身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
12 / 33
第一章

第12話 華麗な初戦闘

しおりを挟む
 坑道の奥へと進んでいけば、予定通りのヴェノムスパイダーを発見。
 薄暗いながらも電灯はまだ生きているので完全に暗いわけではない。

 丈夫な導線を生命線とする白熱電球が、敵の姿を映し出してくれる。

 さあ、前に出て戦いなさい。

「さあ行くぜクソ蜘蛛! テメーに目にものお見舞いしてやらぁ!」

「お手並み拝見といこうじゃないの」

「が、頑張って下さ~い!」

 すぐ後ろで見物する私達。私はともかく可愛い子の黄色い声援がつくんだから、頑張って欲しいところ。
 
「まあ見てろ、過去に何度も狩ってきた相手だ、赤子の手をひねるように蹴散らしてやろう」


 にらみ合いをする両者。



 先に動いたのは――エルだった。



「あ! 可愛いメス蜘蛛!」

「……は?」

 エルの声に反応して、目の前の蜘蛛は後ろを振り向く。

 え? うそ!?

 その隙を突いて、持っていたマッチを数本火を付けて次々と投げつけるエル。
 この坑道から天然ガスの類が確認されて無いから出来る芸当ではあるけれど。

 完全に油断したあの蜘蛛は、突如自分の体に火が付いた事に驚き慌てふためく。こうなればもう終わりだろう。

 エルは足元に落ちていた拳大の岩を持ち上げると、やつの顔面めがけて思いっきり投げつけた。

「喰らえ必殺! 隕石アタック!!」

 見事頭部に命中。結構重い音が響く。

 痛みにひるんだ蜘蛛に向かって、エルは懐から取り出した殺虫スプレーを思いっきりふりかける。

 火そのものは強くなかった為既に鎮火していたが、痛みにより暴れる気力すら完璧に失った蜘蛛は、そのまま帰らぬ虫となる。

「ふ、我ながらスマートだぜ」

 いや、何カッコつけてんのよ。

「その腰にぶら下げた剣は飾りか何か? アンタの戦い方って、なんか姑息よね。そうは思わない?」

「え~と。た、戦い方は人それぞれですから。……いや、普通に卑劣なんだけどさ」

 苦いフォローを入れたあとにブツブツと何かをつぶやくティターニ。きっと呆れてるんでしょう。

「うるせえな、勝てばいいんだよ!」

「はいはいそーですねー」

 てっきり剣でズバッとやって見せると思ったから拍子抜けだ。
 見かけ倒しじゃない?

「とりあえずこれで一匹だ。ほら写真に撮って。きっちり仕留めたってところを見せねぇと金払ってくれねぇんだぞ、ギルドってところは」

「分かってるわよ。はいチーズ」

 背負っていたバッグからギルドから借りたカメラを取り出して、亡骸めがけてシャッターを切る。

 まばゆいフラッシュと共にカチっと音が鳴れば、しばらくして写真が現像されてカメラから出てくる。

 普通のカメラだと現像に時間が掛かり、その間は当然報酬が振り込まれないのでインスタントを使用する。カメラにしては大きくてかさばる上に、フィルムが少ないのが珠に傷。

 うん、我ながらバッチリ!

 しかしカメラの進歩って早いものだ。ちょっと前まではセピアだったけど、技術が発展すればもっと色がつくようになるのかな?

「うん、綺麗に撮れたわね。アタシったら結構な腕前でしょ? これでも里じゃ観光客にカメラを頼まれてたからね」

「へぇそうなんですか。でも、確かにお上手ですね」

 ティターニの素直な褒め言葉がちょっとくすぐったい。エルはまずしないから、そういうの。

「お前の里って観光客が来るようなところなのかよ。……まあいいや、フィルム代はギルド持ちっていったって無駄に撮ってると無言の圧力をかけてくるからな、気を付けろよ」

「はいはい」

 そういう説明は事前に受けている。結構シビアなところがあるってのもエルが語るところ。
 コイツはいい加減だけど、お金が絡むなら間違ったことは言わないでしょうから、その点じゃ為になる。

 私達は写真を撮り終えると、死体を埋めて奥へと進んでいく。

 毒蜘蛛を埋めて大丈夫なの? なんて思われるかもしれないけれど、あの蜘蛛の持っている毒は動物に対して有効なのであって、土壌に対してはむしろ栄養を与えてくれる。らしい。

 これに関してはエルの説明がいまいち歯切れが悪かったから、自信はない。
 大方コイツ、講習とか話半分に聞いてたんじゃないの。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

隣国は魔法世界

各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】 隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。 この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。 科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。 それは再び始まる戦乱の幕開けであった。 ⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。 ⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。 ⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。 ⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。

処理中です...