身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
29 / 33
第二章

第29話 波乱の予感

しおりを挟む
 食堂に通された私達。
 流石に貴族が使うだけあって、豪華とまでは行かなくても、ピープルの暮らしとは比べ物にならないくらい綺麗。

「席は好きに座って頂戴」

 テーブル真ん中の上座に座るゼイルーグ様。それから私とミャオが向かい合い、エルはミャオの隣に腰掛ける。
 ティターニはエルの前にニコニコ顔で座っていた。そんなに料理が楽しみなのかな?

 この屋敷には使用人がいない為か、すでにテーブルには飯が並べられている。ゼイルーグ様が一人で作り、そして並べる。いつもそうしてきたんでしょうね。お貴族なのに。
 そういや位は何だったんだろうか? ……ま、いいかそんなこと。辺に詮索するのも失礼よね。

「わあ、美味しそう。これをゼイルーグ様御一人で作られたんですね」

「ま、他に何も無い村だから。趣味として磨くにはうってつけだったというだけよ」

 私の質問に、こともなげに答えてくれる。
 料理が趣味の貴族のお姉様なんて完璧じゃない。見習いたいわ。

 テーブルに並べられていたのは、ここの村で採れた野菜を使ったであろうものが中心。肉類は、見当たらない。
 ヘルシーな感じで私は嫌いじゃないけど、エルには残念な話かもね。

 う~ん美味しそう!

「ちょ、ちょっとラゼクさん!? くすぐったいのですが」

「あ、あら? ごめんなさい私ったら。おほほ……」

 いつの間にか尻尾が思いっきり揺れてたみたい。はしたないはしたない、気をつけなきゃ。
 私は猫の獣人で犬じゃないんだから。

 ティターニにも悪い事したわ。注意されちゃった。
 ……あ、エルのヤツ。こっち見てニヤついてるわ。いい気味だとか思ってるんでしょうね、まったく。

 でもそれを置いといて。
 このポトフは確かに美味そう。それにこのキノコのソテー、これも美味そうだわ。ちょっとこれは初めて見たレベル。このサラダも見た目がフレッシュにシャキシャキ感が目に見える。こっちのパンもいい匂い。

「このパン手作りなのか?」

「野菜の他に小麦も育てているわ。誰に教わったというわけでも無いから、味の保証は出来ないけれど」

「いやそんな事ねぇよ姉ちゃん。オレもうお腹ペコペコだぜ」

 垂らしてもいないが涎が見えるようなミャオの言葉にゼイルーグ様も満足げに頷く。
 
 くぅ~。

 エルも腹が鳴ってるわ。

「さて、食事を前にいつもでも話すものじゃないわね。では頂きましょうか」

「「いっただっきまーす!」」

「いただきますわ」

「……いただきます」

 言うが早いが、エルは真っ先にサラダにフォークを突き立てた。もう品ってのが無いわね。

 でも、確かにこのシャキシャキとした歯ごたえが心地良い。ドレッシングも絶品。

 次にパンを一切れ。仄かに香ばしい香りが鼻腔を刺激し、食欲を刺激する。パンは少し固めだけど、それが逆にいいアクセントになっている。

 キノコのソテーも肉厚な上に味もしっかり染みていて、最高。

 それにこのポトフ! う~んジャガイモがホッコホコ。

「おいミャオ、もっと食えよ。ほら俺のブロッコリーやるからさ。こういうのも食っていけば、二年後あたりにはきっと背も胸もデカいグラマラスボディーの出来上がりだぜ」

「そう言えばオレがお前の嫌いな物食うと思ってんのか? 馬鹿にすんじゃねえぞ」

「何言ってんだ、人がせっかく親切で言ってやってるってのに。ほら遠慮せずに食え食え」

「ばっ!? 勝手に人の皿に入れるんじゃねえ!」

「ちょっと何やってんのよエル!」

「も、申し訳ございませんゼイルーグ様。私共の連れが騒がしくしてしまいまして」

「気にしないで、静かすぎるよりは余程いいわ。久しぶりに人の声が聞こえる晩餐だし、ね」

 騒がしい男のせいでちょっと恥ずかしい思いしてしまったけど、とても美味しい晩餐だった。
 食後のコーヒーまで入れて下さって、本当に感謝。ふぅ~。

「グエッ。……おっとゲップまで出ちまった」

 余韻が台無し。

「失礼でしょうが! 重ね重ね申し訳ありませんゼイルーグ様。……それにしてもこの村って貴方様の他に誰が住んでいらっしゃるのですか?」

 話題を変えるべく質問。
 実のところずっと気になってた。いくら何でもこの村は静かすぎるのよ。まるで他に人がいないかのよう。……まさかね。

「流石にもう気づいているかもしれないけれど、この村には私しかいないわ。久しぶりに見た人間が貴方達、ということになるわね」

 それを聞いていたティターニが後に続いた。

「やはりそうだったのですね。それで一体いつ頃から?」

「私が生まれて直ぐくらいかしら? みんな、この村から去って行ったわ。祖父も亡くなって私が最後の住民。でもそれも仕方がないわ、この村には後が無い。元々未完成の村だったのだから、その結末は決まっていたようなものね」

 たしか国の政策のゴタゴタで開拓が止まって、それから放置されっぱなし。だったかしら?
 お偉い方の頭の中にはもう、この村の事自体無いんでしょうね。

 ロクに道も出来ずに朽ちるだけの村か……。

「昔はこの辺り一体が私の家の領地だった。けれど、立憲君主制の成立に伴い国に土地を持っていかれたと思えば、数年後に祖父が開拓計画の責任者に任命。村の管理も任されたのだけれど。……いや、もう思うところは無いんだけどね。所詮は全て、私の生まれる前の話な訳だから」

「……随分と苦労をなされたようですね、私ではその心中をお察しすることもできませんわ」

「言った通りよ、もう思うところはないわ。そうね、でも……それでも一つ上げるなら……村の完成を祖父と見たかったわ」

 世知辛い話ね。何もこんな最後の一人になるまで放っておくこともないでしょうに、国も。

「この村ってね、ここから反対側にあった村の住民の為に出来るはずだったのよ。その村は鉄砲水で削り取られ、無くなったわ。今はそこにダムが出来てる。けれど結局生き残りの為の村も、何度かの政権の移り変わりの間に有耶無耶にされてしまって、中腹の村を拡充して町とする事で実質解決してしまった」

「なんかひでぇ話だな。だったら最初っからそうすりゃよかったのに、そうすりゃ姉ちゃんだって……」

 ミャオはこの話を聞いて憤りを感じたみたい。でも気持ちはわかる。

 なんだかすっかりしんみりしちゃったわね。

「……そういやこの部屋明かりが灯ってますけど、電気は通って無かったんじゃ?」

 それを感じたのか、エルはこの空気をどうにかするべく話題を変えたようね。
 なんだ、結構やるじゃない。

「ああ、地下に発電機があるの。それでこの屋敷だけは使えるようにしているのよ。そこから電気を通してラジオも聞けるから、こう見えてそれほど世間ずれはしていない。と、思ってはいるわ」

「へえ……。それなら新聞が届かなくても大丈夫か」



 そんな風な話をして時間は過ぎ、鍵を借りてさあ空き家に。

 ……ってなるはずだったのだけど。

「おい、お前。この後時間あるか? あるよな。行こうぜ」

「えぇ……」

 何故かミャオがエルの前に立ちふさがってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...