26 / 33
第二章
第26話 再開の獣
しおりを挟む
その女性は人目でわかるほど、上品な身形で妙齢の女性だった。
美しい顔立ちと切れ長の瞳、何よりちょっと……………豊満な胸部が特徴というか。いや、別に思う所なんてないけどね。
つまる所、かなりの美人さんがそこに居た。ほとんど幽霊村とかしてるような場所にはミスマッチだ。
そんな美女だからこそ、クラクラと来たアホが飛びつくが如くイキイキとし始めたので、間違いが起こる前にその服を思い切って引っ張って止める。
襟が首元に食い込んだみたいだけどこれも仕方ない。
「ぐええッ、て! お前何すんだよ!」
「それはこっちのセリフでしょうが! アンタこんな所まで来て何ナンパなんてしてんのよ!」
「こんな所だろうがどんな所だろうが、美女を見ればお近づきになるのが紳士たる振る舞いだろうが怪力女!」
「誰が怪力女よ! アンタのその変態行為に見ず知らずの人間を巻き込むんじゃない! 話が拗れるからちょっと向こう行ってなさいよ!」
「何言ってんだ。こんな山奥で見ず知らずの美男美女が出会ったなら、それはもう運命だ。ここで引いたら男じゃないんだよ!!」
「知らないわよそんなの。もう怒った! ……このっ!!」
「わ!? 何すんだ?! ……あああああ!!?」
訳の分からない妄言を垂れ流すアホを持ち上げられた私は、そのまま背負い投げで遠くに投げ飛ばす。
ふぅ、これでしばらくは大人しくなるでしょう。地面とキスでもしてなさいな。
「ふぅ……。いきなりやってきて何がしたかったの貴女達? 悪いけど、こんな寂れしかない村じゃ笑ってくれる人間なんて居ないわよ」
あ、ヤバ。これじゃあ不審者だわ私達。ここは急いで説明しないと。
「いえ私達は漫才コンビというわけでは無くてですね。……届け物の依頼を受けてこちらに参上致しました。それで、アナタが受取人の、あぁ……『ゼイルーグ』さん。で合ってますか?」
書類に書かれている名前を確かめ、恐る恐る訪ねてみた。
「ええ、確かに私がその『ゼイルーグ』よ。でも、こんな場所にわざわざ届ける物があるなんてね。依頼主は余程の酔狂者ね」
「いや……その点についてはどうともお答えは出来ませんが。私達も直接会った訳でも無いので。取り敢えず受け取って頂けますか?」
「ええ、もちろん」
返事を頂いて、背負っていたリュックをおろして中から荷物の箱を取り出す。
ついでに受け取りのサインも貰わなくちゃ。
「はい、では受け取りの程宜しくお願いします。あ、サインはこっちの紙に」
普段あまり出さないような余所行きの声。自分でもちょっと作り込んだ感はあるけど、ここは丁寧な対応を心掛けないと。
ただでさえどっかの馬鹿のせいで悪印象を与えちゃったかもなんだしね。
「……これでよろしいかしら?」
「はい確かに。これで私達の依頼は完了なんですけども、宿代わりのお家を貸して頂けますでしょうか? 書類にもそこで泊まるように書いてありまして……」
「ええ。空き家なら好きに使っていいわよ、どうせ誰も住んで居ないから。中は掃除が必要でしょうけどもね。私の家に鍵があるから上がってもらえるかしら。ここまでやって来たんだし食事も出しましょう、私の古臭い田舎料理で良いのなら」
「いえいえ! 頂けるのならそれだけで不満なんてあるワケありませんわ! ねぇ、エル?」
朗らかな笑顔でエルの方を向く。
でもこの笑顔、その裏には意味があるのだ。
見える、エル?
この瞳の奥に、今度余計な事を言ったらどうなるかわかってんだろうなァ? という脅しの炎を。
「……へいへい、美女の手料理が食べられるんなら文句はございませんよ~だ」
うんうん、わかってくれたみたいね。いつもそのくらい素直ならなおよしなのよ。
「じゃあ決まりね。……でも、今日は本当に賑やかなものね。何年ぶりかしら」
どういう意味かしら? この村に人が居ないから思った、という感じでも無さそうだし。
……考えても仕方ないか。
「さあ、入って」
「お邪魔しますわゼイルーグ様。エル、貴方も早くなさいな」
「…………お邪魔しまーす」
もう不貞腐れちゃって、自業自得でしょうにね。
そんなエルを伴い、屋敷の門を潜るのだった。
「ん?」
エルが庭の方を見て何かを発見したみたい。
「どうしたのよ?」
「いやあのイタチ……」
「ああ。やっぱりこの村で可愛がられていた子だったのね」
門を潜りって玄関へと向かう途中、庭に見覚えのあるイタチがこっちを見ていた。
山の中で会った人懐っこいあの子。確かにエルの予想通り人間に可愛がられているイタチらしい。
あのイタチは、まるで歓迎するように玄関に入っていく私達を見送っていた。ように見えた。
美しい顔立ちと切れ長の瞳、何よりちょっと……………豊満な胸部が特徴というか。いや、別に思う所なんてないけどね。
つまる所、かなりの美人さんがそこに居た。ほとんど幽霊村とかしてるような場所にはミスマッチだ。
そんな美女だからこそ、クラクラと来たアホが飛びつくが如くイキイキとし始めたので、間違いが起こる前にその服を思い切って引っ張って止める。
襟が首元に食い込んだみたいだけどこれも仕方ない。
「ぐええッ、て! お前何すんだよ!」
「それはこっちのセリフでしょうが! アンタこんな所まで来て何ナンパなんてしてんのよ!」
「こんな所だろうがどんな所だろうが、美女を見ればお近づきになるのが紳士たる振る舞いだろうが怪力女!」
「誰が怪力女よ! アンタのその変態行為に見ず知らずの人間を巻き込むんじゃない! 話が拗れるからちょっと向こう行ってなさいよ!」
「何言ってんだ。こんな山奥で見ず知らずの美男美女が出会ったなら、それはもう運命だ。ここで引いたら男じゃないんだよ!!」
「知らないわよそんなの。もう怒った! ……このっ!!」
「わ!? 何すんだ?! ……あああああ!!?」
訳の分からない妄言を垂れ流すアホを持ち上げられた私は、そのまま背負い投げで遠くに投げ飛ばす。
ふぅ、これでしばらくは大人しくなるでしょう。地面とキスでもしてなさいな。
「ふぅ……。いきなりやってきて何がしたかったの貴女達? 悪いけど、こんな寂れしかない村じゃ笑ってくれる人間なんて居ないわよ」
あ、ヤバ。これじゃあ不審者だわ私達。ここは急いで説明しないと。
「いえ私達は漫才コンビというわけでは無くてですね。……届け物の依頼を受けてこちらに参上致しました。それで、アナタが受取人の、あぁ……『ゼイルーグ』さん。で合ってますか?」
書類に書かれている名前を確かめ、恐る恐る訪ねてみた。
「ええ、確かに私がその『ゼイルーグ』よ。でも、こんな場所にわざわざ届ける物があるなんてね。依頼主は余程の酔狂者ね」
「いや……その点についてはどうともお答えは出来ませんが。私達も直接会った訳でも無いので。取り敢えず受け取って頂けますか?」
「ええ、もちろん」
返事を頂いて、背負っていたリュックをおろして中から荷物の箱を取り出す。
ついでに受け取りのサインも貰わなくちゃ。
「はい、では受け取りの程宜しくお願いします。あ、サインはこっちの紙に」
普段あまり出さないような余所行きの声。自分でもちょっと作り込んだ感はあるけど、ここは丁寧な対応を心掛けないと。
ただでさえどっかの馬鹿のせいで悪印象を与えちゃったかもなんだしね。
「……これでよろしいかしら?」
「はい確かに。これで私達の依頼は完了なんですけども、宿代わりのお家を貸して頂けますでしょうか? 書類にもそこで泊まるように書いてありまして……」
「ええ。空き家なら好きに使っていいわよ、どうせ誰も住んで居ないから。中は掃除が必要でしょうけどもね。私の家に鍵があるから上がってもらえるかしら。ここまでやって来たんだし食事も出しましょう、私の古臭い田舎料理で良いのなら」
「いえいえ! 頂けるのならそれだけで不満なんてあるワケありませんわ! ねぇ、エル?」
朗らかな笑顔でエルの方を向く。
でもこの笑顔、その裏には意味があるのだ。
見える、エル?
この瞳の奥に、今度余計な事を言ったらどうなるかわかってんだろうなァ? という脅しの炎を。
「……へいへい、美女の手料理が食べられるんなら文句はございませんよ~だ」
うんうん、わかってくれたみたいね。いつもそのくらい素直ならなおよしなのよ。
「じゃあ決まりね。……でも、今日は本当に賑やかなものね。何年ぶりかしら」
どういう意味かしら? この村に人が居ないから思った、という感じでも無さそうだし。
……考えても仕方ないか。
「さあ、入って」
「お邪魔しますわゼイルーグ様。エル、貴方も早くなさいな」
「…………お邪魔しまーす」
もう不貞腐れちゃって、自業自得でしょうにね。
そんなエルを伴い、屋敷の門を潜るのだった。
「ん?」
エルが庭の方を見て何かを発見したみたい。
「どうしたのよ?」
「いやあのイタチ……」
「ああ。やっぱりこの村で可愛がられていた子だったのね」
門を潜りって玄関へと向かう途中、庭に見覚えのあるイタチがこっちを見ていた。
山の中で会った人懐っこいあの子。確かにエルの予想通り人間に可愛がられているイタチらしい。
あのイタチは、まるで歓迎するように玄関に入っていく私達を見送っていた。ように見えた。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
隣国は魔法世界
各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】
隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。
この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。
科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。
それは再び始まる戦乱の幕開けであった。
⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。
⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。
⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。
⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる