身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

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第二章

第26話 再開の獣

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 その女性は人目でわかるほど、上品な身形で妙齢の女性だった。
 美しい顔立ちと切れ長の瞳、何よりちょっと……………豊満な胸部が特徴というか。いや、別に思う所なんてないけどね。

 つまる所、かなりの美人さんがそこに居た。ほとんど幽霊村とかしてるような場所にはミスマッチだ。

 そんな美女だからこそ、クラクラと来たアホが飛びつくが如くイキイキとし始めたので、間違いが起こる前にその服を思い切って引っ張って止める。
 襟が首元に食い込んだみたいだけどこれも仕方ない。

「ぐええッ、て! お前何すんだよ!」

「それはこっちのセリフでしょうが! アンタこんな所まで来て何ナンパなんてしてんのよ!」

「こんな所だろうがどんな所だろうが、美女を見ればお近づきになるのが紳士たる振る舞いだろうが怪力女!」

「誰が怪力女よ! アンタのその変態行為に見ず知らずの人間を巻き込むんじゃない! 話が拗れるからちょっと向こう行ってなさいよ!」

「何言ってんだ。こんな山奥で見ず知らずの美男美女が出会ったなら、それはもう運命だ。ここで引いたら男じゃないんだよ!!」

「知らないわよそんなの。もう怒った! ……このっ!!」

「わ!? 何すんだ?! ……あああああ!!?」

 訳の分からない妄言を垂れ流すアホを持ち上げられた私は、そのまま背負い投げで遠くに投げ飛ばす。
 ふぅ、これでしばらくは大人しくなるでしょう。地面とキスでもしてなさいな。

「ふぅ……。いきなりやってきて何がしたかったの貴女達? 悪いけど、こんな寂れしかない村じゃ笑ってくれる人間なんて居ないわよ」

 あ、ヤバ。これじゃあ不審者だわ私達。ここは急いで説明しないと。

「いえ私達は漫才コンビというわけでは無くてですね。……届け物の依頼を受けてこちらに参上致しました。それで、アナタが受取人の、あぁ……『ゼイルーグ』さん。で合ってますか?」

 書類に書かれている名前を確かめ、恐る恐る訪ねてみた。

「ええ、確かに私がその『ゼイルーグ』よ。でも、こんな場所にわざわざ届ける物があるなんてね。依頼主は余程の酔狂者ね」

「いや……その点についてはどうともお答えは出来ませんが。私達も直接会った訳でも無いので。取り敢えず受け取って頂けますか?」

「ええ、もちろん」

 返事を頂いて、背負っていたリュックをおろして中から荷物の箱を取り出す。
 ついでに受け取りのサインも貰わなくちゃ。

「はい、では受け取りの程宜しくお願いします。あ、サインはこっちの紙に」

 普段あまり出さないような余所行きの声。自分でもちょっと作り込んだ感はあるけど、ここは丁寧な対応を心掛けないと。
 ただでさえどっかの馬鹿のせいで悪印象を与えちゃったかもなんだしね。

「……これでよろしいかしら?」

「はい確かに。これで私達の依頼は完了なんですけども、宿代わりのお家を貸して頂けますでしょうか? 書類にもそこで泊まるように書いてありまして……」

「ええ。空き家なら好きに使っていいわよ、どうせ誰も住んで居ないから。中は掃除が必要でしょうけどもね。私の家に鍵があるから上がってもらえるかしら。ここまでやって来たんだし食事も出しましょう、私の古臭い田舎料理で良いのなら」

「いえいえ! 頂けるのならそれだけで不満なんてあるワケありませんわ! ねぇ、エル?」

 朗らかな笑顔でエルの方を向く。
 でもこの笑顔、その裏には意味があるのだ。

 見える、エル?
 この瞳の奥に、今度余計な事を言ったらどうなるかわかってんだろうなァ? という脅しの炎を。

「……へいへい、美女の手料理が食べられるんなら文句はございませんよ~だ」

 うんうん、わかってくれたみたいね。いつもそのくらい素直ならなおよしなのよ。

「じゃあ決まりね。……でも、今日は本当に賑やかなものね。何年ぶりかしら」

 どういう意味かしら? この村に人が居ないから思った、という感じでも無さそうだし。
 ……考えても仕方ないか。

「さあ、入って」

「お邪魔しますわゼイルーグ様。エル、貴方も早くなさいな」

「…………お邪魔しまーす」

 もう不貞腐れちゃって、自業自得でしょうにね。
 そんなエルを伴い、屋敷の門を潜るのだった。

「ん?」

 エルが庭の方を見て何かを発見したみたい。

「どうしたのよ?」

「いやあのイタチ……」

「ああ。やっぱりこの村で可愛がられていた子だったのね」

 門を潜りって玄関へと向かう途中、庭に見覚えのあるイタチがこっちを見ていた。
 山の中で会った人懐っこいあの子。確かにエルの予想通り人間に可愛がられているイタチらしい。

 あのイタチは、まるで歓迎するように玄関に入っていく私達を見送っていた。ように見えた。
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