身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

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第二章

第24話 災いを呼ぶ口

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 山に潜ってどれくらいの時間が経っただろう?

 私的にはそれなりに歩いたものだけれど、今だ目的地は見えず。
 一つ確かな事があるならそれは、やっぱり装備は整えて来て良かったって事。
 駆け出しの冒険者的にはちょーっちお金が掛かったけど、今回はキッチリと揃えておいて良かった。
 こんなところ、いつものスニーカーで歩けない。

 これも里で育った経験が活きた証拠ね。

 草木をかき分け、額に汗して登る。
 この日の為に買ったレインジャケットが適度に汗を逃がしてくれる。やっぱりいつものジャケット着て来なくて良かった。それにこういった山はいつ雨が降るかもわからないし。

 上を見上げると、太陽が少しばかり真上を過ぎていた。

「そろそろお昼にしましょ? 丁度良く開けた場所もあることだし」

 という訳でエルへと声を掛けたのだが……。

「んあじゃあ、め゛じでもぐうが? ぼうべこべこ……」

「いやアンタもう食べてるじゃない!? 歩きながら食べて喋るなんて子供じゃないんだからさぁ」

 この男、いつの間にかシリアルバーを齧りながら歩いていた。思わず呆れ声。

「ン゛ン゛! ふう……。別にいいじゃないのよ? 腹減ってたんだし。適度な補給は山登りの鉄則だぜ?」

「その前に連れに一声掛けなさいって言ってんのよ。ボロボロ落としてながら食べたら動物が寄ってきたりするでしょうが!」

「いや別に落としてないし。そ、そんな怒らんでも……わかったよもぅ」

「ったく」

 リュックを地面に置くと、私はその中からバケットを取り出した。

「はい、これ持って」

「え? 何コレ?」

「いや、見ての通りお弁当でしょ。アンタ、今朝私が作ってたの見て無かった、なんて言うんじゃないでしょうね?」

「え゛? いえいえ滅相もない! いや~、まさかラゼたんがここまで料理好きだったとは……。お兄さん嬉しいなぁ、なんて」

「気持ち悪い。あとラゼたんって呼ぶな」

「あ痛っ!?」

 いつのものお調子に思わず耳を引っ張る。学習能力をどこに置いてきたんだか。

 渡したバケットを覗き込むエル。中には私のサンドイッチ。

 今日の具材はハムにチーズに卵焼き。お互いに好きなツナマヨも御座候ってね。私ってば気が利く女なんです。
 それに今回はピクルスも一緒に入ってる。うん、我ながら美味しそう。

 さあ食べようと思った時、エルの様子がいまいちおかしい。
 ……そうか、そういうことね。

「アンタ何やってんの?」

「ひょわあ!!?」

 相当に焦るエル。そう、アンタがピクルスを外そうとするなんてお見通し。
 ちゃんと野菜も食べなさいっての。

「な、何でもないよぉ? ささ、じゃあ早速いただきましょましょ?」

「ホント、アンタって人は……はあ」

 溜息を一つ。
 あ、コイツちょっと不味そうに食べて。失礼しちゃう。


「ところでさっきから気になってたんだけど」

「あん? どうしたよ急に」

「さっきからちょいちょい鳴き声みたいなの聞こえない? ほら、そこの茂みの方とか」

 種族的に耳が良い。幼い頃からのトレーニングもあって周囲の微か気配には気づく方だ。
 エルも言われて、私が指差した方角へ向けて目をやる。

「いや俺にはなんも……。ただの風じゃないの?」

「んー、そうかしら。あ、ちょっと待って。……………………やっぱり何かいるわね。茂みの奥に何かがいるわよ」

「ええ? んな事言われてもなぁ」

 エルぼやいた直後だった。確かに目の前の草はガサゴソと揺れた。

(息をつく暇もなく、草をかき分けて現れた黒い影、果たしてその正体とは?!」

「アンタ何言ってんの?」

「まあ、その。ちょっと盛り上げてみようかなって。はは……、なんだイタチか」

 黒い影、とエルは言ったがよく見たら黒くも何ともなかった。

 現れたのは小さな体躯をした薄茶色のイタチ。尻尾が長め。
 鼻の先に付いた長いヒゲが特徴的で、森に生息する進んで人を襲う事の無い小動物。

 警戒心が強いはずなのに進んで出てくるなんて。これはもしかして……。

「人前に出てくるなんて珍しいな。腹でも減ってんのかねぇ」

「さあ、それはどうかしら? ほーら怖くなーい、こっちおいで」

「おいおい」

 手を伸ばすと、警戒心も無く手のひらに乗っかるイタチ。
 思った通り人懐っこい。

「ふふっ。中々お利口さんね。ほ~ら、いい子いい子」

 なでられて気持ちいいのか、目を細めるそのイタチ。
 しかしながら思った以上に随分と人馴れしてるわ。

「もう村が近いのかもしれねえぜ」

 突然、エルがこんな事を言い出した。

「え?」

「多分コイツは村で可愛がられてるペットか何かだ。だからやけに人懐っこいんだ。きっと家に帰れば野生動物が羨むような温かいベッドで眠って、人間の手で毛づくろいしてもらって、予防注射とかも打ってもらってるんだ。そういう贅沢な暮らしをしているんだよコイツは!!」

「何声荒げんてのよ? アンタ、まさかこんな子に嫉妬でもしてんの?」

「だって、可愛がられて生きてんだなって思うと。俺も誰かに可愛がられてぇなって。出来れば綺麗なお胸の膨らんだお姉さんに養われてぇなって」

「呆れてものも言えない……。夢みたいなこと言ってんじゃないわよ。大体何? 胸? それって私に対する当てつけか何か?」

「やだなぁ、当てつけなんて。そんな事を感じる程の胸が自分にあるとでも思ってんのかよ? 哀れなヤツだなぁ。へそで茶が沸くってんだ! ハハハハハハハハ!!」


「あ?」


 ………………
 …………
 ……

「ほらとっと行くわよ!!」

 ラゼクの声を聴き、ふと目が覚める。

 あれ? 俺なんで寝てんだ? それにやたらと体の節々が痛い。くっそ痛い。何故だろう?
 イタチを見た後からの記憶も無い。あれぇ?

 俺は不思議に思いながらも、何故かプリプリと怒ってるラゼクの後を付いて行くのだった。
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