品に笑う男に貶されながらもリードリッヒは姿勢を崩さず、視線を下げたままでいる。

「そこまでにしなさい、リック。お前には違うことを頼んだではないか、あまり責めるでない。リードも我と視察に同行していたが故に起きてしまったのだ。魔人を逃したのは痛手ではある。それに関しては処罰を下そうーー北の地で、不穏な動きがあると耳に入った。それを調べ、我に報告せよ。」

リックと呼ばれた男は、リードリッヒの4つ上の兄になる。リック・ノル・シルヴィ第2王子である。


「!!」
「父上!それでは甘すぎます!」
「我が決めたのだ。ーーリードリッヒ。依存は無いな?」

「仰せのままに。」
「では、下がって良い。直ぐに出発せよ、必要な物は揃えてある」
「はい。では、失礼します」


ーーバタン。リードリッヒが部屋から出ると、リックはワナワナと顔を歪め、国王に異議申し立てをすべく声を荒げた。
「父上!あ奴に対しての処分は軽すぎます!なぜ、北の地になど行かせるのです?!魔人を見つけ出すのが先ではありませんか?!」

「黙れリック。口がすぎるぞ。」
国王の威圧した口調と、鋭い眼光にリックはグッと堪え  それ以上は押し黙ってしまった。
「我かて、軽過ぎるとは思っておらん。何故、北の地を調べさせるのかリックには分からんのか?魔人はどこからやって来たか分からんのか?」

「ーー魔人は、オルスレィで見つけ・・・」
「そうだ。オルスレィは北の地から、そう遠くない国。我は考えたのだ、北の地は極寒故、人が住める所では無い。だが、魔人はどうだ?人では無い故に住めるのでは無いか?今まで見つからなかったのは人が住めぬと思い違いをしているが故に見逃していたのでは無いかと。」
「!!さすがです!父上!私が見つけた魔人の他にいるかも知れないのですね!!では、私も同行しましょう!そうと決まれば、急がなければ。父上!失礼します!!」

バタバタと急ぎ足で部屋を出ていってしまった。誰かしらに指示を出している声が聞こえる。
「あっおい、ーーーまったく、リードと違いリックは人の話を最後まで聞かんのがダメだな。やれやれ、・・・他の情報を伝えられなかったではないか。ーーーー幻の天上人を見かけたと・・・本当にいるなら、この目で確かめなければ。ふっ、天上人の血は不治の病を治し長命になると聞くが、もしそれが本当ならためさずにはいられないよのーーーくっくっく」

国王は長く伸ばした白い髭をさすりながら、不敵な笑みを浮かべる。






リードリッヒは、極寒の地に行く為に入念に荷造りをしていた。
マジックアイテムの鞄には量が決まっている為、慎重に入れなければならない。また、同行する衛兵数名の食材なども積む為リードリッヒは自ら準備をするのであった。
マジックアイテムはそう易々と手に入りにくい為、皆の分を全ていれる事は難しい。リードリッヒが持っているマジックアイテムの鞄も数年前に見つけて以来、愛用している。



*****



荷台に積み、準備が終わった。
「では、行ってまいります。出発するぞ!!」

見送りに来た、国王と王妃に挨拶をするとリードリッヒは使い魔のロイを従え 衛兵達と出発した。



その後を追って「待ってくれ~~」大荷物を衛兵に持たせ、ギラギラと甲冑を身にまとうリックが馬に乗って、やって来た。
(兄上も行くのかーー・)
心の中で深いため息をつきながら、顔色を変えずにゆっくりと進む。
合流したリックは北の地を目指し 「さぁ!いざ、北の地へー!!」意気揚々と指揮を取るのであった。

戸惑うリードリッヒの衛兵達に「兄上も同行する様だ。よろしく頼む」っと、話すと皆 浮かない顔ではあるが、リックに着いていく。




「頼んだぞ」
心配そうに見守る国王を背に進んで行く一行であった。
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