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第一章
第11話 計算外だった令嬢?
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「それじゃあ新たなパーティメンバーを祝して握手でもするか、はい」
「あ、いや、その。……ちょっと緊張で手が汗で濡れていて、ごめんなさい」
「そう? じゃあ仕方ないけど」
「…………流石に、握手でもしたら手の豆でバレてしまいかねないからね」
(さっきから妙にブツブツ言ってんなこの子。いや、よそう。人にそれぞれ他人に言えない事情ってもんがある。
誰も居ない空間に話し掛けたり、急に腕を苦しそうに抑えたり。そういう経験に覚えがある人間も多いだろう)
「何はともあれこれでパーティ結成ですわ。これからは二人、二人三脚で頑張って行きましょうね!」
「いやはや、可愛らしいこと言ってるところ悪いけどさ。……俺もう別の相手とも組んでるから三人なんだな」
「ほえ?」
「お待たせ。って、このお嬢さん誰? 何で固まってんの?」
その見知らぬお嬢さん。
身形こそお上品なお嬢様然とした、落ち着いた感じの服装だ。
下はベージュのロングスカートで、上は白いブラウス。
その上に羽織っているのは紺のカーディガンか?
一見すると良家のお嬢様って感じだけど……身長は意外にも高い。
さっきのイケメンさんやエルと然程変わらないレベル、つまり一九〇手前だ。ちょっと珍しい。
じつはかなりの健康家で、休日は食と運動に強い拘りでもあるみたいな。
髪の色はオレンジで、お嬢様な見た目の割に意外と髪が短く、それでも凛としていてマッチしている。
スタイルは……私とあまり変わらない。だからエルも落ち着いてるんだわ。
「その、理由は知らんけど。俺達のパーティに入りたいんだってさ、駆け出しで心細いんだって」
「ふ~ん、私は構わないけど。何ていうお嬢さんなの?」
「お、そういえばまだ名前聞いて無かったな。お嬢さんお嬢さん、お名前は何てーの?」
何故か固まっていたお嬢さんの肩を揺らすエル。
「……はっ! あ……えと、私はティ……」
「ティ?」
「あ、その、……そう! ティ、ティターニです! よろしくお願いしますね!」
「お、おう」
話したかと思えば……何か焦ってる? 緊張してるのかな?
まぁ駆け出しならこういう事もあるんでしょう。
経緯は知らないけど新たな仲間を加え、三人でパーティを結成することになった。
「ん? どうしたの私の事ジッと見て?」
「あ! いえ、ごめんなさい。ちょっと獣人族の方に縁が無かったもので」
普通の人間タイプ以外を見慣れてないのね。そういうのも駆け出しあるあるってところか。
まあいいでしょう、じゃあ早速出発! ってね。
(本当に驚いた。まさかもう女の子とパーティを組んでるなんて……それもこんな美人。でも胸の方はボクと互角だ、何も焦る必要は無いはずだ!)
◇◇◇
道中でティターニのことについて質問したりして、山中を練り歩く。
そんなこんなでやって来たレッデレア坑道……の前。
「これがお前達にとって初仕事だろ、記念に写真でもとっとくか? ほら入り口に立ってピースピース!!」
「フィルムがもったいないでしょうが。大体私はそんなミーハーな冒険者じゃないわよ。ほら、ティターニもこんな馬鹿に付き合わなくていいから。さっさと中に入るわよ!」
「あ、はい」
初っ端からアホなこと言って。ティターニも困惑してるわ。
レッデレア坑道。坑道とは言うけどここはもう使われなくなって随分経つ、らしい。
元は坑道の先にある金鉱山へと続く洞窟だけれど、数十年前にゴールドラッシュが終わり今では人っ子一人寄り付かない。
鉱山は穴だらけになっていつ崩れてもおかしくない為に封鎖、そこへと続くこの坑道も関係者以外の立ち入りが禁止された。
つまり、ここは人の出入りの全く無い場所だということ。
なので、ここに巣食う魔物達にとっては絶好の住処になっている。
それはつまり冒険者達にとっても格好の仕事場、というのがエルの談。
「それにしても、相変わらずジメッとして暗いところだぜ。今や心霊スポットにもなっちまったしな」
「ふん、幽霊なんて怖く無いわよ」
思わず腕まくりする。これでも肝試しで叫んだことの無い女。仕掛け側になった時、何人もの男の子を泣かせた実績だってある。相手が本物だってし返してやるわ。
って言いたいけど、私に除霊の技術はない。精々塩を撒くくらい。
「……しかし妙に静かですね。いくら入って間もない所とって言っても、少しは魔物の気配を感じもよいものなのですが」
「もしかして、もう誰かが中に入ってるとか? 依頼を受けてるのは私達だけじゃないはずだしね」
「やっぱそんなところか。とっとと中入って片付けるもん片付けようぜ? 取り分減らされちゃあ堪んないからよ」
「はいはい分かったから。急かすんじゃないの」
エルの腕を掴んで強引に中へと入ってやった。
キョトンとした顔のエルにティターニ。そりゃいきなりじゃそうなるか。
「アンタが土壇場で逃げないって保証も無いからね。一応先輩冒険者でしょ? カッコいいとこ見せて見なさいよ」
「おいおい、俺はチキンじゃねえぞ」
「どうだかね、アンタってホント臆病そうだもの」
これは勘だけど、この男はビビリだ。
口だけ大きいことを言うタイプ。普段の行動からいって土壇場で逃げだしかねない。
だからそうならないように、エルの意思とは関係なく前へと進んでいくのであった。
「ちょ、ちょっと!? このままじゃ転んじまうよ! ……あっ」
「あっ」
「あ、いや、その。……ちょっと緊張で手が汗で濡れていて、ごめんなさい」
「そう? じゃあ仕方ないけど」
「…………流石に、握手でもしたら手の豆でバレてしまいかねないからね」
(さっきから妙にブツブツ言ってんなこの子。いや、よそう。人にそれぞれ他人に言えない事情ってもんがある。
誰も居ない空間に話し掛けたり、急に腕を苦しそうに抑えたり。そういう経験に覚えがある人間も多いだろう)
「何はともあれこれでパーティ結成ですわ。これからは二人、二人三脚で頑張って行きましょうね!」
「いやはや、可愛らしいこと言ってるところ悪いけどさ。……俺もう別の相手とも組んでるから三人なんだな」
「ほえ?」
「お待たせ。って、このお嬢さん誰? 何で固まってんの?」
その見知らぬお嬢さん。
身形こそお上品なお嬢様然とした、落ち着いた感じの服装だ。
下はベージュのロングスカートで、上は白いブラウス。
その上に羽織っているのは紺のカーディガンか?
一見すると良家のお嬢様って感じだけど……身長は意外にも高い。
さっきのイケメンさんやエルと然程変わらないレベル、つまり一九〇手前だ。ちょっと珍しい。
じつはかなりの健康家で、休日は食と運動に強い拘りでもあるみたいな。
髪の色はオレンジで、お嬢様な見た目の割に意外と髪が短く、それでも凛としていてマッチしている。
スタイルは……私とあまり変わらない。だからエルも落ち着いてるんだわ。
「その、理由は知らんけど。俺達のパーティに入りたいんだってさ、駆け出しで心細いんだって」
「ふ~ん、私は構わないけど。何ていうお嬢さんなの?」
「お、そういえばまだ名前聞いて無かったな。お嬢さんお嬢さん、お名前は何てーの?」
何故か固まっていたお嬢さんの肩を揺らすエル。
「……はっ! あ……えと、私はティ……」
「ティ?」
「あ、その、……そう! ティ、ティターニです! よろしくお願いしますね!」
「お、おう」
話したかと思えば……何か焦ってる? 緊張してるのかな?
まぁ駆け出しならこういう事もあるんでしょう。
経緯は知らないけど新たな仲間を加え、三人でパーティを結成することになった。
「ん? どうしたの私の事ジッと見て?」
「あ! いえ、ごめんなさい。ちょっと獣人族の方に縁が無かったもので」
普通の人間タイプ以外を見慣れてないのね。そういうのも駆け出しあるあるってところか。
まあいいでしょう、じゃあ早速出発! ってね。
(本当に驚いた。まさかもう女の子とパーティを組んでるなんて……それもこんな美人。でも胸の方はボクと互角だ、何も焦る必要は無いはずだ!)
◇◇◇
道中でティターニのことについて質問したりして、山中を練り歩く。
そんなこんなでやって来たレッデレア坑道……の前。
「これがお前達にとって初仕事だろ、記念に写真でもとっとくか? ほら入り口に立ってピースピース!!」
「フィルムがもったいないでしょうが。大体私はそんなミーハーな冒険者じゃないわよ。ほら、ティターニもこんな馬鹿に付き合わなくていいから。さっさと中に入るわよ!」
「あ、はい」
初っ端からアホなこと言って。ティターニも困惑してるわ。
レッデレア坑道。坑道とは言うけどここはもう使われなくなって随分経つ、らしい。
元は坑道の先にある金鉱山へと続く洞窟だけれど、数十年前にゴールドラッシュが終わり今では人っ子一人寄り付かない。
鉱山は穴だらけになっていつ崩れてもおかしくない為に封鎖、そこへと続くこの坑道も関係者以外の立ち入りが禁止された。
つまり、ここは人の出入りの全く無い場所だということ。
なので、ここに巣食う魔物達にとっては絶好の住処になっている。
それはつまり冒険者達にとっても格好の仕事場、というのがエルの談。
「それにしても、相変わらずジメッとして暗いところだぜ。今や心霊スポットにもなっちまったしな」
「ふん、幽霊なんて怖く無いわよ」
思わず腕まくりする。これでも肝試しで叫んだことの無い女。仕掛け側になった時、何人もの男の子を泣かせた実績だってある。相手が本物だってし返してやるわ。
って言いたいけど、私に除霊の技術はない。精々塩を撒くくらい。
「……しかし妙に静かですね。いくら入って間もない所とって言っても、少しは魔物の気配を感じもよいものなのですが」
「もしかして、もう誰かが中に入ってるとか? 依頼を受けてるのは私達だけじゃないはずだしね」
「やっぱそんなところか。とっとと中入って片付けるもん片付けようぜ? 取り分減らされちゃあ堪んないからよ」
「はいはい分かったから。急かすんじゃないの」
エルの腕を掴んで強引に中へと入ってやった。
キョトンとした顔のエルにティターニ。そりゃいきなりじゃそうなるか。
「アンタが土壇場で逃げないって保証も無いからね。一応先輩冒険者でしょ? カッコいいとこ見せて見なさいよ」
「おいおい、俺はチキンじゃねえぞ」
「どうだかね、アンタってホント臆病そうだもの」
これは勘だけど、この男はビビリだ。
口だけ大きいことを言うタイプ。普段の行動からいって土壇場で逃げだしかねない。
だからそうならないように、エルの意思とは関係なく前へと進んでいくのであった。
「ちょ、ちょっと!? このままじゃ転んじまうよ! ……あっ」
「あっ」
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