身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

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第二章

第29話 波乱の予感

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 食堂に通された私達。
 流石に貴族が使うだけあって、豪華とまでは行かなくても、ピープルの暮らしとは比べ物にならないくらい綺麗。

「席は好きに座って頂戴」

 テーブル真ん中の上座に座るゼイルーグ様。それから私とミャオが向かい合い、エルはミャオの隣に腰掛ける。
 ティターニはエルの前にニコニコ顔で座っていた。そんなに料理が楽しみなのかな?

 この屋敷には使用人がいない為か、すでにテーブルには飯が並べられている。ゼイルーグ様が一人で作り、そして並べる。いつもそうしてきたんでしょうね。お貴族なのに。
 そういや位は何だったんだろうか? ……ま、いいかそんなこと。辺に詮索するのも失礼よね。

「わあ、美味しそう。これをゼイルーグ様御一人で作られたんですね」

「ま、他に何も無い村だから。趣味として磨くにはうってつけだったというだけよ」

 私の質問に、こともなげに答えてくれる。
 料理が趣味の貴族のお姉様なんて完璧じゃない。見習いたいわ。

 テーブルに並べられていたのは、ここの村で採れた野菜を使ったであろうものが中心。肉類は、見当たらない。
 ヘルシーな感じで私は嫌いじゃないけど、エルには残念な話かもね。

 う~ん美味しそう!

「ちょ、ちょっとラゼクさん!? くすぐったいのですが」

「あ、あら? ごめんなさい私ったら。おほほ……」

 いつの間にか尻尾が思いっきり揺れてたみたい。はしたないはしたない、気をつけなきゃ。
 私は猫の獣人で犬じゃないんだから。

 ティターニにも悪い事したわ。注意されちゃった。
 ……あ、エルのヤツ。こっち見てニヤついてるわ。いい気味だとか思ってるんでしょうね、まったく。

 でもそれを置いといて。
 このポトフは確かに美味そう。それにこのキノコのソテー、これも美味そうだわ。ちょっとこれは初めて見たレベル。このサラダも見た目がフレッシュにシャキシャキ感が目に見える。こっちのパンもいい匂い。

「このパン手作りなのか?」

「野菜の他に小麦も育てているわ。誰に教わったというわけでも無いから、味の保証は出来ないけれど」

「いやそんな事ねぇよ姉ちゃん。オレもうお腹ペコペコだぜ」

 垂らしてもいないが涎が見えるようなミャオの言葉にゼイルーグ様も満足げに頷く。
 
 くぅ~。

 エルも腹が鳴ってるわ。

「さて、食事を前にいつもでも話すものじゃないわね。では頂きましょうか」

「「いっただっきまーす!」」

「いただきますわ」

「……いただきます」

 言うが早いが、エルは真っ先にサラダにフォークを突き立てた。もう品ってのが無いわね。

 でも、確かにこのシャキシャキとした歯ごたえが心地良い。ドレッシングも絶品。

 次にパンを一切れ。仄かに香ばしい香りが鼻腔を刺激し、食欲を刺激する。パンは少し固めだけど、それが逆にいいアクセントになっている。

 キノコのソテーも肉厚な上に味もしっかり染みていて、最高。

 それにこのポトフ! う~んジャガイモがホッコホコ。

「おいミャオ、もっと食えよ。ほら俺のブロッコリーやるからさ。こういうのも食っていけば、二年後あたりにはきっと背も胸もデカいグラマラスボディーの出来上がりだぜ」

「そう言えばオレがお前の嫌いな物食うと思ってんのか? 馬鹿にすんじゃねえぞ」

「何言ってんだ、人がせっかく親切で言ってやってるってのに。ほら遠慮せずに食え食え」

「ばっ!? 勝手に人の皿に入れるんじゃねえ!」

「ちょっと何やってんのよエル!」

「も、申し訳ございませんゼイルーグ様。私共の連れが騒がしくしてしまいまして」

「気にしないで、静かすぎるよりは余程いいわ。久しぶりに人の声が聞こえる晩餐だし、ね」

 騒がしい男のせいでちょっと恥ずかしい思いしてしまったけど、とても美味しい晩餐だった。
 食後のコーヒーまで入れて下さって、本当に感謝。ふぅ~。

「グエッ。……おっとゲップまで出ちまった」

 余韻が台無し。

「失礼でしょうが! 重ね重ね申し訳ありませんゼイルーグ様。……それにしてもこの村って貴方様の他に誰が住んでいらっしゃるのですか?」

 話題を変えるべく質問。
 実のところずっと気になってた。いくら何でもこの村は静かすぎるのよ。まるで他に人がいないかのよう。……まさかね。

「流石にもう気づいているかもしれないけれど、この村には私しかいないわ。久しぶりに見た人間が貴方達、ということになるわね」

 それを聞いていたティターニが後に続いた。

「やはりそうだったのですね。それで一体いつ頃から?」

「私が生まれて直ぐくらいかしら? みんな、この村から去って行ったわ。祖父も亡くなって私が最後の住民。でもそれも仕方がないわ、この村には後が無い。元々未完成の村だったのだから、その結末は決まっていたようなものね」

 たしか国の政策のゴタゴタで開拓が止まって、それから放置されっぱなし。だったかしら?
 お偉い方の頭の中にはもう、この村の事自体無いんでしょうね。

 ロクに道も出来ずに朽ちるだけの村か……。

「昔はこの辺り一体が私の家の領地だった。けれど、立憲君主制の成立に伴い国に土地を持っていかれたと思えば、数年後に祖父が開拓計画の責任者に任命。村の管理も任されたのだけれど。……いや、もう思うところは無いんだけどね。所詮は全て、私の生まれる前の話な訳だから」

「……随分と苦労をなされたようですね、私ではその心中をお察しすることもできませんわ」

「言った通りよ、もう思うところはないわ。そうね、でも……それでも一つ上げるなら……村の完成を祖父と見たかったわ」

 世知辛い話ね。何もこんな最後の一人になるまで放っておくこともないでしょうに、国も。

「この村ってね、ここから反対側にあった村の住民の為に出来るはずだったのよ。その村は鉄砲水で削り取られ、無くなったわ。今はそこにダムが出来てる。けれど結局生き残りの為の村も、何度かの政権の移り変わりの間に有耶無耶にされてしまって、中腹の村を拡充して町とする事で実質解決してしまった」

「なんかひでぇ話だな。だったら最初っからそうすりゃよかったのに、そうすりゃ姉ちゃんだって……」

 ミャオはこの話を聞いて憤りを感じたみたい。でも気持ちはわかる。

 なんだかすっかりしんみりしちゃったわね。

「……そういやこの部屋明かりが灯ってますけど、電気は通って無かったんじゃ?」

 それを感じたのか、エルはこの空気をどうにかするべく話題を変えたようね。
 なんだ、結構やるじゃない。

「ああ、地下に発電機があるの。それでこの屋敷だけは使えるようにしているのよ。そこから電気を通してラジオも聞けるから、こう見えてそれほど世間ずれはしていない。と、思ってはいるわ」

「へえ……。それなら新聞が届かなくても大丈夫か」



 そんな風な話をして時間は過ぎ、鍵を借りてさあ空き家に。

 ……ってなるはずだったのだけど。

「おい、お前。この後時間あるか? あるよな。行こうぜ」

「えぇ……」

 何故かミャオがエルの前に立ちふさがってきた。
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