身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

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第二章

第30話 図らずも戦闘開始

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「い、いやぁ。いくら俺が色男でも、いきなりのデートのお誘いに乗るとは限らないわけで……。というわけでこれにて」

「ああん? オレ程の美少女が付き合えって言ってんだぜ? デートしようぜ、なぁ?」

 戦慄するエル、その直感が全力で鐘を鳴らす。

 今すぐ離れろ、面倒事が向こうからやって来たぞ。

 ……といったところかしら。エルが拒絶する理由はいくつもあるでしょうけど、それを元仲間が把握してないはずがない。きっとこれから何かコイツの嫌がる事が起こるんだわ。

 ミャオに腕をガシっと掴まれ逃げる事はもう無理なようだけど。

「ちょっと趣味じゃないっていうか。へ、へへ。もっと出るトコ出て来るようになってから誘ってくれよ」

「もしかしたらさっきお前が言ったみてぇに今日明日で育つかもしれねぇだろ? 付き合え」

「夢は寝てから見てくれよな、頼むからよ!?」

「お前の魂胆が読めねぇとでも思ったか? オレを怒らせて有耶無耶にしようってんなら諦めろ」

「嫌! 俺は嫌だ!! このまま暖かいベットに潜って朝までぐっすり眠るんだ! ……離せ、おい離せよ!?」

 でも流石に強引かもだし、話を聞く為にもここは止めに入ろう。

「ちょっと何してんのよ二人とも?」

「あ、そうだ。ラゼクさ、オレたちと一緒に外に出ないか? 面白いもんが見れるかもしれねぇぜ?」

「面白いもの? でも、もう辺り暗くなってきたわよ」

「この時間じゃなきゃだめなのさ。なぁに、そう遠くまで出歩くわけじゃねぇよ」

 どうやら驚かせる目的もあるらしい。これはついて行かないと分からないかも。

 嫌がるエルの目を見る。

 じょ、冗談じゃねぇ!

 そうこっちに向けて目で訴えてる。助けて欲しいんでしょうけども。
 う~ん……。 

「まあそうねぇ、ちょっと食後の運動程度に外を歩いてみるのも悪くないわね」

 その顔が驚愕の色に染まるエル。

 この裏切り者め! よくも俺の信頼を裏切ったな!

 とか思ってるんでしょうけど、ちょっとそのサプライズも気になるし。ここは乗りましょう。
 ミャオがどういう子か知るいい機会でもあるのだしね。

「よし! じゃあまず装備整えに行こうぜ。おら何うなだれてんだよエル? とっとと客間まで行くぞ」

「あ、皆さん私も行きます! 待って下さーい!」

 後ろからやってきたティターニもそう叫んでる。
 さてエル? 三対一よ、諦めなさいな。

「現実というものはいつも残酷だ。だってさ? 俺は一歩も足を動かしたくないのに、そのまま引きずられて強制的に移動してるんだぜ? 俺の意思なんて関係なしにさ」

 そりゃあもう、絶望しかないのよね。 って? 
 ……そう項垂れないの。


 ◇◇◇


 駄々をこねても無視して、客間で無理やりにエルに剣を持たせ、ミャオに腕を掴ませたままずるずると村の中央へと連れて行く。

 そんな往生際の悪い男を引き連れてやってきたけど……。
 そこは辺りの暗さもあってか、妙に不気味な場所で、たくさんの花に囲まれた真ん中にあったのは………………石碑?

「これが面白いものなの? 確かに他に目立つものなんてこの村にはなさそうだけど……」

 当然、そういう疑問は口にする。
 それに対しミャオ。

「あぁ。ま、こいつは前座みたいなもんさ。ティリ……ティターニはもう知ってるが、ちょっとした時間つぶしに読んでみたらどうだ?」

 読む? 一体何を?
 そう思ってその石碑を見つめてみる。すると書かれてあったものは……。

「名前、かしら? いくつもあるわね」

「名前ねぇ……。ん? いくつも? ま、まさか!?」

 ここで何かピンと来た、かもしれないエル。はてさて。

(まさか、こいつに書かれているのはこの村の住人の名前か? ということはここは共同墓地か!? な、なんてとこに連れてきやがったんだ!!?)

「ミャオ! て、テメェよくもこんな時間にこんな所に連れてきてくれたな!! テメェの高尚な趣味には付き合いきれねえぜ、俺は帰らせてもらう!!」

「は? 何言ってんだお前? それよりも感じねぇか。すぐそこまで……。それ見ろ! 来てるぜ!!」

「構えて下さいお二人共!!」

 急に何かに怯えて怒鳴るエル。どんな妄想をしたか知らないけど、ミャオの様子だと違うのかも。
 
 それはともかく、ミャオは呆れた目線でエルのことを見ていたと思えば、突然ティターニと二人して気を付けるように言い放って近くの空き家の屋根を指差した。

 一体何が?

 指差した先に目線を向けると………………な、何か蠢いてる?

「何あれ? ……猿? でも妙に大きいような」

 そう、よく見たらそれは猿のシルエット。けれど一般的な猿に比べて明らかに大きい。まるで人間の大人のようにも見える。

 瞬間、ゾクっと。頭から背筋から指先から、全身から全身へと。危険が駆け巡っていく。


「クケケケッ」

「ひぃ!? こ、これはヤバイやつだ。コイツ、こっちを見て笑ってやがる!?」


 怯えた声を上げるエル。確かにこれはヤバい、本能的にわかる。
 汗が額からツツと落ちるのを感じる。息を吐くのも忘れそうな危機感だ。

「い、いや~、今日はホント面白かったな。ありがとよミャオ! おかげで楽しませてもらったぜ。じゃ俺明日も早いからこれで」

「お、逃げんじゃねえよ。きっちり最後に楽しんでいけって、どうせ逃がしちゃくれねぇんだからよ」

 一人だけ、いつの間にかじりじりと後退していたエル。そんな動きを察知したのかミャオがその背後に立っていた。
 流石は元パーティメンバー、アイツの動きを熟知してるわ。

「い、嫌だァ!! お、俺は帰るんだ!! 五体満足で無事に戻って、お胸のおっきい未来の奥さんを探しに行くんだ!! 帰らせてくれェッ!!!」

 ……にしても情けない叫びね。欲望丸出しで妄言を吐いてる様には冒険者の先輩としての威厳は見えない。
 いや、元々そんなもの見た事もないけど。

 そしてそんな叫びも虚しく、あの巨大な猿は私達めがけて飛びかかってきた。
 慌てず散開して避ける私達三人と悲鳴を上げながら必死顔で避けるエル。

 誘われた時は夜の帳を鮮やかに舞い散る花びら、を仄かに期待してもいたけど……流石に無かったか。

 その化け猿は爪を尖らせながらケタケタと笑っていた。

 エルじゃないけど、本当に気味が悪いわね。

「気味が悪いよぉ……!」

「おら、いつまで情けない事言ってんだ。とっとと構えろよ」
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