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第二章
第31話 過激な彼女達
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「でも一体どういう事なの? この猿はなんなのよ?」
「アンタを巻き込んだ事は済まねぇと思ってるが、きっと冒険者としてプラスになるぜ。こういう経験をしておいて損はねぇからな。オレ達がここに来た目的も、この野郎をぶっ飛ばす為だからな」
ミャオは化け猿を指差して言う。
経験、と言われれば確かに必要かもだけど。
「いや、いらんわそんなの!」
「お前にゃ言ってねぇよ。言う必要も無くやって来ただろうが、ああ? 今更ビビッてんじゃねぇよタコ。情けない所はいつまでも変わんないな。黙って手を貸しゃあいいんだよ」
抗議の声を一蹴するミャオ、きっとこのやり取りはもうお決まりなのね。
でもオレ達がここに来た目的って……。
「あれ? ティターニって遭難してるとこを助けて貰ったんじゃ」
「ああ!!? ……そ、それはですねラゼクさん、私は人々の安寧を脅かす魔物を征伐するというミャオさんの崇高な目的に感激してお手伝いをしているというわけでありまして!」
「え? あ、ああそうだよ」
何かこの二人いまいち連携が取れてないような。同じ目的のはずよね?
そんな疑問を余所に未だ抗議の声を上げるエル。
「大体だなミャオ、なんで俺には謝らないんだよ? あるだろ? 巻き込んですいませんでした。心の底から謝罪しますエレトレッダ様ってよぉ!?」
「あ? 別にオレ達にとっちゃいつも通りだろ? お前相手にいちいち謝ってなんかいられるかよ」
喧嘩する程なんとやら、とでも言うべきか。エルってば仲間に恵まれてるわね。
もう追い出されちゃってるけど。
そこまで言われて流石に覚悟を決めたのか、エルは目の前の化け猿をしっかりと睨みつける。
……ちょっと腰が引けてるようにも見えるけど。
その化け猿。背丈はやっぱり人間の大人程、そして体毛は一切なく皮膚は赤黒い色をしていた。
その瞳孔は人間のそれとは違い真っ黒な穴のように虚ろ。口の部分は大きく裂かれていて、鋭い牙がよく見える。
「やっぱ怖えよぉ……。マジもんのバケモンじゃねえか。もっとこうさ、モンスターらしい愛嬌というものを」
「言ったって仕方ないかと……」
フォローに入るティターニ。こうして対峙してしまった以上、もう泣き言は言えないのも事実。
そりゃあ、気持ちもちょっと分かるけど。こればかりは、ね。
なんて考えている間、化け猿は大人しくしているはずもなく再び襲い……。
「甘いぜエテ公!」
襲いかかろうとして、右手にトンファーを持ったミャオに鳩尾をぶん殴られて吹き飛んでいく。
「うっそぉ!? やるじゃないあの子!」
これはビックリ。あの小さな体からちょっと考えられないくらいの吹き飛び方だ。
パワーで押してる、というより攻撃を当てるテクニックが優れてる感じ。この子かなりのやり手だわ。
パーティの切り込み役、なのかな? 両腕のトンファーを使った武術、見事。
しかし喜んだのも束の間、あの化け猿はまるで何事もなかったかのように立ち上がっては、またケタケタと笑っていた。
「テんメェしくじりやがったなミャオ!」
「馬鹿言え! あの野郎、インパクトの瞬間に体をのけぞらせやがった。大した猿知恵だぜ」
なんですって? 図体が大きいだけあって脳みそもって事? 冗談じゃないわ。
「私も加勢致します。サポートはお任せを!」
「仕方ないわね。私も時間を掛けたく無いから、飛ばしていくわよ!」
ここはすかさずの加勢が必要だ。そうティターニも思っていたのか、攻撃の態勢を引き締めていた。
でも――まずは私からね!
懐から苦無を取り出し、それを両腕の指の間に挟む。
「そらぁ!」
気合いと共に、両手の八本の苦無を同時に放つ!
飛んでくる苦無をいくつか叩き落とす化け猿、それでも何本かは体を掠めてしまう。
ふっ、避ける選択をしなかった……それがアンタの運の尽きよ!
それがどうしたと言わんばかりに、元気に跳ね回り撹乱しながら攻撃を仕掛けてくる。
でもその動き、段々鈍って来ているのが目に見えてわかるわ!
「ラゼクさん、今のは一体?」
「お手製の神経毒を塗ってあるのよ。動けば動くほど苦しくなるわ」
「な、なるほど。…………この子、結構恐ろしい手を使うんだな」
ティターニがボソッと何か言ってるけど、きっと私の手管に驚いてるのね。ふふん。
化け猿が苦しみ始めた途端に攻撃の手が緩んでしまう。なんせ”それなりに”強力な薬を使ったのだから当然。
……問題があるとすれば、また調合の為に素材を集め直さないといけない事だけど。でも今はちょっとだけ余裕があるから大丈夫! うん、きっと。
「では私も続かせて頂きます!!」
今度はティターニが何かするみたいだ。思えば彼女が何を出来るかよく知らない、ここは確かめ時かも?
ティターニは化け猿へと勢い良く駆け出して行った。
そしてそのまま跳躍すると、空中で一回転してその勢いのまま踵落としを喰らわせる。
「とりゃあ!!」
ドゴォッ! という鈍い音と共に地面が陥没するほどの一撃だ。
それでも化け猿はまだピンピンしている。
「え、えぇ……?」
これには流石にビックリ。彼女ってパワーファイターなのね。
「あ、あんなアグレッシブだったのか。いいとこのお嬢さんの見た目して。け、結構やるじゃないのさ」
「おいエル、感心してる場合じゃねえぞ。見ろ、アイツがこっちを見てやがる」
「え?」
見れば確かにあの化け猿はこちらをジッと見つめていた。
そして次の瞬間には、なんと口から火球を吐き出してきた!
「うえっ!?」
慌てて避けるも、余波を受けるエル。
「あっつッ!!?」
私はなんとか避けたけど、あんなの喰らったらひとたまりもないわ……。
それにさっきより動きが鈍っているとはいえ、まだ十分な力はあるみたいだ。油断できない相手ね……!
仕掛けるチャンスを見分けないと……。
「アンタを巻き込んだ事は済まねぇと思ってるが、きっと冒険者としてプラスになるぜ。こういう経験をしておいて損はねぇからな。オレ達がここに来た目的も、この野郎をぶっ飛ばす為だからな」
ミャオは化け猿を指差して言う。
経験、と言われれば確かに必要かもだけど。
「いや、いらんわそんなの!」
「お前にゃ言ってねぇよ。言う必要も無くやって来ただろうが、ああ? 今更ビビッてんじゃねぇよタコ。情けない所はいつまでも変わんないな。黙って手を貸しゃあいいんだよ」
抗議の声を一蹴するミャオ、きっとこのやり取りはもうお決まりなのね。
でもオレ達がここに来た目的って……。
「あれ? ティターニって遭難してるとこを助けて貰ったんじゃ」
「ああ!!? ……そ、それはですねラゼクさん、私は人々の安寧を脅かす魔物を征伐するというミャオさんの崇高な目的に感激してお手伝いをしているというわけでありまして!」
「え? あ、ああそうだよ」
何かこの二人いまいち連携が取れてないような。同じ目的のはずよね?
そんな疑問を余所に未だ抗議の声を上げるエル。
「大体だなミャオ、なんで俺には謝らないんだよ? あるだろ? 巻き込んですいませんでした。心の底から謝罪しますエレトレッダ様ってよぉ!?」
「あ? 別にオレ達にとっちゃいつも通りだろ? お前相手にいちいち謝ってなんかいられるかよ」
喧嘩する程なんとやら、とでも言うべきか。エルってば仲間に恵まれてるわね。
もう追い出されちゃってるけど。
そこまで言われて流石に覚悟を決めたのか、エルは目の前の化け猿をしっかりと睨みつける。
……ちょっと腰が引けてるようにも見えるけど。
その化け猿。背丈はやっぱり人間の大人程、そして体毛は一切なく皮膚は赤黒い色をしていた。
その瞳孔は人間のそれとは違い真っ黒な穴のように虚ろ。口の部分は大きく裂かれていて、鋭い牙がよく見える。
「やっぱ怖えよぉ……。マジもんのバケモンじゃねえか。もっとこうさ、モンスターらしい愛嬌というものを」
「言ったって仕方ないかと……」
フォローに入るティターニ。こうして対峙してしまった以上、もう泣き言は言えないのも事実。
そりゃあ、気持ちもちょっと分かるけど。こればかりは、ね。
なんて考えている間、化け猿は大人しくしているはずもなく再び襲い……。
「甘いぜエテ公!」
襲いかかろうとして、右手にトンファーを持ったミャオに鳩尾をぶん殴られて吹き飛んでいく。
「うっそぉ!? やるじゃないあの子!」
これはビックリ。あの小さな体からちょっと考えられないくらいの吹き飛び方だ。
パワーで押してる、というより攻撃を当てるテクニックが優れてる感じ。この子かなりのやり手だわ。
パーティの切り込み役、なのかな? 両腕のトンファーを使った武術、見事。
しかし喜んだのも束の間、あの化け猿はまるで何事もなかったかのように立ち上がっては、またケタケタと笑っていた。
「テんメェしくじりやがったなミャオ!」
「馬鹿言え! あの野郎、インパクトの瞬間に体をのけぞらせやがった。大した猿知恵だぜ」
なんですって? 図体が大きいだけあって脳みそもって事? 冗談じゃないわ。
「私も加勢致します。サポートはお任せを!」
「仕方ないわね。私も時間を掛けたく無いから、飛ばしていくわよ!」
ここはすかさずの加勢が必要だ。そうティターニも思っていたのか、攻撃の態勢を引き締めていた。
でも――まずは私からね!
懐から苦無を取り出し、それを両腕の指の間に挟む。
「そらぁ!」
気合いと共に、両手の八本の苦無を同時に放つ!
飛んでくる苦無をいくつか叩き落とす化け猿、それでも何本かは体を掠めてしまう。
ふっ、避ける選択をしなかった……それがアンタの運の尽きよ!
それがどうしたと言わんばかりに、元気に跳ね回り撹乱しながら攻撃を仕掛けてくる。
でもその動き、段々鈍って来ているのが目に見えてわかるわ!
「ラゼクさん、今のは一体?」
「お手製の神経毒を塗ってあるのよ。動けば動くほど苦しくなるわ」
「な、なるほど。…………この子、結構恐ろしい手を使うんだな」
ティターニがボソッと何か言ってるけど、きっと私の手管に驚いてるのね。ふふん。
化け猿が苦しみ始めた途端に攻撃の手が緩んでしまう。なんせ”それなりに”強力な薬を使ったのだから当然。
……問題があるとすれば、また調合の為に素材を集め直さないといけない事だけど。でも今はちょっとだけ余裕があるから大丈夫! うん、きっと。
「では私も続かせて頂きます!!」
今度はティターニが何かするみたいだ。思えば彼女が何を出来るかよく知らない、ここは確かめ時かも?
ティターニは化け猿へと勢い良く駆け出して行った。
そしてそのまま跳躍すると、空中で一回転してその勢いのまま踵落としを喰らわせる。
「とりゃあ!!」
ドゴォッ! という鈍い音と共に地面が陥没するほどの一撃だ。
それでも化け猿はまだピンピンしている。
「え、えぇ……?」
これには流石にビックリ。彼女ってパワーファイターなのね。
「あ、あんなアグレッシブだったのか。いいとこのお嬢さんの見た目して。け、結構やるじゃないのさ」
「おいエル、感心してる場合じゃねえぞ。見ろ、アイツがこっちを見てやがる」
「え?」
見れば確かにあの化け猿はこちらをジッと見つめていた。
そして次の瞬間には、なんと口から火球を吐き出してきた!
「うえっ!?」
慌てて避けるも、余波を受けるエル。
「あっつッ!!?」
私はなんとか避けたけど、あんなの喰らったらひとたまりもないわ……。
それにさっきより動きが鈍っているとはいえ、まだ十分な力はあるみたいだ。油断できない相手ね……!
仕掛けるチャンスを見分けないと……。
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